連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile118
2020年8月23日、「アベンジャーズ」シリーズへの出演で世界的に人気を集めた俳優、チャドウィック・ボーズマンが結腸癌によりこの世を去りました。
今回のコラムでは新作Netflix映画『闇に棲むもの』(2020)をご紹介させていただく予定でしたが、映画界だけでなく世界情勢を変えようとした1人の俳優の刻んだ歴史を皆さんにも知っていただくため、チャドウィック・ボーズマン出演作の中から5作のおすすめ作品を当コラムに記載させていただきます。
CONTENTS
チャドウィック・ボーズマン出演映画オススメ①『42 〜世界を変えた男〜』
映画『42 〜世界を変えた男〜』の作品情報
【原題】
42
【日本公開】
2013年(アメリカ映画)
【監督】
ブライアン・ヘルゲランド
【キャスト】
チャドウィック・ボーズマン、ハリソン・フォード、ニコール・ベハーリー、クリストファー・メローニ、アンドレ・ホランド
【作品概要】
アフリカ系アメリカ人初のメジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンを『L.A.コンフィデンシャル』(1998)などの脚本を手掛けたことで知られるブライアン・ヘルゲランドが描いた伝記映画。
ジャッキー・ロビンソンをチャドウィック・ボーズマンが演じ、ジャッキー・ロビンソンを見出したゼネラルマネージャーのブランチ・リッキーを、「スター・ウォーズ」シリーズなど数々の名作に出演するハリウッドスターのハリソン・フォードが演じ話題となりました。
【あらすじ】
1945年、ブルックリン・ドジャースのゼネラルマネージャーであるブランチ・リッキー(ハリソン・フォード)はアフリカ系アメリカ人のジャッキー・ロビンソン(チャドウィック・ボーズマン)をチームへ迎え入れます。
1947年、有色人種がメジャーでプレイすることが無かった時代にメジャーへと移籍することになったロビンソンは、観客だけでなくチームメイトや各球団から激しい差別の行動を取られるようになり…。
自分を貫くことで世界を変えた伝説の男の物語
有色人種で初のメジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンの背番号「42」は現在アメリカの全ての野球チームで永久欠番となっています。
今でこそ伝説的な扱いを受けるジャッキー・ロビンソンですが、そのメジャーリーガーとしての駆け出しは苦難に満ちたものでした。
ジャッキーを嫌ってのチームメイトの移籍や相手チームのボイコット、さらには露骨な暴力行為などを受け続けながらもジャッキーはやり返すことなく耐え忍びます。
ジャッキー・ロビンソンの生涯を描いた本作『42 〜世界を変えた男〜』(2013)では、嫌がらせを受けながらも、あくまで紳士的に耐え続けるジャッキーをチャドウィック・ボーズマンが熱演。
スポーツの優劣を決める場でなぜ肌の色で争い合うのか。
そんな理不尽に暴力を使わず「野球」で立ち向かった男の人生が描かれた作品です。
チャドウィック・ボーズマン出演映画オススメ②『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』
映画『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』の作品情報
【原題】
Captain America: Civil War
【日本公開】
2016年(アメリカ映画)
【監督】
アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ
【キャスト】
クリス・エヴァンス、ロバート・ダウニー・Jr、セバスチャン・スタン、スカーレット・ヨハンソン、チャドウィック・ボーズマン
【作品概要】
マーベル・コミックのスーパーヒーローを同一世界観で描く映画シリーズ「MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)」の13作目にあたる作品。
シリーズの区切りとなる『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)も担当したルッソ兄弟が本作で監督を務めました。
【あらすじ】
人類の絶滅を目論んだ「ウルトロン」と「アベンジャーズ」の戦いでソコヴィアの街には多数の犠牲者が出ました。
度重なるアベンジャーズの戦闘行動による犠牲者の出現に痺れを切らした国際連合はアベンジャーズに国際連合の管理下に入ることを打診しますが、「キャプテン・アメリカ」ことスティーブ・ロジャース(クリス・エヴァンス)はこの提案を拒否。
アベンジャーズとしての戦線から離脱するトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)は、組織の維持のため国際連合下に入るようにスティーブを説得しようとしますが…。
「団結」の難しさと「復讐」の身勝手さを描く内乱(シビル・ウォー)映画
「United we stand, Divided we fall.」(団結すれば立ち、分裂すれば倒れる)。
アメリカの建国の歴史のなかで多く使われてきたことわざであり、映画『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)のキャッチコピーとなったこの言葉は本作を的確に表現しています。
「世界をより良くする」と言う理念を掲げていたとしても、生まれも育ち違う人間たちの見ている「世界」は異なります。
本作ではその「世界」の違いによりあっさりと崩れていく「団結」と、「ヒーロー」であっても「人間」である彼らの心の弱さを描いています。
本作でチャドウィック・ボーズマンはシリーズ初登場となるティ・チャラ(ブラックパンサー)を演じ、「復讐」に身を投じキャプテン・アメリカの親友バッキーを執拗につけ狙いながら「復讐」の愚かさを理解していく様を見事に演じ、この演技が『ブラックパンサー』(2018)の成功に繋がっていくことになります。
チャドウィック・ボーズマン出演映画オススメ③『マーシャル 法廷を変えた男』
映画『マーシャル 法廷を変えた男』の作品情報
【原題】
Marshall
【日本公開】
2017年(アメリカ映画)
【監督】
レジナルド・ハドリン
【キャスト】
チャドウィック・ボーズマン、ジョシュ・ギャッド、ケイト・ハドソン、ダン・スティーヴンス、ジェームズ・クロムウェル
【作品概要】
マーベル・コミックで「ブラックパンサー」の脚本を務めていたレジナルド・ハドリンが実在の人物を題材に製作した伝記映画。
『スティーブ・ジョブズ』(2013)でジョブズの成功を支えたスティーブ・ウォズニアックを演じたジョシュ・ギャッドが共演を務めました。
【あらすじ】
1940年、全米黒人地位向上協会(NAACP)で弁護士を務めるサーグッド・マーシャル(チャドウィック・ボーズマン)は、コネチカット州で発生した黒人男性による白人女性へのレイプ事件の弁護を担当することになります。
現地のユダヤ人弁護士のサム・フリードマン(ジョシュ・ギャッド)と共に容疑者ジョゼフ・スペル(スターリング・K・ブラウン)の無実を主張するマーシャルでしたが、黒人弁護士が黒人容疑者を弁護することに厳しい批難が相次ぎ…。
人種差別が世界を包む時代に抗った弁護士の物語
「マレイ対ピアソン裁判」などの有名な裁判に勝訴し、アフリカ系アメリカ人初の最高裁判所判事ともなったサーグッド・マーシャルを題材とした法廷映画。
本作は日本では劇場公開されなかったものの、主題歌の『Stand Up for Something』がアカデミー賞歌曲賞にノミネートされるなど本国では話題となった作品でした。
1940年代という人種差別が色濃く残る時代では、「黒人」による「レイプ事件」は仮にそれが冤罪であったとしても、判決を覆すことは非常に難しいと言える風潮でした。
しかし、「法による正義」を信じるマーシャルはあらゆる逆境に立ち向かい、容疑者の無実を立証しようとします。
本作の特筆すべき点はメインとなる登場人物が「黒人」「ユダヤ人」「白人女性」と、1940年代では「白人男性」から差別を受けていた人種であると言う部分です。
この事件が世界をどう変えていくのか、チャドウィック・ボーズマン演じるサーグッド・マーシャルの活躍を学べる作品です。
チャドウィック・ボーズマン出演映画オススメ④『ブラックパンサー』
映画『ブラックパンサー』の作品情報
【原題】
Black Panther
【日本公開】
2018年(アメリカ映画)
【監督】
ライアン・クーグラー
【キャスト】
チャドウィック・ボーズマン、マイケル・B・ジョーダン、ルピタ・ニョンゴ、ダナイ・グリラ、マーティン・フリーマン、ダニエル・カルーヤ
【作品概要】
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で初登場した「ブラックパンサー」を主人公とした「MCU」18作目の作品。
『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)を監督したライアン・クーグラーが本作の監督を務め、同じく『クリード チャンプを継ぐ男』で主人公クリードを演じ高い評価を受けたマイケル・B・ジョーダンがヴィランを演じ話題となりました。
【あらすじ】
世界最強の硬度とエネルギーを持つ鉱石「ヴィブラニウム」を多数保管するワガンダ国は、自らを未開の部族とすることでその強すぎる力を守り通してきました。
「アベンジャーズ」の分裂のきっかけとなった事件への介入を終え、正式に国王を継承するティ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン)はCIAの捜査官エヴェレット・ロス(マーティン・フリードマン)と協力することになりますが……。
「維持」と「改革」、「王」のあるべき姿を探す戦い
第91回アカデミー賞において作品賞を含む7部門へのノミネートを果たし、『アベンジャーズ』(2012)を越える興行収入を記録した映画『ブラックパンサー』(2018)。
本作では国王となったティ・チャラが、「王」としてのあるべき姿を苦悩しながら模索していく様子が描かれています。
当初ティ・チャラは先代までの国王がそうであったように、長く守り抜いてきた「伝統」を貫く姿勢を見せます。
しかし、時代によって情勢が変わる中、それでも守ろうとする「伝統」の意味を疑い出した時、「伝統」の犠牲となったヴィラン「キルモンガー」が姿を現します。
選ぶべきは「維持」か「改革」か、新しい生活様式を求められるようになり「悪習」との対峙を求められる現代にもぴたりとハマる作品といえます。
チャドウィック・ボーズマン出演映画オススメ⑤『ザ・ファイブ・ブラッズ』
映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』の作品情報
【原題】
Da 5 Bloods
【日本公開】
2020年(NETFLIX独占配信映画)
【監督】
スパイク・リー
【キャスト】
デルロイ・リンドー、ジョナサン・メイジャーズ、クラーク・ピーターズ、ノーム・ルイス、イザイア・ウィットロック・Jr、チャドウィック・ボーズマン
【作品概要】
『マルコムX』(1993)や『ブラック・クランズマン』(2019)など、差別問題を正面から捉える作風が特徴のスパイク・リーが監督した戦争映画。
『マルコムX』などスパイク・リー監督作品に多く出演するデルロイ・リンドーが主演を務めました。
【あらすじ】
ベトナム戦争からの帰還兵のポール(デルロイ・リンドー)は、戦地に残してしまったノーマン隊長(チャドウィック・ボーズマン)の亡骸と金塊を探すため、共に戦った戦友3人と息子を加えた5人で再びベトナムを訪れます。
しかし、そこで目にしたものは未だ終わらぬ「戦争の続き」を痛感させられる光景で……。
深く残された「戦争の爪痕」を真正面から描く戦争映画
『地獄の黙示録』(1980)や『フルメタル・ジャケット』(1988)でベトナム戦争の悲惨さは描かれ、『ランボー』(1982)や『ディア・ハンター』(1979)でベトナム戦争からの帰還兵の持つ苦しみは描かれてきました。
しかし、ベトナム戦争が戦地となったベトナムに残した「爪痕」が描かれたことはほとんどなく、本作『ザ・ファイブ・ブラッズ』(2020)はその意味でも非常に珍しい作品であると言えます。
さらに本作では「黒人から見たベトナム戦争」にも真正面から向き合い、戦争において現地では「被害者」しかいないのだと、戦争を経験したことのない世代がこの映画を観るべき意味を与えてくれます。
チャドウィック・ボーズマンが演じた、「ある使命」を心に刻み戦場で奮闘したノーマン隊長。
戦地にはノーマン隊長のような人間が本当にいたのだと思わず涙するほど、リアリティの高いチャドウィック・ボーズマンの演技が光る作品でもありました。
まとめ
黒人俳優として2番目となるアカデミー主演男優賞を受賞し、映画界で間違いなく黒人俳優の立ち位置を変えていった俳優デンゼル・ワシントン。
そんなデンゼル・ワシントンが留学費を提供し、映画界における黒人俳優のあり方に一石を投じると期待された俳優チャドウィック・ボーズマン。
2016年に結腸癌との闘病が始まって以降も人種差別や悪習に立ち向かう男を演じ続け、アメリカのみならず世界中の人間に問題提起をした彼は間違いなく「世界を変えた男」となりました。
彼の残した功績を胸に秘め、そして同じ過ちを人間が繰り返さないように、我々はチャドウィック・ボーズマンの出演作品を語り継いでいかなければならないと強く思います。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile119では、映像配信サービス「Netflix」が世界に配信した最新メキシコ映画『闇に潜むもの』をネタバレあらすじを含めて魅力をご紹介させていただきます。
9月9日(水)の掲載をお楽しみに!
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