連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile077
映画の製作に欠かせない「製作費」。
映画館で大々的に公開される映画の多くは、大企業などがスポンサーとして製作会社のバックに着くことにより、潤沢な「製作費」を手にし映画制作を進めることが出来ます。
しかし、自己資金のみで製作されたインディーズ映画の中にも驚くほどの「着眼点」と「映画愛」にあふれ、限られた資金の中で爆発する映像制作のこだわりを感じさせてくれる作品も多くあります。
今回はインディーズ映画界で話題を集める坂田敦哉監督の短編作品『宮田バスターズ(株)』(2019)の魅力と、動き出した本作の新たなプロジェクトについてご紹介させていただきます。
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CONTENTS
映画『宮田バスターズ(株)』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【監督】
坂田敦哉
【キャスト】
渡部直也、大須みづほ、佐田淳、職業怪人カメレオール
【映画『宮田バスターズ(株)』のあらすじ】
人間を襲う宇宙から飛来した謎の生物を倒すため駆除兵器を自作し立ち上がった男、宮田。
数年後、駆除兵器のテクノロジーが進歩し、宇宙生物の危険性が社会の認知から薄れ始めたことにより、宮田の立ち上げた中小企業「宮田バスターズ(株)」の社員たちはやる気を失っていて…。
20分の中に凝縮された映画としての「面白さ」
本作の上映時間はおよそ20分と短編作品としてもコンパクトな尺になっています。
ですが、本作はその僅か20分の上映時間の中にしっかりとした起承転結をつけただけでなく、登場人物に共感できるような辛い境遇とそれを覆す熱い展開までもを見せてくれる驚きの作品でした。
人を助ける仕事に従事し始めたころの理想と世間の現実、そしてそんなギャップをあっさりと受け入れてしまっている上司や同僚に挟まれ鬱屈とした日々を生きるユリ。
物語の終盤の非常事態の中で、上司同僚を含めた全員が自身の仕事の本懐を思い出し行動する展開は特に熱く、本作のストーリーテリングの上手さに引き込まれます。
ですが、本作はそれだけではなく、短い上映時間の中に人間の特性に対するメッセージも組み込んでいました。
「慣れる」ことの恐ろしさ
人だけでなく生物の多くは「慣れる」と言う機能を持っています。
それは過酷な世の中を生きる上で必要不可欠な能力であり、その恩恵を感じることが少なくないと思います。
一方で、過酷な状況などに「慣れる」ことは危機感の欠如を生み出し、安全管理などの面において深刻な脆弱性を植え込むことに繋がります。
劇中では、人を殺害する宇宙生物の存在に生物が飛来して間もない頃こそ人々は危機感を覚えていましたが、テクノロジーと技術の成長によって駆除が作業になるにつれて人々も駆除業者である「宮田バスターズ」に感謝を述べなくなります。
それだけではなく、「宮田バスターズ」の従業員ですら駆除した宇宙生物をぞんざいに扱うようになり、その行動が恐るべき事態の引き金を引いてしまうことになります。
対応を間違えれば死者を出してしまう熱中症やインフルエンザのように、「身近」になってしまった恐怖に対する「慣れ」がどのような悲劇を巻き起こすのか。
短い尺の中にしっかりとしたメッセージが込められている作品でした。
クラウドファンディングと言う新たな映画製作の形
近年、インターネットの普及によってこれまでにない新たな映画製作の形が生まれました。
2010年代以降、「目標」と「見返り」を提示し不特定多数の人に資金の提供を募る「クラウドファンディング」が浸透し、様々な事業やサービスの資金源となることで世間が本当に求めていたものが作り出されるようになりました。
そして、映画界にもこの波は一気に押し寄せることになり、こうの史代による漫画をアニメーション映画化した『この世界の片隅に』(2016)では、3900万円以上もの資金を集めることに成功し映画も大ヒットを記録しました。
こうしてコネや資金よりも、発想と行動力が重視される「クラウドファンディング」と「映画製作」の合わせ技が広まり、今やインディーズ映画の世界も大きく変わろうとしています。
クラウドファンディングで動き出した長編への道
インディーズ映画であるがゆえに、「製作費」のほとんど全てを制作陣がアルバイトをすることで調達してきた『宮田バスターズ(株)』。
そうした苦難の上で完成した本作は数々の映画祭の場で上映され、満員御礼の大好評の作品となりました。
そして2019年8月末、20分だった上映時間を60分前後まで伸ばした「長編作品」として本作を作り直すため、「クラウドファンディング」での資金の募集を開始。
セットや造形などの想定予算である70万円の支援を目標として開始されたこの募集は、11月初旬になんと120万円の支援を集め終了しました。
短編映画版『宮田バスターズ(株)』が、想定の170%の資金の提供を促すことの出来るほどの作品であっただけに、発想と行動力が重視される「クラウドファンディング」の理念を大きく受けた結果であったと言え、長編版に期待が膨らむ結果となりました。
まとめ
「製作費」の少なさの影響を受け奇をてらった作品が多いイメージのあるインディーズ映画界の中で、王道をしっかりと、そして大胆に描いた短編映画『宮田バスターズ(株)』。
本作はモンスターパニック映画としてだけでなく、SF映画やインディーズ映画としての魅力もたっぷりと20分に詰まっている、あっさり観れて熱くなれる短編映画となっています。
『宮田バスターズ(株)』は坂田敦哉監督による「カメラに襲われる青年」を題材とした短編映画『FIGHTING CAMERAMAN』(2018)と合わせて青山シアターにおいてオンライン上映中。
長編作品となる本作を楽しみにしつつ、短編版もぜひご覧になってみてください。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile078では、ホラー愛にあふれる和製スプラッタホラーの最新作『ゴーストマスター』(2019)の魅力をたっぷりとご紹介させていただきます。
11月27日(水)の掲載をお楽しみに!