映画『TENET テネット』は2020年9月18日(金)より全国ロードショー!
『インセプション』(2010)や『インターステラー』(2014)など、斬新なSF映画を作り続けているクリストファー・ノーラン監督。
この系譜に、奇術師を描いた映画『プレステージ』(2006)を加えても良いかもしれません。
時間の逆行、その技術を使ったタイムトラベル、それを駆使した戦い。『TENET テネット』はこれらを題材とした映画の革新であり、同時に新たな基準を築いた作品と言えるでしょう。
それでは『TENET テネット』に至るタイムトラベル作品の系譜と、本作が描いた新たな到達点について解説しましょう。
映画『TENET テネット』のあらすじ
テロ事件の現場から、仲間を救うために敵に捕らえられた”名も無き男”。目覚めた彼にミッションが命じられます。それは未来から現れた敵と戦い、第三次世界大戦を阻止するものでした。
ミッションのキーワードは、TENET(テネット)。未来で時間の逆行を可能とする装置が開発され、人と物の未来からの移動が可能になり、それを駆使した戦いが勃発していたのです。
“名も無き男”は敵の正体を暴こうと、活動を開始します。そして彼は時間の逆行を駆使した、かつてない戦場に身を置くことになりました。
タイムトラベルが様々な映画を生んだ
マーク・トウェインの小説「アーサー王宮廷のヤンキー」など、SF小説誕生以前からタイム・スリップで、異なる時代に旅する物語は描かれていました。
そしてH・G・ウェルズの小説「タイムマシン」で、人の発明した装置によるタイムトラベル、という考え方が世界に広まります。
当初は現在に比べて過去はこうだった、このままでは未来はこうなってしまう、といった社会風刺を描く手法として使用された時間旅行。
やがてタイムトラベルという考え方自体が、SF作家など様々なクリエイター、そして科学者たちの思考を刺激します。
物理学の発達が時間の概念も変えて行きましたが、素人が詳しく語ることは避けましょう。
その中でタイムパラドックスという問題が、SF作家を刺激しました。タイムトラベルして過去に行った自分が、自分の両親の仲を裂いたら、自分の存在はどうなるのでしょうか?
そして過去を変えたら、未来はどうなってしまうのか。誰もが感じる素朴な疑問を映画化し、コミカルに描いて大ヒットした映画が『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)です。
袋小路に入った人気シリーズある⁈
タイムパラドックスの疑問はこれに留まりません。現在の自分と、過去または未来の自分が遭遇した時に何が起きるのか。タイムトラベルで改変された歴史は、修正することが出来るのか。
その場合元の歴史の流れと、改変された歴史の流れはどうなるのか。
こういった疑問を取り込み、より発展させたのが『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』(1989)、『バック・トゥ・ザ・フューチャー3』(1990)でした。
同じ時期の人気シリーズに、『ターミネーター』(1984)があります。未来から歴史を改変するために現れた殺人マシーンと、それを阻止する未来からの戦士の闘いを描き、大ヒットします。
その続編『ターミネーター2』(1991)も大ヒット。
2作目までは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズ同様、科学的にはともかく物語的には、見事にに完結したSF映画シリーズの地位を築いた「ターミネーター」シリーズ。
ところがヒットの結果、『ターミネーター3』(2003)以降の続編が登場します。歴史を改変する敵味方のマウントの取り合い、といった展開が発生し、観客はついていけなくなりました。
そこで歴史が変わったことで別の時間軸が生まれた、というパラレルワールド(平行世界)の考え方を採用します。
しかしこれがファンの間で辻褄合わせに終始する、以降の「ターミネーター」シリーズ作品を、収集のつかない展開にしたと受け取られました。
これは安易に続編を作らせなかった、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズが正しい判断をした、と言えるでしょう。
しかしこれらの作品のお陰で、物理学の発展と共に進んだタイムパラドックスに関する様々な考え方が、広く世界に認知されました。
それを踏まえて「アベンジャーズ」シリーズの『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)のあの展開、世界的大ヒットが生まれたと言って過言はありません。
描かれ続けてきたタイムパラドックス
80年代から現在までの、有名な映画シリーズでその系譜を紹介しましたが、これらの作品が描いたSF的題材は、それ以前から描かれていました。
『ターミネーター』第1作の公開後、SFTVドラマシリーズ『アウターリミッツ』(1963~)の幾つかのエピソードが、『ターミネーター』と類似していると指摘されました。
後に2エピソードの脚本家に訴えられ、和解金の支払いとエンドクレジットへの表記追加を条件に和解しています。
様々なタイムパラドックスやパラレルワールドへの様々な考察は、それ以前からSF作家の作品に登場していました。
海外ではSFファンの間で広まっていた様々な考察。日本ではそれが手塚治虫や藤子・F・不二雄の作品などで紹介され、マンガやアニメの形でより幅広い層に受け入れられます。
その結果『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ターミネーター』は日本で大ヒットしました。
続編は当時バブル経済の絶頂を迎えようとしていた、日本の資金と市場を見込んで作られ、成功を納めました。
さて『TENET テネット』を、難しい設定の難解な作品かもしれない、と敬遠している方もいいるかもしれません。
ご安心下さい。時間が逆行すれば何が起きるか、どのような世界なのか、といった素朴な疑問に対し、一つの答えを映像化して見せてくれる作品です。
過去にそういった作品に馴染んでいる方なら、年代を問わず楽しめる作品になっています。
今後のSF作品の基準となる映画
参考映像:『プライマー』(2004)
かつてのタイムトラベル映画は、ある時点から過去、あるいは未来のある時点に現れるものでした。
物理学の発展と共に、時間の流れをエントロビーの増大として捉え、エントロビーの減少が時間の逆行を生む、とした説を採用した『TENET テネット』。
本作の公開後、世界で注目を集めている作品に、サンダンス映画祭で審査員大賞を獲得したSF映画『プライマー』(2004)があります。
6時間かけて、6時間前の世界に行くタイムマシン。将に時間の逆行を描いた作品でした。
『TENET テネット』以前にも同じテーマを扱った作品は存在します。それが現実になった時、どのような光景を見せるのか。それをクリストファー・ノーラン監督は描いたのです。
時間の逆行と言えば難しいですが、我々は映像作品の中でたびたび目撃しています。何のことはない、逆再生した映像です。時間をさかのぼる表現として、お約束の手法に過ぎません。
それに逆らって動く人間がいた場合、何が起こるのか。それを現実の物として徹底的にリサーチし、考察して描いたのが『TENET テネット』です。
出発点は素朴なSF的疑問に過ぎません。観客も楽に受け入れが可能です。
しかしこの描写が果たして正しいのか、前例の無い映像を見せられた者は大いに戸惑い、同時にこれが正しいのか考えを巡らすでしょう。
この映画の時間の逆行の描写が、果たして正解かは判りません。しかし今後『TENET テネット』を踏まえて、この描写を上位補完しようとする作品は、必ず登場します。
またSFのみならずホラー、またコメディ映画の題材としても、クリエイターを刺激し影響を与えるはず。
『TENET テネット』は今後生まれる作品に、間違いなく1つの叩き台となる基準を与えました。
まとめ
映画などの創作物は、オリジナリティだけで評価されるものではありません。後の世代のクリエイターは、自分が体験した作品に刺激され新たな物を生み出します。
新たな映像やイメージは、すぐさまそれを超える映像を生む挑戦に、映画製作者たちを駆り立てます。
ノーラン監督の『インセプション』を越えようと、『ドクター・ストレンジ』(2016)は更にインパクトある映像世界を誕生させました。
『TENET テネット』は間違いなく後のクリエイターに、超えるべき基準を与えた作品であり、ゆえにSF映画ファンは見るべき作品です。
先ほど、「ターミネーター」シリーズは歴史を改変する者の、マウントの取り合いという泥試合になったと紹介しました。
そのような中『TENET テネット』の一番の功績は、もし時間を逆行できる者が争えば、それは通常の時間の流れに身を置く者と、別次元の争いになることを示した事だと考えます。
同時にそれは、通常の時間の流れに委ねる世界と、全く別のルールに生きる者たちの世界を誕生を宣言するものでした。
素朴な『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ型のタイムトラベル映画からの、1つの発展形の姿を提示したノーラン監督。
もっとも『バック・トゥ・ザ・フューチャー3』のドクは、ラストで我々とは別次元で生きる、タイムトラベラー一家になったと示唆されました。
完結したあの人気シリーズの、その先の姿をノーラン監督が描いたとも言えます。
革新的な映像だけでなく、時間を超越した人間の姿を描いた映画として、『TENET テネット』は語り続けられるでしょう。
映画『TENET テネット』は2020年9月18日(金)より全国ロードショー!