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Entry 2020/01/16
Update

【工藤阿須加 インタビュー】ドラマ『連続殺人鬼カエル男』俳優として人間として“きっかけ”を与えられる者に

  • Writer :
  • 桂伸也

ドラマ『連続殺人鬼カエル男』は2020年1月9日(木)よりカンテレで放送、10日(金)よりU-NEXTで配信開始!

「きょう、かえるをつかまえたよ」──犯行現場には無残な死体、そしてその傍らには子供が書いたような稚拙な犯行声明文。過熱報道により大衆はパニックに陥る中、刑事たちは犯人を見つけることができるのか?

2002年に創設されたミステリー小説の新人賞『このミステリーがすごい!』大賞に関連する作品から計5タイトル、40エピソードの映像作品を放送する「『このミス』大賞ドラマシリーズ」。その第四弾として制作されたのが、中山七里による異色の社会派ミステリーが原作のドラマ『連続殺人鬼カエル男』です。


(C) Cinemarche

そして主人公の新人刑事・古手川和也役を演じたのが、朝の連続テレビ小説『なつぞら』やドラマ『ニッポンノワール-刑事Yの反乱-』など近年多くの話題作に出演されている工藤阿須加さんです。

今回のインタビューを通して、工藤さんには作品の印象や役柄への向き合い方とともに、俳優を続けるモチベーションなどを語っていただきました。

“ミステリー”であり“ヒューマンドラマ”


(C)2019 U-NEXT/カンテレ

──本作『連続殺人鬼カエル男』は『このミス』大賞ドラマシリーズ史上初のサイコ・ミステリーであります。それらの設定や物語についてはどのような印象を抱きましたか?

工藤阿須加(以下、工藤):確かにドラマ化にあたってさらにリアリティーを追及していったため、“ミステリー”という一面がより強まった箇所もあるかもしれません。ただ僕らが実際に演じてみて強く感じたのは、「“ミステリー”である以上に、この作品は“ヒューマン性の高いドラマ”なんだ」ということでした。

本作は僕が演じさせていただいた主人公・古手川が成長する物語でもありますし、新人刑事である古手川と鶴見さんが演じられたベテラン刑事・渡瀬との関係性を考えると、1話から8話にかけての距離感の変化を経て、二人が本当のバディになるまでの物語でもあるんです。

だから、ただ一話毎に事件が起こり、それらを解決していくという展開だけで本作を語ることはできません。作品を観てくださった方々の心に響く、届く。そういうドラマに仕上がったんじゃないかと感じています。

──原作を読まれた感想はいかがでしょう?

工藤:中山七里さんの原作小説を読ませていただいた時期と、ドラマの脚本を読ませていただいた時期はほぼ同じころでした。重厚感と緊張感に満ちた語り口でありつつも、展開や構成自体はとてもスピーディーで、描いているテーマや内容も非常にセンシティブだと思いました。

そのため、これから自分が古手川という役と役作りの中で向き合うにあたって、時間が許す限り知識などを得た上で取り組まなければいけないと考え、自分なりに勉強しました。

経験とつながった役柄との共通点


(C) Cinemarche

──今回演じられた古手川という役に、工藤さんご自身との共通点はありましたか?

工藤:考えるより先に行動してしまうのは自分にもある部分なので共感しました。もちろん客観視にも努めるんですが、「自分の気持ちに素直でいたい」と感じるので、その思いは大事にしています。

また、彼を演じる上で警察官としての所作は、さまざまな刑事ドラマに出演させていただいた経験のおかげで、迷うことは一つもなかったです。ただその所作では抑えることのできない、古手川の人間的な感情に対するアプローチについては、警察官の所作に慣れているからこそ、演じる上で気をつけていました。

また古手川という役には、猪突猛進な気質がある一方で、その心の奥には過去のトラウマが刻まれていてるという意外な一面があります。そのトラウマは古手川という人間性の核にも深く関わっているため、そこへ自身の今までの経験をどこまで寄せられるか、逆に自身へ古手川という役をどこまで寄せられるか…自身が感じてきたイメージを膨らませ、どう演技として表現するかを重要視しました。

僕も古手川のようにつらい時期がありました。古手川という役に自身を近づけるためにも、その経験の中で自身が感じとったものを古手川のトラウマと照らし合わせることで、彼と向き合うときもありました。

一方で本作の古手川もそうなんですが、これまで僕が演じさせていただいた役はその役柄を掘り下げていくと、自身との何らかのつながりを見出せてきたんです。それはありがたい巡り合わせだと思いますし、自分にとって役をいただくということは、“運命的な出会い”と同じなのかもしれません。

ベテラン・鶴見辰吾が導く“道”


(C)2019 U-NEXT/カンテレ

──役としても、俳優としても今回“バディ”を組まれた、渡瀬刑事役の鶴見辰吾さんとの共演はいかがでしたか?

工藤:鶴見さんがいてくださったから撮影を乗り切れたといっても過言ではありません。本作の撮影の中で、自分自身の演技に“迷い”が出てしまう場面があったんですが、鶴見さんはその際に「こうしたほうがいいよ」という断定的なアドバイスではなく、「こういうやり方もあるんじゃないかな?」というヒントだけをさり気なく出してくださったんです。そして、そのヒントを自分なりにかみ砕いて演じてみると「お、すごくいいじゃん?」と言ってもらえました。

いい方向へと誘導してくれるのと同時に、しっかりと僕自身に一度考えさせる機会を作ってくれる。「“道”へと導いてくださっている」と感じていました。

一方で、鶴見さんご自身の演技は“説得力”の塊です。僕は「こういう表情をするんだ」と客観視した上で演技を考えることも多々あるんですが、鶴見さんと芝居をしていると自身の気持ちがどんどんのせられていくので、そのように考えることが少なくなるんです。筋肉の動かし方一つ一つにも説得力があり、そういった面では非常に勉強をさせていただきました。いつか自分も鶴見さんのような演技ができるようになりたいですし、自分なりの芝居の中でまた違うニュアンスが出せたらと感じています。

熊澤監督の“説得力”ある演出


(C) Cinemarche

──本作の演出を手掛けられた熊澤尚人監督には、どのような印象を抱かれましたか?

工藤:熊澤監督とご一緒させていただくのは『連続殺人鬼カエル男』で3作目なんですが、『ユリゴコロ』(2017)なども拝見していたので、「猟奇的なミステリー作品も制作した経験を持つ熊澤監督なら、今回のドラマも凄い作品になるだろう」とワクワクしていました。

また、熊澤監督の演出は非常に細かいんです。こちらが「もういいだろう?」と思ってしまうくらい細かくて、時には“手の位置”を演出されたこともありました。「もうちょっと、ここ」「あ、そこ」「というかここ!ここに持ってきて!」と言われ、その通りにすると「あ、ちょっと低いね?」と返ってきたのを覚えています(笑)。

ただ、細かいからこそ映像における粗も少ないですし、完成した作品を確認すると、やはり「細かく演出を受けた意味がある」と納得できる、観るものに対する“説得力”がある画で構成されているんだとわかりました。また役柄の感情に関する演出についても非常に細かく、ですが的確に伝えてくださるので、俳優側としても演じやすかったです。

“刑事”という役柄と“男臭さ”


(C)Cinemarche

──先ほどご自身でも触れられていましたが、工藤さんはこれまで多くの作品で“刑事”或いは“警察官”という役柄を演じられてきました。本作で演じられた“交番勤務上がりの新人刑事”という役柄にはどのような思いを抱かれていますか?

工藤:“刑事”としては「新人」と呼ばれているけれど、“警察官”としては新人じゃない…微妙な立ち位置の役柄ではありますね(笑)。

ただ、“刑事”という役は誰でもできるわけじゃないと思うことはあります。“貫禄”というものがない限り、ある程度体も鍛えてないと様にならないと感じていますし、もともと体も大きいので、その点において自分は得をしているのではと捉えています。

また刑事を演じられる方の多くは、“男臭さ”をお芝居の中で意識されていると感じているんですが、実は僕も、“男臭い俳優”になりたいと思っているんです(笑)。だからこそ、それを意識できる“刑事”という役柄を若いうちから演じさせていただけることは、非常にありがたく感じています。当然、実際に演じてみなくてはわからない部分もありますから。

──“男臭さ”とは、具体的にどのようなイメージなのでしょう?

工藤:一度、熊澤監督に「このドラマをほかの作品で例えるなら、何ですか?」と尋ねたことがあったんですが、監督は『セブン』(1995)と答えたんです。ブラッド・ピットが主演を務めたあの映画です。たとえば、その『セブン』で描かれているような“男臭さ”にとてもあこがれるんです。

僕には同性、男から「カッコいい」と言われたいという願望があるのかもしれません。もちろん女性、異性から言われるのも非常に嬉しいですが、同性に信頼され「カッコいい」と認められるということは、それだけ“男”として認められているといえますから。本作もある意味では、“男臭い”ドラマと観ることができると思います(笑)。

“きっかけ”を与えられる人間/俳優になる


(C) Cinemarche

──工藤さんにとって、ご自身が“俳優”という仕事を続けられる理由は何だと感じていますか?

工藤:もちろん、好きだからこそ“俳優”という仕事を続けていますし、僕が僕である限り経験することができない、他人の人生を体現させてもらえる点に魅力があると感じています。

またキャストやスタッフ全員で一つの作品を作るために、それぞれの全力をぶつけあっている際のエネルギー量やディスカッションの雰囲気、何より、完成したドラマに対し視聴者の方々からさまざまな反応をいただける喜びにも、俳優を続けられる要因があります。とくにその反応の中で、「面白い」「元気をもらえました」「救われました」といった言葉をいただけることは、一番大きいかもしれないですね。

僕はこの仕事を辞めたいと感じたことは一度もないんです。もしそう感じたらすぐ辞めると思うし、そういった意味では、いま非常にいい環境でお仕事をさせていただいてます。

いつか自分も人に“きっかけ”を与えられる人間、そして俳優になりたいと思いながら仕事を続けているため、それが僕にとっての“俳優”のモチベーションだと考えています。また家族の存在も大きいですね。それがあるから、楽しく作品と向き合えているんだと思います。

インタビュー・撮影/桂伸也

工藤阿須加のプロフィール


(C)Cinemarche

工藤阿須加(くどうあすか)

1991年生まれ、埼玉県出身。2013年に、NHKの大河ドラマ『八重の桜』で本格俳優デビュー。 その後もドラマ・映画で活躍し、2014年には第24回日本映画批評家大賞の新人男優賞を受賞しました。また2018年には『ザ・ブラックカンパニー』でドラマ初主演を務めました。

近年の出演作にはドラマ『明日の約束』(フジテレビ)、『ニッポンノワール-刑事Yの反乱-』(日本テレビ)、NHKの連続テレビ小説『あさが来た』『なつぞら』など。また新春放送ドラマ『教場』(フジテレビ)では、メインキャストの一人として出演。さらに日本テレビ系の情報番組『ZIP!』の水曜メインパーソナリティーを務めています。

ドラマ『連続殺人鬼カエル男』の作品情報

【放送・配信日時】
(カンテレ)2020年1月9日より、毎週木曜・深夜0時25分〜0時55分
※第1回放送は9日(木)24:40~25:10となります。
※放送時間が変更になる可能性がございますので、ドラマ公式サイトでご確認ください。
(U-NEXT)2020年1月10日より、毎週金曜・10時00分独占配信

【放送地域・配信サイト】
カンテレ(関西ローカル)、U-NEXT

【原作】
宝島社文庫:『連続殺人鬼カエル男』(中山七里)

【監督】
熊澤尚人

【キャスト】
工藤阿須加、鶴見辰吾、野波麻帆、前田航基、水澤紳吾、永岡佑、希志真ロイ、堺小春、吉澤健、嶋田久作

【作品概要】
カンテレ・U-NEXTによるミステリードラマシリーズ「『このミス』大賞ドラマシリーズ」第四弾作品。中山七里のミステリー小説を基に、正体不明の連続猟奇殺人鬼を追う二人の刑事の姿を、周囲の人々とともに描きます。

主人公・古手川和也役を工藤阿須加、古手川の先輩でベテラン刑事の渡瀬役を鶴見辰吾が担当。さらに事件を取り巻くさまざまな人々として野波麻帆、前田航基、水澤紳吾、嶋田久作ら個性派俳優が出演しています。

ドラマ『連続殺人鬼カエル男』のあらすじ


(C)2019 U-NEXT/カンテレ

ある日、荒れ果てたマンションの高層階で、軒に吊された一人の女性の死体が見つかりました。

死体が包まれていたシートの内側には「きょう、かえるをつかまえたよ。みのむしにしてみよう」とまるで幼児が書いたかのような稚拙な犯行声明文が。

猟奇殺人事件として大々的に報道するマスコミ関係者たち。交番勤務から新人刑事となった古手川は、バディを組むベテランの渡瀬刑事と犯人を追いはじめますが、何の手がかりも掴めないままに、同一犯とされる第2の猟奇殺人が起きてしまいます。

現場からは無残な死体の傍らに同様のメモが。犯人は「カエル男」と呼ばれ、マスコミの過熱報道の勢いもあって街の住人たちを恐怖と混乱の渦に陥れていくのでした。

果たして古手川と渡瀬は「カエル男」を捕まえることができるのでしょうか…?

映画『連続殺人鬼カエル男』は2020年1月9日(木)よりカンテレで放送、10日(金)よりU-NEXTで配信開始!




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