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映画『脱走特急』ネタバレあらすじと感想。ロシアの実話として若き女性鉄道兵たちの戦争秘話を描く|未体験ゾーンの映画たち2020見破録42

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  • 20231113

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第42回

「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」の第42回で紹介するのは、第2次世界大戦の激戦地、レニングラードで活躍した、女性鉄道兵たちを描いた戦争映画『脱走特急』

1941年、ソビエトに攻め込んだナチス・ドイツ軍。その主要な目標の1つがレニングラードでした。長らくロシア帝国の首都であった、現在のサンクトペテルブルクです。

当時はロシア革命の父、レーニンの名を冠したソビエトの聖地であり、工業と物流の拠点となる、厖大な人口を抱えた港湾都市として、戦争の行方を左右する場所でした。ドイツ軍はこの都市を包囲しますが、ソビエト側も必死に抵抗しました。

そのレニングラードに物資を補給する役目を担ったのが、女性市民たちも動員した鉄道輸送隊でした。その物語が今、映画化されたのです。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020見破録』記事一覧はこちら

映画『脱走特急』の作品情報


© АНО “Творческая студия “СТЕЛЛА”

【日本公開】
2020年(ロシア映画)

【原題】
Коридор бессмертия / Convoy 48

【監督・脚本】
フェドール・ポポフ

【キャスト】
アルテム・アレクシフ、アナスタシア・ツィビゾワ、スヴェトラーナ・カツァガジヴェヴァ、スミルノヴァ・ イゴール・ヤスロビッチ、アルテム・ミリニチャク、アレクサンダー・ヤツェンコ

【作品概要】
包囲されたレニングラード市民を救うべく、戦火の中活躍した第48鉄道隊の人々を描いた大作戦争映画。ロシア映画界で長らく監督・製作を務めるフェドール・ポポフの手掛けた作品です。

「未体験ゾーンの映画たち 2014」で上映された『ホワイトタイガー ナチス極秘戦車・宿命の砲火』(2012)のアルテム・アレクシフや、ロシアのTVドラマなどで活躍するアナスタシア・ツィビゾワ、『ダイアモンド・アーム』(1969)など60年代から活躍するベテラン、イゴール・ヤスロビッチらが出演しています。

映画『脱走特急』のあらすじとネタバレ


© АНО “Творческая студия “СТЕЛЛА”

1943年1月18日。長らくドイツ軍の包囲下にあったレニングラード市内に、ソビエト軍がついに包囲網を破った、との放送が流れ市民たちは歓喜の声を上げます。

とはいえ実体はラドガ湖沿岸の、幅4~8㎞の回廊を切り開いたに過ぎず、レニングラードが解放された訳ではありません。多くの市民に必要な物資を運び込むには不十分なものでした。

列車1本は大型トラック100台分に勝る物資の輸送が可能で、泥炭湿地である回廊には、まともな道路もありません。レニングラードの最高指導者、軍事評議員のジダーノフ中将は、今もドイツ軍の攻撃に晒されるこの回廊に、鉄道を敷設することを決定します。

その頃レニングラード市内では、女学生のマーシャ(アナスタシア・ツィビゾワ)とソーニャ(スヴェトラーナ・カツァガジヴェヴァ)が徴用されていました。音楽を学ぶ2人は楽団に入ることを希望しますが、第48鉄道隊への配属を命じられました。

こうして彼女たちの鉄道隊での生活が始まります。しかしまず2人に与えられた仕事は、他の徴用された市民と共に、鉄道の建設に従事することでした。工事現場まで列車で運ばれ、貨車から降りるとドイツ軍の砲弾が降り注ぎ、逃げまどう市民たち。

それでもマーシャとソーニャは、市民たちと共に森に入ると木を切り倒し、野宿して作業を続け、鉄道のルートを切り開いてゆきます。

こうした市民の力に支えられ、鉄道隊はわずか17日で33㎞の線路を敷設し、レニングラードと外部を結ぶ鉄道の開通に成功しました。

しかし工事は簡単には進んだ訳ではありません。マーシャとソーニャの働く建設現場は、時に砲弾が落ち、ドイツ軍戦闘機が現れ機銃掃射を浴びせます。

ソビエト軍戦闘機が現れ、ドイツ軍機を撃ち落すと、皆が歓声を上げます。しかし脱出した操縦士を、一部の市民がシャベルを手に襲う姿を、黙って見つめるしかないマーシャたち。

人々の心が荒む中、マーシャは楽器のピッコロを取り出します。それを見た老人が、彼女に「スリコ」(ジョージア民謡で亡くなった恋人を偲ぶ歌。スターリン時代のソビエトで流行した曲)を
吹けるかと訊ねます。

マーシャが「スリコ」を演奏すると、皆が工事の手を止めて聴き入ります。演奏を終えたマーシャに老人は配給のパンを差し出します。断る彼女に、君は生きなさいと告げる老人。

決意を新たに作業に戻ろうとするマーシャとソーニャ。しかし建設現場にはまた、ドイツ軍の砲弾が落ちてきます。

北極圏に近い港湾都市、ムルマンスク。腕は良いが一癖ある機関士のフョードロフ(アルテム・アレクシフ)は、鉄道を運用する人員が不足している、レニングラードに行けと命じられます。

さもなければ囚人部隊行きだと告げられ、フョードロフは楽器のマンドリンを手に、同じように選ばれたソバーキンら仲間と共に、輸送機でレニングラードに向かいました。

鉄道の敷設工事が完了すると、マーシャとソーニャは老いた機関士である教官、ペドロヴィッチ(イゴール・ヤスロビッチ)から機関車の運転を学びます。素人であるマーシャたちの頼りない操作を、厳しく指導するペドロヴィッチ。

フョードロフたちが到着したレニングラードは、まだ時折ドイツ軍の砲弾が降ってくる状況です。彼は通りがかったをマーシャを、砲弾の爆発から身を挺してかばいました。

48鉄道隊本部に到着したフョードロフたちは、機関車を運行する鉄道隊の隊員たちが、経験の無い若者たちと知って驚きます。しかし火夫のバクダフスキー(アレクサンダー・ヤツェンコ)らと共に、任務を果たそうと決意します。

フョードロフの前に集まった、マーシャら女性を含む経験の浅い第48鉄道隊の隊員たち。指揮官はナチス・ドイツに勝利するため、そしてレニングラード市民のため列車走らせ物資を積み、必ず戻ってこいと激励しました。

彼らの列車は途中で蒸気機関用の水を補給し、ネヴァ河の鉄橋を渡ります。氷の上に敷かれた線路は冬の間しか使えません。氷がきしむ線路の上を、慎重に列車を走らせるフョードロフ。

森の中を進む列車に、ドイツ軍は砲撃を加えます。周囲に砲弾が落ちる中、列車は先を急ぎます。しかし保線要員から、前から下り坂を暴走する貨車が向かっていると警告を受けます。

フョードロフはスピードを落とし、慎重に機関車を操って、衝突した貨車との連結に成功します。バクダフスキーら火夫はボイラーの火を強め、マーシャとフョードロフは上り坂での車輪の空転を防ごうと、シャベルで線路上に土を撒きました。

彼らの努力で列車は前に進み始め、ドイツ軍の攻撃に晒される、危険なラドガ湖沿岸の”死の回廊”を通り抜けました。こうして列車は目的地のチャレポベツに到着します。

貨物を積む間、第48鉄道隊隊員たちは短い穏やかなを時間を過ごします。しかし物資を積んでレニングラードへ戻る復路は、厳しいものになることが確実でした。

そこで煙幕を発生させる発煙缶を集め、砲撃の着弾地点を観測する、ドイツ軍の目から列車を隠そうと決めたフョードロフ。

列車がレニングラードに向け”死の回廊”を通過する時、フョードロフは発煙缶を投げ列車を隠そうとします。しかし走りながら煙幕を張っても、先頭車両は敵の目に晒されます。

しかもドイツ軍は、並走して走る制圧下の鉄道に装甲列車を用意し、林の途切れた見晴らしの効く場所で、列車を直接狙い砲撃してきます。そこでフョードロフは機関車を貨車から切り離し、単独で運転して走らせながら、線路を煙幕で覆い隠そうと試みました。

フョードロフに砲弾の破片が当たり、彼は意識を失います。しかし列車を守ろうと行動し、誤って炭水車に落ちていたソーニャが、危険をかえりみず機関車に乗り込みます。

彼女はフョードロフを目覚めさせると、彼の指示で機関車を操作し停車させると、今度は逆走させます。機関車を操って、無事切り離した貨車との連結に成功したソーニャ。

今度はソビエト軍の砲撃が開始されました。列車は味方の砲撃に援護され、煙幕を張った線路を進みます。

こうしてまだ包囲下にあるレニングラードに、仲間と列車で到着したマーシャとソーニャ。鉄道輸送隊の活躍で物資が運び込まれた市内に、2月22日より配給のパンを増量するとの放送が流れます。それを聞いた2人は、市民と共に歓声を上げました。

ところが2人の訪れた病院は焼け落ちていました。そこに家族が入院していたソーニャは、思わず泣き崩れます。

そこに現れた看護婦が、ソーニャの家族は鉄道隊の活躍で、包囲を抜けレニングラードから移された、と教えてくれました。その知らせを聞いて安堵する2人。

今だにレニングラードはドイツ軍の包囲下にありましたが、明るい兆しが見えてきました。

以下、『脱走特急』のネタバレ・結末の記載がございます。『脱走特急』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


© АНО “Творческая студия “СТЕЛЛА”

鉄道輸送隊の集会で詩を朗読するマーシャ。そこでフョードロフは、新たに配属される若者カーシャ(アルテム・ミリニチャク)を紹介されます。

第48鉄道隊の面々は、共に食事をとり酒を酌み交わします。やがてフョードロフがマンドリンを演奏すると、マーシャもピッコロを吹いて加わり、一同は盛り上がりました。

列車での出来事があってから、ソーニャはフョードロフに恋心を抱いているようです。そんな友人を優しく見守るマーシャ。

“死の回廊”の鉄道開通以来、2ヶ月で50回列車を走行させ物資を運び込まれていました。しかし今回はフョードロフらに、特別な”荷物”を包囲下の街から安全な運び出すよう、国家保安部の幹部から命令が下されます。

第48鉄道隊が運行する列車には、レニングラードから疎開する子供たちが乗せられていました。フョードロフは最年長の少年、リョーカに子供たちの監督を任せました。

さらに列車には警備兵が乗り込み、厳重に守られた車両と、婦人部隊の兵士が操作する、重機関銃を乗せた貨車が連結されました。準備が整うと出発する列車。運んでいるのか何か知らされていない隊員たちは、その中身について噂します。

ところが”死の回廊”にさしかかると、保線要員が駆け寄り列車を止めます。この先の線路上に不発弾があると言うのです。

フョードロフは列車を降り、火夫のバクダフスキーらと共に、現場へ駆け付けます。確かに線路上の地面に、ドイツ軍の砲弾が突き刺さっていました。砲弾を慎重に掘り出し、線路の脇に運び出したフョードロフとバクダフスキー。

列車は運転を再開します。厳重に守られた車両には、ソビエトの核開発に関わる科学者たちが乗っていました。彼らも列車が動き出したことに安堵していました。

今回も見通しの良い開けた場所で、ドイツ軍の装甲列車が砲撃を開始します。フョードロフは煙幕を展開し、一気にこの場所を走り抜けようと試みます。

敵の砲撃に重要人物の科学者の護衛部隊の隊長は、いら立ってフョードロフを電話で怒鳴り、疎開する子供たちは客車で身を寄せ合いました。

無事危険な箇所を通り抜け、フョードロフは機関車の仲間と共に抱き合い喜びます。ところが列車が途中から切り離され、後方部分は坂道を下り、元の場所へと逆走していきます。最後尾の車両に乗ったマーシャとソーニャは焦ります。

逆走する貨車が開けた場所に現れると、装甲列車が狙って砲撃を加えてきます。命中弾はなく、車列が林の中に姿を隠すと、非常用ブレーキを操作し停車させるマーシャとソーニャ。

列車はドイツ軍の砲撃の影響で切り離されました。科学者たち貨車に積んだ貴重な荷物が、機関車側にあり損傷していないことに安堵します。しかし疎開する子供たちの客車は、マーシャがいる後方車両に連結していました。

ドイツ軍は林に隠れた列車に、間接射撃で砲撃を加えます。護衛部隊の隊長は特別な荷物と科学者を無事送り届けようと、列車を進ませることを望みますが、フョードロフは後方車両を救う手段を探します。

後方車両側ではマーシャは、線路に損傷が無いか確認しながら、先頭側に連絡しようと走りましたが、ドイツ軍の砲撃に彼女は倒れました。

バクダフスキーはカーシャらと共に、損傷した連結器の部品を得ようと、線路脇に放棄された損傷貨車の元に向かいます。使えそうな部品を回収し、応急修理を完了させるバクダフスキー。

上空に状況を確認し砲撃を誘導すべく、ドイツ軍の観測機が現れます。重機関銃の女隊長は対空射撃を命じますが当たらず、こちらの位置を知らせたと護衛の隊長は怒りました。

フョードロフは後方車両を救出しようと、車両を後進させますが林が切れた場所に出ると、ドイツ軍の砲撃が集中します。やむなく断念した彼を、護衛の隊長は銃を向けて逮捕し、科学者と荷物を送り届けるよう、後方の車両を捨て前に進めと命じます。

ソバーキンやバクダフスキーらは、フョードロフがいないと機関車は動かせないと偽り、そこに後方車両の子供たちは、今も無事だと報告が入ります。それを聞いたソーニャは、貴重な荷物を積んだ貨車に乗り込み、それを列車から切り離しました。

ソーニャを乗せた貨車は坂道を下り、後方へと走り出します。護衛の兵にも止める術はありません。その荷物無しで送り届けても、与えられた使命は果たせず、隊長は列車を先へと進めることを断念します。

第48鉄道隊の隊員たちと重機関銃を操作する婦人部隊は、子供たちがいる後方車両を救うことを望んでいました。彼らは木々の枝で、重機を積んだ貨車を偽装しました。

ソーニャは切り離した貨車を後方の車列に連結しました。その頃、線路沿いで血まみれになって、倒れている姿を発見されるマーシャ。

列車を林の端まで下がらせ、ドイツ軍装甲列車を重機関銃で攻撃します。反撃されると前に進み、林の中に車列を隠します。

今度は命がけで前もって線路上に煙幕を張り、その上で車両を後進させ、フョードロフが重機関銃を操作し攻撃します。ところが前進しようとすると列車は動きません。

確認すると機関車は、前進できないよう細工されていました。それに気付いた相手を刺殺するカーシャ。彼はドイツ側に加担して、破壊活動を行う工作員だったのです。

フョードロフは銃撃を続けますが、ドイツ軍装甲列車はびくともしません。カーシャは機関室に忍び込み、ようやく機関車を動かしたソバーキンを襲い、列車を止めました。

立ち上がったソバーキンは、観測機に信号弾を撃って、合図を送ろうとするカーシャに掴みかかり、機関車の高圧蒸気を浴びせて倒します。

その時ドイツ軍の装甲列車に、ソビエト軍の砲火が集中しました。敵の列車は破壊され、兵士たちは歓声を上げます。しかし重機関銃を操作していたフョードロフは、敵の攻撃に傷付いており、ソーニャの前で息を引き取ります。

列車は全ての車両を連結すると、無事目的地に到着しました。列車を降りた科学者は、運び出した荷物の無事を確認し、そして包囲下のレニングラードを逃れた子供たちに目をやります。子供たちの面倒は、年上のリョーカがしっかりと見ていました。

そして第48鉄道隊の面々は、運ばれてゆく仲間の遺体を見つめていました。科学者は自分たちを送り届けてくれた、彼らの姿にも目をやります。

ソーニャは亡き友人マーシャの形見となったピッコロを、リョーカに託して去りました。

この時にレニングラードを脱出した科学者と、持ち出したサイクロトンによってソビエトの核開発は進められ、1949年に最初のソビエト製原子爆弾の実験が行われたのです。

映画『脱走特急』の感想と評価

参考映像:『レニングラード 900日の大包囲戦』(2009)

第2次世界大戦で、最も凄惨な戦いと呼ばれる独ソ戦。しかし首都を巡るモスクワ攻防戦、戦争のターニングポイントとして、劇的な結果となったスターリングラード攻防戦に比べると、レニングラード攻防戦の日本での知名度は、やや劣っているかもしれません。

しかし900日近い長期に渡った、多くの住人を巻き込んだ壮絶な戦いは、今も世界の人々の記憶に残り、語り継がれています。

その全貌は旧ソビエトで、70㎜フィルムで撮影された大作戦争映画、『レニングラード攻防戦』(1974)と『レニングラード攻防戦Ⅱ 攻防900日』(1977)で、各前後編の計4部作というスケールで映画化されました。

今回の『脱走特急』は1943年1月以降の、回廊が切り開かれた後の物語。それ以前の包囲された初期の、飢餓状態に陥った都市を描いた映画には、ミラ・ソルヴィノとガブリエル・バーンが出演した『レニングラード 900日の大包囲戦』があります。

レニングラード戦の秘話を映画化


© АНО “Творческая студия “СТЕЛЛА”

簡単にこの戦いの流れを解説した上で、映画の背景を見ていきましょう。

1941年6月22日、ナチス・ドイツはソビエトに侵攻を開始します。その大きな目標の1つがレニングラードであり、ドイツ軍は9月8日にラドガ湖畔まで進出、都市を包囲します。

一方のソビエト側も体制を立て直します。革命の聖地でありロシア帝国時代の首都、そして市内の軍需産業は、今も稼働し戦線に多くの兵器を供給していました。この都市を守るべく、激しい抵抗を続けました。

余りにも厳重な防御態勢に、ドイツ側は市内に突入を断念、9月17日には戦車部隊をモスクワ攻略に参加すべく移動を命じます。ヒトラーはレニングラードの早期占領を諦め、包囲して兵糧攻めにすると決定します。

その結果レニングラード市内は食料不足に陥り、配給食糧は激減し飢餓状態が発生、死者があふれ人肉食まで発生する、あまりにも凄惨な状況が生まれました。

しかし冬が到来し、11月にラドガ湖やネヴァ河が凍ると状況が変わります。氷の上の”命の道” と呼ばれるルートを通り物資が運び込まれ、50万以上の市民や重要産業設備が脱出します。

1942年4月になるとこの道は途絶え、防衛や産業活動の維持に多数の市民が残るレニングラードは、引き続き厳しい食料事情が続きます。しかし再開されたドイツ軍の攻撃に耐えて、また冬が訪れるとソビエト軍は反撃に転じました。

1943年1月18日、ラドガ湖沿いに本土との回廊が切り開かれます。それ以降の物語を描いたのが『脱走特急』です。直後の2月2日にはスターリングラードで包囲されたドイツ軍が降伏、独ソ戦は大きな転換点を迎えます。

この切り開かれた、”死の回廊”で活躍したのが鉄道隊でした。映画はフィクションを交えて描いていますが、本作の脚本には両親はレニングラードの封鎖を生き延び、父親が第48鉄道隊の一員として列車を運行している、ディミトリー・カラリスが参加しています。

そして本作のアドバイザーとして、レニングラード戦に参加し、後に著名な作家・脚本家となったダニエル・グラニンが参加し、包囲下で暮らす人々のリアルな姿の再現に協力しています。

ロシア文芸戦争映画の伝統


© АНО “Творческая студия “СТЕЛЛА”

ロシア人でも知る人が少ない、歴史的秘話を描いた意義ある作品と評された本作。全体的に地味な印象は拭えませんが、戦争映画ファンのための見所を紹介しましょう。

冒頭でメッサーシュミットBf109戦闘機を撃ち落としたのは、ソビエトのラヴォーチキンLa-5戦闘機でしょうか。また偵察機としてフォッケウルフFw189が登場。絶望的な気分になるソビエトの戦争映画、『炎628』(1985)に登場した飛行機と言えば、お判りの方もいるでしょう。

なんといっても珍しいのがドイツ軍の装甲列車の登場。遠景での登場で細かいディテイールが判明しないのが残念ですが、『天空の城ラピュタ』(1986)に登場する装甲列車の、デザインの元ネタとも言われる車両も登場するので、目を皿にして注目して下さい。

ですが本作の戦闘シーンは基本的に地味。実質的にドイツ兵が姿を現さない、ドラマ重視の映画です。『この世界の片隅に』(2016)風に、小市民を描く視点が興味深いです。

しかしメロドラマに歌のシーン、群像劇というより、実質主人公が移っていくような展開は、ソビエトの『静かなるドン』(1958)『戦争と平和』(1967)といった作品の、文芸戦争映画的なゆったりとした展開を思わせます。

裏切り者がいるスパイ映画要素に、核開発秘話はどうも付け足しに思えて、本当に必要なの?という気がしますが、サービス要素なんでしょう。

装甲列車と対決する絶対不利なクライマックス、登場人物の位置関係がおかしいような気もしますが、世界で公開しているのは125分版、今回日本で公開されたのは140分版。まったりとした展開を含め、この違いに謎を解くカギがあるのでしょうか。

まとめ


© АНО “Творческая студия “СТЕЛЛА”

ソビエト=ロシアの文芸映画の香りがする、勝利しても物悲しいムード漂う『脱走特急』。独ソ戦に興味のある、戦争映画ファンには無論お薦めですが、もう1つの主役、機関車の描写が微に入り細に入ってます。鉄道映画ファンこそ、実に見逃せない作品です。

映画をツッコミつつ紹介しましたが、このレニングラード戦では、ソビエト側の公式発表でも60万以上とされる餓死者が発生、市民の総犠牲者数については70万から150万までの間の、様々な説が存在しています。

この状況は包囲下のレニングラードを生き、映画より早い1942年8月に脱出、1944年に亡くなった、ターニャ・サヴィチェワという少女が日記に残しています。これは「ターニャの日記」として日本でも出版されています。

『脱走特急』も充分重い映画ですが、それでも更に凄惨だった時期を乗り越えてからの、希望が見いだせ始めた頃の物語だと意識して見ると、印象も変わってくるでしょう。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…


(C)2018 YOUKU INFORMATION TECHNOLOGY (BEIJING) CO.,LTD AND LIAN RAY PICTURES

次回の第43回は突如太陽が消滅した世界を描くSFディザスター映画『ラスト・サンライズ』を紹介いたします。お楽しみに。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020見破録』記事一覧はこちら


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