10月13日にNetflixオリジナルドラマ『マインドハンター』の配信が開始されました。製作総指揮は映画監督デイヴィッド・フィンチャーと、オスカー女優シャーリーズ・セロン。
フィンチャーは全10話のうち第1、2、9、10話で監督も兼ねています。彼がNetflixドラマの製作を務めるのは『ハウス・オブ.・カード 野望の階段』についで2度目となりました。
『マインドハンター』は1970年代後半のアメリカを舞台とするクライム・サスペンス。当時は、犯罪者の心理分析「犯罪プロファイリング」の黎明期。
連続する猟奇的殺人事件解決の手がかりを得ようと、2人のFBI捜査官が「過去の凶悪犯の話を参考にする」という計画を立て組織内で物議を醸します。
原作は史上初の犯罪プロファイル専門家である実在のFBI捜査官、ジョン・E・ダグラスによる同名小説。出演はジョナサン・グロフ、ホルト・マッキャラニー、アナ・トーヴら。
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『マインドハンター』を観る前にフィンチャー監督の過去作品をチェック!
デヴィッド・フィンチャー監督はこれまで『セブン』をはじめ、『ゾディアック』や『ドラゴン・タトゥーの女』などの作品に猟奇的な殺人犯を登場させてきました。
緑・茶・黄を基調とする彼のダークな作品群を振り返ることで浮かび上がってくるのは、「異常者」に寄せる監督の興味と、「社会への反抗心」です。
デヴィッド・フィンチャー監督おすすめ5作品をプロファイリング
1.『セブン』
2.『ファイト・クラブ』
3.『ソーシャル・ネットワーク』
4.『ドラゴン・タトゥーの女』
5.『ゴーン・ガール』
デヴィッド・フィンチャー監督作 2つのキーワード
キーワード1「異常者」
キーワード2「社会への反抗」
1.映画『セブン』(1996)
映画『セブン』の作品情報
【公開】
1996年(アメリカ映画)
【原題】
Seven(Se7en)
【キャスト】
ブラッド・ピット、モーガン・フリーマン、グウィネス・パルトロー、R・リー・アーメイ、リチャード・ラウンドトゥリー、ダニエル・ザカパ、ジョン・C・マッギンレー、ケビン・スペイシー、リチャード・シフ、マーク・ブーン・ジュニア
【作品概要】
フィンチャー監督の映画デビュー作『エイリアン3』は製作段階のトラブルが続いたうえ完成作の評判も芳しくはなかったものの、本作『セブン』は興行的・批評的に成功をおさめ、その後の彼のキャリアの基盤となります。
雨が降り続く大都会で「7つの大罪」になぞらえた猟奇的殺人事件が発生。引退を目前にひかえた熟練の刑事サマセット(モーガン・フリーマン)は気乗りしないながらも、血気盛んな新任のミルズ(ブラッド・ピット)をサポートするため1週間の捜査にあたります。しかし、その後も同じ容疑者による犯行が続き…。
第68回米国アカデミー賞(1996年)で編集賞ノミネート作品。
映画『セブン』の考察
カトリックにおける禁忌「7つの大罪」になぞらえて猟奇的な殺人を犯すジョン・ドゥは、狂気に侵されているようでありながら、その計画性と慎重さからは彼の宿す知性の存在が感じられます。
ジョン・ドゥが蔑むのは、人間同士のつながりが希薄で、他者への配慮よりも己の欲望を優先する大都市の人々。
サマセットやミルズの妻らはこの都市生活に疲れ、諦めの表情を見せますが、ジョン・ドゥはそうではありません。
彼は神に成り代わってか、旧約聖書の「ソドムとゴモラ」さながら、個人主義・快楽主義的なこの時代の人々に裁こうとするのでした。
2.映画『ファイト・クラブ』(1999)
映画『ファイト・クラブ』の作品情報
【公開】
1999年(アメリカ映画)
【原題】
Fight Club
【キャスト】
ブラッド・ピット、エドワード・ノートン、ミート・ローフ、デビッド・アンドリュース、ジャレッド・レト、ヘレナ・ボナム・カーター、ザック・グルニエ
【作品概要】
フィンチャー監督第4作。第72回米国アカデミー賞(2000年)音響効果編集賞ノミネート。
仕事のため飛行機で全米を飛び回る主人公(エドワード・ノートン)。
ある日機内で出会ったのが、石鹸作りの男タイラー・ダーデン(ブラッド・ピット)。ひょんなことから、主人公はタイラーと共同生活を送ることになります。
消費社会を捨て、物質に支配されない生き方をしろと説くタイラーに感化された主人公。2人は連夜地下で殴り合う「ファイト・クラブ」を結成しますが、やがてその暴力の矛先は…。
映画『ファイト・クラブ』の考察
飢えの心配もなく、有限の生に切迫感を持たない現代の人間たち。
彼・彼女らが「何を購入するか?」を判断する基準は「何が本当に必要か?」ではありません。完成した商品や技術を見て初めて何が必要かが分かるのです。
欲望が物を生むのではなく、物が欲望を生む消費社会。『ファイトクラブ』公開後に登場した新技術、SNS・スマホ・タブレットもまた、「それが本当に必要か?」を問われる間も無く、いまや人々の生活の一部に組み込まれ、流れに乗れない人間は孤立します。
「需要は創出するもの」という発想のもと、新技術・新製品の広告が人々を欲望させるこの抗いがたい社会に対し、「ファイト・クラブ」は反乱を起こすのです。
3.映画『ソーシャル・ネットワーク』
映画『ソーシャル・ネットワーク』の作品情報
【日本公開】
2010年(アメリカ映画)
【原題】
The Social Network
【キャスト】
ジェシー・アイゼンバーグ、アンドリュー・ガーフィールド、ジャスティン・ティンバーレイク、ジョセフ・マッゼロ、ルーニー・マーラ、アーミー・ハマー、マックス・ミンゲラ
【作品概要】
ジェシー・アイゼンバーグとアンドリュー・ガーフィールド共演によるフィンチャー監督第8作。
名門ハーバード大学へ通うマーク・ザッカーバーグ(ジェシー・アイゼンバーグ)が些細なきっかけから立ち上げたFacebookが、彼の周囲の人間を巻き込み摩擦を起こしながら成長していきます。
彼の大学時代と、彼に対して起こされた訴訟が交錯するなかでマークの見たものは…。
本作は第83回米国アカデミー賞で作品賞を含む全8部門にノミネートされ、うち編集・作曲・脚色の3部門で受賞。
第68回ゴールデン・グローブ賞では最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀脚本賞・最優秀脚本賞の4部門を制覇。
映画『ソーシャル・ネットワーク』の考察
頻繁に「現在」と「過去」が切り替わる構成は、物語冒頭でガールフレンドと向かい合うマークの会話の進め方そのもの。彼は複数の話題を同時に進めながら頻繁に切り替えるため、聞き手の頭が追いつきまっせん。まるでPCでマルチタスクを行なっているかのよう。
マークは他者への興味を欠き、熱中するプログラミングにおいては高い能力を発揮します。その特質は彼の成功の理由でもあると同時に、他者とのあいだに不和を生ずる原因でもあります。他人の感情も、他人とのコミュニケーションも知ったことではありません。
この映画のタイトルは単にマークがFacebookというソーシャル・ネットワーク・サービスを創業したことを示すのみならず、マークが「社交的なつながり」(ソーシャル・ネットワーク)に反抗的であること示唆するものでもあるのです。
4.映画『ドラゴン・タトゥーの女』
映画『ドラゴン・タトゥーの女』の作品情報
【日本公開】
2012年(アメリカ、スウェーデン、イギリス、ドイツ合作映画)
【原題】
The Girl with the Dragon Tatoo
【キャスト】
ダニエル・クレイグ、ルーニー・マーラ、クリストファー・プラマー、スティーブン・バーコフ、ステラン・スカルスガルド、ヨリック・バン・バーヘニンゲン、ベント・カールソン、ロビン・ライト、ゴラン・ビシュニック、ジェラルディン・ジェームズ、ジョエリー・リチャードソン、インガ・ランドグレー、ペル・マイヤーバーグ、マッツ・アンデルソン、エバ・フリトヨフソン、ドナルド・サムター、エロディ・ユン、ジョセフィン・スプランド、エンベス・デイビッツ、ウルフ・フリバーグ
【作品概要】
本作のリスベット・サランデル役をルーニー・マーラは、フィンチャー監督の前作『ソーシャル・ネットワーク』のエリカ・オルブライト役に引き続き出演。
彼女はセントルイス映画批評家協会賞の主演女優賞受賞やサンタバーバラ国際映画祭のヴァーチュオソス賞受賞。
悪徳実業家を告発する記事を発表するも名誉毀損で有罪となった、経済記者のミカエル(ダニエル・クレイグ)。
失意の彼のもとに舞い込んだのは、経営者一族ヴァンゲル家から40年前に失踪した少女を捜索する仕事。社会に無能力者とみなされたドラゴン・タトゥーの女リスベット(ルーニー・マーラ)と共に、彼は捜査にあたりますが…。
第84回米国アカデミー賞5部門ノミネート、うち編集賞で受賞。
映画『ドラゴン・タトゥーの女』の考察
リスベットは他者への反感や興味の欠如を明確に態度に表す人間です。興味のない話題は無視し、自分が好きなことだけをする。タバコを吸いたければ周りの迷惑はおかまいなしに吸う。彼女もまた「ソーシャル・ネットワーク」に反抗する人間なのです。
リスベットは社会的には落ちこぼれかもしれません。しかし彼女こそが高い情報収集・ハッキング能力を発揮する、事件解決の主役です。同時に彼女は、社会的弱者を支配しようとする男性に、その才知を利用して制裁を加える人間でもあります。
彼女は、社会的に成功した一族でありながらも狂信的・排他的・猟奇的な人物を排出するヴァンゲル一族との対比を成しているようにも思えます。
5.映画『ゴーン・ガール』
映画『ゴーン・ガール』の作品情報
【公開】
2014年(アメリカ映画)
【原題】
Gone Girl
【キャスト】
ベン・アフレック、ロザムンド・パイク、ニール・パトリック・ハリス、タイラー・ペリー、キム・ディケンズ、パトリック・フュジット、キャリー・クーン、デビッド・クレノン、リサ・ベインズ、ミッシー・パイル、エミリー・ラタコウスキー、ケイシー・ウィルソン
【作品概要】
ニックの失踪する妻エイミー・エリオット・ダンを演じたロザムンド・パイクは、第87回米国アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされたほか、第68回英国アカデミー賞と第41回サターン賞では主演女優賞獲得しています。
ミズーリに住むニック・ダン。彼の結婚記念日に妻エイミーが何の前触れもなく失踪します。
かつて2人は共にNYのライターで、当初ニックはエイミーにとって魅力的な男性だった。しかし2人は失業、エイミーの両親の財産で生活を送る。ニックは浪費しゲーム三昧、妻に無断でミズーリへの引越しを決定。
さらにエイミーに暴力を振るい、新たに初めた大学教員の教え子とも浮気したうえ、エイミーにかけた生命保険を増額していた。ニックはエイミーが日中何をしていて、誰と付き合っているのかにも興味なし。
それどころか、ニックはエイミーの妊娠も知らなかったといいます。エイミーは護身用の銃を購入し、日記でニックが彼女を殺す可能性に言及。さらに家の床からは大量の血液が隠滅されていたことが判明。
マスコミもまたニックが妻を殺害した方向へと世論を誘導し、マスコミ報道は加熱していくのですが…。
映画『ゴーン・ガール』の考察
本作は印象操作によって人々を扇動し真実を歪めるマスメディアやSNSに対する反抗心を観客に抱かせる作品です。
ソシオパスあるいはサイコパス的な傾向を持つ切れ者のエイミーが起こすのが、努力もしないのに女性を支配しようとする怠惰な男への反抗。
ニックが抱く妻への不信感や猜疑心は、画面を通じて観客と共有されます。
エイミーは『ゴーン・ガール』を鑑賞した世の男たちに「自分の妻が、彼女が、自分に幻滅していないか」と自省を促し、鞭打つのです。
まとめ
デヴィッド・フィンチャー監督の作品には、小気味よさと後味の悪さが同居しています。
それはなぜなら「希薄な人間関係」「個人主義」「うわべだけの気遣い」「大量消費社会」「メディアが歪める真実」「男性優位」などの正しがたい世の不条理の中にあって反抗的な態度を取る人物が、アイデアの閃きを見せるからです。
日常生活の不条理に不満を感じながらも場の空気を読んでしまう人々は、普段は押し殺している反抗心を、フィンチャーが登場させる異端者たちに仮託・発散するのです。
それゆえ、後味の悪さを持ちながらも第一級の娯楽としてフィンチャー作品は支持を集めているのでしょう。
Netflixオリジナルドラマ『マインドハンター』にも期待がかかります。