映画『ホテルローヤル』は11月13日全国順次ロードショー
映画『ホテルローヤル』は、発行部数90万冊の桜木紫乃の直木賞受賞小説『ホテルローヤル』を映画化したヒューマンドラマです。
監督を務めたのは、安藤サクラ主演の映画『百円の恋』やNetflixドラマシリーズ「全裸監督」の監督として活躍中の武正晴。
主演は、どんな役でも芯の通った演技で出演作多数の女優、波瑠。共演に、松山ケンイチ、余貴美子、安田顕、原扶貴子、夏川結衣といった豪華面々に加え、伊藤沙莉、岡山天音という今の映画界を牽引する若手俳優が名を連ねています。
映画『ホテルローヤル』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【監督】
武正晴
【原作】
桜木紫乃『ホテルローヤル』
【キャスト】
波瑠、松山ケンイチ、余貴美子、原扶貴子、伊藤沙莉、岡山天音、正名僕蔵、内田慈、冨手麻妙、丞威、稲葉友、斎藤歩、友近、夏川結衣、安田顕
【作品概要】
『ホテルローヤル』はホテルの一室が主に舞台となっています。東京でセットを組んで行うことも可能でしたが、製作陣の強い要望により、すべて北海道で撮影が行われました。釧路の壮大な景色と主人公の鬱々とした表情のコントラストが引き立っています。
桜木紫乃による原作『ホテルローヤル』は、直木賞を受賞したベストセラー小説です。本作の監督を務めた武正晴は原作に心打たれ、桜木紫乃の他作品も読破しています。主演の波瑠もオファー前から原作を読んでいて、見事に世界観に合った演技を見せていました。
脚本を担当したのはNHK連続テレビ小説『エール』を手掛けている清水友佳子。2017 年にはドラマ『リバース』(TBS)で第93回ザテレビジョンドラマアカデミー賞脚本賞・最優秀作品賞を、第8回コンフィデンスア ワード・ドラマ賞脚本賞・作品賞を受賞しています。
映画『ホテルローヤル』のあらすじ
北海道の釧路湿原を臨む場所にあるラブホテル「ホテルローヤル」。
経営者のひとり娘である雅代(波瑠)は大学受験に落ち、渋々ホテル経営を手伝うことになります。
ホテルにやってくる客は様々で、投稿ヌード写真の撮影にやってきたカップルや、礼服姿の中年夫婦、教師と高校生のふたり組など。
雅代は通気口から漏れ聞こえる客室内の会話に耳をすませながら、単調な日々を過ごしていました。
ある日ホテルの一室で起きた事件をきっかけに、世間の注目の的となってしまったホテルローヤル。
さらに雅代の父が倒れ、窮地に追い込まれていきます。
そこで、ホテルとともに生きてきた雅代はある決断をします。
映画『ホテルローヤル』の感想と評価
平坦な人生の中で見つけた生きる意味
誰にも言えない秘密や孤独を抱えた人々が訪れる場所、ホテルローヤル。「ご休憩2時間3800円」のラブホテルです。
映画『ホテルローヤル』は、そのホテルに関わった人々の群像劇のなかで、生活に追われる中年夫婦の束の間の2人だけの時間、女子高生と教師の逃避行など、ほとんどのストーリーに侘しさがあります。
その一方で、他の誰かのなまの感情に触れたときに得られる小さな幸せを、生きている実感として得られる映画でした。
ラブホの娘とからかわれて嫌な想いをしていた主人公の雅代(波留)が、いやいやながらもホテルの経営を手伝ううちにわかってきた人生の侘しさと現実からの逃避願望。
それらをまとめ上げて希望に昇華したのが、主人公の雅代(波瑠)と宮川(松山ケンイチ)のラブシーンでした。
ラブホテルで様々な人のセックスを身近に感じてきた雅代にとって、セックスは自分にとって縁遠い行為でしたが、既婚者である宮川への長年の恋心を打ち明けたこの場面では、“ラブホテルならでは”の展開へと繋がっていきます。
男女間の気まずい瞬間を切り取ったものでしたが、そこには胸の内を吐露するなまの感情がありました。
そして、雅代が生きている実感を抱けたことで、彼女の明るい未来へと繋がっていきます。雅代(波瑠)と宮川(松山ケンイチ)の自然体ながら緊迫感溢れるこの演技は見ものです。
また、もうひとつの印象深いエピソードとして、教師を演じる岡山天音と女子高校生役の伊藤沙莉のふたりのやりとりが挙げられます。
駆け落ち同然で行き場を失くしたふたりですが、悲壮感はあるもののなぜか穏やかな雰囲気があって、映画の中で欠かせないポイントとなっていました。
心まで裸になったような本質を表すふたりの自然な演技は素晴らしく、ずっと見ていたいチャーミングさがあります。
原作との違い
原作小説との違いはいくつかありますが、映画『ホテルローヤル』では、それぞれ違った人生模様を見せた登場人物たちのその後や、別の視点から切り取られた一面をエンドロールで見ることができます。
原作では交わることのなかった登場人物たちがスクリーンではひとつになったように感じ、ラストからエンドロールにかけて、映画化ならではの武正晴監督の演出が光ります。
ホテルのある一つの部屋でおこるエピソードは、どれもどこか悲しく寂しさが漂うのですが、そんな悲壮感も肩の力を抜いたような雅代の笑顔に救われます。
また、原作ではお寺の女性のエピソードがありましたが、映画では描かれていません。これは、武監督の「ホテル内のエピソードを中心に描きたい」という演出意図からだそうです。
その意図どおりホテルが全てを繋ぐドラマに仕上がっていました。もしまだ原作を読んでいない人がいたなら、そのまま映画を観たほうがラブホテル自体が“まるで生き物のように活き活き”と楽しめるでしょう。
まとめ
ヒット作の多い今注目の武正晴監督
武正晴監督が実写化した『ホテルローヤル』を完成試写版を観た原作者の桜木紫乃は、波瑠が見事に体現した主人公と同じく、胸に自分の思いを秘めた「雅代のような女の子は、世の中にたくさんいる」と語っています。
また雅代や、彼女とすれ違う人々に物語を感じて欲しいとも述べています。
そして映像化を通して、桜木は「自分の足で一歩を踏み出せるきっかけになったり、すぐそばにいる大切なひとを、改めて大切に思うひとときになればいい」、そんなメッセージを寄せました。
原作ファンでも、原作を未読の人でも楽しめる映画に『ホテルローヤル』は仕上がっています。
誰もが秘密を抱えてやってくるラブホテル。非日常的な空間で得られるのは、“人間が一番求めている生きているという実感や、良い意味で昭和らしい”ということを感じることができる作品です。
また、映画『百円の恋』や『銃』、Netflix作品の人気シリーズ『全裸監督』を手がけてきた武正晴監督らしい映画であり、愛おしい人間描写を描いた桜木の作品感を活かした実写かと言えます。
『ホテルローヤル』は2020年11月13日ほか全国順次公開。