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Entry 2020/07/09
Update

映画『クシナ』感想評価と内容考察。速水萌巴監督が語る“個人的な映画”として描いた“母娘の愛と憎悪”

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

映画『クシナ』は2020年7月24日(金)よりアップリンク渋谷ほか全国順次公開。

山奥で独自の共同体を築いている女性だけの村。

外からの侵入者を寄せ付けず、一切の情報を遮断していたこの村に、人類学者の男女が足を踏み入れた事で始まる崩壊と、この村に暮らす母娘の愛情と憎悪を描いた映画『クシナ』。

生々しくも幻想的な世界観を持つ本作の魅力をご紹介します。

映画『クシナ』の作品情報


(C)ATELIER KUSHINA

【公開】
2020年(日本映画)

【監督・脚本】
速水萌巴

【キャスト】
郁美カデール、廣田朋菜、稲本弥生、小沼傑、佐伯美波、藤原絵里、鏑木悠利、尾形美香、紅露綾、藤井正子、うみゆし、奥居元雅、田村幸太、小野みゆき

【作品概要】
山奥で独自の文化を築いた、女性しかいない村で暮らす、鬼熊と鹿宮(かぐう)、そして奇稲(くしな)の母娘の姿を、本作が長編デビュー作となる速水萌巴が独特の世界観で描きました。

作品の鍵を握る神秘的な少女奇稲役を、女優の土屋アンナに直接スカウトされ、モデルとしても活躍している郁美カデールが演じています。本作の撮影数日前に、彼女の1枚の写真が速水監督の目に留まったことで、女優デビューを果たしました。

また、奇稲の母親、鹿宮を演じるのはドラマや舞台、MVなどの数多くの作品で活躍している廣田朋菜。

村を統率している鹿宮の母親・鬼熊を『戦国自衛隊』や『ブラック・レイン』など、数々の映像作品で活躍している、小野みゆきが演じています。

映画『クシナ』のあらすじ


(C)ATELIER KUSHINA
人里離れた山奥に存在する、「男子禁制」の女性だけが暮らす村。

この村は、村長の鬼熊が厳しい規律を作り、村の秩序を守っていました。

村では大麻を収穫しており、鬼熊だけが唯一村を下りて大麻を売ったお金で、村の女たちが必要とする物を買っていました。

鬼熊には、28歳の娘、鹿宮(かぐう)と、鹿宮が14歳の時に産んだ娘、奇稲(くしな)がおり、一緒に村で生活をしています。

村では外からの情報を全て遮断していましたが、奇稲は廃墟となった山小屋に隠れてウォークマンで音楽を聞くなど、外の世界に興味を持っている様子です。

鬼熊は、奇稲に村の仕事を手伝わせようとするなど、共同体の中に奇稲を入れようとしますが、鹿宮はそれを拒否しているように見えます。

人類学者の風野蒼子は、女性だけが暮らす村の噂を聞き、後輩の原田恵太と村を探していました。

何度も探索を続けましたが、これまで村を探し出す事が出来ておらず、蒼子は半ば諦めかけていました。

ですが、蒼子は山中で奇稲の姿を見かけて、奇稲を追いかけて村に辿り着きます。

「男子禁制」の村に蒼子と共に恵太が入って来た事を、鬼熊は問題視しますが、蒼子達は下山の為の食糧を所持していません。

鬼熊は下山の為の食料が揃うまで、2人が村に滞在する事を許可しますが、鹿宮は強く反対します。

しかし、閉鎖されていた村に部外者を招き入れた事の影響は大きく、特に男性の恵太の存在により、村の女性たちは内面が乱れ始めます。

やがて蒼子は、奇稲に必要以上に思い入れがある自分に気づき、村に足を踏み入れた事を後悔するようになります。

そして、鬼熊が守り通していた村の秩序は、次第に崩壊していきます。

また、蒼子の存在は、村だけでなく奇稲にも影響を与えていくようになります。

徐々に崩壊し始めた村の様子を目の当たりにした鹿宮は、ある決断をする事になります。

映画『クシナ』感想と評価


(C)ATELIER KUSHINA
映画『クシナ』は、山奥に存在する、女性だけが暮らす閉鎖的な村が舞台となっています。

閉鎖的で、独自の文化を築いた村が舞台の映画と言えば、近年では『ミッドサマー』という作品がありましたが、『ミッドサマー』に登場する村が、よそ者を一切寄せ付けない完璧な共同体だった事に比べ、『クシナ』に登場する女性だけの村は、微妙なバランスで秩序が保たれており、非常にもろく危うい印象を受けます。

女性だけの村は、秩序を守る為、一切の外からの情報を遮断しています。

ですが、人類学者の風野蒼子と後輩の原田恵太が村を探し出し滞在した事から、これまで危ういバランスで保たれてきた秩序は乱れ始めます。

『ミッドサマー』(2019)が、よそ者視点で描かれた、閉鎖的な村の恐怖であれば、『クシナ』は閉鎖的な村の住人視点で、よそ者により日常がかき乱される不安と、崩壊を描いた作品となっています。

では「閉鎖的な村の住人視点」とは、誰の目線なのでしょうか?

この女性だらけの村がどのように形成されたかは謎ですが、作中のセリフなどから、村長である鬼熊が、娘の鹿宮の為に作り出した村である事は分かります。

微妙なバランスで保たれている村の秩序は鬼熊が中心となっており、鬼熊からすると、よそ者である蒼子と、男性である恵太は招かれざる客です。

鬼熊が危惧しているのが村の秩序であれば、鹿宮が危惧しているのは、鹿宮の娘である奇稲への影響です。

女性だけの村の住人は、世間を捨てて村に移住してきた人達ですが、奇稲は村の中で育っており、外の世界を知りません。

ですが廃墟の中で見つけたウォークマンで、音楽を聴くなど「外の世界への憧れ」を抱いています。

鹿宮は奇稲の様子に気付きながらも、気付いていない振りをしており、その様子から鹿宮は、奇稲が村に馴染む事を拒んでいるようにも見えます。

ですが、鬼熊は奇稲にも村の仕事を手伝わせようとするなど「奇稲が村の住人になる事」を望んでいる、と言うより「奇稲はこの村でしか生きていけない」という決めつけすら感じます。

そして鹿宮は、そんな鬼熊の決めつけた考えに反発してるように見えます。

そこへ、蒼子と恵太というよそ者が入ってきた事で、鹿宮は「奇稲が外の世界を知ってしまう」という良くない影響を危惧しますが、同時にある希望を抱くようになります。

本作は、「閉鎖的な村の住人視点」と前述しましたが、それは、村を作り出し鹿宮を拘束する鬼熊と、村での生活しか知らない、自由な感性を持つ奇稲の間に挟まれた、鹿宮の視点です。

自身を拘束する母親へ、娘として反抗しながら、母親として愛する娘の幸せを祈る鹿宮。

母と娘の両方の顔を持つ鹿宮が葛藤の末に行きつくラストシーンに、是非注目して下さい。

まとめ


(C)ATELIER KUSHINA

世間から離れた山奥に存在する、女性だけの村を舞台にした本作は、廃れた村や子孫繁栄の問題、母と娘の愛と憎悪など、現実的な生々しい部分を描いた作品となっています。

本作の監督、速水萌巴は、本作を「すごく個人的な映画」と語っており、あまりにも自分に近すぎる作品の為、一度配給の話を断っていたほどです。

速水監督の個人的な「強い想い」が、作品全体から感じる生々しさに繋がっているのでしょう。

生々しさを感じる本作ですが、奇稲を演じた郁美カデールが幻想的な存在感を持っており、『クシナ』という作品に、どこか御伽噺のような印象を与えています。

村の事しか知らない、清純で透き通った雰囲気を持つ奇稲が光であれば、世の中を知りすぎて、汚れてしまった鬼熊は闇という印象です。

鬼熊という過去の闇に悩まされながら、自身の現実での立ち位置が見えず、悩み続けている鹿宮が、奇稲に未来の光を託すという本作は、現実の生々しさと御伽噺のような神秘性が合わさった、独特の世界観を持つ作品となっています。

映画『クシナ』は2020年7月24日(金)よりアップリンク渋谷ほか全国順次公開です。



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