自動車の知識無しでもレースの醍醐味を味わえる映画『フォードvsフェラーリ』
映画『フォードvsフェラーリ』は1966年のル・マン24時間耐久レースが舞台。
GT40を運転しフォード社を優勝へ導いた伝説のドライバー・ケン・マイルズと立役者・キャロル・シェルビーを描く実話を基にした物語です。
主演はマット・デイモンとクリスチャン・ベール。監督を務めたのは、『LOGAN/ローガン』(2017)のジェームズ・マンゴールドで脚本も共同執筆。
大手スタジオが底力を見せた手に汗握るエンターテイメント作品です。
映画『フォードvsフェラーリ』の作品情報
【公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Ford vs Ferrari
【監督】
ジェームズ・マンゴールド
【キャスト】
マット・デイモン、クリスチャン・ベール、ジョシュ・ルーカス、ジョン・バーンサル、カトリーナ・パルフ、トレイシー・レッツ、ノア・ジュープ
【作品概要】
『フォードvsフェラーリ』のレースシーンは、6ヶ所のロケ地でゼロから建造したセットで撮影。冒頭のフォード社製造工場を撮影する為、2年掛けて当時使われた本物を収集。
1960年代後半にレースで使用されたフェラーリ車は3千万ドル、GT40は2千万ドルと高額な為レプリカを製作し、プラクティカル・エフェクトを駆使して制作。
予告編で流れる曲は、グレタ・ヴァン・フリートの『Highway Tune』。
映画『フォードvsフェラーリ』のあらすじネタバレ
1959年、ル・マン。ドライバーのキャロル・シェルビーは、レーシングスーツに火が引火したことも気にせずレースを続行し優勝。
しかし、医者から心臓が持たないとドクターストップが掛かり引退を余儀なくされます。
ケン・マイルズは妻・モリーと息子・ピーターと暮らす車のメカニック。人に媚を売らないケンは、態度の悪い客に運転の仕方が問題だと指摘し怒らせてしまいますがお構いなし。
キャロルは、そんなケンが持つドライバーの才能を高く評価していました。
しかし、戦争に従軍したケンは、ポルシェから声が掛かっても、ドイツ人は嫌だと一蹴。キャロルは、スポンサー無しではレースに参加する車が供給されないとケンに忠告。
頑固なケンに腹を立てたキャロルは悪態をつき、馬鹿にされたケンは、キャロルにレンチを投げつけます。
キャロルは上手く交わし、レンチはレースに乗るはずの車のフロントガラスを破壊。
半分割れたままで運転するケンをからかう他のレーサーに、ケンは、新しいデザインだと素知らぬ顔です。
投げつけられたレンチを拾ったキャロルは、じっとレースを観戦。故障が続出する車をものともせず、ケンは見事な運転技術を見せて優勝。
フォード社のリー・アイアコッカは、スポーツカーが主流となる時代を迎えたとプレゼンテーション。
社長ヘンリー・フォード2世は、エンゾ・フェラーリこそ最高の車を製造した人物であり、ル・マンの勝利者というイメージがあると聞き興味を持ちます。
側近のレオ・ピーピーは、開発に長い年月が掛かると難色を示しますが、アイアコッカからフェラーリが破綻寸前だと聞いたフォード社長は買収を決定。
しかし、ル・マン参戦にこだわるフェラーリ―は、レースに関われない条項が気に入らず、散々フォード車や社長を馬鹿にして交渉は決裂。
フェラーリがより良い条件でフィアットに買収されたと新聞で読んだ後、フォード社長は所詮先代には勝てないとフェラーリが揶揄したことを知り、資金に糸目を付けずレーシングカーを開発すると宣言。
アイアコッカは、ル・マンを制した経験を持つ唯一のアメリカ人であるキャロルに接触し「どうすればル・マンで優勝できる?」と質問。
「ベストのドライバーはお金で買えない」キャロルはそう返答。
厳しいコースを24時間走るレースは過酷で、優秀なドライバーを抱えるフェラーリの車が連勝していると話すキャロルに、アイアコッカは、予算は青天井だと話します。
それを聞いたキャロルは態度を変え、卓越した能力を持つケンに会いに行きます。
「フォードがフェラーリに勝てる車を開発?200年から300年必要だって言ったか?」というケンの問いに、キャロルは、「いや、90日以内」と返答。ケンは大笑いして取り合いません。
マスタングの新モデルを披露する会場へキャロルから招待されたケンは、ピーターを連れて見学に来ます。
新車を一瞥したケンは、「秘書が乗る車」と一蹴しますが、ピーターはマスタングに大興奮。
すると上級管理職のビービーが塗装に気を付けてくれと苛立ちます。
ケンは、新モデルは改良が必要な酷い車だと一言。すっかり気分を害したビービーを見たアイアコッカは、ケンの態度を改めさせるようキャロルに忠告。
その夜、キャロルはケンを誘い、自分の指揮で開発したレーシングカー・GT-40を飛行場で試運転させます。相変わらず文句ばかり並べるケンですが、内心では感心していました。
前夜遅く帰宅したケンに腹を立てるモリーに、ケンは、1日200ドルで雇われたと報告。生活が困窮していた為、モリーはすっかり機嫌を直します。
テストドライブしながら次々に問題点を指摘するケンに、最初は眉をひそめるスタッフも、ラップタイムが早くなっていくのを見てケンの意見に耳を傾けるようになります。
ケンは、よりスピードを上げる為には大きなエンジンが必要だと注文。フォード社のエンジニアは新エンジンを開発してコンパクト化。
テストドライブしたケンは明らかな違いを体感し、ラップタイムの新記録を出します。
しかし、その様子を見ていたビービーは、フォードの社風にケンは合わないと表情を曇らせます。
キャロルは、レースで勝利する為には生粋のドライバーが必要であり、お金では買えないと言い返します。ケンはその素質を備えているとキャロルは主張しますが、ビービーは納得しません。
その年のル・マンには、別のドライバーがGT40を走らせることに。車の修理に励むケンがレースの動向をラジオで聞いている所へ、モリーが差し入れを持って訪れ、気落ちしている夫を気遣います。
結局フォード車はレースに惨敗。優勝したフェラーリに我慢できないフォード社長に呼び出されたキャロルは、レース中故障しなかったのはブレーキだけで更なる改良が必要であり、指揮系統を1つに絞るよう進言。
そして、直線ではGT40の方が早く、フェラーリはそれを知っていると断言。フォード社長は、「叩き潰せ」とキャロルを鼓舞。
ケンの自宅へ訪れたキャロルは、ル・マンに出場させるという約束を叶えられなかったことをケンに謝罪。
しかし、歩み寄らないケンに対し、企業政治にうんざりしていたキャロルも怒り爆発。
ケンがキャロルを殴り、2人は取っ組み合いに発展。やるだけやった2人にモリーがコーラを差し入れします。
「くそ野郎」「地獄へ落ちろ」そう言い合いながらコーラで乾杯するキャロルとケン。
その後、2人はGT40の問題点を1つ1つ解決していきます。
夜になってもケンがテストドライブに励む間、キャロルは、ケンを目の仇にするビービーがレースの責任者に就き、ケンの解雇通告を翌日に行うつもりだとアイアコッカから警告されます。
そこへブレーキが故障し、ケンの運転していた車が炎上。不燃性素材のドライバースーツを着用していたケンは、車から脱出し事なきを得ます。
スピードを追い求めパワーを備えたGT40はブレーキパッドの摩耗が激しい為、ブレーキ全体のデザインをし直すというエンジニアに対し、ケンは、ブレーキもパーツであり、レース中に交換可能だと主張。
一方、キャロルはケンを守る為、ハイリスクの賭けに出ることに。
翌日、ビービーを伴いフォード社長がキャロルのレーシングチームを訪問。案の定話があると言って来たビービーを、キャロルは自分のオフィスに閉じ込めます。
大金を注ぎ込んだGT40の乗り心地を体感してくださいと、フォード社長を助手席に乗せ、キャロルは高速でコースを走行。
「ギャーーー」泣き出したフォード社長の横で当惑するキャロルですが、レースに勝利したいのなら、ドライバーはケン以外に居らず、GT40の開発にも大きく貢献したことを訴えます。
レースに関してはビービーを責任者に任命したと言うフォード社長に対し、キャロルは、ケンをデイトナに参戦させ、優勝すればル・マンで走ることを許可し、もしケンが負ければ、自分の会社の所有権を譲渡すると説得。
映画『フォードvsフェラーリ』の感想と評価
本作は、1960年から1965年までル・マンの王座を独占していたフェラーリを破り、伝説と呼ばれる勝利をもたらしたキャロル・シェルビーとケン・マイルズの二人三脚を描いています。
ストーリーの中心はマット・デイモン演じるキャロルとクリスチャン・ベール扮するケンの友情ですが、他の登場人物との関係性が佳境に入るレースまで物語の重要な要素です。
数多く残されているキャロル・シェルビーのインタビュー動画を見て役作りしたデイモンは、話し方やしぐさが本人そっくり。
ベールはアダム・マッケイ監督と組んだ2018年の作品『バイス』の撮影直後に本作に参加。2ヶ月でチェイニーから細身のケン・マイルズまで減量しています。
また、俳優陣は皆脚本を読んで出演を決めたと話している通り、細かな構成が施されたアンサンブルキャストでもあります。
フォード社の創業者を祖父に持ち、企業運営の手腕を比較されて虚勢を張るヘンリー・フォード2世を巧みに演じて見せるのは、トレイシー・レッツ。
トニー賞やピューリッツァー賞を受賞し、自身が執筆した戯曲を基に『BUG/バグ』や『8月の家族たち』(2014)等の脚本も書き、作家としても成功を収めている実力派俳優です。
そして、何と言っても見所は、終盤のデイトナとル・マンのレース。迫力満点の連続シーンは、ベールの目を見張る演技と共に、監督・脚本の共同執筆を務めたジェームズ・マンゴールドの卓越した編集技術で高い臨場感を創出。
ル・マンのレース開始直前、車に乗り込む前にベールが周囲を見回す場面。側に立っていたドライバー達は、1966年のル・マン24時間耐久レース当日、実際にケン・マイルズの横に立ち共にレースを繰り広げたドライバーの実息達です。
大手スタジオの資金力が無ければここまでこだわって制作することは到底出来なかった映画であることは間違いありません。
ベストセラーの原作も続編の可能性も無い手作りのような作品に1億ドルの製作費を掛けるリスクを背負ったことは評価すべき点で、プレッシャーを一身に受けた筈のマンゴールドは見事良作を完成させています。
まとめ
ル・マンで優勝した唯一のアメリカ人レーサー、キャロル・シェルビーは持病で引退を余儀なくされ自ら車の開発を始めて起業。
一方、時代の転換期を迎えたフォード社は、車を売る為にレース参戦を模索しキャロルへ接触。偏屈で周りと協調しないケン・マイルズの才能を見出したキャロルは、身勝手な組織の論理から天才ドライバーを守ろうと奮闘します。
フェラーリにどうしても勝ちたかった男達を描く『フォードvsフェラーリ』は、車の知識無しでもレースの醍醐味を味わえるスポーツドラマです。劇場鑑賞マスト作品。