連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第4回
『おいしい家族』のふくだももこ監督が、松本穂香を主演に迎え、自身の小説を原作にして制作した青春映画『君が世界のはじまり』。
ふくだ監督が執筆した小説2作品を、脚本家の向井康介がひとつの物語に再編し、閉塞的な地方都市に生きる若者たちの、危うくはかない日々を描き出しています。
映画『君が世界のはじまり』は、2020年7月31日(金)テアトル新宿ほか全国ロードショー!
高校生活を息がつまりそうな毎日と感じる若者たちを、松本穂香、中田青渚、片山友希、金子大地、甲斐翔真、小室ぺいといったフレッシュな俳優陣が演じます。親友との友情、母の家出、ひとめぼれ、憧れ、屈折した性。青春真っ只中の苛立ちや悩みが次々と彼らを襲います……。
映画『君が世界のはじまり』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【原作・監督】
ふくだももこ
【脚本】
向井康介
【キャスト】
松本穂香、中田青渚、片山友希、金子大地、甲斐翔真、小室ぺい、板橋駿谷、山中崇、正木佐和、森下能幸、江口のりこ、古舘寛治
【作品概要】
『おいしい家族』(2019)のふくだももこ監督が同作でもタッグを生んだ松本穂香を再び主演に迎え、自身の小説を原作に描いた青春映画。ふくだ監督が執筆した小説『えん』と『ブルーハーツを聴いた夜、君とキスしてさようなら』の2作品を、『リンダ リンダ リンダ』(2005)『聖の青春』『愚行録』(2016)などを手がけてきた脚本家の向井康介がひとつの物語に再編しました。
主演の松本穂香を筆頭に、中田青渚、片山友希、金子大地、甲斐翔真というネクストブレイク必至の若手俳優を揃えました。加えて、映画デビューとなるロックバンド「NITRODAY」のボーカル&ギターの小室ぺいも出演。閉塞的な地方都市に生きる若者たちの、危うくはかない日々を描き出します。
映画『君が世界のはじまり』のあらすじ
大きな貯蔵タンクのある大阪のある町。深夜の住宅地で、高校生に中年の男が殺害される事件が起こりました。
時は遡って事件の数週間前。町はいつものように平凡で退屈な毎日が始まろうとしていました。
高校2年生の縁(松本穂香)は、幼馴染みで親友の琴子(中田青渚)と一緒に登校します。
同じ高校の片山純(片山友希)は、母が家出をして父と2人暮らしです。母のことは一切気にせず、朝晩家事に精を出す父に腹を立てていました。
その日も父が作った朝ごはんを食べずに、登校します。
縁と琴子が学校に着くと、さっそくにスカート丈のことで教師の桑田(板野駿谷)と琴子がバトルを始めます。そして始まる恒例の追いかけっこ。
不思議なことですが、学年トップの成績を保つ優等生縁と学年最後尾の成績で彼氏をころころ変えるアホな琴子は、大親友なのです。
全校集会もさぼり、立ち入り禁止になっている旧講堂でたむろっている琴子を連れ戻しに来た縁は、そこで一人で涙を流している男子を見かけます。
それは、サッカー部の業平(小室ぺい)で、琴子は彼に一目ぼれします。マジで初恋をした琴子は、8人目の現在の彼氏に別れを告げ、業平を追いかけるようになりました。
そんな琴子にずっと憧れを抱いてるのは、サッカー部の岡田(甲斐翔真)。
背が高くイケメンの岡田は女子からとてもモテます。が、琴子が気になる岡田は全く気にもしていません。
ある日、和歌でもらったラブレターの解釈を頭のいい縁に頼み、2人は親しくなっていきます。
一方、家に帰りたくない純は、放課後のショッピングモールで時間をつぶしていました。そこで、東京から転校してきた同級生の伊尾(金子大地)の秘密を知ってしまいます。
求めるものもわからぬまま、寂しさから純は伊尾と衝動的に体を重ねました。
そして琴子はといえば……。業平とのデートの日、いそいそと出かけたのに、ふくれっ面をして帰って来ます。縁が訳を聞くと、業平が縁の話しかしないと言うのです。
縁は偶然業平の秘密を知ることとなり親しくなっていたのですが、八つ当たりをしてきた琴子にあきれ、2人の中に距離が生まれました。
こちらは純の家。純の誕生日を祝おうとした父に、純はそれまで抑えていた怒りをぶちまけていました。
この日の夜に殺人事件が起こり、それは男子生徒による実父の殺害だったのです。
犯人は縁たちの高校の生徒ということで、翌朝学校は大騒ぎ。生徒たちは級友を眺めては「もしかして、あいつが犯人?」と疑心暗鬼になっていました。
それぞれの同級生たちのことを心配しながら、縁と岡田はショッピングモールへ行き、大雨に遭遇します。
そこで同じように来ていた純と伊尾と出会い、営業終了後のショッピングモールで雨宿りを決め込みました……。
映画『君が世界のはじまり』感想と評価
勉強や部活に熱中するでもなく、ただ毎日をまったりとした退屈な空気の中で過ごしている高校生たち。映画『君が世界のはじまり』は、そんな彼らが主役です。
松本穂香演じる緑ことエンは、両親とも仲が良いごく普通の高校生。親友の琴子に付き合ってよく授業をサボりますが、成績は学年で一番。どこの大学にも行けるために逆に迷っています。
片山友希が演じるのは、片山純。家出した母を慕い、父に不満をもっています。「気が狂いそう」とスマホで検索してたまたまヒットした「ブルーハーツ」の歌に、息のつまりそうな気持ちを救われます。
「ブルーハーツ」は1985年に結成された日本のパンク・ロックバンドで、若者の指示を受け多数のヒット曲があります。
金子大地演じる伊尾は、父の再婚相手の暮らす大阪に東京から引っ越してきました。一匹狼的な存在で、いつも「ブルーハーツ」の曲を聴いています。
勉強大嫌いでつまらない毎日を“彼氏”と付き合うことで埋めていた琴子は、中田青渚が熱演。
そんな琴子にあこがれる岡田役には甲斐翔真。自分のことなど眼中にない琴子に、半ばあきらめの気持ちを抱きます。
琴子が一目ぼれをした業平は、家庭的にもわけありでミステリアスなイメージの少年です。映画初出演の小室ぺいがフレッシュな演技を披露しました。
キーワードは「ブルーハーツ」
学校が終わった後、放課後をどう過ごすか。恋愛、母の家出、家庭内の問題、それぞれの屈折した思いを胸に、放課後に閉店セールのショッピングモールに集う高校生たち。
他に行き場もなくそこに来てしまったのですが、だだっ広いフロアを使って、言葉にならない思いを歌で発散。音楽に胸のうちをぶつけるシーンは見逃せません。
本作で流れる「ブルーハーツ」の曲は、屈折した若者の心の中を描いていて、それが彼らの思いとマッチしていたのです。
そしてもう一つ忘れてならないのは、本作品に登場する大人たちの“優しさ”です。
子どもを優しく見守る縁の両親を始め、自分を無視続ける娘に笑顔で食事を作り続ける純の父。出来の悪い愛娘をかわいがり、縁のこともよく面倒見る琴子の母。
校則破りの琴子を怒りながらも愛情持って指導する教師。極めつけは、ショッピングモールに不法侵入しても怒らない警備員。
主役の高校生たちが外に発せない想いを抱えているのは、よくわかります。けれども、それを理解できないでいる周りの大人たちが、みな優しいというのは偶然でしょうか。
唯一、事件で殺害されたという男性だけが嫌な役目を請け負った感がありますが……。
優しい大人が多いから、彼らには毎日がまったりとしてつまらないと思えるのでしょう。青春真っ只中の彼らには、そんな大人の“優しさ”は感じられないものかもしれません。
彼らは、息がつまりそうな閉塞された世界から飛び出すきっかけを模索しているのですから、今をどう過ごそうかと思い悩むことで頭がいっぱいなのにちがいありません。
まとめ
ふくだももこ監督作品の『君が世界のはじまり』は、ネクストブレイクの予感がする6人のキャストたちで高校生の日常生活を描いています。
監督の小説をひとつの物語にしたということですが、“ふくだワールド”をそのまま描いた本作は、少年少女たちの内面を見事に映し出しているといえるでしょう。
エンディングは松本穂香が歌う「ブルーハーツ」の『人にやさしく』。“生きた”少年少女たちの言葉に出来ない心の叫びが、曲に乗ってそのまま観る者のハートへと響いてきます。
かつては自分も経験した“青い春”特有のピリピリしたエネルギーが、とても懐かしく感じました。
またその一方で、彼らがその爆発的なエネルギーを何処へ持って行くのかと気になる作品です。
映画『君が世界のはじまり』は、2020年7月31日(金)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー!