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映画『馬を放つ』あらすじネタバレと感想。上映館情報も

  • Writer :
  • 福山京子

“馬は人間の翼である”と疾走する馬上で天を仰ぐ男は、古くから伝わる伝説を信じて夜になると馬を盗んでは野に放ちます。

映画『馬を放つ』は、第67回ベルリン国際映画祭のパノラマ部門で国際アートシネマ連盟賞に輝いた作品。

遊牧の民キルギスの今も語り継がれる魂を、アクタン・アリム・クバトが自ら演じ監督した映画『馬を放つ』をご紹介します。

映画『馬を放つ』の作品情報

【公開】
2017年(キルギス・フランス・ドイツ・オランダ・日本合作映画)

【原題】
CENTAUR

【監督】
アクタン・アリム・クバト

【キャスト】
アクタン・アリム・クバト、ヌラリー・トゥルスンコジョエフ、ザレマ・アサナリエヴァ、タアライカン・アバゾヴァ、イリム・カルムラトフ、ボロット・テンティミショフ、マクサト・マミルカノフ

【作品概要】
『あの娘と自転車に乗って』や『明りを灯す人』などで知られる名匠キルギスのアクタン・アリム・クバト監督が、主演と監督を務めた人間ドラマ。

第67回ベルリン国際映画祭のパノラマ部門で国際アートシネマ連盟賞を受賞しています。

映画『馬を放つ』のあらすじとネタバレ

ある夜、1人の男があたりの様子を窺いながら厩舎に近寄り、一頭の馬を逃しました。

広い荒野へ男は馬に乗り、天に駆けるが如く疾走して行きます。

翌朝、馬主の男が厩舎へ向かいます。「何故逃した⁈」警備員に怒りを爆発させるカラバイ。その馬は高値で買った競争馬でした。

「サディル仕業に違いない」「捕まえたら連絡をくれ!」馬泥棒で有名なサディルの仕業とカラバイは決めつけるように、警察と話します。

質素な部屋に妻マリパと5歳の息子ヌルベルディと3人で、微笑みながら食事をする男は、村人から“ケンタウロス”と呼ばれていました。

(父親のあなたがもっと話しかけて。誰とも遊ばないし、あなたの話しか聞かないのよ)

2人は手話で言葉を交わし、妻マリンバは言葉の障がいを持っています。

無口な息子に、いつもケンタウロスは「嘗て、向かう所敵なしだったキルギスの騎馬戦士。強さの秘密は戦士を乗せた馬。馬に翼を与えたのは馬の守護神、カムバルアタだ!」と、古くから伝わる言い伝えを語ります。
 
捕まったサディルは、カラバイ家の地下室へ連れて行かれます。

「お前が盗んだんだろう!」カラバイは暴力で追い詰めます。

サディルは血だらけになって「確かに俺は盗みを働くが、競走馬には手を出さない。盗むのは食肉用の馬だ!」と否定し続けます。

乾いた道の脇にある露店で、女性達が料理を売っています。「あんたのマクシム(手作りの発酵酒)は絶品だ」。

ケンタウロスは、顔馴染みのシャラバットからマクシムをもらい、飲み干します。

お互い目と目が合い、優しく微笑み合うと、周りの女達が意味あり気に見つめていました。

伝道師達がカラバイの家にやって来て、「メッカ巡礼の時期、行けば信者の義務が1つ果たせる。その費用を1人分援助すれば、罪が2度洗い流される。」と有無を言わさない様子でした。

邪険にできないカラバイは別室に案内し、強い口調で「馬が見つかるように祈ってくれ。祈りが叶ったとき費用を出す。」と言います。

数日後、村人から「群れに紛れ込んでいた。一目でカラバイの馬と分かった。」と馬が見つかった連絡が入り、カラバイは喜びに舞い踊り、伝道者達に「本当にありがとう。神の恵みとあんた達の祈りのおかげだ。」感謝を伝えます。

ある日、ケンタウロスはマクシムを買いに露店に立ち寄ると、シャラパットが帰り仕度をしていました。

家まで送って行く途中、2人は若い頃の話をはじめ、ケンタウロスが映写技師だったことや、シャラパットが映画を観に行ったことで盛り上がります。

「誰だ!この男は!」振り向くと、そこには馬泥棒のサディル、シャラパットとの男だったのです。

サディルは激怒し、馬上から何度もケンタウロスを鞭で打ちます。

その頃、シャラパットと同じ露店で働く女が、ケンタウロスの妻マリバのもとを訪ねてきます。

「あんたの旦那、女がいるよ、わかる?」と手話で伝えきれず、女は筆談で文字を書きますが、マリバが硬い表情で筆談で「ロシア語で書いて」と返します。

一方で、馬が無事に見つかり、カラバイはサディルに、「悪かった、サディル。許してくれ」と何度も謝ります。

しかし、サディルの表情は冴えないままでした。

「犯人が見つからなかったら、また俺のせいになる。このままじゃいつまで経っても俺が疑われる。真犯人を絶対に捕まえる!」サディルの目が異様に光ったまま話は続き、「あなたのライバルがすごい競走馬を買ったと噂を広めて、犯人をおびき寄せるって話どうですか?絶対食いつきますよ」。

それから2人は、厩舎で犯人を待ち伏せする日々が続きました。

ある日、ケンタウロスは今日も息子ヌルべルディに伝説を語ります。

「遥か昔、キルギスの民は意地悪なメレズ・ハーンに支配されていました。ある夜、馬の守護神カムバルアタが現れ、悪事を止めるように諭しました。メレズはカムバルアタを殺すように命じました。と途端にカムバルアタの姿は、煙のように消えてしまいました。幸せも豊かな国も一瞬にして亡くなりました。でもいつかきっと心の澄んだ男が現れて、許しを乞うために風の如く駿馬を駆け月夜を走り抜けるでしょう」。

その後、マクシムのツケを払うため、ケンタウロスはシャラパットの家に向かいます。

やつれた彼女が少しずつ語りはじめると、25年前にアフガン戦争で夫を失ったことや、夫の戦友がサディルで家に来ては暴力を振る事実を告げ、「あなたがお店に来てくれるのが楽しみだった。」と告白されました。

動揺しながらケンタウロスは、妻と子どものもとへ帰りますが、その帰り道、夫の浮気を疑って探しに来たマリバと出くわします。

マリパは手話で(彼女の家から出てきたのを見たわ。どうして!)と、涙ながらに怒りをぶつけます。

ある日、馬主のトゥルドゥが高価な競走馬を買ったという噂を聞いたケンタウロスは、その夜、家族で寝ている布団から抜け出します。

マリバは夫が浮気をしているのでないかという疑念もあり、寝ている振りをしています。

一方で、厩舎の見張りを努めていたサディルとカラバイは異変を感じて、厩舎に向かいます。

すると、今まさに厩舎から馬を出し、駆け出そうとしていた犯人がいたのをカラバイが捕えると、「ケンタウロス!なぜお前が⁈」。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『馬を放つ』ネタバレ・結末の記載がございます。『馬を放つ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

身内であるカラバイは、「俺の叔父だから、仕事も世話をしたし、50を越えても不自由がないように嫁も世話してきた。言葉が喋られないがよく働く妻と息子に恵まれ、なぜ馬を盗む必要がある?どうしてこんなことをやったのか?俺には本当のことを話してくれ!」とケンタウロスに言います。

ケンタウロスは少しずつ重い口を開き、「ある晩夢を見た。白馬に姿を変えた馬の守護神カムバルアタだった。彼は言った。“遥か昔私達はお前たち人間を友と信じ、この地に生きてきた。ところがお前たちは自ら神として自然を壊し富と権力を我がものとするために…」と言い、涙をこぼします。

その後、村人たちは、ケンタウロスの処分を決める集会に集まりました。

そこでカラバイの提案で、自分の厩舎で働かせることや、魂を清めるためにメッカに巡礼させることが決まりました。

釈放されたケンタウロスは、数日ぶりに帰宅しました。

扉には置き手紙が挟まっていて、妻マリパと息子が村から出ていったことを知り、ケンタウロスは読みながら嗚咽。

その後、ケンタウロスは髪の毛をそり、白衣を纏って礼拝の列に並びます。

しかし、礼拝の途中に列からそっと抜け出し、集会所に併設されている映写室に向かいます。

嬉しそうな表情を見せるケンタウロスは、フィルムを映写機にセットすると、礼拝中の壁に映画を映写しはじめます。

馬に乗った男女が走る場面が、ゆったりと映し出されます。

すると、そのことに怒った伝道師と村人たちが口論となり混乱。すると群衆の中にいた長老が「ケンタウロスには村を出て行ってもらう!」と叫びました。

ケンタウロスは橋を渡り、村を出ていきます。橋の上で子供に持っていた、たった1つのケースを置いて去ります。

それは映画のフィルムのケースでした。

川の近くでサディルたちが、大群の馬を追い立てて渡らせています。

手薄になったトラックの荷台に美しい白馬を見つけるや否や、ケンタウロスは鍵を開けて馬を逃がすのでした。

「待て!止まらないと撃つぞ!」逃げるケンタウロスの背後から銃を構えるサディル、直後、ケンタウロスは銃弾に倒れます。

同じ頃、橋の上を歩く息子のヌルベルディが転び、母マリバが近寄ると、突然叫びました。「お父さん!」

マリバは大きな声で話す息子を嬉しそうに抱きしめます。

映画『馬を放つ』の感想と評価

本作『馬を放つ』の主人公は、ケンタウロスと呼ばれています。

劇中ではその理由を示されることはないのですが、ギリシャ神話のケンタウロスを彷彿とさせていることが映画の冒頭で見て取れます。

1人の男が厩舎からこっそりと馬を連れ出し、広大な大地に馬を解き放し、疾走する馬の上で両手を広げて天を仰ぐ場面。

まるで、馬と人間が一体化して、大地を駆け抜ける様子はケンタウロスそのものです。

その彼を中心に映画は、キルギスにある天山山脈を望む荒々しい大地のもと、寡黙で素朴な家族や土地に古く伝わる伝承を守る物語を、1つひとつ打ち壊す展開を見せることで、見る者に、現代の資本主義社会や文明社会のあり方を問いかけます

かつて、遊牧の民にとって馬は、運搬や農耕に携わる家畜として使役されてきましたが、同時に犬猫同様人間にとって、良きパートナーでもあったのでしょう。

また、馬と一緒に季節ごとに移動しながら天幕に暮らし、定住することのなかった彼らも、今のキルギスでさえもマンションで暮らしているそうです。

都市では“現代の馬ともいうべき”車が渋滞し、手にはスマートファンが握られてます。

日本の暮らしと何も変わりなく、首都ビシュケクの様子は見慣れた都市と重なるところが多い部分があります。

しかし、遊牧文化を捨ててしまったわけではないアイデンティティの葛藤が、この作品には色濃く描かれています。

キルギスの諺「馬は人間の翼」

本作では馬が走っているシーンが、とても愛おしく、印象的に深く残ります。

キルギスの諺には「馬は人間の翼」というのがあるそうで、主人公ケンタウロスの行動を通して、大切なことが忘れ去られていくキルギスの現状を危惧しているアクタン・アリム・クバト監督の思いが、ひしひしと伝わってきます。

それは自分のルーツやアイデンティティを失っていくことに、警鐘を鳴らしているようのでしょう。

そんなこともあってでしょうか、劇中で馬を盗んで捕まり、親戚のカラバイに理由を詰め寄られる場面は、感情を揺さぶられる見どころのポイントです。

ここでは監督としてではなく、主人公ケンタウロスでもなく、1人のキルギスの民という人間として言葉を吐露していく様子は見る者の心に心に残ります。

それもそのはずです、アクタン・アリム・クバト監督は、このシーンの撮影では台詞をほとんど用意しておらず、役柄になりきっていることで次々に言葉が溢れ、涙がこぼれてきたそうです。

映画『馬を放つ』が上映される劇場は

【北海道・東北地区】
北海道 ディノスシネマズ札幌劇場 4/14(土)~
北海道 大黒座 近日上映

岩手 盛岡ルミエール 5/26(土)~

宮城 仙台セントラルホール 4/13(金)~

山形 MOVIE ON やまがた 4/21(土)~

【関東・甲信越・北陸地区】
東京 岩波ホール 3/17(土)~4/27(金)

新潟 イオンシネマ新潟西 5/5(土)~

長野 長野ロキシー 5/26(土)~
長野 松本CINEMAセレクト 5/25(金)〜

石川 シネモンド 5/12(土)~

【中部地区】
静岡 シネ・ギャラリー 4/14(土)~
静岡 シネマe_ra 6/2(土)~

愛知 名演小劇場 3/31(土)~

三重 進富座 6/9(土)~

【近畿地区】
大阪 テアトル梅田 3/31(土)~
京都 京都シネマ 6/9(土)~
兵庫 シネ・リーブル神戸 3/31(土)~4/20(金)

【中国・四国地区】
岡山 シネマ・クレール 5/12(土)~

広島 横川シネマ 5/8(火)~
広島 福山駅前シネマモード 6/2(土)~

愛媛 シネマルナティック 5/19(土)~

【九州・沖縄地区】
福岡 KBCシネマ 5/12(土)~

熊本 Denkikan 5/12(土)~

大分 シネマ5 4/21(土)~

宮崎 宮崎キネマ館 5/5(土)~

鹿児島 ガーデンズシネマ 6/23(土)~

沖縄 桜坂劇場 5/5(土)~

*上記の上映館は4月25日現在の情報です。作品の特性上、順次公開される可能性があります。お近くの劇場にお出かけの際は、必ず公式ホームページをご確認ください。

まとめ

本作の監督で主演も務めたアクタン・アリム・クバトは、キルギス人です。

ロシアや中国、そして、モンゴルなどの隣国に囲まれた国がキルギスという国です。

また、ソビエト時代にはキルギス文化は大切に扱われず、自国の文化を奪われたアイデンティティの消失を味わっています

そんなクトバ監督が、遊牧の民である文化やそれに付随する大切な古くからの教えを忘れ去っていくことに警鐘を鳴らすのは、本作を観る遠い国の人たちにも変わらぬ何かを与えてくれる作品です。

本作『馬を放つ』を通して、自分の心と向き合ってみてはいかがでしょう。

あなたの『馬』はなんでしょう、何を『放ち』ますか。

映画『馬を放つ』は、2018年3月17日より東京・岩波ホールほか全国にて順次ロードショー。

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