パリ、北駅に置かれた1台のピアノ。
そこから天才ピアニストは生まれた。
生い立ちに恵まれず、路地裏で暮らしてきた青年が、ピアノの才能を見出され、ピアニストとして成長していくサクセスストーリー。
ラフマニノフ、ショパン、バッハなど、クラシックの名曲の数々が、物語を盛り上げ感動を誘います。
どんな環境にあっても、夢を抱き叶えることが出来る。強いメッセージと、極上の音楽が散りばめられた映画『パリに見出されたピアニスト』を紹介します。
映画『パリに見出されたピアニスト』の作品情報
【日本公開】
2019年(フランス・ベルギー合作映画)
【監督】
ルドビク・バーナード
【キャスト】
ランベール・ウィルソン、クリスティン・スコット・トーマス、ジュール・ベンシェトリ、カリジャ・トゥーレ
【作品概要】
貧しい暮らしをしていた青年が、ピアノの才能を身出されピアニストに成長していく物語。
主演のジュール・ベンシェトリは、フランスを代表する俳優ジャン=ルイ・トランティニャンの孫で、父は映画監督サミュエル・ベンシェトリ、母は女優マリー・トランティニャンと、映画界のサラブレット。
共演の、『神々と男たち』のランベル・ウィルソンと、『イングリッシュ・ペイジェント』のクリスティン・スコット・トーマスの、実力派俳優の共演も見どころです。
映画『パリに見出されたピアニスト』のあらすじとネタバレ
パリ、北駅。そこに置かれた1台のピアノ。そこには「ご自由に演奏を!」と書かれています。
ピアノの前に座った青年は、パーカーに革ジャンを着た、ピアノには縁のない風貌です。名前は、マチュー・マリンスキー。
マチューは呼吸を整え、ピアノを弾き出します。曲はバッハの「平均律クラヴィーア曲集第1巻第2番ハ単調BWV847」。
駅校内の喧騒の中、そこだけ時間が止まって見えました。軽やかにそして激しく感情のこもった演奏は独創的でした。
その演奏に驚きの表情を浮かべ近づいてくる紳士がいます。同時に、警察が慌ただしくマチューを追ってきました。
ピアノを弾き終えたマチューは、静かなクラシックの世界から一気にロックンロールへと走り出します。駅のホームを走りまわり、警察から逃れます。
そう、マチューの暮らしは貧しく、路地裏の悪い仲間とつるんでは、金持ちの屋敷に強盗にはいっていたのでした。
そんなマチューでしたが、ピアノを弾くことは大好きでした。幼い頃ピアノを教えてくれた師との出会いは、マチューの人生を豊かにしてくれました。
いつものように警察の目を盗んで、パリ北駅でピアノ演奏にふけるマチュー。そこへ、以前、彼の演奏に立ち止まった紳士が、声をかけてきます。
パリの名門音楽学校コンセルヴァトワールでディレクターを務めるピエール・ゲイトナーでした。
マチューの才能に惚れ込んだピエールは、名刺を渡し、ピアノを習わないかと誘いますが、断られます。
マチューはとうとう警察に捕まってしまいました。実刑は免れない危機に、貰っていた名刺が功を制し、ピエールの学校で清掃の公益奉仕を条件に釈放となりました。
家族は感謝しますが、マチューは不服そうです。それは、清掃の前にピアノを習うことをピエールが提案したからです。
さらに、ピエールは女伯爵と異名を持つピアノ教師エリザベスのレッスンを受けることを条件に加えます。
ピエールは音楽学校のディレクターとして、コンクールでのここ何年かの成績の悪さを問われていました。ピエールはマチューをピアニストに育てる決心をします。
しかし、そんなピエールの熱意はマチューには伝わりません。エリザベスとの基礎練習に嫌気がさすマチューは、反発し努力をしようとしません。
エリザベスも、才能があっても努力をしない者は問題外と匙をなげます。
ピエールはマチューに「君はなぜピアノを弾くんだ」と、オーケストラの面々がいる前でピアノを弾いてみるように焚きつけます。
幼い頃、マチューにピアノを教えてくれた師はもうこの世にいません。師への敬意をこめ、マチューは心のままピアノに向かいます。
聞くものを感動させる力のあるマチューのピアノ。ピエールはマチューにピアノを続けることを勧めます。「音楽は君の人生の一部になり、もうすでに宿っているんだよ」。
ピエールは、周りの先生たちの反対を押し切って、国際ピアノコンクールの学院代表にマチューを選出。コンクールまで4カ月しかありません。
課題曲は、ラフマニノフの「ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調」。その屈指の美しい旋律は、ピアノ協奏曲のジャンルにおいて、最も人気のある最高傑作です。
楽譜を読めないマチュー。ピエール、エリザベスの指導により猛特訓の日々が始まります。
映画『パリに見出されたピアニスト』の感想と評価
恵まれない環境で育った青年が、才能を見出され、ピアニストとして成長していく姿に、自分も励まされ、応援する気持ちになります。
駅の「ご自由に演奏を!」と書かれたピアノが縁で、動き出すマチューの運命がドラマチックです。
マチューは、ピエールとエリザベスとの練習の日々で、ピアニストとして、また人間的にも成長していきます。
いかに、人生には学びが必要で、信頼し合えるメンターの存在は、自分を高める近道になることが伺えます。
ピアニストとして成長して行く中でマチューは、曲の細部に込められた作曲家の思いに触れ、今まで考えもしなかった自分の夢や感情に目覚めて行きます。
マチューがコンクールで弾いたラフマニノフの「ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調」。まさに、エリザベスの解説が、マチューの演奏に現れた瞬間でした。
第1楽章は、第1番で批判を浴びたラフマニノフの悲しみと苦悩を彷彿させるかのような旋律。マチューは自分の経験から得た感情を込めます。
第2楽章は、気付きと祈りの気持ちが込められています。抒情的な旋律にオーケストラの音色とピアノの音色溶けあい、息遣いがはっきりと聞こえてきました。
第3楽章は、感謝と希望に満ち溢れています。音楽の素晴らしさを称え、人生の喜びが感じられました。
盛大な全合奏で弾き終わる「ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調」。心揺さぶられる演奏に涙が流れました。
また、クラシックだけかと思いきや、かっこいいロックが流れるのも印象的です。マチューの現実の生活と、憧れる音楽の世界を、異なる音楽で表現しています。
マチューは始め、この2つの世界を別に考え、自分を偽っていました。そのことが彼を苦しめ、コンプレックスを引き起こします。
しかし、どちらの世界も彼を形作るものなのです。心のままに、違う世界に踏み出す勇気。努力するマチューに、周りも次第に彼を認めていきます。世界が広がったのです。
まとめ
パリ、北駅に置かれた「ご自由に演奏を!」と書かれた1台のピアノ。そこで才能を見出された不良青年の物語『パリに見出されたピアニスト』を紹介しました。
リストの「ハンガリー狂騒曲」や、ラフマニノフの「ピアノ協奏曲」など、クラシックの名曲の数々が登場し、物語を盛り上げます。
育った環境に関係なく、誰にでもチャンスはある。あなたの眠っている才能が目を出す時を、待っているかもしれません。
映画『パリに見出されたピアニスト』は、違う世界に踏み出す勇気と、学び努力することで、未来は拓けるということを教えてくれます。