連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第19回
世界各国の様々な映画を集めた、劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020」は、今年もヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田にて実施、一部作品は青山シアターで、期間限定でオンライン上映されます。
前年は「未体験ゾーンの映画たち2019」にて、上映58作品を紹介いたしました。
今年も挑戦中の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」。第19回で紹介するのは、台湾のホラー映画『人面魚 THE DEVIL FISH』。
どこの国でも人々の口に上るのが怪談話であり、都市伝説です。台湾の都市伝説「紅い服を着た少女」は…赤い服を着た老婆のような顔の少女が、人を山に誘い込む…というお話は、アレンジして2015年『紅衣小女孩(The Tag-Along)』として映画化されました。
映画のヒットし、2017年『紅衣小女孩2(The Tag-Along 2)』が製作され、こちらは更なる大ヒットを記録。シリーズの3作目も製作されます。
この3作目、都市伝説の「紅い服を着た少女」は卒業しました。次に取り上げた都市伝説は、あの「人面魚」だったのです…。
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CONTENTS
映画『人面魚 THE DEVIL FISH』の作品情報
【日本公開】
2020年(台湾映画)
【原題】
人面魚 紅衣小女孩外傳 / The Tag-Along: The Devil Fish
【監督】
デビッド・ジュアン(莊絢維)
【キャスト】
ビビアン・スー(徐若瑄)、チェン・レンシュオ(鄭人碩)、チャン・シューウェイ(張書偉)、ロン・シャオホア(龍劭華)、チェン・シャオウェイ(陈少卉)
【作品概要】
魚を介して人に憑りつく邪悪な魔神と、霊媒師との死闘を描いたホラー映画。
出演はアイドルとして活動、96年にバラエティ番組『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』のレギュラー出演で、日本でも全国的な人気を獲得したビビアン・スー。台湾・香港・日本・中国の映画に出演し、現在も国際的な活躍を続けています。
また「東京国際映画祭2017」の”アジアの未来”部門で上映された、『アリフ、ザ・プリン(セ)ス』のチェン・レンシュオ、『落日』など台湾のTVドラマで活躍するチャン・シューウェイ、また前作『紅衣小女孩2』と同じ役で、ロン・シャオホアが出演しています。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品。
映画『人面魚 THE DEVIL FISH』のあらすじとネタバレ
その昔、魔神が棲む地であった台湾の蘭澤(ランタン)。明の時代の英雄、鄭成功は武将を送り、”虎爺”(台湾で信仰を集める”保生大帝”に仕えた猛虎。道教の神で”黒虎将軍”とも呼ぶ)の力を借り魔神を成敗したと、後世に伝えられている…。
2007年、ランタン。川で釣りをしていた男が、1匹の魚を釣り上げます。連れの2人と共に魚を料理し食した男は、その魚も網にのせて焼き始めます。
何処からともなく、魚はおいしい、と訊ねるの囁き声が聞こえてきます。3人は見回しますが、誰の姿もありません。やがて声は魚を釣り上げた男、ホウの名を呼びました。
ホウの目の前で網の上で焼かれた魚が、生き返ったかのように動き始めます。魚の側面には目と口が現れ、”人面”となり蠢きます。
1人の男は吐いて倒れ、もう1人は自ら頭を岩に打ち付けます。魚に現れた”人面”の口から黒い煙が立ち上り、ホウの口に入ります。ホウの瞳の中には、赤い眼を光らせた何かがいました。
まだ幼い少年、ジュンカイ(チェン・シャオウェイ)は悪夢で目覚めました。父のリン・ジーチェン(チェン・レンシュオ)がなだめますが、魔物の夢を見たと訴えるジュンカイ。
TVのニュースは豪華な自宅に戻ったホウが、理由も無く家族の6人を殺したと伝えています。惨殺された家族の頭には、袋が被せられていました。
道教の神を祭る大坑玄虎宮。この寺院の道士であり霊媒師のリンは、弟子と共に悪魔祓いを行っていました。その姿を少年ジャハオが、友人とビデオカメラで撮影しています。
弟子がジャハオらに気付き、撮影を中断させますが、彼らが昨日電話して、寺院の取材を依頼した少年と知ると、彼はカメラの前で”虎爺”を祭る寺院の歴史を語ります。そこに現れたジュンカイが、この地の魔物を倒した”虎爺”について話します。
集音マイクを持つジャハオは、弟子がリンに警察が来たと伝える会話を捕えます。興味を持った少年はリンの後をつけました。
面会相手はリンと旧知の刑事、エーシャン(チャン・シューウェイ)です。逮捕したホウを取り調べていましたが、彼は”虎爺”に会わせろと要求していると告げます。
自分には長らく”虎爺”は降りてこないと、断ろうとしたリンですが、捜査に行き詰ったエーシャンは、手がかりを得ようと協力を要請します。車の中のホウを見た彼は、その異様な表情からホウに魔神に憑いていると悟ります。
今夜魔神を祓う儀式を行うと告げるリン。その会話をジャハオたちは聞いていました。
その日の夕刻、ジャハオは精神科に通院する母ヤーフェイ(ビビアン・スー)に付き添っていました。担当の医師から母を支えるよう、励まされるジャハオ。
2人は自宅に戻ります。ジャハオは今友人と共に撮影しているビデオ動画が、コンテストで入賞すれば、母と海外旅行に行けると明るく話します。またピアニストである母に、母校であるジャハオの学校から演奏の依頼も来ていました。
ジャハオは母に明るく振る舞いますが、話題は父から送られた離婚届にうつります。ヤーフェイは夫と別居中で、別の女性と暮らす夫は、病んだ妻から息子を引き取りたいと願っています。
ヤーフェイは夫と電話で言い争いとなります。この状況が母を苦しめていると痛感しながらも、ただ見守るしかないジャハオ。
一方リンは息子と亡き妻メイリンに祈ってから、ジュンカイを休ませ儀式の準備にかかります。その寺院に友人と共に忍び込むジャハオ。彼は母のためにコンテストで入賞できる動画を撮ろうと、魔神祓いの撮影を試みます。
まな板の上に1匹の魚を用意したリン。ホウを椅子に拘束し、弟子たちが呪文を唱え儀式は始まります。”虎爺”に我に降臨せよと祈り、リンはホウに術をかけます。
何者だ、なぜ”虎爺”に会いたいと魔神に迫るリン。しかしホウは手錠を逃れリンに襲いかかります。”虎爺”を降臨させようと祈っても叶わず、ホウに首を絞められるリン。
弟子と刑事のエーシャンが駆け付け、ホウの身をリンから引き離します。ホウの口から黒い煙が立ち上りますが、リンは煙をまな板の上の魚に封じます。魔神を封じた魚を油で揚げ始末するリンたち。魚をゴミ捨て場に処分する姿を、ジャハオは見ていました。
ジャハオがその魚を拾うと、揚げた魚は目を見開き口を開くと、中から小魚が飛び出します。ジャハオはその小魚を掴むと、水の入った容器に入れて持ち帰ります。
翌日、学校の発表で、他の生徒のビデオ作品の内容を知ったジュンカイは、それに負けない作品を作ろうと決意します。
リンは亡き妻を思い出しながら、朝食の準備をしていました。しかし息子のジュンカイは、また恐ろしい夢をみたと訴えます。息子の描いた恐ろしい顔の絵を見つめるリン。
自宅に帰ったジャハオは、母に送ったペンダントを身につけないか尋ねます。彼は不要なものを処分していましたが、それには父と親子3人で写した写真も含まれていました。少し考えてヤーフェイは、写真の処分に同意します。
魚を飼育している水槽に、ジャハオは例の小魚を入れ飼っていました。母に尋ねられた彼は、魚の成長を記録しコンテストに出すと答えます。魚をじっと見つめるヤーフェイ。
息子ジュンカイが魔物に襲われる夢を見て目覚めたリン。夜にも関わらず訪問者がいました。それは刑事のエーシャンで、彼は魔神祓いの儀式でホウに何をしたか尋ねます。ホウは留置所から姿を消していました。
手がかりを求め刑事とリンは、ホウが家族を殺害した家に入ります。リンの目にその家は、風水を意識しベットの下にお札を置いた、何かから住人を守る意図が感じとります。
この家でホウは家族の顔に、ビニール袋を被せ殺害していました。幸せそうな家族写真に、惨劇を予感させるものはありません。エーシャンは何かに襲われたと感じますが、気がつくと自らビニール袋を被っていました。
煙草に火を付けるエーシャンの手は震えていました。リンは彼にこの家は風水を意識していると話すと、刑事は事件の時ホウの妻は、警察でなく風水師に電話したと告げます。
自宅でシューベルトの「魔王」をピアノで演奏していたヤーフェイは、鍵盤の上に濡れた魚にウロコがあるとに気付きます。それを始末した彼女は夫に気配を感じます。しかし息子ジャハオが帰った時、家には彼女しかいませんでした。
ジャハオは捨てたはずの、父と写った家族写真が並べられているのを見て、母にまた出したの、と尋ねます。震えながら力なく、自分は出してないと答えるヤーフェイ。
エーシャンは、ホウの妻が連絡した風水師は隠居したが、その娘は協力的だと語りリンと訪ねます。娘は風水は判らないと言いながらも、残された資料をリンに渡します。
事件の日彼女は、ホウの妻が風水師に助けを求める電話を受け取っていました。その電話口でホウの妻は襲われます。彼女はリンに、役立つかもと言いホウの家系図を渡します。
改めてホウの家に戻ったリンとエーシャン。そこにはお供え物があり、誰かが訪れた模様です。2人が改めて家を調べると、壁の向こうに階段があると気付きます。
階段を降りると隠し部屋がありました。そこに子供が生活していた形跡がありました。エーシャンは希少疾患である皮膚病のカルテを見つけます。この部屋で病気に侵された、ホウの息子が暮らしていました。
その頃ジャハオは力なくベットに横たわる母に、もう一度病院に行ってと頼みますが、ヤーフェイは息子に、私は写真を出していないと答えます。自分を信じて欲しいと語る母に、ずっと寄り添ってゆくと約束するジャハオ。
ヤーフェイは改めて、息子から送られたペンダントを取り出し見つめます。気を取り直し魚に入った水槽や、部屋を綺麗に片付けますが、振り返ると部屋は荒れ果てたままです。
慌てて洗面所に行き薬を飲むヤーフェイ。しかし息子の残したビデオカメラに、なぜかジャハオが夫とその交際相手の女性と、仲良くしている光景が映し出されます。彼女は泣き崩れ、心は壊れていきました。
ホウの家の前に車を停め、見張っていたリンとエーシャンは、お供え物を持って現れた老婆に声をかけます。2人は老婆と隠し部屋で話します。
私はあの子をアティと名付けた、と語る老婆。彼女はアティを取り上げた産婆でした。しかし生まれながら奇病で醜かったアティを、ハンは世間に隠しこの部屋に閉じ込めます。
老婆はアティを10年以上も世話し続けましたが、治る見込みのない奇病にハンは絶望し、息子を化け物と呼び暴力を振るうようになります。あの事件の後、アティの姿は見ていない、その生死は私にも不明だと2人に告白する老婆。
帰宅したジャハオは、母からあなたは父とその相手の女と暮らしたいの、と言われます。その言葉に息子は怒り、そんな調子だから父は出て行ったと叫びます。
息子が去り、部屋に残されたヤーフェイは、勝手に動き出したメトロノームの音に誘われ、ピアノの前に立ちました。振り返るとベットの上に四つん這いになった、真っ黒で恐ろしい形相の子供がいます。自分の名を呼ぶ何者かに頭を掴まれ、彼女は意識を失います。
隣室のジャハオは悪夢を見て目覚めます。異様な気配を感じ辺りを見ると、浴室まで床が濡れています。意を決してシャワーカーテンを開けると、浴槽の中に生きたまま魚を喰らう、母の姿がありました。
何も言わず四つん這いで息子に迫るヤーフェイ。後ずさるジャハオがもう一度見ると、いつもと変わらぬ母の姿がありました。
しかしヤーフェイは何も語らず姿を消します。ジャハオは何か恐ろしいことが起きていると確信しました。
映画『人面魚 THE DEVIL FISH』の感想と評価
都市伝説ホラー映画シリーズが台湾にて誕生
台湾に伝わる都市伝説怪談「紅い服の女」。基本パターンは紅い服を着た子供が現れるが、その顔は黒い肌の醜い老婆。その正体は人を山奥に誘いこむ魔物というお話です。
その物語をアレンジし映画化したのが『紅衣小女孩』、ヒットを受け作られた続編『紅衣小女孩2』は2017年一番ヒットした台湾映画と言われています。
ちなみにこの2作を監督したのはチェン・ウェイハオ(程偉豪)。台湾映画界で高い評価と実績を誇る監督で、彼の『目撃者 闇の中の瞳』は2018年日本で劇場公開されました。
参考映像:『紅衣小女孩2』予告編(2017年)
この人気を受けシリーズ3作目となる本作、原題『人面魚 紅衣小女孩外傳』が誕生する訳ですが、「外伝」とついているように、「紅い服の女」のお話ではありません。シリーズの製作陣は、今後は様々な都市伝説怪談をモチーフに映画を作ろうと企画します。
その結果誕生したのが『人面魚 THE DEVIL FISH』です。この作品は『紅衣小女孩2』の前日談であり、道士のアーロンは両作ともロン・シャオホアが演じ、『~2』に登場するジュンカイの少年時代を描くという形で、シリーズとリンクさせています。
そして『~2』でも活躍した”虎爺”ですが、台湾では山の神として祭られ、催事で道士に憑依し神託を与える、地域の守り神として民間信仰の対象となっている存在です。
近年台湾では「妖怪」がブームで、このシリーズ製作の原動力になっています。日本では映画以外ではなじみの薄い、道士が登場する本作ですが、都市伝説と民間信仰を結び付けた内容は、「ゲゲゲの鬼太郎」的な怪異談が好きな方を、大いに満足させてくれるはずです。
人面魚より怖すぎるビビアン・スー!
“虎爺”や魔神、道士という聞きなれぬ言葉が登場しますが、前半で登場人物を虐めに苛め、中盤で爆発させ、ラストに”成仏”や”浄化”のカタルシスを与える物語は、「四谷怪談」などの怪談と同じ構造、日本人にもお馴染みのスタイルです。
言うなれば我々にDNAレベルで刷り込まれた怪談ですから、泣ける要素も含め身近な感覚で楽しめるホラー映画です。ですからご想像できる通り、本作のビビアン・スーはお岩さんよろしく、実に苛め抜かれます。
離婚騒動に心の病に加え、バカ息子(でも実に孝行息子です)の持ち込んだトンデモ魚のお蔭で、彼女のメンタルはズタボロの極みになります。魔神に憑りつかれて生魚を咥えるに至っては、もはや化け猫映画女優のレベルの姿です。
冗談はさておき、本作の恐怖描写は彼女の熱演によるところ大です。こんなビビアン・スーは見たくない?いや、こんな姿だからこそ見るべきです。
まとめ
道教や台湾の民間信仰など、日本人には判りにくい部分もありながら、同時に妖怪・怪談的な描写に親近感を覚える『人面魚 THE DEVIL FISH』。アジアホラー映画ファンはもちろん、怪談スタイルの映画や、そして台湾映画ファンも必見です。
しかし本作を見た日本人のほぼ全員が、おそらく同じツッコミを入れるでしょう。「”人面魚”に現れる人面模様、その位置じゃないよ!」
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…
次回の第20回は香港のお調子者が、ミラ・ジョボビッチと世界を救う!?アクション映画『ザ・ルーキーズ』を紹介いたします。
お楽しみに。
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