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Entry 2019/11/22
Update

映画『歩けない僕らは』あらすじと感想レビュー。短編37分の間に描かれた人間の成長と絆というドラマ|蟹江まりの映画ともしび研究部5

  • Writer :
  • 蟹江まり

蟹江まりの映画ともしび研究部 第5回

こんにちは、蟹江まりです。

連載コラム「蟹江まりの映画ともしび研究部」の第5回目に取り上げるのは、2019年11月23日公開の映画『歩けない僕らは』です。

脳卒中や大腿骨頸部骨折などの急性期を過ぎた患者に対し、1日に2~3時間の集中的なリハビリを実施し、能力を回復させたうえで自宅や社会への復帰を実現させる回復期リハビリテーション。

その回復期リハビリテーションに携わり始めたものの、プライベートでの失恋やベテラン療法士と同じ成果を出せないことに悩む新人理学療法士と、彼女が初めて入院から退院まで担当する患者、また二人を取り巻く人々の人間ドラマを描いた作品です。

【連載コラム】『蟹江まりの映画ともしび研究部』記事一覧はこちら

映画『歩けない僕らは』の作品情報


(C)映画「歩けない僕らは」

【公開】
2019年11月23日(日本公開)

【監督・脚本・編集】
佐藤快磨

【キャスト】
宇野愛海、落合モトキ、板橋駿台、堀春菜、細川岳、門田宗大、山中聡、佐々木すみ江

【作品概要】
ある患者とのリハビリを通じて、理学療法士という仕事の意味や在り方について悩み葛藤する新人理学療法士の姿を描いた中編映画。

本作の演出を務めたのは、初の長編監督作品『ガンバレとかうるせぇ』が若手監督の登竜門である、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)・PFFアワード2014にて映画ファン賞(ぴあ映画生活賞)&観客賞を受賞し、釜山国際映画祭に正式出品された佐藤快磨監督。

また主演は、アイドルグループ「私立恵比寿中学」の元メンバーであり、現在、女優として活躍中の宇野愛海。共演は人気作への出演がつづく落合モトキら若手勢をはじめ、『運命じゃない人』の山中聡と2019年に急逝した佐々木すみ江というベテラン勢に至るまで、多様なキャストを迎えて制作されました。

また本作は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019・国内コンペティション短編部門で観客賞を受賞しています。

映画『歩けない僕らは』のあらすじ


(C)映画「歩けない僕らは」

宮下遥(宇野愛美)は、回復期リハビリテーション病院1年目の理学療法士。

まだ慣れない仕事に戸惑いつつも、同期の幸子(堀春奈)に、彼氏である翔(細川岳)の愚痴を聞いてもらったり他愛のない話をしては、ともに励ましあいながら頑張っています。

担当していたタエ(佐々木すみ江)が無事に退院し、新しい患者が入院してきました。

彼の名は拓植といい、仕事からの帰宅途中に脳卒中を発症し、左半身が不随になったのでした。遥は初めて入院から退院まで、全てのリハビリ期間を担当することになります。

「元の人生に戻れますかね?」と尋ねる拓植に何も答えられない遥。しかしこの日から、日野課長(山中聡)と田口リーダー(板橋駿台)の指導のもと、彼と現実に向き合う日々が始まりますが…。

映画『歩けない僕らは』の感想と評価


(C)映画「歩けない僕らは」

いま話題の若手俳優が終結

本作には、今後の活躍が期待されている若者俳優が数多く出演しています。

左片麻痺患者・拓植篤志役を演じるのは落合モトキ。彼は子役から活躍し、近年の主な代表作には『おっさんずラブ』(2016)『笑う招き猫』(2017)『LINKING LOVE』(2017)『家族死刑』(2017)『素敵なダイナマイトスキャンダル』(2018)などがあります。

拓植篤志の自然な演技にきっと目を奪われるはずです。

ヒロインであり新人理学療法士・宮下遥を演じるのは宇野愛海。彼女は12歳から女優活動を開始し、また女性アイドルグループ私立恵比寿中学の元メンバーでもあります。

宇野愛海は『罪の余白』(2015)で若手実力派として有名になり、『デスフォレスト 恐怖の森3』(2015)では映画初主演を果たします。

彼女の感情を爆発させるシーンは見どころのひとつです。

他にもヒロインの同期・幸子役には、『ガンバレとかうるせぇ』(2014)で映画出演&主演デビューしたのち、同じく主演作『空の味』(2017)では第10回田辺・弁慶映画祭で女優賞を受賞。

そして本作が上映された2019年11月開催のはままつ映画祭2019では、「これまで上映された作品の演技と、これからの活躍に期待を込めて」Hopeful女優賞を受賞した堀春菜。

遥の彼氏・翔役には、『ガンバレとかうるせぇ』で堀とともに主演を務め、『独裁者、古賀。』(2014)ではぴあフィルムフェスティバルでPFFアワード2014エンタテインメント賞(ホリプロ賞)を受賞。そして主演作『ヴァニタス』(2016)ではPFFアワード観客賞を受賞し、舞台やCMでも活躍中の細川岳。

繊細な演技で作品を彩ってくれた彼らの今後の活躍に期待です。

タイトルに隠された意味


(C)映画「歩けない僕らは」

「歩けない僕らは」というタイトルを見て、思わず立ち止まりました。歩けないのは拓植であるのだから『歩けない僕は』でいいのではないか。なぜ複数形である『歩けない僕らは』なのだろうか?

しかし、その答えは作品の中にありました。確かに物理的に歩けないのは拓植です。ただ、本作に出てくる人物は皆、人生をうまく歩けていません。

遥は慣れない仕事に戸惑う中で失恋まで経験し、自暴自棄になりつつあります。幸子も一見充実しているように見えますが、とある葛藤を抱えています。

さらに翔も、あらゆることがなあなあになっている日常に嫌気がさしています。そして拓植は自身に降りかかってきたの麻痺という不条理だけでなく、心に傷を抱え悩んでいました。

それぞれが自身の人生の中で迷い、ついには動けなくなってしまった。「歩けない」状態へと陥ってしまったのです。

そんな「歩けない」彼らが関わり合い、すれ違いなどを繰り返すことで、この物語は初めて色づいたものになります。初めてドラマが生まれるのです。

その他にも、こんな問いかけの意味も隠されています。「人間はみな実はうまく歩けてないのではないか?」と。

人生には様々な壁が立ちはだかります。心が折れそうになることもあります。けれども、その中でも必死に生きていくのが人間なのです。

この映画は、間違ってもいいんだ、人それぞれでもいいんだ、でも誰もが自分に影響を与えてくれるんだ、ということを教えてくれます。本作は、悩みで立ち止まった際、また足を踏み出すための気づきをくれる作品です。

リアルさを追求したリハビリ風景


(C)映画「歩けない僕らは」

本作を見てて気づくことのひとつに、「リハビリテーションの描写が演技に見えない」という点があります。しかしそれもそのはず、実は回復期リハビリテーション病院の全面協力のもと本作は撮影されたのです。

協力してくれたのは、栃木県最南端の野木町にある「リハビリテーション花の舎」。

佐藤快磨監督のプロットが決まった後、第一線で働く理学療法士の方々に意見を伺い、またリハビリ経験を持つ元患者さんにも取材し、そのうえで劇中における拓植のリハビリテーション内容を決定したそうです。また、撮影期間中は、リハビリの場面はもちろん、他の場面でも監修に携わってくれました。

だからこそ完成した作品には、リハビリ描写のリアルさが見て取れる。協力してくれた「リハビリテーション花の舎」も、「撮影時は本当に細かなところまで、忠実に再現するために何度も何度も時間の許す限り取り直し、絶対に妥協をしない姿勢に驚き、そのようなやり取りの中で、私たちもできるだけ作り手の方々の思いを形にできればと思いました。」とコメントしています。

まとめ


(C)映画「歩けない僕らは」

自分の、そして自分の周りの人の、人生について深く考える機会を与えてくれる映画です。またその人から受ける温かさを再確認できる映画です。

観た後にきっと前向きになれる映画『歩けない僕らは』は、2019年11月23日に公開です。ぜひこの感動を味わってください。

次回の「蟹江まりの映画ともしび研究部」は…


(C)2019 WIT STUDIO / Tokyo New Cinema

次回の「蟹江まりの映画ともしび研究部」では、2019年11月15日に劇場公開を迎えた映画『わたしは光をにぎっている』を取り上げます。

【連載コラム】『蟹江まりの映画ともしび研究部』記事一覧はこちら


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