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Entry 2017/05/16
Update

映画『帰ってきたヒトラー』あらすじネタバレと感想!ラスト結末も【タイムスリップして21世紀の現れたヒトラー本人がモノマネ芸人に⁈】

  • Writer :
  • yukimura

ヒトラーをテーマにした映画と聞くと、つい歴史的大作やシリアスな秀作を想像してしまい、
軽いノリで観るよりは、ちょっと心の準備をしてから観ようなんて思いませんか。

『帰ってきたヒトラー』は、ヒトラーがタイムスリップで現代に蘇るというストーリー。

恐ろしい戦争描写はなく、ヒトラーがパソコンをいじったり、絵を描いたり、YouTubeで人気者になったりと、笑ってしまうシーンが満載です。

でも笑えば笑うほど、あなたは「独裁者」に洗脳されているだけかもしれません。ラスト
にはゾッとする怖さが待っている、『帰ってきたヒトラー』を紹介します。

映画『帰ってきたヒトラー』の作品情報


(C)2015 Mythos Film Produktions GmbH & Co. KG Constantin Film Pro duktion GmbH Claussen & Wobke & Putz Filmproduktion

【公開】
2015年(ドイツ)

【原題】
Er ist wieder da

【監督】
デヴィッド・ベンド

【キャスト】
オリバー・マスッチ(アドルフ・ヒトラー)、ファビアン・ブッシュ(サヴァツキ)、クリストフ・マリア・ヘルプスト(ゼンゼンブリンク)、カッチャ・リーマン(カッチャ・ベリーニ)

【作品概要】
ドイツの作家、ティムール・ヴェルメシュが、2012年に発表した原作を映画化した社会風刺劇。タイムスリップで現代のベルリンに現れたアドルフ・ヒトラーが、再び世間を扇動していくというストーリーです。主演のオリバー・マッチスは、舞台で活躍する俳優。果たして歴史は繰り返すのか、示唆に富んだラストも衝撃的です。

映画『帰ってきたヒトラー』のあらすじとネタバレ


(C)2015 Mythos Film Produktions GmbH & Co. KG Constantin Film Pro duktion GmbH Claussen & Wobke & Putz Filmproduktion

ベルリンの街中。静かな公園の片隅に突如、煙が立ち上ります。煙の中に倒れていたのは、ちょび髭にコートの中年男。1945年から蘇った、アドルフ・ヒトラー総統本人でした。

目が覚め、よろよろと歩き出す総統。自分がどこにいるのか分からず、観光客で賑わう広場に迷い込んでもみくちゃにされます。キオスクの新聞を手にとると、なんと年号は2014年。

卒倒する総統。彼を単なる変人だと思ったキオスク店主は、店内に一晩泊めてやります。真夜中、総統は熟考します。自分はすでに亡き者らしい。なぜにこの世に呼び戻されたのか。これは神意だ。私に戦いを続けよという神意なのだ。ならば情報収集から始めねばならん!

総統は店内の新聞に目を通し、戦争に負けたこと、ドイツが東西に分かれて再び統一したこと、大勢のド素人が、自分の人生をドラマや映画にしていることなどを知って驚嘆します。

特ダネ探しに悩んでいる、フリー記者のサヴァツキ。公園で撮影したニュース映像を編集中、ヒトラーの恰好をした奇妙な人物が背後に映り込んでいるのを発見。興味を持ちます。

翌日、サヴァツキはキオスクで総統を発見。総統の高圧的な態度に、本物そっくりだと感激します。彼は、「現代のドイツを闊歩するヒトラー」の映像を撮らせてほしいと頼みます。

ベルリンからドレスデンを車で旅するサヴァツキと総統。ホテルで初めてテレビを見た総統は「プロパガンダに最適だ」と感心しますが、料理番組と低俗番組の多さに怒り出します。

総統は、「政治番組を作ろう」と提案。2人は、ドイツ国民たちに政治についての意見を伺います。賃金だ選挙だ移民だと出るわ出るわ不満の嵐に、なんたる政治不信と嘆く総統。

犬のブリーダーを訪ねた2人。大の犬好きだという総統ですが、ちょっかいをかけた犬に噛みつかれて逆ギレし、躊躇なく銃を発砲します。驚いたサヴァツキが銃を取り上げました。

サヴァツキが撮影した動画は100万回以上の再生を記録。民放テレビの局長ベリーニは、サヴァツキが連れてきた総統を才能ある物まね芸人だと勘違いし、テレビ出演を依頼します。

サヴァツキは、局の受付嬢フランツィスカをデートに誘います。ベリーニの失脚を企む副局長ゼンゼンブリンクは、総統の番組の台本に敢えて危ない人種差別ネタを盛り込みます。

生放送の政治コント番組に出演した総統。カンペを無視して貧困、失業、低俗なテレビ番組など母国衰退への怒りをとうとうと語ります。観客は大喝采。番組は大成功に終わります。

番組依頼が殺到する総統。アウトバーン計画を持ち出して司会者を笑わせたり、テレビのせいでドイツは奈落の底だと怒りをぶつけたり、数々の発言が「面白すぎる」とネットで大評判になります。新聞ですら「正しいことを言う」と総統を大絶賛です。

全く面白くない副局長ゼンゼンブリンクは、総統が犬を撃った映像を手に入れ、生放送で流します。総統の残虐な行為に、世間の評価は一気に下落。ベリーニも解雇されてしまいます。

サヴァツキは、ホテルを追い出された総統を自宅に住まわせます。おかげで2冊目の本を書く時間ができたとポジティブな総統。現代のベルリンに蘇った自分の話を執筆します。サヴァツキは完成した原稿をベリーニに手渡し、僕が映画化しますと言います。

著書「帰ってきたヒトラー」は大ベストセラーに。印税で動物保護に募金し、人気は再び急上昇です。総統は、フェイスブックで自分の親衛隊を募り、軍隊ばりの訓練でしごきます。

ゼンゼンブリンクは、人気回復の総統をテレビに戻しました。サヴァツキと総統は、フランツィスカの家を訪ねます。認知症を患うフランツィスカの祖母は、総統を見た途端、怒りと恐怖を露わにします。「この男は家族をガス室送りにした。だまされないわ、この極悪人!」。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『帰ってきたヒトラー』ネタバレ・結末の記載がございます。『帰ってきたヒトラー』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

総統は、罪悪感を抱くどころか、フランツィスカにユダヤ人の血が流れていたことに嫌悪感を持ちます。そんな総統の態度を見て、心から失望するサヴァツキでした。

サヴァツキの気持ちに気づきもしない総統は、映画の撮影中、ネオナチの男たちに襲われて入院します。包帯姿でベッドに横たわる総統にベリーニは、「これで民主主義の先駆者として英雄になれるわ」と言います。

サヴァツキは、総統を見た公園を訪れていました。彼が倒れていた場所の落葉が焼け焦げています。見上げるとそこには「総統地下壕施設跡」と書かれた看板がありました。

総統の病院に飛び込んできたサヴァツキ。何事かと驚くベリーニに、「彼は本物だ!捕まえなきゃ!」と叫びます。廊下を走るサヴァツキを、職員たちが取り押さえます。

映画の撮影スタジオ。サヴァツキは、総統に銃を向けてビルの屋上まで誘導し、そこから飛び降りるよう言います。「怪物め」と言うサヴァツキに、冷笑を浮かべる総統。

「それなら怪物を選んだ人間を恨め。彼らの本質は私と同じだ」。サヴァツキが発砲します。総統はビルから落下しますが、サヴァツキが振り向くとすぐ後ろに立っています。総統は言いました。「私は人々の一部なのだ」。茫然とするサヴァツキ。

と、そこで撮影が終わります。2人にスタッフ達が駆けよりました。サヴァツキが銃で総統を撃ったのは、映画の中の話でした。2人とも本人ではなく、役者だったのです。

実際のサヴァツキは、精神に異常をきたしたと判断されて病棟に隔離されていました。拘束服を着せられた無表情のサヴァツキを見て、フランツィスカは涙を流します。

ベリーニと総統は、大勢のマスコミに囲まれていました。「彼は娯楽の可能性を高い水準にまで引き上げた先駆者です」とベリーニ。総統も満足気に微笑み、2人が乗った車は街中へ走り出します。道行く人々は、総統を見つけて笑顔で手を振るのでした。

映画『帰ってきたヒットラー』の感想と評価


(C)2015 Mythos Film Produktions GmbH & Co. KG Constantin Film Pro duktion GmbH Claussen & Wobke & Putz Filmproduktion

第二次世界大戦末期、生き残ったナチスがUFOを開発。月の裏側に秘密基地を建設して
連合軍にいざ、復讐!というハチャメチャなストーリーの『アイアン・スカイ』(2012)が
「宇宙のナチス」なら、こちらは「時空のヒトラー」でしょうか。

世界史に残る最悪の独裁者、ヒトラーを演じるオリバー・マスッチ。ほとんど無名に近い俳優だそうで、テレビのドキュメンタリーで見たことのある実際のヒトラーとは、正直、顔かたちやガタイの良さにも違和感があります。

しかしこのヒトラー、中盤までは非常に魅力的な憎めない人物で、それが後半から少し雲行きが怪しくなり、ラスト近くでついに時代の暴君としての姿を露わにします。そんなヒトラーの強烈なカリスマ性を、マスッチが見事に体現しています。

認めたくはないのですが、前半のヒトラーの可愛さは異常です。クリーニング店の中でパンツを脱ぐ、ポロシャツで仁王立ちになる、ボーリング場でハッスルする、ハチに刺されて泣き出す、街行く人の下手な似顔絵を描く等々。言うのも嫌ですが、愛らしいのです。

それでも、認知症のユダヤ人女性がヒトラーを罵倒したシーンでは、思わず我に返ってうすら寒い気持ちになりました。観客の自分も、現代に蘇ったヒトラーをすんなりと受け入れてしまっていました。サヴァツキと違い、最初からヒトラー本人だとわかっていたのにです。

サヴァツキといえば、つねに赤いダウンベストとGジャンというファッションなのですが、なぜか『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズのマーティことマイケル・J・フォックスを彷彿とさせます。どちらの青年も、ヘンなおじさんのタイムスリップに付き合わされてとんでもない目にあうという、嬉しくない共通点はありますね。

ヒトラーが市民たちにインタビューする場面は、台本なしのゲリラ撮影だそうで、まさに『ボラット』(2007)的手法。でもサシャ・バロン・コーエンと違い、ヒトラーはあくまで脇役。メインは、カメラの前でぶっちゃけすぎる本音トークをばんばん語る、ごく普通の人達です。

彼らの多くが挙げるのは難民問題です。マスッチのヒトラー的煽りも素晴らしく、果ては他国民排斥から極右的発言まで飛び出す始末。ただ、これらが編集された映像であることを考えると、「移民反対」=「ヒトラーマンセー」と短絡化されかねない危険もありそうです。

初めて見たテレビやパソコンに感心しきりのヒトラー。「プロパガンダに最適だ」と言うシーンにも背筋が寒くなります。便利さと同様、その危険性も十分に認知されているSNSなど、たとえヒトラー不在でも、新たな革命を巻き起こすツールに簡単になり得ることでしょう。

ヒトラーが本物だと知ったサヴァツキは、ヒトラーの暴走をとめようとします。しかし、ヒトラーが本人か芸人か、結局はどちらも同じことだったのかもしれません。ヒトラーは誰の心にも住んでいて、時代がその引き金を引けば、何度でも蘇ってくるに間違いないのです。

まとめ

例えば『ハンナ・アーレント』(2013)や『顔のないヒトラーたち』(2014)、そして『サウルの息子』(2015)、や『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』(2015)、『ヒトラーの忘れもの』(2016)ほか、ここ数年、ナチスやヒトラーを題材にした映画が続々と公開されています。

世界的歴史の中で最も悲惨な出来事の1つであり、決して忘れてはいけない人類の記録。年月の経過と共に戦争の目撃者がどんどん亡くなっていく中、これらの映画が歴史風化の抑止力になる意味は非常に大きいですね。

原作は一人称で語られていますが、映画の場合は、ヒトラー、サヴァツキほか多方面からの視線で描かれています。そのせいでヒトラーの人間的個性、面白さ、残虐性など、くるくる変わる印象を奥行ある世界観で表現できていると思います。異なる結末にも、小説とはまた違った醍醐味があります。

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