映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』は2020年7月17日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次ロードショー!
フランス映画界の最前線に立つフランソワ・オゾン監督が実話に基づいた物語に初挑戦、大きな物議を醸した問題作『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』。
神父による児童への性的虐待事件をもとに、被害者からの告発の真相に迫る物語。オゾン監督はこのテーマに対してそれまで発表してきた作品の作風を封印、実話をベースにフィクションを構成した異例の作品を作り上げました。
キャストには、オゾン監督とは3度目のタッグとなるメルヴィル・プポーを主演に迎えるほか、ドゥニ・メノーシェ、スワン・アルローら実力派の俳優が名を連ね、作品のテーマとなる複雑な社会問題に深く切り込みます。
CONTENTS
映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』の作品情報
【日本公開】
2020年(フランス映画)
【原題】
Grâce à Dieu(英題:BY THE GRACE OF GOD)
【監督・脚本】
フランソワ・オゾン
【キャスト】
メルヴィル・プポー、ドゥニ・メノーシェ、スワン・アルロー、ジョジアーヌ・バラスコ、エレーヌ・ヴァンサン
【作品概要】
カトリック教会の神父により幼少期に受けた性的虐待。そのトラウマに苦しむ男たちが大人になり、告発の決意を固めるまでの葛藤とともに、告発によって被る代償と相反して得られる希望の光景を、彼らの表情とともに描きます。
出演は、第一の告発を行う男性アレクサンドル役に『わたしはロランス』(2013)のメルヴィル・プポー、第二の告発者フランソワ役に『ブラッディ・ミルク』(2017)のスワン・アルロー、そして第三の告発者エマニュエル役に『ジュリアン』(2018)のドゥニ・メノーシェら。
本作ではこのメインキャラクターを演じた三人が揃ってセザール賞にノミネートされており、作品としては合計7部門で8ノミネートされ、アルローが助演男優賞に輝きました。
さらに第69回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門に出品され銀熊賞を受賞したほか、2020年のリュミエール賞では最多の5部門にノミネート、本国フランスでは91万人を動員する大ヒットを記録しました。
映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』のあらすじ
妻と子供たちと共にフランス・リヨンで幸せな家庭を築き上げた男性・アレクサンドル。
彼はある日、幼き頃の友人より幼少期に自分を性的虐待したプレナ神父がいまだに子供たちに聖書を教えており、自身の身近に戻りつつあることを知ります。
かつてその被害を告発し、プレナ神父を自身から遠ざけてもらったことで沈黙を守っていたアレクサンドルでしたが、教会がプレナ神父に処罰を与えなかったことを改めて言及。
そんなアレクサンドルに対し、現在の教会側責任者であるバルバラン枢機卿はプレナ神父に厳正な対処を行うことを約束します。
ところがその経過は思わしくないどころか、実は枢機卿がプレナ神父の過去の失態を知りながら見て見ぬふりをしていたことが発覚。家族を守るため過去の出来事の告発を決意しました。
その告発では、最初は関わることを拒んでいたフランソワに加え長年一人で傷を抱えてきたエマニュエルらと、同じくプレナ神父から虐待を受けた男性たちの輪は徐々に広がり、教会への抗議の声は高くなっていきました。
しかし教会側はプレナ神父の罪を認める一方で、自身の責任を巧みに避けようとします。さらにアレクサンドルたちは長い間の沈黙を破った代償として、彼らを蔑(さげす)む社会や家族との軋轢とも戦っていかなければならないのです。
映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』の感想と評価
世界で今物議を醸す問題の提起
カトリック教会の性的虐待行為は、2002年にアメリカのメディアが大々的に取り上げて以来さまざまなケースが発覚し、一部では訴訟問題にまで発展するという事態になっています。
2018年にはアメリカのペンシルベニア州で、1940年代以来少なくとも300人の司祭が1000人余りの子供たちに性的虐待を行ってきたと結論づけた起訴陪審報告書が、該当する司祭の名前とともに発表されました。
日本でも2019年4月に日本カトリック司教協議会から、全国の協会で起きた小児性的虐待の実態調査を行うことが発表されるなど、その問題意識は世界中で急速に広がりつつあります。
そんな世界情勢の中で、本作は今現在も続いているフランス国内での事件にスポットを当てたタイムリーな視点を持っており、まさしく注目すべき作品なのです。
犯罪被害の影響に対する広い考察
本作の特徴は、作品の主眼の置き場所にあります。この物語はかつてカトリック教会の神父に性的虐待を受けたという3人の男性それぞれの視点で展開する群像劇です。
ここでは聖職者からの性的虐待というショッキングな事実の印象よりも、むしろ虐待を受けた人たちがその行為によって自身のその後の人生にどのような変化をもたらされたか、という点について強く言及しています。
この3人には過去に性的虐待を受けたという共通点があるものの、個々の性格やその生まれ育った境遇など、それぞれに異なる人生を歩んできました。
それゆえに、この問題に対する向き合い方や事態に対しての反応も三様に異なり、実在の人物をモデルとしながらも緻密な視点でイマジネーションを膨らませて構築したバックグラウンドにより、性的虐待が長い間被害者を苦しめるありさまをさまざまなケースで描きます。
近年ではフランスを代表する映画作家として非常に高い評価を得ているオゾン監督ですが、本作はそんな彼の作品の中でも、彼が物語を作るにあたり考える着眼点、視点を推し量るカギであるといえるでしょう。
またこの3人の役柄の中で、特にメルヴィル・プポーが演じた主人公のアレクサンドルが、家族と教会そして2人の被害者と、さまざまな人々との接触に迷いの表情を見せるシーンがあります。
この表情こそ物語の主題を強く表したものであり、アレクサンドルという役柄が本作の最も大きなポイントを明確に表す重要な役割を果たしているのです。
その意味でプポーの演技は、セザール賞で助演男優賞を獲得したスワン・アルローの演技と並んで、本作の注目すべき点となっています。
まとめ
プレナ神父は2020年の3月に有罪判決を下され、さらにその判決に上告がされるなど、その審議は継続した状況にあります。
そんな中で作られた本作は、シーンによって撮影の許可が下りなかった場所があったり、一時上映差し止めの申し出が出されたりするなど、教会側としても大きな物議を醸す作品となりました。
対して本作を「この映画が教会側で受け止められることで、教会内部の問題が撲滅されるチャンスになるかもしれない」と好意的に受け止めている司祭がいることを、オゾンは明かしています。
タイトルの「Grâce à Dieu」は慣用句でもある「BY THE GRACE OF GOD」(神の庇護により)という言葉に起因しているようですが、この言葉にはこうした教会の問題点に関する風刺と、その正常化を願う切実な願いにも見えます。
また本作はあくまでも宗教、カトリックというテーマに沿った物語ですが、これに限らず古くから常識とされ見過ごされているような、常態化したさまざまな問題に対する意義のあり方を問うているようにも感じられることでしょう。
映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』は2020年7月17日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開されます!