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Entry 2019/12/03
Update

【三浦貴大インタビュー】映画『ゴーストマスター』ヤングポール監督への信頼が俳優の仕事への“集中”を生んだ

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『ゴーストマスター』は2019年12月6日(金)より、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!

映像企画発掘コンペ「TSUTAYA CREATERS’PROGRAM FILM 2016」で準グランプリを受賞。その後、各国の映画祭に出品され、世界の映画ファンから“究極の映画愛”を描いた作品として熱い支持を集めたホラー映画『ゴーストマスター』

悪霊によって地獄絵図と化した「壁ドン」映画の撮影現場を舞台に描かれる映画への“愛”、そしてともにある“憎しみ”をも描ききったヤングポール監督の長編デビュー作です。


(C)Cinemarche

そして本作の主人公にして、ホラー映画を愛するも映画監督になれずにいる助監督・黒沢明を演じたのが、俳優の三浦貴大さんです。

本作の劇場での公開を記念し、このたび三浦貴大さんにインタビューを行いました。

同年代の映画人であるヤングポール監督と築いていった奇妙で楽しい信頼関係、俳優としての在り方や演技への取り組みなど、様々なお話を伺うことができました。

脚本から予感した面白さ


(C)2019「ゴーストマスター」製作委員会

──最初に脚本を読んだときの印象はいかがでしたか?

三浦貴大(以下、三浦):ホラー映画の描写はシナリオ上の文字の状態だと、読んでもなかなか作品の出来上がりの想像がつかなくて。そのことに興味が湧きました。「実際に映像になったらどうなるのだろうか」という興味です。

ただ本作はホラー映画ではあるのですが、一方で黒沢の映画愛が駆け抜けていくという側面から捉えると、青春映画でもある。また「壁ドン映画」の要素も物語には組み入れています。そういう複合的な視点からも、「完成したら面白そうだ」という予感がありました。

同い年のヤングポール監督への思い

ヤングポール監督(1985年生まれ)


(C)Cinemarche

──ヤングポール監督の印象や、監督との現場のやり取りなどについてお聞かせください。

三浦:実はヤングポール監督と僕は同じ歳なんです(笑)。同じ歳の監督とお仕事をご一緒するという機会は滅多になくて、とても新鮮でしたし、同じ歳の気安さもあって意思の疎通も取りやすく、現場では非常にやりやすかったです。

撮影の途中では、キャストもスタッフもベテランの方が多かったこともあり、「本当にヤングポール監督がやりたいことが実現できているのだろうか」と心配になったことがありました。ちょうど共演した成海璃子さんも同じことを感じていたため、撮影期間中に1度、ヤングポール監督と成海さんと3人で飲みに行ったんです。

そして「僕らは監督のやりたいことをこの作品で実現してほしいと思っているけれど、本当にできてますか?」と尋ねたんです。そうしたら僕らの心配をよそに、ヤングポール監督は「全然できてますよ」と答えてくれました。

僕にとっては現場での監督による演出が全てです。その場では演出の理由が分からなくとも、監督自身が望み通りにやってもらうのが一番だと思っています。

──そのヤングポール監督の演出は、面白さと奇妙さが入り混じる魅力的なものばかりでした。屋上での“人力スローモーション”の場面も印象的です。

三浦:当時「人力でスローモーションをやってくれ」と言われた際には「人力でスローモーション??」と感じたんですが、それも今の自分は分からなくても、きっと編集によって見えてくるものがあるはずだから、とにかくやってみようと思い至りました。

でも、あの場面の撮影は確かに奇妙でしたが、それ以上に楽しかったですね。監督はとにかく発想が豊かで、それゆえに撮影は全体的に奇妙さに満ちていました(笑)。

──ヤングポール監督の“奇想”が発揮されているという点では、あずきのバーでの格闘シーンも強烈でしたね。

三浦:主人公・黒沢のヒロインである真菜とゴーストと化した勇也が戦う場面で、脚本に書かれていた「あずきのバーで戦う」のト書きを初めて目にした時は「あずきのバーで??どうやって??」となりました(笑)。

ちなみに、実際に撮影で用いられたあずきのバーは、実物より少し大き目なんですよ。「これ、違和感を与えないかな?」と感じつつも「でも、ヤングポール監督がやる気でいるから大丈夫か」という信頼感もありました。そのぐらい撮影が楽しかったんです。

「リアルさ」が存在した撮影現場


(C)2019「ゴーストマスター」製作委員会

──撮影のクランク・インはどの場面からでしたか?

三浦:ほぼ順撮り、シナリオの通りに撮っていきました。なので最初は、壁ドンの場面です。自分がいつも関わっている映画の現場にいるような、リアルな感覚がありました。一方で「後々ここが血みどろになって行くのか」と考えていました。

──この映画を支えているものの一つには、今仰ったような劇中における映画の撮影現場の“リアルさ”があるといえます。

三浦:そうですね、最初の壁ドンから繰り広げられる撮影現場の風景は、本当に全てがリアルでした。

低予算の現場は、まさにあんな感じなんです。監督も全員がそうではありませんが、ああいった方はいらっしゃるし、プロデューサーも同様です。そして突然面倒なことを言い出す役者さんだったり、それら全てに「リアルだなぁ…」と感じていました。

そして自分が演じさせていただいた助監督の主人公・黒沢明も、自分がこれまでに出会ってきた助監督の方々を思い出し、「助監督」と呼ばれる人格の集合体として黒沢の役作りをし、演じていきました。

「俳優・三浦貴大」として


(C)2019「ゴーストマスター」製作委員会

──助監督・黒沢明を演じる中で、泥水に入ったり、地べたを這ったり、さらに特殊メイクと多くのハードな撮影に対し、三浦さんは体当たりで臨まれました。

三浦:自分はカッコいい役よりも、普通の人、例えば汚い役だったり、少しコミカルな役のほうが演じていて楽しいんです。本作で演じさせていただいた黒沢もまた「普通の人」の一人です。

映画が好きで、監督になりたいけれど、なれない。加えて日々の現場はつらい。“世界のクロサワ(黒澤明監督)”と同じ名をもち、皮肉にも映画に魅了され同じ世界を目指している黒沢は、秀でた能力はないけれど映画が大好きで、それゆえに現場にしがみつきながら、「いつか」を夢見て生きている。

そして撮影の途中で逃げ出してしまうという事件は、決して特別なことなどではなく、実際の現場ではよくあることなんです。そういった映画撮影の“現実”も、監督は描いているんです。


(C)2019「ゴーストマスター」製作委員会

──共演した成海璃子さんについて、お聞かせください。

三浦:役者さんには色々なタイプがありますが、僕は職人的な役者さんに対して非常に憧れを持っています。

撮影現場に入ったら、それぞれの役者の私生活は関係ない。現場に私生活を持ち込むことなく、要求されたことに関して全力を尽くす。成海さんはまさにこの職人タイプの役者さんで、現場でも頼り甲斐がありました。

──成海さん演じる真菜には“父親”の要素が出ていると触れられていましたが、“父親”という点では、三浦さん自身にも重なるところがあったのではないでしょうか。

三浦:確かにそうですね。ただ自分にとって、俳優は「何もない0の状態から1を作る」という仕事ではないと割り切っています。

監督の演出があって、脚本があって、その中で僕は取り組んでいく。その中で作品を観てくださった方から「顔が似ているね」「声が似てる」と言われることがあっても、「まあ、家族だからね」と受け取っています(笑)。

監督への信頼が生んだ「集中」


(C)Cinemarche

──本作の撮影を終えてのご感想を、改めてお聞かせ願えますか?

三浦:本当に日々目まぐるしい撮影現場だったので、戸惑う時間もほぼなく、一気に色々なことが過ぎていったと感じています。

その中で僕は、ひたすら黒沢という人間の心や感情の流れに集中し続けました。そこに集中できるという点が、映像のいいところだと思っています。「僕は黒沢を演じるという行為に集中する」「後は監督がキッチリ繋げてくれる」という信頼感の中で取り組んでいきました。

──三浦さんにとっての演技における“集中”について、より詳しく教えていただけますか。それは脚本を読んだ段階から、演技プランを立てていくプロセスの中で生まれるのでしょうか。

三浦:もちろん脚本から分析して、その役がとる“行動”を作ってゆくということはありますが、むしろ、あまり作りすぎずに現場に向かうように心がけています。

「その役になりきって」という意味での“気持ち”による芝居はしていません。あくまで、僕にとって「その気持ちに“みえる”」というベストの姿へと向かっていくことに努めています。

例えばアクションの場合も、あまりに綺麗なパンチを打つと、全然迫力が伝わらない。だからあえて大振りにする。それと同様に、僕が本当に悲しい気持ちになっても、実は悲しく見えていないこともある。だからこそ、「悲しい気持ちの時、外見はこうなる」と分析したり、そういう風に見えること、映ることを一番意識しているんです。

──インタビューの最後に、これから映画『ゴーストマスター』をご覧になる方々に向けてのメッセージをお願いいたします。

三浦:この映画はホラー映画である一方で、黒沢と成海さん演じる真菜の二人の心の動きを感じてもらえる青春映画という側面もあります。

ホラー映画が好きな方はもちろん、普段なかなかホラー映画を観ない方にも、是非劇場に足を運んでもらって、二人の心を感じてもらいたいなと思っています。

インタビュー/出町光識
構成/くぼたなほこ
撮影/河合のび

三浦貴大のプロフィール

1985年生まれ、東京都出身。『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(2010)で俳優デビュー。同作で第35回報知映画賞新人賞、第34回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞を果たしました。

その後も数多くの映画・ドラマに出演し、若手実力派の地位を確立。近年の主な映画出演作には「進撃の巨人」シリーズ(2015)、『怒り』(2016)、『追憶』(2017)、『四月の永い夢』(2018)、『のみとり侍』(2018)、『ダンスウィズミー』(2019)などがあります。

また2020年2月には『初恋』、2021年には『大綱引きの恋』の公開が予定されています。

映画『ゴーストマスター』の作品情報

【公開】
2019年12月6日(日本映画)

【監督】
ヤングポール

【脚本】
楠木一郎、ヤングポール

【キャスト】
三浦貴大、成海璃子、板垣瑞生、永尾まりや、原嶋元久、寺中寿之、篠原信一、川瀬陽太、柴本幸、森下能幸、手塚とおる、麿赤兒

【作品概要】
安易な恋愛青春映画の撮影現場が、血みどろホラーの舞台へと変貌。やがて物語は映画製作への熱い愛を語り始める。怒涛のクライマックスへ向け突っ走る、ホラー・コメディ映画。

監督はアメリカ人の父と日本人の母を持つヤングポール。黒沢清監督に師事し、東京芸術大学大学院修了製作の映画『真夜中の羊』は、フランクフルト映画祭・ハンブルク映画祭で上映されています。

その後イギリスのレイダンス映画祭では、「今注目すべき7人の日本人インデペンデント映画監督」の1人に選出され、『それでも僕は君が好き』などドラマの演出にも活躍中です。

三浦貴夫と成海璃子が主演を務め、2人をとりまく撮影現場の俳優・スタッフ陣を、川瀬陽太・森下能幸・手塚とおる・麿赤兒など個性派俳優たちが固めます。

映画『ゴーストマスター』のあらすじ


(C)2019「ゴーストマスター」製作委員会

とある廃校で撮影中の人気コミック映画化作品、通称「ボクキョー」こと『僕に今日、天使の君が舞い降りた』。その現場には監督やスタッフからこき使われる、助監督・黒沢明(三浦貴大)の姿がありました。

日本映画代表する巨匠と同じ名を持つ黒沢ですが、本人はB級ホラー映画を熱烈に愛する気弱な映画オタク。今日も現場で散々な目に遭わされますが、いつか監督として映画を撮らせるとの、プロデューサーの言葉を信じて耐え忍んでいます。

黒沢の心の支えは、自分が監督として撮る映画『ゴーストマスター』の書き溜めた脚本。それ敬愛する、トビー・フーパー監督の『スペースバンパイア』にオマージュを捧げた作品でした。彼はそれを肌身離さず持ち、手を加え続けていました。

ところが「ボクキョー」の撮影は、主演人気俳優が“壁ドン”シーンに悩んで撮影が中断。皆の不満は黒沢へと集中します。それでも黒沢は、出演女優の渡良瀬真菜(成海璃子)に自分が撮る映画、『ゴーストマスター』への熱い想いを伝える事が出来ました。

ところが黒沢に対し、真菜は厳しい言葉を浴びせます。さらにプロデューサーは彼に映画を撮らせる気など無いと知り、黒沢は絶望のどん底へと突き落とされます。

黒沢の不満と怨念のような映画愛は、『ゴーストマスター』の脚本に憑依します。悪霊を宿した脚本は、キラキラ恋愛映画の撮影現場を、血みどろの惨状に変えてゆきます。

どうすればこの恐怖の現場から逃れられるのか、悪霊と化した脚本を浄化させる事ができるのか。残された者たちの、映画への情熱が試される…。

映画『ゴーストマスター』は2019年12月6日(金)より、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!




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