『ワンダーウォール 劇場版』は、2020年4月10日(金)より、全国順次公開
京都の片隅に存在する学生寮を舞台に、学生寮の存続を巡り、大学側と対立する学生達の心情を描いた群像劇『ワンダーウォール 劇場版』。
2018年7月に、NHK BSプレミアムで単発放送されて以降、公式写真集も刊行される程、単発ドラマとしては異例となる盛り上がりを見せた本作が、ドラマ版に未公開カットを加えた「劇場版」として公開されます。
純粋な若者たちの想いを隔てる、社会に作られた「壁」の存在をテーマにした、本作をご紹介します。
映画『ワンダーウォール 劇場版』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【監督】
前田悠希
【脚本】
渡辺あや
【音楽】
岩崎太整
【キャスト】
須藤蓮、岡山天音、三村和敬、中崎敏、若葉竜也、山村紅葉、二口大学、成海璃子
【作品概要】
2018年に単発ドラマとして放送されて以降、SNSなどで反響を呼び、公式写真集の出版や、トークショーが開催される程の人気となった『ワンダーウォール』に、未公開カットを加えた「劇場版」。
映画『ジョゼと虎と魚たち』や、連続テレビ小説『カーネーション』の渡辺あやが脚本を担当。
本作で主人公を演じる、須藤蓮は、約1500人のオーディションから選ばれ、『ワンダーウォール』出演以降、連続テレビ小説『なつぞら』や、大河ドラマ『いだてん』などの他、2019年の映画『いのちスケッチ』など、ドラマや映画など、多数の映像作品に出演しています。
他のメインとなる学生を、映画『新聞記者』などに出演している岡山天音、「ちはやふる」シリーズの三村和敬、映画『デメキン』などの中崎敏が演じています。
監督は、『ワンダーウォール』が、ドラマ初演出作となった前田悠希。
映画『ワンダーウォール 劇場版』あらすじ
京都の片隅に存在する、京宮大学の学生寮「近衛寮」。
大学生のキューピーは「近衛寮」に魅了され、京宮大学に進学しました。
「変人の巣窟」と呼ばれる「近衛寮」は、辺り一面に物が散らかった光景から、一見無秩序な印象を受けますが、「先輩への敬語禁止」「議論は全会一致に至るまで話し合う」など、独自のルールが根付いています。
「近衛寮」の持つ独特の雰囲気が、キューピーにとって居心地の良い場所でした。
ですが、築100年以上が経過し、木造の住居である「近衛寮」は、建物の老朽化が問題視され、京宮大学は取り壊しを計画します。
その為、取り壊しに反発する「近衛寮」の寮生と、大学側は対立するようになります。
寮生達は、大学側の担当者と話し合おうと、何度も事務室に押しかけますが、話は平行線を辿る一方です。
そんな中、事務室に職員と寮生を隔てる壁が出現します。
壁には、大学の事務員である寺戸が立ちはだかり、職員と学生を繋げようとしません。
それでも「近衛寮」を守りたいキューピーは、友人のマサラや、先輩の志村、そして寮生達のリーダー的な立場で、理論的な思考の持ち主である、三船と共に、大学側と戦い続けていました。
ある時、話し合いを求めて事務室に向かったキューピー達の前に、寺戸とは違う、1人の若い女性が現れます。
その女性を見た瞬間、三船は、戦意を喪失したように事務所を立ち去ります。
この時から、一枚岩だったはずの寮生達の間に、不穏な空気が流れるようになり、マサラは三船たちに反抗的な態度を見せるようになり、寮生たちの中にも、諦めムードが漂うになります。
さらに、京宮大学は「近衛寮」の新たな入居者を募集しない意向を発表し、取り壊しに向かい、話が進んでいく危機的な状況を迎えます。
そんな中、キューピーは志村と話をする中で、衝撃的な事実を突き付けられます。
映画『ワンダーウォール 劇場版』感想と評価
京宮大学の学生寮「近衛寮」の存続をかけて、さまざまな学生たちのドラマを描いた映画『ワンダーウォール 劇場版』。
京宮大学は架空の大学ではあるものの、「学生寮の廃寮」という本作で語られている出来事自体は、学生寮を運営する全国各地の大学が抱えている課題でもあります。
本作の物語は現在進行中の物語であり、その事を強調するように、作中の映像は、1人の学生に密着したようなカメラワークになっています。
「近衛寮」のセットの作り込みの凄さと相まって、まるでドキュメンタリー映画を観ているような臨場感があります。
実際の出来事をモデルにしていますが、社会的なメッセージが強い内容ではなく、強調されているのは「近衛寮存続の危機」に直面した、学生達の内面です。
本作のメインとなる登場人物は、キューピー、マサラ、志村、三船の4人で、4人共「近衛寮を守りたい」という気持ちは一緒ですが、僅かな考え方の違いや、心境の変化により、気持ちが1つになりません。
近衛寮への想いは人一倍強いですが、自身の無力さに葛藤しているマサラが、前面に立って大学側と戦ってきた志村と三船の不甲斐なさに怒りを覚え対立し、その間に挟まれているキューピーという構図が描かれており、この4人の議論が、物語の核心部分となります。
脚本の渡辺あやは「いろいろな事を考えている若者が、誰かと共有したり、1つの力にまとまったりする事が、しにくくなっている」と語っており、「それは何故か?」という問いに対しての、1つの答えを作中に込めています。
議論を重ねる学生たちのエピソードと、新たに大学側の窓口になった女性のエピソードが加わる事で、物語に大きな捻りが加えられます。
「それでも、これはラブストーリーだ」という台詞で始まる今作は、一風変わった恋の物語でもあるのです。
まとめ
さまざまな学生たちの、ドラマを描いた群像劇である本作のテーマは、タイトルにもなっている「壁」です。
「近衛寮」を巡る、寮生たちと大学側の壁、事務室に突然作られた、学生と職員を隔てる為の壁、そして「近衛寮」存続の想いは同じですが、微妙に交わらない、キューピー、マサラ、志村、三船たちの考え方の壁。
作中には、さまざまな壁が存在しますが、どれも特別な事ではなく、日常生活で誰もが遭遇する、または遭遇した経験のある壁でしょう。
これらの壁を前にした時、ぶつかっていくのか?避けるのか?受け流すのか?、人によってさまざまな対応がありますが、まだ、その辺りが経験不足である学生たちの戸惑いが、前述したようなドキュメンタリーのような映像を通して伝わってきます。
社会との壁に衝突し、戸惑いながらも戦おうとする学生たちの姿は、誰もが心当たりがあるのではないでしょうか?
また、学生たちの姿を通して感じるのは、怒りや悲しみ、不満を抑え込もうとする、社会の仕組みの問題です。
寮生達が存続を望みながらも、何故、大学側が「近衛寮」の排除を望むのかは後半で明かされますが、100年以上の歴史を持つ建物に対する尊敬の無さと、寮生達への不誠実な対応など、京宮大学側の問題が、次々と明らかになっていきます。
そして、現在進行形の物語をモデルにしているからこそのラストシーンを通じて、作品に込められたメッセージを、是非受け止めて下さい。