「ただいま」と帰る場所がある。
そして、「おかえり」と迎えてくれる人がいる。
山田洋次監督による「男はつらいよ」シリーズ50作目であり、50周年記念作品となった『男はつらいよ お帰り 寅さん』。
昭和44年(1969年)。第1作目『男はつらいよ』が劇場公開されてから、昭和の時代、日本の盆と正月の風物詩とも言える存在だった「寅さん」。
年号は平成へと移り、平成8年(1996年)。長きにわたり「寅さん」を演じてきた渥美清がこの世を去ります。
その翌年、特別編として『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』が上映。そして、令和元年の年末に、再び寅さんが帰ってきました。
前作に引き続き、寅次郎の甥っ子・満男(吉岡秀隆)を主人公に、柴又に住む人々の人情喜劇が繰り広げられます。そこには、懐かしい寅さんの姿もありました。
今回はどんな騒動を巻き起こしてくれるのか。映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』を紹介します。
映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』の作品情報
【日本公開】
2019年(日本映画)
【監督】
山田洋次
【キャスト】
渥美清、倍賞千恵子、吉岡秀隆、後藤久美子、前田吟、池脇千鶴、夏木マリ、浅丘ルリ子、美保純、佐藤蛾次郎、桜田ひより、北山雅康、カンニング竹山、濱田マリ、出川哲朗、松野太紀、立川志らく、小林稔侍、笹野高史、橋爪功、林家たま平、富田望生、倉島颯良、中澤準、田中壮太郎、桑田佳祐
【作品概要】
山田洋次監督による「男はつらいよ」シリーズの50周年記念作品『男はつらいよ お帰り 寅さん』。1969年に第1作が劇場公開されてから、50年。1996年に「寅さん」を演じてきた俳優の渥美清がこの世を去り、1997年の『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別編』公開以来、22年ぶりの新作となりました。
寅さんシリーズではお馴染み、倍賞美津子、前田吟、吉岡秀隆らに加え、歴代マドンナから、後藤久美子、浅丘ルリ子が登場。そして、渥美清の寅さんが帰ってきました。懐かしの名シーンの数々に注目です。
映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』のあらすじとネタバレ
満男は、どこまでも続く砂浜を、転がるように走っていました。「先輩!」。そう呼んだ少女の元へ、やっとの思いでたどり着きます。「愛しているからだよ!」と叫ぶ満男は、ひどく息が切れていました。
うなされていた満男を、娘のユリが起こしにきます。夢の中の少女は、初恋の相手・及川泉でした。泉とは、紆余曲折の末、結局一緒になることはありませんでした。
サラリーマンを辞めて、念願の小説家になった満男は、中学生の娘・ユリと2人暮らしです。今日は、満男の妻・瞳の七回忌の法要で、実家の柴又へ帰る予定でした。
柴又帝釈天の参道にある草団子屋「くるまや」は、カフェにリニューアルしたものの、母・さくらと、父・博はずっとここで暮らしています。
裏手にある朝日印刷からは、たこ社長の娘・朱美とその息子の浩介もやってきて、相変わらず賑やかです。
皆が集まり昔話に花が咲くと、必ず思い出す、ここにいない「あの人」のこと。そう、満男の伯父・寅次郎です。
「フーテンの寅」こと寅次郎は、テキ屋稼業を生業とし、旅に出ては恋をして、ふらっと帰ってくれば、皆を巻き込み騒動を起こす。破天荒で、変わり者で、自由奔放。妹のさくらも、婿の博も、近所の人たちも、散々振り回されてきました。
でも、寅さんの前向きな明るさと、不器用ながらも優しい人柄は、どうしても憎めない存在なのでした。
かく言う満男も、寅さんのいない日々に大きな寂しさを抱えていました。はちゃめちゃなアドバイスの伯父でしたが、いつも味方でいてくれました。
妻の法要も終わり、義父の窪田は帰り際、満男に「良い人がいたら再婚していいんだよ」と言葉を残します。
満男は複雑な心境です。その通りだと言う朱美と、喧嘩になります。娘のユリにまで、「私に気を使わないでね」と言われてしまいました。
満男の新刊「幻影女子」は評判も良く、出版社からサイン会を開かないかと話が出ます。気の進まない満男でしたが、担当編集の高野のサポートもあり開催となりました。
そして、そのサイン会で満男は、思わぬ人と再会を果たします。現れたのは、最近も夢に見た、初恋の相手、及川泉でした。
イズミ・ブルーナ。彼女は現在、海外で国連難民高等弁務官事務所に所属し、夫と2人の子供たちと暮らしていました。
仕事で来日中に、偶然立ち寄った本屋で、満男のサイン会を知り、顔を出します。満男の夢は何かの暗示だったのでしょうか?
驚きのあまり、挙動不審になる満男でしたが、2人は再会を喜びます。そして、満男は泉を、小さなジャズ喫茶に案内しました。
そのお店は、20年以上前に奄美大島で会った寅さんのかつての恋人・リリーのお店でした。
懐かしい顔ぶれが揃えば、やはり話題は寅さんの思い出話になりました。
映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』の感想と評価
ひとりの俳優が演じたもっとも長い映画シリーズとして、寅さんこと渥美清がギネスに認定されるほど、長年日本国民に愛され続けてきた「寅さん」。
日本の正月に「寅さん」が帰ってきました。50年という歴史を積み上げてきたからこそ生まれた奇跡の映画です。
幼い頃から、親戚のおじちゃんのように身近に感じてきた寅さんという存在。満男と泉と同世代の自分には、本当に心に染み入る作品でした。
泉(後藤久美子)の初登場は、1989年の42作目『男はつらいよ ぼくの伯父さん』。
平成とともに、盆と正月に新作が出ていた「男はつらいよ」シリーズが、年末の1回の公開となり、寅さんの甥っ子で、さくらと博の息子の満男(吉岡秀隆)が物語の中心へとなっていきます。
モテるのかモテないのか、恋多き寅さんは、満男の初恋の手ほどきをするも、空回りばかり。それでも満男と泉の関係を優しく見守り、いつでも味方でいてくれました。
「泉ちゃんとはどうなってるんだい?思っているだけで何もしないんじゃな、愛してないのと同じなんだよ。態度で示さないと」。寅さんのアドバイスに「寅さんには言われたくないよ」と返す満男。
寅さんと満男のやり取りは、いつも楽しく、気の合う友達のようでした。
今作では、寅さんと満男のシーン以外にも、数々の名場面が登場します。
さくら(倍賞千恵子)と博(前田吟)の恋のキューピットとなった寅さん。満男の運動会に応援に行こうと張り切り、皆に嫌がられる寅さん。自分の分のメロンがないことに、うじうじ文句を並べる大人げない寅さん。
そして、歴代のマドンナとの甘酸っぱい恋のシーン。なんと、歴代マドンナの数は47人!吉永小百合、八千草薫、大原麗子、桃井かおり、松坂慶子など、日本を代表する女優さんばかりです。
本作では、歴代のマドンナの中でも、寅さんと相思相愛だったリリー(浅丘ルリ子)が、登場します。
リリーは、スナックやキャバレーで歌手をしながら、各地を旅していました。同じような堅気でない商売の寅さんとは、気が合い一緒に暮らしていたこともあります。
そんな旅人リリーが、小さなジャズ喫茶のママをしています。リリーは、このジャズ喫茶で、寅さんの帰りを待っているのかもしれません。
寅さんとの思い出のシーンは、どれもつい最近のことのように思い出されます。寅さんを囲む50年の人物相関図。柴又の人々は、本当に存在しているかのようです。
また、寅さんと言えば、テーマ曲「男はつらいよ」です。「生まれも育ちも葛飾柴又。姓は車、名は寅次郎。人呼んでフーテンの寅と発します」。
粋な口上で始まるオープニング。今作では、桑田佳祐が担当・出演しています。山田洋次監督が以前から、寅さんと心情で深く重なっているのではないかと思っていた桑田佳祐へ、ラブレターを寄せ叶った演出となっています。
そして、エンディングには、渥美清の寅さんが登場です。「顔で笑って腹で泣く。男はつらいよ」。気付くと、涙が流れていました。
まとめ
山田洋次監督による「男はつらいよ」シリーズ50周年記念作品『男はつらいよ お帰り 寅さん』を紹介しました。
昭和、平成、令和と、時代が変わっても長く愛され続ける「寅さん」。50年の歴史の集大成の作品となりました。
「困ったことがあったらな、風に向かって俺の名前を呼べ。どっからでも飛んできてやるから」。寅さんは、約束を守ってくれました。
寅さん、本当にお帰りなさい。そして、たくさんの笑いと涙と感動をありがとう。いつまでも、寅さんは皆の心の中で生き続けることでしょう。