連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile089
過去のSF映画の傑作をご紹介するこの企画も、遂に1970年代へと入りました。
この時代のSF映画は特撮技術も大幅に進歩し、現在でもシリーズの続く大人気映画の始動となる作品が登場。
今回は、奇抜なアイデアが次々と生まれた年代でもある1970年代のおすすめSF映画を5本、ランキング形式でご紹介していきます。
CONTENTS
1970年のおすすめSF映画:5位『地球最後の男オメガマン』
映画『地球最後の男オメガマン』の作品情報
【原題】
The Omega Man
【日本公開】
1971年(アメリカ映画)
【監督】
ボリス・セイガル
【キャスト】
チャールトン・ヘストン、アンソニー・ザーブ、ロザリンド・キャッシュ、ロザリンド・キャッシュ、ポール・コスロ、エリック・ラヌービル
【作品概要】
SF映画の巨匠スティーヴン・スピルバーグの躍進のきっかけともなった映画『激突!』(1973)やヒュー・ジャックマン主演で描かれたSF映画『リアル・スティール』(2011)の原作となった小説を執筆したリチャード・マシスンの小説「I Am Legend」を実写化した2度目の映画。
主演を『猿の惑星』(1967)で主人公を演じたチャールトン・ヘストンが勤め、敵対する「家族」のリーダー、マサイアスを後に「マトリックス」シリーズに出演するアンソニー・ザーブが演じました。
【映画『地球最後の男オメガマン』のあらすじ】
中国とソ連による細菌を使った戦争で世界は未知の疫病に包まれ、多くの人間が死亡しました。
人のほとんどいなくなったロサンゼルスで生きる科学者のネビル(チャールトン・ヘストン)は、自身の開発したワクチンにより細菌の影響を受けていませんでした。
ワクチンを接種せずに生き延びた人間の身体は変異し光に弱い体質となっており、生き残りのリーダーであるマサイアス(アンソニー・ザーブ)は元凶である科学者たちを嫌悪し、生き残りである科学者のネビルを着け狙っていました。
ある日、ネビルは細菌の影響を受けていない少女を発見し、人類を正しい姿に戻す方法に希望を持ち始めますが…。
「異なるもの」を排除しようとする人間のエゴ
2020年現在、リチャード・マシスンの小説「I Am Legend」は3度実写化されています。
原作者自身が脚本に参加した1964年版『地球最後の男』(1964)と本作『地球最後の男オメガマン』、そしてウィル・スミス主演で製作された『アイ・アム・レジェンド』(2007)の3作は、同じ作品をベースにしながらもそれぞれに異なった方向性を汲み取ることが出来ます。
どの作品も主人公は「人類のため」を想い、孤独に打開策の研究を進める研究者として描かれていますが、『アイ・アム・レジェンド』を除いた2作では主人公は「変異した人間」に対し辛らつで冷酷な態度を見せます。
同じ世界に生きている「異なるもの」に対し両者ともに不寛容かつ冷酷であり、打開策を見つけながらも戦いとなってしまう人間の「業」を描いた物語として秀逸な物語である「I Am Legend」。
本作は映像化の中では批判されがちな作品ではありますが、エンターテイメント性とメッセージ性、双方を取り入れた物語のラストは、アメリカ映画としてその後の映画の脚本に影響を強く与えた作品であると言えます。
1970年のおすすめSF映画:4位『アンドロメダ…』
映画『アンドロメダ…』の作品情報
【原題】
The Andromeda Strain
【日本公開】
1971年(アメリカ映画)
【監督】
ロバート・ワイズ
【キャスト】
アーサー・ヒル、デヴィッド・ウェイン、ジェームズ・オルソン、ケイト・レイド、ポーラ・ケリー、ジョージ・ミッチェル
【作品概要】
「ジュラシック・パーク」や「タイムライン」などSFからクライムサスペンスまで幅広い著作を持つ作家マイケル・クライトンの小説「アンドロメダ病原体」を映像化した作品。
監督を勤めたのは『地球の静止する日』(1952)や『ウエスト・サイド物語』(1961)、『サウンド・オブ・ミュージック』(1965)など傑作を数々製作したロバート・ワイズ。
【映画『アンドロメダ…』のあらすじ】
ある日、人工衛星がアメリカの田舎町に落下します。
衛星の落下を予期していた軍は直ちに兵士を回収に向かわせますが、町の住民は2人を除き全員が死亡していました。
その後、回収に向かった兵士たちも死亡し、衛星に付着していた微生物によるバイオハザードを危惧した政府は「ワイルドファイア計画」を始動。
研究所に集められた4人の研究者は地下の研究施設へと入り、自体を収束させるため様々な仮定と検証を繰り返し、原因を特定させようと奮闘します…。
理知的・論理的に進行する破壊的微生物の攻防
ハーバード・メディカルスクールを卒業し、生物医学の研究所で研究生として研究を行っていた作家マイケル・クライトンが執筆した小説「アンドロメダ病原体」。
報告書として事実を追っていく形で執筆された原作はさながら「フェイクドキュメンタリー」のような構造であり、理知的な内容と合わせ高い評価を得ることになりました。
そんな原作小説を映像化した本作は、原作を忠実に映像化することで、原作の持つ未知の病原体を探る過程と「未知」であることでの恐怖を映像が加わることによってより一層感じることが出来ます。
地下にある秘密の研究所は「SF感」満載のワクワクするギミックを搭載しており、「映像化」ならではの利点もしっかりと活かされた映画になっています。
コロナウイルスが世界中に伝播しつつあり不安な心が広がる時期だからこそ、未知のウイルスに立ち向かう「研究者」たちの存在を応援したくなる作品です。
1970年のおすすめSF映画:3位『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』
映画『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』の作品情報
【原題】
Star Wars: Episode IV A New Hope
【日本公開】
1978年(アメリカ映画)
【監督】
ジョージ・ルーカス
【キャスト】
マーク・ハミル、ハリソン・フォード、キャリー・フィッシャー、アレック・ギネス、アンソニー・ダニエルズ、ケニー・ベイカー
【作品概要】
『アメリカン・グラフィティ』(1974)が大ヒットを記録し勢いに乗るジョージ・ルーカスが製作したスペースオペラの代表作。
全世界で大ヒットを記録した本作は「SF」を映画好き以外にも広めた作品として有名であり、ハリソン・フォードやマーク・ハミルの出世作としても知られています。
【映画『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』のあらすじ】
遠い昔、はるか彼方の銀河系は銀河帝国によって圧倒的な独裁政治が敷かれていました。
帝国が開発を進める、惑星を破壊する力を持った兵器「デス・スター」の構造欠陥を指摘した設計図のデータを盗み出した反乱同盟軍のスパイは、反乱軍の指導者の1人レイア・オーガナ(キャリ・フィッシャー)にデータを託します。
しかし、帝国の幹部ダース・ベイダーが迫り、レイアはデータをかつての大戦で活躍した将軍オビ=ワン・ケノービ(アレック・ギネス)に届けるべく、2体のドロイドにデータを持たせますが…。
今なお人気の衰えないシリーズの始動作
昨年末、『スター・ウォーズ エピソード9/スカイウォーカーの夜明け』(2019)が公開され世界中で話題となりました。
1978年に公開された第1作からその勢いはアメリカのみならず日本に至るまで衰えることなく、最新作が公開されるたびに映画館はスターウォーズ色に染まります。
そんな大人気となった作品の起源となる『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(1978年)は、セットの爆破や、プリントを重ねることで発色不可能な色や構造物を映し出すことが可能な演出など様々な視覚効果の技術が使われており、「SF」特有の世界観の「雰囲気」が再現される当時としては異質なほどのクオリティとなっていました。
銀河系の命運をかけたスケールの大きい物語や、レーザーや飛行ユニットが入り乱れる宇宙戦の派手さなど、エンターテイメントの全てが詰まった「SF」映画として色褪せない作品であると言えます。
1970年のおすすめSF映画:2位『ソイレント・グリーン』
映画『ソイレント・グリーン』の作品情報
【原題】
Soylent Green
【日本公開】
1973年(アメリカ映画)
【監督】
リチャード・フライシャー
【キャスト】
チャールトン・ヘストン、エドワード・G・ロビンソン、チャック・コナーズ、ジョゼフ・コットン
【作品概要】
ハリイ・ハリスンの小説「人間がいっぱい」を『海底二万哩』(1955)や『ミクロの決死圏』(1966)などを製作した名監督リチャード・フライシャーが映像化した作品。
主演を勤めたのは『地球最後の男オメガマン』でも主演し、この時代の映画を語るうえで外すことの出来ない名優チャールトン・ヘストン。
【映画『ソイレント・グリーン』のあらすじ】
2022年、人口が増加し続けたことであらゆる資源が枯渇し、多くの人間が衣食住に困窮する世界となっていました。
ある日、自然由来の成分から調合できる合成食糧を生み出したソイレント社の幹部が何者かに殺害されます。
捜査に乗り出した刑事のソーン(チャールトン・ヘストン)は、富裕層のみが裕福な暮らしをすることの出来る圧倒的な格差社会の現実と、この世界の恐るべき真実へとたどり着くことになります…。
全てが伏線の衝撃的なオチが魅力の傑作SF
少子高齢化社会が完成されてしまい、負担を強いられる若年層はより結婚や出産を控えるようになり近年の出生率は減る一方となった日本。
実は数十年前までは世界的に人口増加を続け、やがてあらゆる資源が枯渇することになると危惧されていました。
そんな危惧が表面化していた時代に製作された本作は、人口爆発によって人並みに生きることすら困難となる世界を題材としており、人が多すぎるゆえの息苦しさが画面を通しても伝わってくるほどになっています。
「安楽死」施設が公営のものとなり、貧民層は生きる権利すらもはく奪され始めている「冷酷」な対応を見せる政府と、表向き事態の改善に取り組もうとしている大企業の裏の姿。
世界観全てが伏線となる事件の結末はあまりにも衝撃的すぎて、様々な作品でオマージュされるほどとなっており、「SF」好きには一度ぜひ鑑賞してほしい作品です。
1970年のおすすめSF映画:1位『エイリアン』
映画『エイリアン』の作品情報
【原題】
Alien
【日本公開】
1979年(アメリカ・イギリス合作映画)
【監督】
リドリー・スコット
【キャスト】
シガニー・ウィーバー、イアン・ホルム、トム・スケリット、ヴェロニカ・カートライト、ハリー・ディーン・スタントン、ヤフェット・コットー
【作品概要】
後に『ブレードランナー』(1982)を製作し、本作と合わせ「SF」映画界で避けて通ることの出来ない映画監督となるリドリー・スコットが製作したSFホラー映画。
本作でアカデミー視覚効果賞を受賞した巨匠デザイナーH・R・ギーガーが手掛けた「エイリアン」のデザインも秀逸であり、『遊星からの物体X』(1982)と共に同ジャンルを代表する作品とされています。
【映画『エイリアン』のあらすじ】
2122年、宇宙を運行する貨物船ノストロモ号は地球への帰還の最中、生命体からの信号を受け進路を変更します。
「人間以外」の生命体からの信号を受信した際の調査と保護が企業との取り決めの中に含まれていた乗組員の面々は、信号の発信される小惑星へと降り立ちますが…。
宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない
SFホラーの代表作と言える映画『エイリアン』(1979年)。
本作のホラー映画としての特徴は「エイリアン」の強烈なビジュアルを終盤までなかなか登場させない部分にあると言えます。
宇宙船と言う閉鎖空間の中で、未知の生命体に襲われ1人1人船員が減っていく中でも、未知の生命体である「エイリアン」はなかなか姿を見せず、描写されても暗い中で数秒以内と「全体図」を想像する「恐怖」を残します。
見た目だけでも恐ろしい「エイリアン」のビジュアルをあえて見せず、終盤にその恐ろしさを開放する「ホラー」としての描写と、宇宙船内部のあくまでも「仕事用」と割り切ったような現実感とSF感のちょうどいいバランスなど、卓越したセンスによって創造された世界観は秀逸の一言です。
「誰が生き残るのか」というホラーとしての命題と「ある登場人物の秘密」と言う味付けを加えた設定の物語は「労働者の命を尊重しない企業」への問題提起ともなっており、エンターテイメント性だけでなく様々なメッセージを残している作品として、1970年代を代表するSF作品です。
まとめ
映像効果や特撮によってアイデアにはありつつも、実現困難だった世界観を映像として再現することが可能になった1970年代。
「SF」映画の世界はこの時代で1つの完成形にたどり着きました。
この時代に出来上がった「発想」や「世界観」を進化させることが1980年代以降の課題となり、また様々な映画が生み出されることになります。
そんな1980年代以降の作品も、いずれこのコラムでしっかりとオススメ作品をご紹介させていただきます。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile090では、サム・ワーシントン主演で描かれれる人類の強制進化とその弊害を描いたNETFLIX独占配信映画『タイタン』(2018)をネタバレあらすじを交えご紹介します。
2月19日(水)の掲載をお楽しみに!
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