最強の心霊スポットであるトンネルを撮影に使用した清水崇監督『犬鳴村』
九州に実在する、最恐の心霊スポットとして知られる「旧犬鳴村トンネル」。
「旧犬鳴村トンネル」の先には、「犬鳴村」があるとされ、ネットの書き込みなどから、都市伝説として語られています。
この「犬鳴村」を題材に、「呪怨シリーズ」で知られる清水崇監督が挑んだ、新たなJホラー『犬鳴村』。
“犬鳴村”を巡る、重厚な人間ドラマと、その恐怖を描いた、本作をご紹介します。
映画『犬鳴村』の作品情報
世界的に注目されているJホラーの旗手、清水崇が実在する心霊スポットを題材にした、ホラー映画『犬鳴村』。
早くも世界的に注目されており、買い付けオファーが殺到していると言われています。
主演は、2019年に公開された矢口史靖監督の『ダンスウィズミー』の三吉彩花。
坂東龍汰、大谷凛香、古川毅などの注目俳優や、寺田農、石橋蓮司、高嶋政伸、高島礼子ら実力派俳優が共演しています。
【公開】
2020年公開(日本映画)
【監督・脚本】
清水崇
【脚本】
保坂大輔
【キャスト】
三吉彩花、坂東龍汰、古川毅、宮野陽名、大谷凜香、奥菜恵、須賀貴匡、田中健、寺田農、石橋蓮司、高嶋政伸、高島礼子、梅津陽、笹本旭
映画『犬鳴村』あらすじ
恋人の西田明菜の動画撮影に付き合わされ、日本屈指の心霊スポットと呼ばれる「旧犬鳴村トンネル」に立ち入った、森田悠真。
不気味なトンネル内の空気に触れ、悠真は先に進む事を躊躇しますが、明菜はどんどん先に進んで行きます。
そして、トンネルの出口に置いてある「この先、日本国憲法通用せず」の看板。
それは、この場所が「旧犬鳴村トンネル」の先に存在すると言われる村、「犬鳴村」である事を意味します。
不気味な廃墟が集合した村で、悠真は更に恐怖を感じますが、何も気にしていない様子の明菜は、廃墟の中のトイレを使います。
トイレを使用した明菜は、廃墟の外に出ようとしますが、扉が閉ざされ出る事ができません。
すると、大勢のうめき声のようなものが聞こえ、廃墟の窓から出てきた腕に、顔を掴まれます。
村の中を散策していた悠真は、明菜の悲鳴を聞き、廃墟へ助けに行きますが、廃墟から飛び出した明菜は、取り乱した様子で「旧犬鳴村トンネル」へ走って行きます。
悠真も明菜を追って、「犬鳴村」から逃げ出します。
臨床心理士の森田奏は、遼太郎という少年を担当しています。
遼太郎は「本当のママに怒られる」という、意味不明の発言を繰り返しており、遼太郎が手を振っている方向に、女性の幽霊らしき存在を奏は目撃します。
奏は遼太郎を気味悪く感じ、担当を降りる事を検討していました。
そんな時、兄の悠真から連絡が入り、奏は実家に戻ります。
実家で兄の悠真から「『犬鳴村』に行ってから、明菜の様子がおかしい」と聞かされた奏。
弟で小学生の健太は、自由研究を「犬鳴村」の都市伝説にしており、悠真の話に興味を持ちますが、父親の晃は不快感を示します。
母の彩乃は、晃の事を恐れているようでした。
奏は、悠真の部屋にいる明菜と会います。
明菜は、紙に犬と思われる不気味な模様を描いており、「わんこがねぇやに、ふたしちゃう」と、不気味なわらべ歌を口ずさんでいました。
明菜がトイレに行く為、部屋を出たタイミングで、悠真は奏に「助けてやってほしい」と頼みます。
奏が臨床心理士である事と、幼い頃から見えない存在が見える、特殊な力を持っている事から、悠真は頼りにしていたのです。
そこへ、健太が悠真の部屋に入ってきます。
健太の報告から、明菜が家の外に出た事を聞いた悠真は、明菜を探しますが、近くの鉄塔から明菜は飛び降り、亡くなってしまいます。
映画『犬鳴村』感想と評価
福岡県に実際に存在する「旧犬鳴トンネル」と、その先にあると言われている都市伝説「犬鳴村」。
清水崇監督が、この実在する心霊スポットに挑んだ映画『犬鳴村』は、逃れられない血筋の物語となっています。
インターネットの書き込みサイトなどでは、「犬鳴村」に足を踏み入れた者は戻って来れないと報告されており、「犬鳴村」は恐怖の対象となっています。
ですが、清水監督は、この「犬鳴村」に悲劇的な物語を持たせ、作品全体を、悲しいホラー作品に仕上げています。
清水監督の代表作「呪怨」シリーズでは、ノンストップの恐怖描写の連続でしたが、『犬鳴村』では、対照的にジワジワと感じる恐怖となっています。
では「本作における恐怖の対象とは何か?」という部分ですが、奏達に流れる「森田家の血」というか、母親の綾乃に流れる血筋であり、決して逃げられない「自身のルーツの物語」です。
「犬鳴村」を扱ったホラーと聞いた時、「犬鳴村」に足を踏み入れた若者達が、次々と恐怖に遭遇する展開を想像していましたが、清水監督は「犬鳴村」を「奏達のルーツ」とする事で、目を背ける訳にはいかない存在としています。
本作のラストで、奏は犬のような一面を見せていますが、それは自身が「犬鳴村」の出身である事を認め、存在意義を持った事を意味していますが、この瞬間、傍観者だった観客は、当事者に変わります。
「『犬鳴村』の出身者は、あなたの近くにいるかも」と。
テーマになった「犬鳴村」が、ネットを中心に広がった怪談である事を考えると、実に怪談的な終わり方だと言えます。
他にも、本作では「怪談的な恐怖演出」に挑戦しており、インターネットの怪談とかでよく出てくる場面を、映像化しています。
特に明菜が飛び降りた際の「ほらね」の場面は、「怪談的な恐怖演出」が前面に出た部分ですので、そういった恐怖演出の挑戦にも、注目して下さい。
まとめ
前述したように、『犬鳴村』の恐怖の対象は「自身の血筋」であり、「犬鳴村」の亡霊が襲ってくるという作品ではありません。
逆に、本作における幽霊は、生者に助けを求める存在として描かれています。
「呪怨」シリーズで最強の怨霊「伽椰子」を作り出した、清水監督の、「呪怨」シリーズとは真逆の幽霊への解釈が面白い点です。
作品全体は、重厚な人間ドラマが中心になっており、ノンストップの恐怖を期待した方は、少し拍子抜けするかもしれません。
ですが、安易に「『犬鳴村』での恐怖」を描いたホラーより、逃げられない存在として「犬鳴村」を扱った本作は、独特の世界観を持つ、完成された悲しい雰囲気のホラー作品となっています。