連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第30回
「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」の第30回で紹介するのは、異色の設定で悪魔と対決するアクションホラー映画『サイバー・ゴースト・セキュリティー』。
古来より、あらゆる手段で人間を誘惑してきた…とされる存在の悪魔。彼らは文明の進歩と共に、あらゆる手段で人々を誘惑します。中にはヘビィ・メタルの音楽を利用した悪魔まで…あくまで映画の中のお話ですが。
そんな悪魔がネットで世界が結ばれ、誰もがスマホを持つ環境を利用しないはずは無い!それに合わせて、悪魔と闘うネクロマンサーも、時代と共に進化しない訳がない。そんな発想で描かれた、近未来型悪霊退散・バトルホラー映画の登場です。
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CONTENTS
映画『サイバー・ゴースト・セキュリティー』の作品情報
【日本公開】
2020年(オーストラリア映画)
【原題】
Nekrotronic
【監督・脚本】
キア・ローチ=ターナー
【キャスト】
ベン・オトゥール、デビッド・ウェンハム、モニカ・ベルッチ、キャロライン・フォード、テス・ハウブリック
【作品概要】
ネット空間を利用して人類を支配しようと企む悪魔。その企てにハイテク装備を駆使し、戦いを挑む人々を描いた、サイバーアクション・オカルトホラー。「未体験ゾーンの映画たち 2016」で上映された、「マッドマックス」的世界観にゾンビを加えたトンデモ痛快映画、『ゾンビマックス! 怒りのデス・ゾンビ』を生んだ、監督キア・ローチ=ターナー、製作トリスタン・ローチ=ターナーの、ターナー兄弟による作品です。
主演は『デトロイト』や『ホース・ソルジャー』など、ハリウッド映画でも活躍するベン・オトゥール。「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズでファラミア、「300」シリーズでディリオスを演じたデビッド・ウェンハム、デビュー以来現在まで、様々な映画で存在感を放つ大女優モニカ・ベルッチが共演。ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品。
映画『サイバー・ゴースト・セキュリティー』のあらすじとネタバレ
はるか昔、人類は誤って悪魔を呼び出します。悪魔は人間に憑依し魂を喰らい、人々を支配しようと暗躍します。しかし人類の中から、悪魔に戦いを挑む戦士が現れます。それがネクロマンサー(魔術師)と呼ばれる人々でした。
悪魔とネクロマンサーとの闘いは続き、人類の進歩と共に戦いの道具も、手段も変わってゆきます。そして現在、悪魔はネットという手段を使用して、人類を支配しようと試みていました…。
クリスマスというのに、耐えられないほど熱い地域のどこか。ハワード(ベン・オトゥール)は相棒のランギと共に、バキュームカーで下水処理の作業をしていました。
スマホに夢中のランギのミスで、ハワードは汚水を全身に浴びます。その上仕事を仕切る義理の兄からアホ呼ばわりされ、おまけに残業まで命じられて、もう怒り心頭のハワード。
不機嫌な顔で車に乗り込んだハワードですが、ランギにハッパをすすめられ機嫌を直します。仕事にも家族にもウンザリしていましたが、相棒のハワードとは楽しく過ごしていました。
ランギのスマホに、新しいARゲームアプリが表示されます。深く考えもせずタップして、ダウンロードするランギ。
ゲームはネットを通じ、とある場所につながっていました。その怪しげな場所では、床に描かれた魔法陣の中央に、拘束された男が座らされていました。
そこに現れた謎の女、フィネガン(モニカ・ベルッチ)。彼女が手際よく生贄の羊を捧げると、ケーブルを通じ何かが男の体に入り、苦悶した彼は悪魔のような形相に変貌します。
スマホを持ち車から身を乗り出すランギ。ゲームは街に現れるポケモンならぬ、幽霊を捕まえようというARアプリでした。すっかりゲームに夢中の相棒に呆れかえるハワード。
スマホを通じて幽霊を発見し、車を止めさせたランギは、画面をタップし幽霊をゲットします。しかしその瞬間、ハワードはなぜか衝撃と痛みを覚えます。
ハワードは以前からこの症状に苦しめられていました。痛みを止める薬を飲むハワード。ふと気づくと近くには、ネクロポッドと呼ばれるトランスミッターが設置されていました。どうやらゲームアプリと関係ある物のようです。
ランギのスマホに新たな幽霊が表示されます。ハワードは何やら不安を覚えていました。
その頃巨大IT企業、デーモコン社はテレビ会議を開いていました。テレビ越しに語るフィネガンは、顔をそろえた幹部たちに、クリスマスらしくサンタの帽子を被れと命じます。
ネクロポットの設置状況と、例のゲームのユーザー数増加の報告を受けたフィネガンですが、生贄が用意されると席を外し、その魂を吸収します。
何事も無かったように会議に戻ったフィネガンは、失態があれば幹部は皆殺しだと告げます。幹部たちはその言葉を、たちの悪い冗談と受け取ろうと努力します。
同じ頃ネクロマンサーのルーサー(デビッド・ウェンハム)、その娘のモリー(キャロライン・フォード)とトルクェル(テス・ハウブリック)は、悪魔化した人間と闘っていました。
親娘はネクロマンサーとして、人知れず悪魔と闘っていました。しかし今回、悪魔がネクロマンサーたちに総攻撃をかけた模様で、仲間たちは次々倒され連絡がとれなくなっていました。襲撃の背後にはフィネガンがいると悟ったルーサーたち。
そんな事など知らず、街を車で走るハワードとランギ。スマホゲームの幽霊を見つけて、仕事そっちのけで遊びたがるランギですが、スマホを通してハワードの顔を見て驚きます。
ゲームアプリを起動したスマホ画面では、ハワードの顔は輝いて見えました。幽霊相手と同様にランギがゲーム画面をタップすると、ハワードは苦しみ出し吹き飛ばされます。
そのハワードの反応をフィネガン、そしてネクロマンサーたちはモニターで感知します。ショックから立ち直ったハワードは、なぜか肉眼で幽霊の姿が見えるようになっていました。
ハワードの存在を知ったフィネガンは、悪魔化した人間の魂をネットを通じ送り込みます。それはハワードの傍で、スマホをかざしていた男に憑りつき、彼を悪魔化させます。
悪魔化した男に襲われるハワード。巻き添えで死人が出る中、ランギも必死に抵抗します。彼を助けに駆け付けたネクロマンサー・モリーの前で、何かの力に目覚めて発動させると、その男の顔を電話機に押し付けたハワード。
悪魔の魂は男から抜け出し、ネット回線を通じ元の場所へと逆流します。フィネガンとモリーは共に、ハワードの持つ力を知りました。そしてハワードは気を失います。
意識の無いハワードの首から、埋め込まれた装置を取り出すルーサー。このスクランブル化装置よって、今まで彼の存在はフィネガンの監視の目から逃れていました。
トルクェルが電撃ショックを与え、無理やり目覚めさせられたハワードは、事態を全く呑み込めていません。そんな彼にルーサー親娘は、自分たちはネクロマンサーだと明かします。そしてハワードに対し、君も悪魔を狩る戦士、ネクロマンサーだと告げるルーサー。
ルーサーは彼に、君は最強のネクロマンサーの血統だと伝え、両親の名を訊ねます。しかしハワードは実の両親を知りません。彼は親に捨てられ、養子として育てられていました。
彼に1枚の写真を見せるルーサー。そこには幼い子供と共に男女が写っていました。私は君の両親を知っている、ヘンリーとフィネガン。2人は最強のネクロマンサーだとルーサーは教えます。
フィネガンは、素手で悪魔を倒せる程の力を持っていました。しかしある時、ネットの世界に逃れた悪魔を追って、フィネガンはサイバー空間に意識を送りますが、逆に彼女の魂は悪魔に憑りつかれます。そして仲間のネクロマンサーを殺し、その魂を吸収し強大な力を手に入れます。
ヘンリーは幼い息子を、悪魔と化した母から逃がすため自ら手放しました。その時に装置をハワードに埋め込んで、ネクロマンサーを滅ぼそうとするフィネガンに、居場所を悟られぬよう図ったのです。そのヘンリーも死んだと告げるルーサー。
真剣な話に退屈したのか、空気を読まずスマホをいじり出すランギ。トルクェルが怒って止めさせますが、それで居場所を悟られたのか、彼らは悪魔化した人間の襲撃を受けます。
ルーサー親娘は銃で抵抗しますが、ランギは射殺されました。彼の亡骸を抱え、嘆き叫ぶハワードから何かの力が発動します。
悪魔に対抗する切り札となったハワードと、2人の娘を逃がすルーサー。彼の前にフィネガンが現れます。圧倒的な力に押さえつけられ、ルーサーは殺されます。
父の死を悟ったモリーとトルクェルは、ハワードと共に逃げようとしますが、恐怖に駆られた彼は1人走り出します。道路に飛び出し、駆け付けたパトカーにはねられるハワード。
彼が病院で目を覚ますと、そこにランギの幽霊が現れます。どうやらハワードの能力の影響で、死後彼は幽霊と化したようでした。ランギの姿は他の者には見えません。
身に付けた様々な能力を見せるランギの幽霊と、それを認めたくないハワードは言い争いますが、何者かの気配にランギは姿を消します。すると病室にフィネガンが現れます。
フィネガンはお前の母である自分は、父のヘンリーと違ってお前を捨てはしないと告げます。彼女のやり口を知ったハワードは拒絶すると、悪魔の持つ強大な力を息子に味あわせ、仲間に引き入れようとするフィネガン。
ケーブルが突き出た怪しげなボックスを取り出し、フィネガンは頭に接続しろとハワードに迫ります。拒否すると本性を現すフィネガンに、駆け付けたモリー・トルクェル姉妹が発砲し、病室から追い落します。ハワードは姉妹と共に病院から脱出しました。
3人の乗せた車は夜の街を走り抜けます。ハワードの目には無数の幽霊と、スマホに夢中になってる人々の姿が映ります。彼は姉妹によって隠れ家に案内されます。
そこに現れたランギの幽霊を、姉妹は始末しようとしますが、慌ててハワードが止めさせます。彼が改めて街に目をやると、そこに幾つか無数の幽霊が引き寄せられる場所がありました。
それはネクロポットの設置された場所で、都市に魔法陣を描くように設置されています。しかもネクロポットには悪霊が巣食っていました。ネクロポットを設置したのはデーモコン社を支配する、フィネガンだと告げるモリー。
いきなり巻き込まれた状況と、知りもしなかった世界に混乱したハワードは怒り出します。しかし姉妹の説得で運命を受け入れ、彼はネクロマンサーになると決意します。
姉妹に秘密基地へと案内されるハワード。しっかりランギの幽霊も付いてきます。そこでモリーの導きで彼が能力を解放させるてみると、想像を越える力が発揮されました。
床に描かれた魔法陣の中央に置かれた装置、ネクロポータルの説明を受けるハワード。悪魔の魂を実態かさせる液体の詰まった装置で、彼はその機能を3Dプリンターに例えて理解します。
悪魔の憑依を防ぐ特殊なボディスーツを見て、ヒーローのスーツだと騒ぐランギ。それをハワードとモリーが身に付けます。試しにトラップボックスに封印した、悪魔の魂をネクロポータルに送り、実体化させて巨大なレーザー砲、“オールド・ベッツィ”で処分してみせるトルクェル。
姉妹はハイテク装備を駆使したこの手順で、サイバー空間に潜む悪魔を退治していました。手下の悪魔が消滅させらたと知ったフィネガン。彼女はネクロマンサーとして覚醒した息子、ハワードとの対決を予感し、不敵に笑います。
映画『サイバー・ゴースト・セキュリティー』の感想と評価
参考映像:『ゾンビマックス! 怒りのデス・ゾンビ』(2016)
デビュー長編SFホラー映画『ゾンビマックス! 怒りのデス・ゾンビ』で、世界のB級ホラー映画ファンから熱い支持を集めたターナー兄弟。終末世界で車の燃料にはゾンビを使用、という冗談みたいな設定が、シャレの判る人々に大ウケでした。
今回の『サイバー・ゴースト・セキュリティー』も、人の魂を悪魔がネット空間のエネルギーに利用する、発想した者勝ちの設定が企画の出発点となりました。
オタク男子の夢を詰め込んだサイバー・パンクホラー
SFを愛する兄弟は、SF作家ウィリアム・ギブスンの小説、サイバースペースの概念を生んだ作品『ニューロマンサー(Neuromancer)』のファンでした。兄弟が本映画に最初に付けた仮題は「Nekromancer」で、この小説の影響を受けたと告白しています。
兄弟は子供の頃に見た『エクソシスト』や『ゴーストバスターズ』、ギブスンの描いた世界を発展させた映画、『マトリックス』の要素を本作に詰め込んだと語っています。
特に『マトリックス』は何度も繰り返し見て、自分たちはあの映画の何が好きなのかを語り合い、本作のキャラクターとストーリー構成に取り込みました。
更に2人で見た『エイリアン』『ゴーストハンターズ』『死霊のはらわた2』、そして同じオーストラリアのピーター・ジャクソン監督の、初期ホラーコメディ映画の要素を混ぜ合わせ、思いつく限りのクールな要素を詰め込んだのが、本作であると紹介しています。
この製作に至る楽しい作業こそ、クレイジーな映画を作り続けている理由だと話すターナー兄弟。ちなみに脚本を書き直している最中に、スマホゲーム「Pokémon GO」が流行りだし、さっそく映画に盛り込みました。
オタク兄弟製作チームもスターとの仕事に大緊張
前作に比べると、予算も規模もスケールアップした本作。兄弟のとって大スターとの仕事は興奮と緊張をもたらすものでした。デビッド・ウェンハムの出演は、オーストラリア人の監督にとって、ロバート・デ・ニーロと仕事をするようなものだ、と話しています。
そして兄弟は本作の共同プロデューサーが、モニカ・ベルッチと知り合いと聞くや、断わられるのを覚悟の上で、手紙を書き脚本を送りました。すると出演するとの返事をもらい、彼女が自分たちの映画で人の首をすっ飛ばしてくれる!、と大興奮を覚えたそうです。
彼女が演じるフィネガンの役柄は、モニカ・ベルッチの出演決定後、彼女がより魅力的に映るよう書き直されました。そして悪女を演じることが大好きな彼女も、この役を実に協力的に演じてくれたそうです。
ちなみにモニカ・ベルッチが、本作に出演を決めた理由の1つが「スマホ依存な私の娘を、電話から引き離してくれる内容の映画なら、どんなものでも歓迎です」との事。納得です。
まとめ
SF・ホラーオタクである、キア&トリスタン・ローチ=ターナー兄弟が、自分たちの大好きなものを詰め込み、崇拝する俳優を起用して完成させた映画が、『サイバー・ゴースト・セキュリティー』です。
作り手がハイになっているのが伝わってくるような、実にノリノリの映画。しかし詰め込み過ぎで、情報量過多になった感があります。映画の設定は一気に語り、次から次へと登場するSFアイテム。気を抜くと何が何だか判らなくなる恐れもあります。
それでも何やらカッコいい武器が登場し、見るからに邪悪な化け物と、多量の血しぶきを飛ばしながらテンポよくバトルが展開。ボンクラ主人公が血筋のおかげで覚醒すれば、厳しい特訓抜きで世界を救う中2病的展開。ギャグ要素もある、好きな方にはたまらない映画です。
そして本作一番の魅力は、『S.W.A.T.vsデビル』のキャロライン・フォード、『エイリアン コヴェナント』『ポリス・ストーリー REBORN』のテス・ハウブリック演じる、強くてカッコいい美人ネクロマンサー姉妹の雄姿です。
オタク男子心を刺激するコスチュームで、派手に戦う姿が実にたまりません。しかも彼女たち、エロではなくスプラッター映画方面で露出過多。モニカ・ベルッチの姿といい、ターナー兄弟には何やら、童貞男子の妄想的趣味を感じます。これ、ホメ言葉です。
ともかく、闘うお姉さんの姿が見たい方なら、SF的設定がこれっぽっちも理解できなくても、大いに楽しめますよ、この映画!
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…
次回の第31回は腕力だけがとりえのスパイと、9歳天才少女がタッグを組む異色のバディ・ムービー『マイ・スパイ』を紹介いたします。お楽しみに。