連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile093
一定の時間のループを描いた、いわゆる「タイムリープ」系の映画は主人公がさまざまな行動を取ることで起きる変化を楽しめるエンターテイメント性の高い作品が多いといえます。
今回はそんな「タイムリープ」系の映画の中でも、独自の視点から「次にどうなるのか」に興味を持たせることに成功した意欲作『ARQ 時の牢獄』(2016)をネタバレあらすじを交えご紹介させていただきます。
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映画『ARQ 時の牢獄』の作品情報
【日本公開】
2016年(NETFLIX独占配信映画)
【原題】
ARQ
【監督】
トニー・エリオット
【キャスト】
ロビー・アメル、レイチェル・テイラー、ショーン・ベンソン、グレイ・パウエル、ジェイコブ・ニーエム、アダム・ブッチャー
【作品概要】
NETFLIXの主導で製作されたトニー・エリオット監督によるSF映画。
本作のヒロインであるハンナを演じたのは映画『トランスフォーマー』(2007)に出演し、NETFLIXのオリジナルドラマシリーズ「ジェシカ・ジョーンズ」でメインキャストを務めたレイチェル・テイラー。
映画『ARQ 時の牢獄』のあらすじとネタバレ
朝6時16分、一緒に寝ていたハンナの横で何かにうなされ飛び起きたレントンは、突然部屋に侵入してきたガスマスクの男たちに殴られます。
決死の思いで逃走したレントンでしたが、階段から転げ落ちたことで頭を打ち死亡します。
朝6時16分、飛び起きたレントンは再び押し入ってきたガスマスクの男たちに殴られハンナと共に監禁されてしまいます。
男たちのリーダーは自身のことをファーザーと名乗り、ソニーとブラザーと言う2人の男と共にレントンに仮株券を渡すように求め、部屋を出ていきます。
監禁部屋にはファーザーの仲間であるカズという男の死体があり、カズは何かによって感電死しているようでした。
拘束を自身で解いたレントンは「トーラス」というエネルギー系大企業に勤めていた際に、自身が開発した「ARQ」と呼ばれる永久機関装置を盗み出し研究を進めていたことをハンナに話し、ファーザーたちがARQを狙っていると予想します。
手に装備できる簡易エネルギーリアクターを武器として持ち、ファーザーたちを襲うレントンでしたが、ナイフで刺され相打ちになってしまいます。
再び朝に目覚めたレントンは捕まり脱出後、ハンナと協力し毒ガスを使いファーザーたちを殺害しようとしますが、ハンナが躊躇ったことで失敗してしまいます。
捕らえられたレントンは仮株券の在処が金庫の中であることを言い、全ての仮株券を渡します。
顔を見られたことでレントンを殺害しようとするブラザーに対し、ハンナは一般人の犠牲は出せないと銃を収めさせます。
実はハンナはファーザー側の人間であり、エネルギーの利権を独占し世界を支配下に置こうとするトーラスに対抗する反政府組織「ブロック」のメンバーでした。
その後、レントンはなぜかソニーに射殺され、再び朝に戻ります。
ARQが時間のループを作り出していることを理解したレントンは、捕まった後にハンナに全てを話し、かつてハンナがトーラスに捕らえられ激しい拷問を受けたことや、トーラスから逃げたレントンが自身を見捨てたと勘違いをしていることを知ります。
ハンナを説得し共に逃げるべくファーザーたちを捕らえるレントンでしたが、ハンナがブロックのために行動することを辞めようとせず、銃を使いARQを破壊しようとしたことからレントンは自身が身代わりとなり死亡します。
再び朝に戻ったレントン、しかし今回は状況が違い、なぜかハンナも前回の記憶があるようでした。
ファーザーたちに捕まり、2人きりになったハンナは自身が見てる風景を夢のように思います。
レントンからARQによる時間のループのことを説明されたハンナ。
レントンは死体となっているカズがARQに触れたことで死亡し、カズがARQに触れた朝の6時16分から9時25分までの間を時間がループしていることに気が付き、前回のループでハンナがARQを撃ち関わったことでハンナもループに加わったと考えます。
ハンナは無限のエネルギーとループを生み出すARQをブロックに欲しいと訴えますが、レントンはブロックにもトーラスにも渡さないと固辞します。
映画『ARQ 時の牢獄』の感想と評価
『恋はデジャ・ブ』(1993)や幾度となく映画化された「時をかける少女」のように「タイムリープ」をメインとした映画は多く存在します。
SF映画やサスペンス映画での「タイムリープ」系の作品は『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014)や『ハッピー・デス・デイ』(2019)のようにタイムリープの能力を持つのは主人公のみであり、主人公はその利点を活かしさまざまな困難に立ち向かっていく様子が描かれます。
襲い掛かる数多の困難に主人公が「タイムリープ」の力を活かしどう立ち向かうのかが、見どころである従来の作品。
しかし、本作『ARQ 時の牢獄』は全く違った観点から「タイムリープ」の面白さを引き出しており、およそ90分の間、画面に引き込まれる作品でした。
本作では主人公は「タイムリープ」を自由に起こせるわけではなく、機械が想定外の動きにより同じ時間を延々と繰り返しているだけとなっています。
ですが、その「タイムリープ」の記憶を主人公だけが引き継いでおり、序盤はテロリストたちを相手に有利に事を進めますが、徐々に「ある事情」により記憶を共有する相手が増えてくることになります。
中盤以降の「タイムリープ」後も記憶を持った人間たちが増えていくことで発生する心理戦の数々が非常に面白く、「負けが確定した際にどのようにタイムリープを持続させるか」を敵味方共に考える展開は全く新しいものでした。
まとめ
「タイムリープ」以外の要素でも定期的に行われるこれまでの前提を覆す「どんでん返し」が物語を引き立てる『ARQ 時の牢獄』。
ワンシチュエーションであり、上映時間も短い作品ではありますが、充分に満足できる新感覚のSF映画です。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile094では、頭に携帯の破片が入った青年が未知の能力に目覚めるSF映画『iBOY』(2017)をネタバレあらすじを交えご紹介させていただきます。
3月18日(水)の掲載をお楽しみに!