映画『おかあさんの被爆ピアノ』は2020年7月17日(金)より広島・八丁座にて先行公開、8月8日(土)より東京・K’s cinemaほか全国順次ロードショー!
被爆75周年を迎えた今日において、若い世代に向けた平和への新たな訴えを描いた『おかあさんの被爆ピアノ』。
本作は被爆ピアノを巡る平和運動で知られる実在のピアノ調律師・矢川光則さんをモデルにピアノにまつわるストーリーを構築、「戦争」「原爆」を知らない人たちへの切なるメッセージを描いた物語です。
本作を手掛けたのは、『レミングスの夏』『美しすぎる議員』などを手掛けた五藤利弘監督。
主人公・矢川光則役はもともとベテラン俳優の大杉漣にオファーされていましたが、大杉との共演も多かった佐野が引き継ぎ演じています。そして被爆ピアノの経緯から自身のルーツを知る旅の中で、矢川に出会うヒロイン役をAKB48の武藤十夢が担当します。
映画『おかあさんの被爆ピアノ』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【監督・脚本】
五藤利弘
【特別協力】
矢川光則
【キャスト】
佐野史郎、武藤十夢、森口瑤子、宮川一朗太、大桃美代子、南壽あさ子、ポセイドン・石川、谷川賢作、鎌滝えり、城之内正明、沖正人、小池澄子、若井久美子、中山佳子、石原理衣、鈴木トシアキ、竹井梨乃、笹川椛音、原岡見伍、栩野幸知、内藤忠司、増井めぐみ、田村依里奈、中原由貴、谷本惣一郎、にかもとりか、藤江潤士、大島久美子、森須奏絵、クラーク記念国際高等学校のみなさん
【作品概要】
被爆ピアノによる平和運動で知られる実在の人物・矢川光則さんの活動をベースに、被爆ピアノを携えて全国を巡る広島のベテランピアノ調律師と、そのピアノを巡り自らのルーツをたどるヒロインの出会いから広島までの旅路を描きます。
監督は『美しすぎる議員』(2019)などを手掛けた五藤利弘。五藤監督は本作と合わせノベライズ作品を執筆しました。
ピアノ調律師・矢川光則役を、近年ドラマ『限界団地』での怪演で話題となった佐野史郎、ヒロイン江口菜々子役をAKB48の武藤十夢、その母役を森口瑤子、父役を宮川一朗太らが担当。さらに広島出身の俳優・栩野幸知らも出演に名を連ねています。
映画『おかあさんの被爆ピアノ』のあらすじ
自身も被爆二世であり、平和に対する並々ならぬ思いを募らせるピアノ調律師・矢川。
彼は1945年の広島への原爆投下で被爆したピアノをさまざまな所有者から任され、自身の手で修理し、全国各地より依頼があればどこにでも持参してコンサートを開き、その音色を人々に聴かせる平和運動をしていました。
その日も自ら運転する4トントラックに積んで全国を回っていた矢川は、コンサートの後片付けをしているときに、東京で暮らしているという一人の女子大生・菜々子と出会います。
菜々子は自分の母親が祖母から受け継いだという被爆ピアノを矢川に寄贈したことを知り、このコンサートに訪れたことを明かします。
自身のこれからの進路を考える中で、菜々子は自分が被爆三世でありそのルーツを知りたいと思っていましたが、それを母は執拗に隠そうとしており、いつも不審に思っていました。
矢川と菜々子の出会いは、そんな知られざる彼女のルーツを明かしていくきっかけとなっていきました。
映画『おかあさんの被爆ピアノ』の感想と評価
感情面から共感できる映像
広島の原爆投下という歴史上の大事件について、かつて映画では漫画家・中沢啓治の原作物語を実写化した映画『はだしのゲン』(1976)や、橘祐典監督が手掛けたドキュメンタリー映画『にんげんをかえせ』(1982)といった戦争、そして原爆投下という行為で生み出される悲惨な状況をリアルに描いた作品で、その事実は長く世に訴え続けられました。
一方で、年を経るごとに歴史の証言者は減りつつあります。重大な事実をどのように語り継いでいくかが大きな課題とされる時期にきており、近年平和運動を取り巻く状況は大きく変化を遂げつつあります。
そんな中で、本作は現代の人間が平和について考える一つの新たな方向を見出しています。
この映画では、戦争の悲惨な事実から視点を変え「なぜ平和が大切なのか」「なぜ平和であることが必要なのか」という根本的な論点を、現代に生きる人々の目線を通して描いています。
歴史上の大きな悲劇とともに平和を考えるきっかけとなっているのです。
物語は人々が共感することに重きを置き、芯となるものを語り継いでいけることを目指し、それぞれのキャラクターも非常にシンプルで共感しやすい人物像で描いています。
主演を務めた武藤十夢、佐野史郎それぞれが演じた役柄は、さまざまな事実が明らかになっていくことで心情に揺らぎを見せますが、それがかえって見るものにとって深く共感できるものとなり、作品のテーマでもある「平和」について深く考えさせられました。
役者陣の演技に対する演出は、微妙な表現ニュアンスを役者に依存し非常に間を持たせているものの、それぞれのシーンで役柄一人一人が抱く感情が明確に表現されており、本作が抱える問題はダイレクトに示されています。
そこには矢川光則さんという、被爆ピアノを語り継いでいく上で重要な人物の姿を真摯に見つめ、丁寧に脚本として仕上げた五藤監督の熱意があったのでしょう。
物語のキーとなるメロディー
また本作の一つのポイントとして、要所で響きを聴かせるベートーベンのピアノソナタ第8番 ハ短調 作品13『大ソナタ悲愴』の第二楽章のメロディーがあります。
このメロディーはCMなどでも使われたりして、日本人にとっても非常になじみのあるものです。
劇中での被爆ピアノによるコンサートのシーンで、峠三吉の詩集『原爆詩集』の序章部分の朗読やベートーベンのピアノ・ソナタ 第14番 「月光」など、どちらかというと重々しく胸が苦しくなるようなメッセージとは対照的に、物語の展開に一つの平穏な空気をもたらしています。
物語の上でもこのメロディーは印象的なアイテムとして用いられ、本作の結末をポジティブな方向に導く鍵としており、物語自体の重要なキーとして存在させています。
まとめ
五藤監督が近年手掛けた『花蓮~かれん~』(2014)『レミングスの夏』(2017)といった作品は、自身の歩む道に迷う若者の姿をピュアに描いた物語。
役柄の葛藤の日々をまさしく“生きた”ように俳優たちの表情を非常に印象深く撮り切っており、作品として非常に高く評価できるものです。
本作でもそういったセンスが発揮され、武藤が演じる主人公・菜々子の「自分を知る旅」の中で見せるさまざまに複雑な思いを込めた表情を余すところなく映し出し、歴史上の大きな悲劇と、それを知らない若者たちの意思をうまく結び付けています。
被爆75周年を迎えた本年は、先述の被爆体験者の減少などとともに、コロナ渦の影響により今年も広島で行われる予定となっている平和祈念式典の縮小開催など、平和を訴える活動に対してさまざまな制限が現れ、平和に対する危機感も見られる年となりました。
その意味でこの時期に本作が上映されるという状況は、映画という文化の有用性、社会生活における役割を改めて考えさせられるものとなり、併せてこうした活動が、次の世代の視点に平和をつなぐ重要な役割を担っていると、改めて示してくれました。
映画『おかあさんの被爆ピアノ』は2020年7月17日(金)より広島・八丁座にて先行公開、8月8日(土)より東京・K’s cinemaほか全国順次公開!