Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2018/08/10
Update

トリフォー監督代表作『アデルの恋の物語』実話考察。愛は私の宗教と自縄自縛、悲劇の女性の物語|偏愛洋画劇場5

  • Writer :
  • Moeka Kotaki

連載コラム「偏愛洋画劇場」第5幕

映画には愛によって身を滅ぼしていく人々がたくさん登場しますが、今回は「愛は私の宗教」とまで言い切ったヒロインが登場する作品をご紹介します。

『大人は判ってくれない』(1956)『華氏451』(1966)などでおなじみ、ヌーヴェルバーグを代表するフランソワ・トリュフォー監督による『アデルの恋の物語』(1975)です。

【連載コラム】『偏愛洋画劇場』記事一覧はこちら

スポンサーリンク

映画『アデルの恋の物語』のあらすじ

カナダ、ハリファックスの港に1人の女性が降り立ちました。彼女の名前はアデル。

『レ・ミゼラブル』の著者であり大作家であるヴィクトル・ユーゴーを父に持つアデルは、1度だけ愛し合った英国騎兵中尉ピンソンを追ってはるばるやってきたのです。

宿で来る日も来る日も彼に手紙を書き続けるものの一向に返事は来ず、周囲からピンソンには多額の借金があると聞いても想いを止めることはできません。

ある日ピンソンがアデルの元を訪ねてきますが、彼は自分たちの関係は終わったといい、両親の元へ戻るよう諭します。

それでもアデルはピンソンを想い続け、やがて狂気の深みへとはまってゆくのです。

ユーゴーの娘、アデルが実際にカナダへやってきたのは33歳の時ですが、彼女を演じたイザベル・アジャーニは当時19歳。

可憐な若い乙女でありながら常軌を逸していく鬼気迫る表情は圧巻です。

ピンソン中尉を演じたブルース・ロビンソンは今では主に監督、脚本家として活躍。

アカデミー賞3部門を受賞した『キリング・フィールド』(1984)では脚本を担当、監督、脚本を兼任した『ウィズネイルと僕』(1987)ではカルト的人気を集めています。

偉大な父、ヴィクトル・ユーゴー

「今は、父が施してくれるパンの他には、何も持たない若い娘が、4年後には黄金を掴むのだ。

自分自身の黄金を。若い娘が古い世界を捨て、海を渡って新しい世界に行くのだ。恋人に会うために」

上記はアデルの日記の一節です。彼女はとても自立心の強い女性。

「父の名は大き過ぎる。私はヴィクトル・ユーゴーの名から逃げられない」…どこへ行っても著名な父、ヴィクトル・ユーゴー。

父が与えてくれる庇護、パンで生きるのではなく自分自身の力で生きていきたい。意を決して遠い異国までやってきたアデルですが、皮肉なこと父の援助なくしては彼女の旅は続けられません。

周りの人々もユーゴーの娘と知り、物語冒頭から最後までアデルに非常によく接してくれます。

アデルは父の一種の支配、偉大さから逃れることができないのです。

アデルは一人娘ではなく、レオポルディーヌという姉がいました。しかし姉は溺死、アデルはしばしば姉の悪夢にうなされることになります。

「姉の衣裳を捨てよう。焼いてしまおう。バラバラにしよう。もう、姉の衣裳は見たくない。見るのは耐えられない」

アデルはレオポルディーヌに対して引け目があったのでしょう。

自分は姉よりも愛されていなかったというコンプレックス、父の力、そうした精神的重圧が彼女を“愛”という宗教を盲信的に信じる道へ誘っていきます。

スポンサーリンク

“愛は私の宗教”とは

アデルが愛するピンソンは決して立派な男、というわけではありません。

ハンサムだけれど借金はあるし、女遊びだってする。果たしてアデルはピンソンを純粋に“愛”していたのでしょうか?

私はあなたを愛しているからあなたも私を愛して欲しい、どんなことがあっても手に入れたい、ピンソンはアデルにとって、承認欲求の一種のはけ口のような存在だったのではないでしょうか。

他者との間にうまく形成することのできなかった関係、父の保護によって“黄金”が霞んでしまう自己をピンソンという存在に求めた結果、彼女も自縄自縛に陥り精神が分裂してしまう…この時代、女性1人で生きていくのはたやすいことではありません。

結婚無くしては安定した生活を送ることができない、でも自立したい。そうした矛盾も彼女を苦しめた原因の一つでしょう。

まとめ

これだけの激しい情熱と気性、そして文才があればアデルは新時代の女性の象徴的存在になれたかもしれません。

それと同時に“愛”という閉ざされた、人間の心の最も繊細な部分を占めるといえる感情と向き合わなくしては、激情に突き動かされることもなかったかもしれません。

家族という呪縛、自己の分裂、矛盾が重なり自身を追い詰めてしまった女性アデル・ユーゴー。“黄金”を見つけることができなかった彼女の姿に皆さんは何を思われるでしょうか?

次回の『偏愛洋画劇場』は…

次回の第6幕は、ロマン・ポランスキー監督の『毛皮のヴィーナス』をご紹介します。

お楽しみに!

【連載コラム】『偏愛洋画劇場』記事一覧はこちら

スポンサーリンク

関連記事

連載コラム

ブルーハーツ名曲「青空」でつながる命。映画『カラフル』『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』考察|映画道シカミミ見聞録11

連作コラム「映画道シカミミ見聞録」第11回 こんにちは、森田です。 もうすぐ夏休みが終わります。暑さと引き換えにこの時期急増するのは子どもたちの自死。 内閣府や厚生労働省の調査によると、2013年まで …

連載コラム

坂本龍一×デヴィッド・ボウイ×ビートたけし映画『戦場のメリークリスマス』考察。3者の越境で自由と平和を示す|映画道シカミミ見聞録9

連作コラム「映画道シカミミ見聞録」第9回 ©大島渚プロダクション こんにちは。森田です。 今年もまた「8月15日」を迎え、日本の敗戦をふり返り、戦争の理由や平和の意義を改めて探る時期となりました。 映 …

連載コラム

映画『ブエノスアイレス』感想。 ドキュメンタリーから浮かぶ作品の真実とは|偏愛洋画劇場13

連載コラム「偏愛洋画劇場」第13幕 香港の映画監督、ウォン・カーウァイ。 若者たちの刹那的な青春や恋人たちの胸の痛みを繊細に描き出すカーウァイ監督の作品は、世代を超えて愛され続けています。 今回ご紹介 …

連載コラム

【邦画のSFと夏休みの親和性】夏に見たい映画オススメの定番作品|SF恐怖映画という名の観覧車6

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile006 (C)「時をかける少女」製作委員会2006 「猛暑」と言う言葉が今までの夏よりも似合う、高い温度が続く夏となりました。 前回のprofi …

連載コラム

福士蒼汰&吉沢亮ドラマ『仮面ライダーフォーゼ』と映画夢の共演|邦画特撮大全5

連載コラム「邦画特撮大全」第5章 (C)久保帯人/集英社 (C)2018 映画「BLEACH」製作委員会 2018年7月20日から公開となった久保帯人原作の人気漫画『BLEACH』の実写映画版。主人公 …

最新映画を観るならU-NEXT
【Cinemarche独占】映画『ウスケボーイズ』公開記念・橋爪功インタビュー|役作りと2018年の今を語る
【Cinemarche独占】映画『薄墨桜 -GARO-』公開記念・朴璐美インタビュー|役作りと2018年の今を語る
映画『斬、』塚本晋也監督インタビュー|時代劇で現代を描いた真意とは
【Cinemarche独占】映画『キラキラ眼鏡』主演・池脇千鶴インタビュー|役作りや撮影現場での思い出を語る
日本映画大学
ニューシネマワークショップ
東京国際映画祭|Tokyo International Film Festival
国内ドラマ情報サイトDRAMAP