第二次世界大戦時、スパイとしてナチスに潜入した女優の数奇な実話ドラマ
映画『ソニア ナチスの女スパイ』が、2020年9月11日(金)より新宿武蔵野館ほかで全国順次公開されています。
第二次世界大戦中のナチス占領下のノルウェーで、スパイとして潜入した女優、ソニア・ヴィーゲットの激動の半生を、ネタバレ有でレビューします。
映画『ソニア ナチスの女スパイ』の作品情報
【日本公開】
2020年(ノルウェー映画)
【原題】
Spionen(英題:The Spy)
【監督】
イェンス・ヨンソン
【脚本】
ハーラル・ローセンローブ=エーグ、ヤン・トリグベ・レイネランド
【音楽】
ラフ・コイネン
【キャスト】
イングリッド・ボルゾ・ベルダル、ロルフ・ラスゴード、アレクサンダー・シェーア、ダミアン・シャペル
【作品概要】
第二次大戦時、スパイとしてナチスに潜入した女優ソニア・ヴィーゲットの実話を描いたヒューマンドラマ。ナチスドイツを題材にした『ヒトラーに屈しなかった国王』(2017)を手がけたハーラル・ローセンローブ=エーグとヤン・トリグベ・レイネランドが脚本を担当。
ハリウッド映画『ヘラクレス』(2014)やテレビドラマシリーズ「ウエストワールド」などにも出演した、ノルウェー出身のイングリッド・ボルゾ・ベルダルがソニア役を熱演。そのほか、『ダウンサイズ』(2018)のロルフ・ラスゴード、『プラネタリウム』(2016)のダミアン・シャペル、『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』(2017)のアレクサンダー・シェーアらが脇を固めます。
映画『ソニア ナチスの女スパイ』のあらすじとネタバレ
第二次世界大戦中のナチス・ドイツ占領下のノルウェー、オスロで、女優として活躍するソニア・ヴィーゲット。
その美貌と類まれな演技力で人気を博す一方で、ナチス賛美の映画や演劇にも出演を続けており、一部からは「売国奴」と罵られてもいました。
そんななか、ヒトラーの命令でノルウェーに派遣された国家弁務官のヨーゼフ・テアボーフェンは、ソニアの人気に目を付け、ナチスのプロパガンダに本格的に利用しようと画策。
ソニアの夫で映画監督のライフ・シンディングは、以前から地元出身の作家アレクサンダー・ヒェランの「エルサ」をなんとしても映画化したいと考えていました。
ライフはテアボーフェンから、ナチスのプロバガンダ映画製作を統括するヨーゼフ・ゲッベルスが近々開かれる晩餐会に出席するので、その場にソニアも呼ぶよう要請されます。
ゲッベルスに気に入られれば映画が撮れると、ライフはソニアにも参加するよう頼みますが、彼女はその前日にストックホルムで公演に出演するからとそれを固辞。
ソニアは、実父のシーヴァルがレジスタンスに加わっていたこともあり、ナチスに嫌悪感を抱いていたのです。
そしてもう一人、ソニアに接触を図ろうとする男性がいました。
その男トルステン・アクレルは、ノルウェーの隣国スウェーデンで保険会社を経営していましたが、裏ではスウェーデン諜報部として多くのスパイを派遣していました。
戦線を拡大させてヨーロッパ諸国に侵攻していくナチスを警戒し、情報収集に躍起になっていたアクレルは、ナチスに潜入するスパイとして、演技力も語学も堪能なソニアに白羽の矢を立てていたのです。
アクレルは舞台を終えたソニアに接触し、スパイになるよう依頼しますが、彼女はスウェーデン事情は自分には無関係だと拒否。
そして、ライフとの夫婦仲が完全に冷め切っていたこともあり、晩餐会を無視しストックホルムに向かうのでした。
ソニアがストックホルムでカメラマンのパトリックや、フォン・ゴスラー男爵や観光局長のアルベルト・フィンケといった知人と談笑していた一方で、晩餐会はソニア不在で盛り上がりに欠けており、ゲッペルスが早々と席を立ちます。
面子を潰されたテアボーフェンは、部下に命じてソニアの父シーヴァルを無理やり逮捕してしまいます。
母から事情を聞いて急いでアクレルの元に向かったソニアは、彼に父の解放の手助けを求めます。
アクレルはスウェーデン大使館で開かれる祝宴に出席するようソニアに命じます。
ドイツやその同盟国の人間が参加するその祝宴には、テアボーフェンの友人ハルトマンもおり、彼を通してテアボーフェンに晩餐会の欠席理由を告げるようアドバイスしました。
スウェーデン大使館に向かったソニアは、すでに参加していたゴスラーやフィンケの介添えもあり、ハルトマンに接触。
電話でテアボーフェンに欠席を詫び、改めて夕食の約束を取り付けたソニアは、その直後ハルトマンに襲われそうに。
彼女を救ってくれたのは、ハンガリー大使館の外交官アンドル・ゲラートでした。紳士的な性格でピアノでジャズを奏でるアンドルに惹かれ、ソニアは瞬く間に恋に落ちます。
テアボーフェンと接触する機会を得たソニアに、アクレルは「ビル」というコードネームを与え、改めてナチス側のスパイになるよう要請。
さらに、家族ともどもスウェーデンに国外退去させるという条件の代わりに、ナチスにスウェーデンの情報を漏えいしている「マリア」という謎の人物の正体を突き止めるよう、併せて命じました。
国内の政治活動を禁止し、検閲を行うなどの圧政を敷いていたテアボーフェンの寵愛を受けたソニアは、彼が寝静まった隙をついて書斎に忍び込み、書類を盗撮。
さらに、アクレルの助言通りに、「スウェーデンに軍事化の動きがある」というウソ情報を流すなどして、テアボーフェンの信頼を得ていきました。
マリアの正体が一向につかめない状態が続いていたある日、テアボーフェンはソニアにある依頼をします。
それは、父親を解放する代わりに、ナチスのスパイとしてスウェーデンをはじめとする北欧諸国の情報を集めてほしいというものでした。
父シーヴァルが解放された姿を見届けたソニアは、テアボーフェンの命によりスウェーデンに向かいます。
テアボーフェンと通じる人物の電話で、ストックホルムのハーガ公園に呼び出されたソニア。
呼び出したのはフォン・ゴスラー男爵で、彼はドイツ側の高官の中に裏切り者がいるとして、ソニアにその正体を探るよう告げます。
同居しているアンドルの動きを怪しむゴスラー。
さらにアクレルからも「アンドルが時々ストックホルムを離れる理由を知りたい」と言われ、ソニアは動揺するのでした。
映画『ソニア ナチスの女スパイ』の感想と評価
第二次世界大戦中のナチス占領下のノルウェーで、スウェーデンの諜報部に協力してスパイとなった女優、ソニア・ヴィーゲット。
父親をナチスの強制収容所から解放するために、彼女はナチス高官と親密な関係を築いていきました。
本作『ソニア ナチスの女スパイ』は、そんなソニアの数奇な運命を映画化しています。
映画監督である夫との関係が冷め切っていたソニアは、若きハンガリーの外交官アンドルとナチスの国家弁務官テアボーフェンという2人の男性と出会います。
ジャズ音楽を愛する芸術肌のアンドルへの愛こそ真実で、情報収集のために逢引きを重ねるテアボーフェンとの関係はあくまでも演技と思っていたソニア。
ですが、アンドルもまたスパイでは?という疑惑が生まれ、その心に揺らぎが生じるとともに、怒ると理性を失う性格ながら精神的なもろさを持つテアボーフェンに、次第に慈しみの感情を抱くようになります。
女優でありながら、愛に生きる一人の女性であるソニアの姿を描く本作は、ロマンティック・サスペンスの様相も呈しています。
ただ、その肝心なロマンス要素とサスペンス要素がいずれも薄味なのは否めないところでしょうか。
まとめ
少し前に劇場公開された『ジョーンの秘密』も、第二次大戦時、裏でスパイ活動をすることとなった女性の実話をベースにしています。
スパイ活動をしていた女性が正当に評価されるケースは、男性よりもはるかに少なかったといいます。
劇中、ソニアの父シーヴァルが言います。「自分の立ち位置はしっかりと示さなければならない」。
戦乱や男性に翻弄され、戦後も不遇な人生を送ったというソニアでしたが、自我を失うことはなかった彼女を責められる者はいるでしょうか。
映画『ソニア ナチスの女スパイ』は、2020年9月11日(金)より新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。