直木賞作家・角田光代の小説『月と雷』が映画化され、監督を『海を感じる時』の安藤尋監督が務めたヒューマンドラマとして公開されました。
主演には初音映莉子、高良健吾を向かえ、田舎町で起こる「普通ではない」生き方をする人たちの出来事を優しく撮ったストーリーが特徴的です。
1.映画『月と雷』の作品情報
(C)2012 角田光代/中央公論新社 (C)2017「月と雷」製作委員会
【公開】
2017年
【監督】
安藤尋
【キャスト】
初音映莉子、高良健吾、藤井武美、黒田大輔、市川由衣、村上淳、木場勝己、草刈民代
【作品概要】
子どもの頃に父が愛人を連れてきたことで、普通の家庭を知らぬまま大人になった泰子は、スーパーのレジ打ちの仕事をしながらも、婚約者もでき、亡くなった父が残してくれた持ち家で暮らす日々を穏やかに過ごしていました。
しかし、突如現れた愛人の息子・智が現れたことで、泰子は自分の知らない人々や、普通の生き方とは何なのか向き合っていくとこになります。
2.映画『月と雷』のあらすじとネタバレ
(C)2012 角田光代/中央公論新社 (C)2017「月と雷」製作委員会
幼い頃、短い間でしたが泰子は父が連れてきた愛人・東原直子とその息子・智と過ごしている時期がありました。
自由気ままに生きている直子に、泰子もなついていましたが、突如直子は智を連れて家を去っていきます。
大人になった泰子は、父も他界しており、スーパーのバイトをしながらも、残された持ち家で静かに過ごす毎日でした。
同じ職場の山信太郎とは婚約しており、このまま何事も無く普通の生活が送れるのではないかと思っていると、そこへ突如智が泰子の前に現れます。
彼は泊まる所もないので、一晩泊めて欲しいと懇願し、しぶしぶ泰子も家に上げます。
智は幼いころ過ごした泰子の家で何も変わっていないことに感激します。
寝室は別にしていましたが、泰子のほうから智の布団にもぐりこみ、2人が幼い頃していた『遊び』をし、そのまま体を重ねます。
泰子がなぜ自分に会いに来たのか、智に尋ねても彼は「泰子やこの家に会いたくなったから」と答えるだけでした。
翌日、婚約者がいるのに関係を持ったことを詫びるつもりか、智は泰子の実の母親を探す協力をすることになります。
以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『月と雷』ネタバレ・結末の記載がございます。『月と雷』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
2人は地方のテレビ局へ行き、再開番組で呼びかけることになりました。
すると母親は無事見つかり、番組では感動の再開を収録します。
泰子の実母は現在再婚し、フードコーディネーターとしてかなり有名な人物となっていました。
しかし母親と再会しても、さほど感情を表に出すことの無い泰子でした。
それ以上に、どうして自分を放っておいて、そんな生活が出来るのかという疑問すら出てくるほどでした。
結局その日も、泰子と智は夜を共にします。
玄関のチャイムで目を覚ました智が出ると、そこには泰子の婚約者・山信太郎が立っていました。
一瞬怪訝な表情をする太郎ですが、泰子が元愛人の息子だと説明すると、とりあえず納得します。
気まずい空気の中、智の携帯に電話があり、彼は自分の母・直子が今世話になっている男の家を勝手に出て行ったとのことでした。
智が直子を探すと、彼女はまた別の60過ぎの男の家に転がり込んでいました。
一方泰子は、実母の現在の住まいを一人でこっそり訪れます。
するとそこから一人の若い女性が出てきて、泰子は後を追います。
何とか追いつくと、その女性・亜里砂は実母の再婚相手の娘で、妹にあたる存在でした。
亜里砂を追いかけた理由を「ここで逃したら、もう会えないと思ったから」という泰子に対して、亜里砂は留学に行くのであながち間違ってないといい、泰子に連絡先を渡して去っていきます。
直子の居場所を突き止めた智と一緒に、直子に会いに行く泰子。直子は泰子のことを覚えていました。
ひとまず、直子に前いた男に一筆残すよう言う智ですが、今の男は「この女性はひとつのところに長くいれない性格だ」と落ち着いていました。
そんな話を聞いていると、泰子は突如吐き気を覚え、トイレに駆け込みます。
出てきた泰子に、直子はポツリと「妊娠したんじゃない?」といい、泰子は急いで帰宅します。
するとそこには亜里砂が待っており、彼女は始めて会ったときの態度を詫びにきたといいます。
しかし田舎町ゆえ、バスで来た亜里砂は帰りのバスがもう残っていませんでした。
2人は一緒に妊娠検査薬の結果を見ると、陽性になっていました。
日は変わり、職場から帰宅すると、カレーの匂いが漂ってきて、ツワリの泰子はうんざりしますが、作っていたのは亜里砂ではなく、直子でした。
驚く泰子に反して飄々としている直子。智から電話が来て、内容は「また直子がいなくなった」でした。
再び泰子の家にやってきた智に、妊娠のことを打ち明けると、彼は以外にもそのことをすんなり受け入れてくれました。
しかし肝心の婚約者には智の子を妊娠したことを告げずにいた泰子は、太郎と2人になったときに、早く席を入れようと急き立てられます。
うすうす自分の子を妊娠していないと思っていた太郎は、突然泰子に襲い掛かり、今からすれば自分の子になるかもしれないと言い出し、泰子は必死で逃げ切ります。
しかし家に帰ると、もともと静かに暮らしていたはずの場所に3人もの同居人。
自分の人生を大きく変えられたことに、泰子は誰構わず当り散らし、智たちは家を追い出されてしまいます。
自室に引きこもっている泰子に、智がベランダの窓越しから泰子に語りかけます。
智自身も、母同様に女が切れることのない日々を送っていました。
依然付き合っていた彼女にどうして自分と付き合うのかと聞いたら「あなたは“生活”を知らない」と言われてしまいます。
智は泰子となら一緒に生活が出来ると優しく伝えます。
翌日、雨戸から入れた智は居間で寝ていて、直子は妊娠している泰子に塩おにぎりを作っていました。
泰子は直子が愛人として家に来たことを思い出し、同時に直子が去った後、ゆっくりと酒に溺れていった父を思い出します。
数日後、直子は誰にも告げず、泰子の家を去っていきました。
後を追う泰子に、どうしてそうフラフラと去って行くのかと聞くと、ひとつのところに居座ると、いつもまずいことが起きると予感がすると答え、そんな自分を「月と雷」みたいなものだといいます。
そしてどうして幼い頃、自分も連れて行ってくれなかったのか聞くと、一緒に連れて行けばよかったと、遠い目で言い、そのまま泰子の元を去っていきました。
季節は変わり、泰子のおなかも大きくなっていました。
そこへ智の携帯に、直子が亡くなったと連絡が入ります。
2人は幼い頃一緒に隠れた箪笥を庭で燃やし、そこへ直子の遺品も捨てていきます。
しかし、直子が今まで渡り歩いてきた男の住所が記載された手帳だけは、泰子は捨てようとしませんでした。
父の遺品も燃やそうと、部屋に戻る泰子ですが、その間に智はその手帳を火の中に投げ込んでしまいます。
数日後、泰子が家に戻ると、智の姿がどこにもありません。
しかし彼女は慌てることも無く、少し笑って雨戸を開けたまま部屋に戻っていきました。
3.映画『月と雷』の感想と評価
(C)2012 角田光代/中央公論新社 (C)2017「月と雷」製作委員会
今作を見終わった時、じわじわと感じてきたのは「普通でない生き方」を優しく肯定するストーリーの良さでした。
決してドラマチックな展開があるわけではないのですが、主人公が少しずつ、目を背けてきた自分の人間関係と向き合い、受け入れていく姿勢が凄く穏やかで、一人ひとり、その人に合った生き方があるということを、改めて教えてくれるような作品です。
それゆえに、泰子は最後で智が、直子のように家を突然去っても、穏やかなままいられたのかもしれません。
泰子が当り散らした後、仲直りしてみんなで浜辺にいるシーンがあるのですが、これもひとつの家族の姿ともいえる印象的なシーンでした。
それにしても山信太郎の普通そうに見えて突然狂気を見せるシーンは恐ろしかったです。
「今すれば僕の子になるかもしれない」なんて思春期の高校生でも無理だと分かることを言うとは、並大抵の神経ではないです。迫真の演技に脱帽です。
まとめ
(C)2012 角田光代/中央公論新社 (C)2017「月と雷」製作委員会
地味な作品に思われがちですが、主演の初音映莉子はまるでシャルロット・ゲンズブールに似た顔立ちや雰囲気を出していて、見ていればいるほど綺麗な人だなあと感心してしまうほどです。
高良健吾も、見た目は全く違えど、演じる雰囲気はあの『蛇にピアス』にも近いことから、安心して見れるところも非常に魅力的な作品だと感じました。
主演の2人のファンという理由だけでも、充分見る価値のある作品だと思います。