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映画『バニシング』ネタバレ感想と考察レビュー。実際の失踪事件をサスペンスを2重構造へ!|サスペンスの神様の鼓動28

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。

このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。

今回ご紹介する作品は、孤島を舞台に、3人の灯台守が狂気に支配されるミステリースリラー『バニシング』です。

1900年に実際に発生した失踪事件「フラナン諸島の謎」を題材に、3人の灯台守の運命を大胆な解釈で描いた作品。

2007年の大ヒットアクション映画『300 スリーハンドレッド』で知られる、ジェラルド・バトラーが、本作の主演を務めています。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

映画『バニシング』のあらすじ


COPYRIGHT (C) 2017 MAB DTP LTD ALL RIGHTS RESERVED
スコットランド沖の無人島に渡った、トマス、ジェームズ、ドナルドの3人。

彼らは、6週間に渡り灯台を灯し続ける灯台守の仕事の為、この無人島へやって来ました。

トマスは25年間、灯台守を続けて来たベテランで、短気な大男のジェームズと、新米の若者ドナルドを、少し不安に感じていました。

ある晩、無人島を大嵐が襲い、3人は恐怖を感じながらも、一晩耐え抜きます。

そして翌日の朝、大嵐で息絶えた鳥の死骸を片付けていたドナルドは、島の渓谷に男が倒れているのを発見します。

ドナルドは、トマスの命令で、危険な渓谷の下へ降りて行き、男の生存を確認しますが、男は息絶えていました。

しかし、ドナルドは、男が荷物を持っていた事に気付き、中身を確認します。

その中には、金塊が入ってました。

渓谷の上で待機している、トマスとジェームズに、金塊を見つけた事を報告するドナルド。

ですが、ドナルドの背後から、息絶えたはずの男が襲い掛かってきました。


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以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『バニシング』ネタバレ・結末の記載がございます。『バニシング』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
突然、男が襲い掛かって来た事に、パニックになるドナルド。

男は、ドナルドを海の中に沈めて窒息させようとしますが、ドナルドは隙をついて形成を逆転させ、男を溺死させます。

灯台の中に金塊を持ち帰った3人。

トマスは金塊を届け出る事を提案しますが、生活が苦しく、金銭的に不安を抱えていたジェームズとドナルドは反対します。

ジェームズとドナルドは、金塊を自分たちのモノにする事を提案し、根負けしたトマスは「1年間は金塊を隠し、普通に暮らす事」を条件に出します。

ドナルドが溺死させた男の死体を処分しようとした3人ですが、島に近づいてくる不審な船に気が付きます。

トマスは、ジェームズとドナルドに死体を隠させ、上陸した2人の男、ロックとボラの相手をします。

明らかに、島の中に金塊がある事を確信している様子のロックとボラですが、トマスは「何も知らない」と押し通し、ロックとボラを帰します。

島から去って行くロックとボラの船を、見えなくなるまで見張っていたドナルドですが、船が引き返して来た事に気が付きます。

ドナルドの報告を受け、ジェームズとドナルドは、灯台の外で船の監視を続け、トマスは灯台の中で金塊を守る事にします。

島の周囲を旋回する船を見張り続けている、ジェームズとドナルド。

ですが、船は囮で、既に島内にロックとボラが潜入している事に気が付きます。

その瞬間、ジェームズとドナルドにボラが襲い掛かってきますが、ジェームズがボラを止め、ドナルドに灯台内へ行くよう伝えます。

灯台内では、トマスがロックの拷問を受けており、ドナルドも捕まります。

金塊の場所を、執拗に聞き出そうとするロックでしたが、トマスがロックの隙をついて、ロープでロックの首を絞め絞殺します。

また、2人を助けにきたジェームズが、灯台内に潜入したボラの命を奪います。

危機は回避しましたが、3人は「また、他の人間が来るかもしれない」という疑心に囚われ始めます。

その時、灯台を覗く謎の影にドナルドが気付き、逃げる影を追いかけて、ジェームズが背後から殴りつけますが、それは、チャーリーという、無関係の子供でした。

次の日の朝、死体を処分する為、トマスが出した船に乗り込み、死体を海に捨てるジェームズとドナルド。

ジェームズは、罪の無いチャーリーの命を奪った事に、心苦しさを感じていました。

その日を境に、ジェームズは心を失ったようになります。

ドナルドは「今のジェームズでは、金塊を隠し切れない」と、ジェームズ殺害を提案しますが、トマスは聞き入れず、島の中の礼拝堂にジェームズを閉じ込めます。

数日後、正気に戻ったように見えるジェームズが、灯台の中に戻って来ます。

トマスは、3人の絆を再度深める為に、灯台内に置いてあるウィスキーを取りに行きますが、ドナルドと部屋に2人になったジェームズが、部屋の鍵を閉め、トマスが入室できないようにします。

トマスが扉をこじ開け、部屋に入ると、ジェームズの手によりドナルドは息絶えていました。

さらに、ジェームズはトマスにも襲い掛かりますが、トマスはジェームズの隙をつき、気絶させます。

ドナルドの死体を処分する為、船で海に出たトマスとジェームズ。

ジェームズは、ドナルドの死体を海に投げ込んだ後に、精神的に耐えられなくなった事から、自ら海に身を投げて命を絶つ事を望みます。

最初は反対していたトマスですが、ジェームズの悲痛な叫びを受け入れ、ジェームズを海に沈めます。

1人になったトマスは、船に乗ったまま、灯台を離れて行きます。

サスペンスを構築する要素①「実際の失踪事件を大胆な解釈で映像化」


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3人の灯台守が、金塊を得た事をキッカケに、精神的に狂い始める恐怖を描いた、映画『バニシング』。

本作は、1900年12月に実際に発生した「フラナン諸島の謎」と呼ばれる、失踪事件を題材にしています。

「フラナン諸島の謎」とは、フラナン諸島の「アイリーン・モア島」に設置された灯台から、ジェームズ・デュカット、ドナルド・マッカーサー、トマス・マーシャルの、3人の灯台守が、突如姿を消したという不可解な事件です。

事件の前日が、大荒れの天候だった事から、当初は事故として考えられましたが「灯台に見慣れない海藻が散乱されていた事」と「3人分の防水服やゴム長靴が無くなっていた」という不可解な点がありました。

灯台守が全員、灯台の内部からいなくなる事は、職務放棄とされ、当時では絶対に考えられない事でした。

さらに、トマスが書いていた日誌が見つかり、失踪直前まで、ジェームズとドナルドが錯乱状態であった事が判明します。

以上の点から、100年が経過した現在も、真相が不明のこの事件は、3人の内の誰かが錯乱し、2人を殺害したという説も浮上しています。

もし、それが事実だとしたら、錯乱するキッカケは何だったのでしょうか?

本作は、「フラナン諸島の謎」に迫った実録映画ではなく、失踪事件の仮説を、大胆な解釈で描いた作品となります。

サスペンスを構築する要素②「立場も年齢も違う3人の男」


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本作の登場人物は少なく、メインの物語は3人の男により展開されます。

ベテランの灯台守で、新米のドナルドに厳しい、老人トマス。

早くに両親を亡くし、ジェームズを父親のように頼りにしている、若者のドナルド

短気な大男ですが、根は優しく家族想いの、中年男のジェームズ。

登場する3人の男は、年齢も立場もバラバラで、物語の序盤では、若いドナルドを、ベテランのトマスが煙たがっており、その間にジェームズが入り、仲を取り持つという、言わば家族的なやりとりが展開されます。

ですが、島に流れ着いた男が、持っていた金塊の存在から、3人の関係は崩れて行きます。

物語の中盤以降、家族的であった3人の関係は目まぐるしく変化していきますが、これは、実際に灯台内に残されていた、トマスの日誌に書かれた内容を、反映させた展開となっています。

サスペンスを構築する要素③「金塊を巡る二重のサスペンス」


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本作の特徴は、前半と後半で大きく分けて、異なる2つのサスペンスが展開される点です。

まず1つ目は、島に流れ着いた金塊を隠した事から始まる「正体不明の何者かに狙われる」という展開です。

金塊を持っていた男や、金塊を追って来た男たちの正体は不明ですが、迷う事なくトマスを拷問し、命を奪おうとしていた辺り、危険な人物である事は確かです。

3人の灯台守は、金塊を奪ってしまった事から始まった、正体不明の相手との戦いに、精神的に追い込まれる事になります。

そして後半は、2つ目の展開となる「3人の人間関係の崩壊」。

この中心となるのが、トマスとドナルドの仲を取り持っていた、ジェームズです。

金塊を巡る一連の流れで、人の命を奪ってしまった事に、ジェームズは罪悪感を抱き「家族に顔向けできない」と、精神が崩壊してしまいます。

ジェームズの心情を考えると悲しい展開ですが、演じているのが、『300 スリーハンドレッド』で主演を務めた、大男のジェラルド・バトラーなので、情緒不安定になっていく様子は、かなり怖いです。

ドナルドが、身の危険を感じるようになるのも仕方ないでしょう。

そして、監督のクリストファー・ニーホルムは、欲を出してしまったせいで、お金以上の大事な関係が崩壊した事で起きる、灯台守の悲しい物語という形で、「フラナン諸島の謎」に関して、独自の答えをラストで提示します。

映画『バニシング』まとめ


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監督のクリストファー・ニーホルムは、何故、100年以上も前の失踪事件に挑んだのでしょうか?

前述した通り、本作は実録映画ではなく、「フラナン諸島の謎」を題材にしたフィクションです。

おそらく、クリストファー・ニーホルムが描きたかったのは、怪しいと分かっていても、金塊を手にいれなければならない、貧しく不安定な状況に追い込まれている、ジェームズとドナルドを通した、現在の社会への問題点でしょう。

将来が見通せない不安定さは、時に醜悪な事件に結びつきます。

当初は、金塊を隠す事を反対していたトマスが、計画を主導する事を決めたのも、まだ先の長い、ジェームズとドナルドの不安を理解しての事でしょう。

本作は孤島を舞台にした、限られた登場人物の、人間関係の変化が重要な点となる作品です。

その為か、全体的に息苦しさを感じる作品なのですが、この何とも言えない息苦しさを、クリストファー・ニーホルムは狙ったのかもしれませんね。

次回のサスペンスの神様の鼓動は…

次回も、魅力的な作品をご紹介します。お楽しみに。

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