2013年度本屋大賞第1位を獲得した百田尚樹のベストセラー小説を映画化『海賊とよばれた男』
映画『海賊とよばれた男』は、出光興産の創業者の出光佐三をモデルにした主人公を国岡鐵造を岡田准一が演じ、そのほかのキャストに吉岡秀隆、染谷将太、綾瀬はるか、堤真一が共演。
まだ主要燃料石炭だった頃から、石油に将来性を求めたいた国岡鐡造は、北九州の門司で石油業に参画します。
しかし、国岡鐡造はの前には、国内の販売業者や海外の石油メジャーなど、様々な壁が立ちふさがります。
百田原作の「永遠の0」をヒットさせた岡田准一主演、演出の山崎貴監督が再タッグを組んだ『海賊とよばれた男』とは…。
映画『海賊とよばれた男』作品情報
【公開】
2016年(日本)
【監督】
山崎貴
【キャスト】
岡田准一、吉岡秀隆、染谷将太、鈴木亮平、野間口徹、ピエール瀧、須田邦裕、飯田基祐、小林隆、矢島健一、黒木華、浅野和之光石研、綾瀬はるか。堤真一、近藤正臣、國村隼、小林薫
【作品概要】
2013年度本屋大賞で第1位を獲得した百田尚樹のベストセラー小説を、主演に岡田准一、演出は山崎貴監督で映画化。
映画『海賊とよばれた男』あらすじとネタバレ
海賊
1945年。空襲により焼け野原になった東京。この先、倒産の可能性もありうる国岡商店の本社ビルで、社長である国岡鐡造が従業員に「誰ひとり首にはしない」と宣言していました。仕事がなければ作ればよい。それが国岡鐡造の考え方でした。
1912年。機械油の商いを営んでいる27才の鐡造。これからは石油中心の時代がくるという展望を持ち、商売の幅を広げようと多くの工場へ出向きます。しかし、新参者が安易に介入できる業界ではなく、資金もあと2カ月で底をつくという状態でした。
鐡造の能力を高く買い、出資者でもある木田章太郎は、自分の神戸の別荘を売るから、そのお金で商売を続けろと言います。申し訳なさに頭を下げる鐡造。先の不安に押しつぶされそうになり、海を眺めていた鐡造に、あるアイデアがひらめきました。
それは、灯油を船の燃料とする漁師達に、安価の軽油を販売するというものでした。陸のように縄張りもなく、自由に商売できるのも利点です。鐡造の商いはまたたく間に評判となり、海上の鐡造の姿は、いつしか「海賊」と呼ばれるようになります。
そんな鐡造を崇拝する、漁師の長谷部とライバル会社の東雲が、国岡商店で働かせてほしいとやって来ます。鐡造は、兄の薦めによりユキという女性を妻に迎えます。
その後、石油の商売が低迷した国岡商店は、GHQにある200万台のラジオの修理を請け負うことで倒産の危機を免れました。そこに東雲ら数人が、戦地より帰国します。
国岡商店に、新たな問題が持ち上がりました。石油の輸入再開の条件としてGHQが提示したのは、国内に備蓄された石油2万トンを先にさばくことというものでした。
地下の石油は、商品になるかも怪しい泥にまみれたものでした。それをポンプでくみ上げなければなりません。石油統制配給会社である「石統」の総裁・鳥川は、そんなことをしても無駄だと言いますが、鐡造は信念を曲げず、東雲達とやり遂げます。
石油戦争
GHQで通訳として働く武知が、国岡商店で働きたいとやって来ます。武知は、国岡商店の追放を企む石統に気をつけろと言います。しかし、GHQの司令官は石統を退けます。司令官は、泥まみれで石油をくみ上げる鐡造達の姿を見ていたのでした。
1917年。32才の鐡造は、満州鉄道の御用達になるため、長谷部と共に大連の本社に乗り込みます。寒さの中では凍りやすいという車軸油の欠点を知った鐡造は、新しい車軸油を調合。他社との競合テストの結果、国岡商店の車軸油が選ばれました。
ところがメジャー系企業は、国岡商店の商品を使えば全取引中止にするという嫌がらせを仕掛けてきます。これには満州鉄道本社も手を引かざるを得なくなり、結局、鐡造と長谷部は失意のまま帰国の途につきます。
家に戻るとユキの姿がありません。ユキは、跡継ぎもできないまま、鐡造が仕事漬けで孤独だったという置手紙を残し、実家に帰ってしまったのです。「ユキの代わりを見つけてやる」とあっさり言う兄。鐡造は怒りと悲しみで兄に殴りかかります。
1941年、太平洋戦争が勃発。その翌年57才になった鐡造は、石統が提出した南アジア国策事業の計画書に疑惑を抱きます。内容が石統の利権一色なのです。それを知った陸軍は、国岡商店を取引業者に指定。鳥川は、この事件で鐡造への憎しみを決定的なものとします。
そんな頃、南方での仕事を任された長谷部の搭乗機が、米軍に攻撃され炎上します。東雲から知らせを受けた鐡造は、全身を震わせ号泣するのでした。
1947年。鐡造は石油販売の指定業者となり、メジャー提携を持ちかけられます。しかし、その条件は株50%の譲渡です。激高する鐡造。「それは買収だ。石油は国の血液だ」と言う鐡造に、鳥川は「あんた、昔は海賊と言われていたそうだな」と言います。
『海賊とよばれた男』の感想と評価
2013年本屋大賞に輝いた、ご存じ百田尚樹によるベストセラー歴史小説の映画化。上下巻およそ800ページを145分に収めるのですから、数ある珠玉のエピソードをどう選択、料理するのか。原作ファンなら非常に気になるところです。
この物語が、出光興産の創業者・出光佐三氏の人生をモデルにしているという事実には圧倒されるばかりです。今のこの国が存在するのは、戦争の中を生き抜いた日本人が成し遂げた復興あってこそなのだと、改めて痛感しました。
骨太な男達の物語の中に、繊細な色合いを添えるのが鐡造の妻ユキのエピソードです。しかし、鐡造の病床に孫らしき子ども達がいるにも関わらず、二番目の妻の存在がストーリーから完全に排除されているのが残念といえば残念でした。
長い物には巻かれない男、国岡鐡造。その熱い人柄と破天荒な生き様は、まさに人間力MAXとでも言いましょうか。従業員は鐡造のことを「社長」ではなく「店主」と呼び、日承丸の船員達ですら、鐡造のためなら航海で命を懸けることを惜しみません。
組織で働く人間であれば、「自分の上司もこんなだったら…」、あるいは「こんな管理職になれたら…」などと、素直に妄想してしまいそうです。しかしマニュアル化できない鐡造のマネージメント力は、「統率力」や「根性」とも違うように思えます。
一歩間違えば国益を損ねるかもしれないその戦略も、鐡造にとっては第一に消費者のため、ひいては日本のためです。その展望の大きさゆえに、従業員のみならず、商売仇までもが魅了されたのではないでしょうか。
まとめ
シリーズ化された『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)や、『寄生獣』(2014)などの大ヒット作で知られる山崎監督が、2014年年間邦画興行収入第一位を記録した『永遠の0』(2013)のスタッフと再び取り組んだ作品です。
まるで『永遠の0』の続編のような気分になった、鐡造役の岡田准一。二十代から九十代までを一人で演じきるという頑張りようですが、中年以降は特殊メイク及びCGに頼らざるをえないため、もう少し年上の役者でもよかったような気もします。
東京大空襲、満州鉄道、イランのアバダンなど、『ALWAYS 三丁目の夕日』の約3倍とされるVFX技術が圧巻の迫力です。リアリティを追及したというB29の飛行シーンも、空中にばら撒かれて火を噴く焼夷弾の映像には背筋が寒くなりました。
劇中で鐡造が「誰ひとり首にはしない」と言うように、出光氏による実際の経営方針も「解雇者ゼロ、定年なし」だったそうです。そんな型破りな生き方で明治、大正、昭和を駆け抜けた一人の海賊。今の時代だからこそ、彼から学べることは多そうです。