連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第1回
こんにちは、もりのちこです。
小説や漫画を原作にした映画化の魅力は、「一粒で2度美味しい」。異なる表現である文字と映像をストーリーを通して、「一石二鳥」「一挙両得」に楽しめるミクストメディアです。
たしかにオリジナルものの映画は、作り手の強い思入れがあります。しかし、原作ものの映画化は、原作者と映画監督の2人が1冊の本を介して出会い、そこに原作者とは異なる別の視点を組み入れ、具体的に映像化していく。
先ずは映画監督も、ひとりの読者あり、“原作というラブレターが2人を結んだ”、恋愛の様なものかもしれません。
映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。
第1回目に取り上げるのは、芥川賞作家・平野啓一郎のベストセラー小説を、福山雅治と石田ゆりこの共演で映画化した『マチネの終わりに』です。
東京、パリ、ニューヨークを舞台に、音楽家の男とジャーナリストの女の、切なくも甘い大人の恋の物語。たった3度会った人が、誰よりも深く愛した人でした。
映画『マチネの終わりに』と原作小説の違いから、いったい何が見えてくるのでしょう。4つのキーポイントから作品の魅力に迫ります。
【連載コラム】「永遠の未完成これ完成である」記事一覧はこちら
CONTENTS
映画『マチネの終わりに』の作品情報
【公開】
2019年(日本)
【原作】
平野啓一郎
【監督】
西谷弘
【キャスト】
福山雅治、石田ゆり子、伊勢谷友介、桜井ユキ、木南晴夏、風吹ジュン、板谷由夏、古谷一行
【作品概要】
小説家・平野啓一郎のベストセラー同名小説を『容疑者Xの献身』『昼顔』の西谷弘監督が実写映画化。
クラシックギタリストの蒔野聡史を演じるのは、アーティスト、俳優としても常に一線で活躍を続ける福山雅治。
そして相手役のパリに勤務するジャーナリストの小峰洋子役には、40代女性の憧れの存在、石田ゆり子が演じます。
映画『マチネの終わりに』のあらすじとネタバレ
物語は6年前から始まります。小峰洋子はパリの通信社に勤務するジャーナリストです。
この日、洋子は友達のレコード会社に勤める是永慶子に誘われ、世界的クラシックギタリスト蒔野聡史のコンサートに来ていました。
蒔野は、若くして国内外で認められる音楽家となり天才ギタリストと呼ばれていました。しかし、20周年を迎えた今、自分の音楽を見失いかけていました。
コンサートは大歓声のもと終了しますが、楽屋に戻った蒔野は死んだように倒れ込みます。演奏中襲ってくる、静寂と暗闇に押しつぶされそうです。
公演後、蒔野と洋子は出会いました。蒔野は洋子に興味を抱きます。洋子は彼が音楽を始めるきっかけとなった映画『幸福の硬貨』のイェルコ・ソリッチ監督の娘なのでした。
蒔野と洋子は、以前からお互いを知っていたかのように分かり合える部分がありました。
「人は変えられるのは未来だけだと思っているけど、未来は過去を変えている。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える」。
未来の2人が、今日の出会いを振り返る時、どのような気持ちで思い返すのか。蒔野は、これからの未来に洋子の存在が大きく関わることを予感していました。
蒔野は明らかにスランプに陥っていました。すべてのレコーディング、コンサートをキャンセルします。
レコード会社の是永は、困り果ててしまいます。マネージャーの三谷早苗だけが、蒔野の味方でした。
早苗は、献身的なマネージャーでした。蒔野の音楽に、そして蒔野自身に惚れ込んでいる早苗は、洋子と蒔野が連絡を取り合っているのを良く思っていませんでした。
そんな中、パリでテロ事件が発生します。洋子の会社が入っていたビルも標的になりました。
洋子は、爆破があった時、間一髪エレベーターに閉じ込められ助かりました。その時の恐怖は長い間、洋子を苦しめることになります。
洋子からの連絡がないことを心配する蒔野の元に、やっと連絡がきます。ビデオ通話に映る洋子は疲れ切っているようでした。
大きな物音に怯える洋子に、蒔野はたわいもない話で元気付けます。洋子は自分の気持ちがほぐれていくのがわかりました。「あなたの音楽が支えになったわ。ありがとう」。
3カ月後、2人はパリで再開を果たします。蒔野は、恩師の祖父江誠一の誘いで彼のコンサートに同行していました。
蒔野と洋子は食事をしながら、これまでのことを話します。テロ事件で生き残った自分を責める洋子に蒔野は「地球のどこかで洋子さんが死んだって聞いたら、僕も死ぬよ。いつでも側にいたい」。それはプロポーズでした。
洋子には大学の頃から付き合っているリチャード新藤という彼がいました。結婚の話も出ています。
「私、結婚するのよ」。そう言う洋子に、蒔野は答えます。「だから、止めに来たんだ」と。
実際に会ったのは2度目でも、蒔野にはもう洋子のいない人生は考えられませんでした。
『マチネの終わりに』映画と原作の違い
東京、パリ、ニューヨークを舞台に、音楽家とジャーナリストの6年の恋を描いた『マチネの終わりに』。
福山雅治と石田ゆり子という豪華キャスティングで映画化されたことで、よりロマンティックに、目にも美しい映画となりました。
東京、パリ、ニューヨークを舞台に、音楽家とジャーナリストの6年の恋を描いた『マチネの終わりに』。
福山雅治と石田ゆり子という豪華キャスティングで映画化されたことで、よりロマンティックに、目にも美しい映画となりました。
原作では映画より、すれ違う2人の心の葛藤が、事細かに書かれています。そんな、原作と映画の違いを4つのキーポイントで紹介します。
走らない女
映画の冒頭で、洋子が走ってどこかへ向かうシーンが映ります。のちのちこのシーンは、蒔野にもう一度会うことを決心した洋子がコンサートに向かうシーンということが分かります。
そして、蒔野に会う前の洋子は、何があっても慌てず走ることがない女性でした。「焦ると幸せが逃げるわ」と言うほどに。その洋子が駆け出してまでも会いたい人、それが蒔野でした。
原作では、この設定はありません。しかしこのエピソードが入ることで、常に危険と隣り合わせのジャーナリストという職業柄、常に慌てることがない強い女性像が感じられました。
「蒔野と洋子」再開までの道のり
この物語で、蒔野と洋子の最大のすれ違いはやはり、早苗により送られた嘘のメールによるものです。
2人は誤解をしたまま別れ、別々の家庭を築きます。原作では、そこから2人が再会するまでの間、様々な出来事が2人を苦しめます。
震災、友の死、出産、離婚。苦しい時に支えになったのは、子供の存在でした。蒔野も洋子も子供をとても愛しています。
映画化では、蒔野役の福山雅治と洋子役の石田ゆり子の、子供を見るまなざしにすべてが凝縮されています。
洋子と父親
洋子は、蒔野が音楽を始めるきっかけとなった映画『幸福の硬貨』のイェルコ・ソリッチ監督の後妻の子供です。
ソリッチとは血の繋がりはなく、洋子の小さい頃に両親は離婚したため、今はたまに連絡を取り合うぐらいの仲です。
映画では実際にソリッチは登場しませんが、原作では洋子とソリッチは再会しています。そして両親の離婚の原因を聞きます。
洋子の父ソリッチの映画『幸福の硬貨』は、架空の映画ですが、時代に反していると脅迫を受けます。ソリッチと母は、愛する子供のためを思い離れることを選んだのでした。
洋子は早苗からの告白後、蒔野の今の幸せを思い、独りで生きる決心をしたタイミングで父に会いに行きます。
愛していたから離れた場所で幸せを祈る。父の人生にこれからの自分の人生を重ねあわせる洋子。
蒔野はこのことを知らず、家族幸せに生きて欲しいと願う、洋子の優しさが見える場面です。
テーマ曲「幸福の硬貨」
この物語に欠かせないのが音楽です。中でもメインテーマ「幸福の硬貨」は、2人の出会いのきっかけの曲でもあり、始まりの曲でもあります。
この物語に欠かせないのが音楽です。中でもメインテーマ「幸福の硬貨」は、2人の出会いのきっかけの曲でもあり、始まりの曲でもあります。
映画音楽担当は、『ガリレオ』『容疑者Xの献身』『真夏の方程式』など、西谷弘監督と福山雅治コンビとも数多くのタッグを組んできた菅野祐悟。
「幸福の硬貨」は映画化にあたり、新たに書き起こしたオリジナル曲となりました。
演奏は日本を代表するクラシックギタリスト福田進一を監修に迎え、福山雅治が自ら弾き語っています。
原作者の平野啓一郎も小説を書く際、福田からの助言をもとにしており、小説タイアップでのCDも発売されています。
映像化にあたり、音楽の心地よさはもちろん、歴史あるコンサートホールの臨場感や、クラシックギターを奏でる福山の演奏姿にうっとりします。これは映像でしか楽しめない部分です。
まとめ
平野啓一郎原作、西谷弘監督が映画化した『マチネの終わりに』の原作比較を紹介しました。
東京、パリ、ニューヨークを舞台に繰り広げられる、切なくも甘いラブストーリーは、映像化で美しいメロディーと、美しい風景が加わり、より洗練された大人のラブストーリーへと生まれ変わりました。
出会った回数ではなく、出会った瞬間にお互いを理解できる。そして、もう出会う前には戻れないほど、自分の心に留まり続ける存在。それを運命の出会いと呼ぶのかもしれません。
次回の「永遠の未完成これ完成である」は…
次回の第2回目に取り上げるのは、映画『ロマンスドール』の同名原作。
タナダユキが自らの小説を高橋一生と蒼井優主演で映画化し、2020年1月24日(金)より公開されます。
とある夫婦に隠された嘘と秘密を描いた注目の一作を、結末までのあらすじと映画化への期待を込めて紹介します。