連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile078
TSUTAYAが毎年開催する、映像クリエイターの発掘企画「TSUTAYA CREATERS’PROGRAM」。
2015年のグランプリとなった作品企画が、長澤まさみと高橋一生を主演に『嘘を愛する女』(2018)として実際に製作されるなど邦画好きには大注目のこの企画。
今回は、2016年の「TSUTAYA CREATERS’PROGRAM」において準グランプリを受賞し、三浦貴大と成海璃子をダブル主演として映像化されたホラーコメディ映画『ゴーストマスター』(2019)の魅力をご紹介させていただきます。
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CONTENTS
映画『ゴーストマスター』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【監督】
ヤングポール
【キャスト】
三浦貴大、成海璃子、板垣瑞生、永尾まりや、篠原信一、手塚とおる、麿赤兒、原嶋元久
映画『ゴーストマスター』のあらすじ
映画「僕に今日、天使の君が舞い降りた」の撮影のため高校の廃墟に集まった制作陣と俳優たち。
クライマックスであり作品の目玉でもある「壁ドン」シーンの撮影の最中、主演であり人気俳優の桜庭勇也(板垣瑞生)がありきたりな若者向け恋愛映画の脚本に辟易し、現場を投げ出したことで撮影が中断されてしまいます。
続くトラブルに耐えきれなくなったスタッフたちも現場を投げ出そうとする中、雑用ばかりさせられる名ばかり助監督の黒沢明(三浦貴大)が温めていた映画「ゴーストマスター」の企画書兼脚本に悪霊が宿ってしまい…。
異常なほどの映画愛が魅せる狂気
アメリカ人の父と日本人の母を持つヤングポール監督が「TSUTAYA CREATERS’PROGRAM 2016」で準グランプリを受賞し、長編映像化の際もメガホンを取った映画『ゴーストマスター』。
イギリスで選定された「今注目すべき7人の日本人インデペンデント映画監督」にも選ばれた経験のあるヤングポール監督の長編デビュー作となった本作は、狂気とも言える監督の「映画愛」が伝わってくるような作品でした。
劇中に登場する映画「僕に今日、天使の君が舞い降りた」の主演俳優、桜庭勇也は「イケメン俳優」としての需要の高さから、プロデューサーは「胸キュン」のみを狙った脚本を用意します。
しかし、同様の作品ばかりに出演してきた桜庭勇也は突如撮影を中断し、「壁ドン」の真の意味を突き止めるため異常な行動に出ます。
一方、主人公の黒沢明は『悪魔のいけにえ』(1974)で有名なトビー・フーパーを崇拝する助監督ですが、映画にかける情熱こそあれど自身の才能の無さを信じ切れずにいました。
彼の映画への愛憎が解き放たれた時、誰よりも真剣に映画に取り込もうとしていた桜庭勇也を中心に物語が悲劇へと進行することになります。
他にもプロデューサーや助演の女優、カメラマンや監督など映画に関わる様々な役職が、良くも悪くも全く違う作品への「想い」を込めて動く様相は、邦画の「ある映画」にも繋がっていました。
園子温映画『地獄でなぜ悪い』(2013)との比較
本作は悪霊に乗り移られた人物が映画関係者を次々と殺害していく「ホラー」要素の他に、その様子を全力で撮影することで危機を乗り越えていくシュールな「コメディ」の要素が合わさっています。
“映画愛”をテーマに「スプラッタ」の要素とシュールな「コメディ」を掛け合わせた映画と言えば、園子温監督による映画『地獄でなぜ悪い』(2013)が思い浮かびます。
『ゴーストマスター』と『地獄でなぜ悪い』は、映画にかける強すぎる気持ちが異常な撮影現場を正当化していると言う展開の「面白さ」の方向性が根幹での繋がりを持っていました。
一方は悪霊による惨殺の現場であり、一方はヤクザの抗争現場。
「なぜそんな場所で撮影を…」と言うもっともらしい考えも真剣すぎる撮影の前には意味を成さず、悪霊でもヤクザでも「出演者」として最高のパフォーマンスを求められ、強者であるはずの存在が主導権を制作陣に握られていく様子が両作ともに見どころと言えます。
しかし、『ゴーストマスター』で悪霊の撮影を敢行する黒沢明は生き残るためのがむしゃらな気持ちで始めたことに対し、『地獄でなぜ悪い』の監督役の平田は撮影開始の段階からすでに「狂気」に落ちています。
この両作の違いは映画監督として若いヤングポール監督と、ベテラン監督である園子温監督の撮影現場の「見方」の違いであるとも言え、映画に対する「愛」の気持ちが全く異なって現れていました。
「二世俳優」の意地が滲み出る全力の演技
成海璃子が演じる本作のヒロイン、渡良瀬真菜は父に往年のアクション映画スターを持つ、いわゆる「二世俳優」と呼ばれる女優ですが、当人は「父の力」の影響を拒み、純粋な演技派としての意地からアクション面での活動をしてきませんでした。
演技に対する「プライド」を持つ彼女があるきっかけで「プライド」を傷つけられたことにより、絶望の中で成長していく物語も本作の魅力ではありますが、本作を語る上でこの脚本が「キャスティング」にも大きく意味を持たせていることにも注目できます。
主人公の黒沢明を演じる三浦貴大は名優、三浦友和と山口百恵を両親に持つ「二世俳優」の1人。
このキャスティングは劇中の渡良瀬真菜と現実の三浦貴大の「繋がり」を感じさせ、脚本に深みを与えています。
自身の俳優としての実力の裏に確かについて回る「父の力」。
しかし、「父の力」を吸収し自身の力にしていく渡良瀬真菜のように、三浦貴大もボロボロになりながらも映画に挑もうとする黒沢明を全力で演じており、熱さと静かな演技を巧みに使い分ける彼の魅力が作中とリンクする、俳優としての意地が魅力を持つ作品でした。
まとめ
良い方面でも悪い方面でも撮影現場の全てをさらけ出し、そのすべてを“映画愛”でぶっ壊すような破天荒なホラーコメディ映画『ゴーストマスター』。
不気味さやトビー・フーパー愛を確かに感じる造形の小道具を始めとしたビジュアルも鮮烈で、「映画」が好きな人にこそ観て欲しい作品となっています。
映画『ゴーストマスター』は2019年12月6日(金)より、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!
「狂気」とも言える過激な「映画愛」をぜひ劇場でご覧になってください。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile079では、童貞のまま30歳を迎え魔法使いになった男を描いた映画『魔法少年☆ワイルドバージン』(2019)をご紹介させていただきます。
12月4日(水)の掲載をお楽しみに!