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Entry 2019/11/01
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映画『悪なき殺人』あらすじと感想レビュー。東京国際映画祭2019の会場でフランス俳優が語った愛の形とは【ティーチイン収録】|TIFF2019リポート5

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  • 20231113

第32回東京国際映画祭・コンペティション上映作品『悪なき殺人』

2019年にて32回目を迎える東京国際映画祭。令和初となる本映画祭がついに2019年10月28日(月)に開会され、11月5日(火)までの10日間をかけて開催されます。


(C)Cinemarche

本映画祭のコンペティション部門には、アジアン・プレミアとして上映されるフランスのドミニク・モル監督作品『悪なき殺人』が上映されました。

映画祭の会場には来日ゲストとして、俳優ドゥニ・メノーシェとナディア・テレスツィエンキーヴィッツが来日され、映画の上映後にティーチインも行われました

【連載コラム】『TIFF2019リポート』記事一覧はこちら

映画『悪なき殺人』の作品情報


(C)Jean-Claude Lother
【製作】
2019年(フランス映画)

【原題】
Only the Animals / Seules Les Bêtes

【監督・脚本】
ドミニク・モル

【出演】
ドゥニ・メノーシェ、ロール・カラミー、ダミアン・ボナール、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、ナディア・テレスツィエンキーヴィッツ、ギ・ロジェ・ンドゥラン

【作品概要】
フランスの雪に覆われた山村と、ヨーロッパ大陸を越えた地に住む人々の運命が、奇妙に交差する姿を描くサスペンスであり、同時に現代を生きる人々の愛の形を描いた映画です。

キャストのプロフィール


(C)Cinemarche

ドゥニ・メノーシェ(写真:左)

1976年、フランス生まれ。幼少期を北欧やアメリカ、南米に中東と様々な国で過ごしました。

俳優としてデビュー後の2009年、『イングロリアス・バスターズ』に出演して国際的な知名度を獲得、2011年に出演した『Les Adoptés』で第17回リュミエール賞の最優秀新人男優賞を受賞します。

2019年日本公開の映画では、『ジュリアン』そして『エンテベ空港の7日間』に出演している、フランスを代表する男優です。

ナディア・テレスツィエンキーヴィッツ(写真:右)

1996年生まれ。ダンサーとしても活躍しているフランスの女優です。

2017年日本公開の『ダンサー』で長編映画初出演、2018年の『Sauvages』では主役を演じ、2019年には『Persona non grata』にも出演しました。

映画デビュー以来、その活躍は広く注目を集めています。

映画『悪なき殺人』のあらすじ


(C)2019 HAUET ET COURT RAZOR FILMS PRODUKTION FRANCE 3 CINÉMA VISA N˚ 150 076 | (C)Jean-Claude Lother (C) Hauet Court

フランスの山中にある寒村で、雪嵐の夜に一人の女性が失踪します。実はその出来事は、都会の喧騒から隔絶された地に住む人々に、様々な形で関わっていました。

彼女の失踪は登場人物に様々な謎をもたらします。やがて彼らの運命は奇妙な偶然でつながり、舞台はヨーロッパを越え、アフリカの地にまで広がっていきます。

徐々に謎が明らかになるに従って、孤独を抱えた人間が一途な愛に溺れ、その結果身を滅ぼしてゆく姿が明らかになっていきます。

全ての事実が判明した時、彼らの前にどのような結末がおとずれるのか…。

映画『悪なき殺人』の感想と評価


(C)2019 HAUET ET COURT RAZOR FILMS PRODUKTION FRANCE 3 CINÉMA VISA N˚ 150 076 | (C)Jean-Claude Lother (C) Hauet Court

何の説明も無く冒頭に映し出されるアフリカ、コートジボアールの地。次に場面は一転し、雪景色のフランスの山中の寒村が舞台となります。

雪嵐の夜、富豪の妻エヴリーヌが行方不明になります。事件はその現場近くに住むミシェルとアリス夫妻と、孤独に暮らす青年ジョゼフ、その地を訪れた若き女マリオンと、アフリカの青年アルマンの5人を結び付け、それぞれに悲劇をもたらします。

謎解きミステリーとして幕を開けた物語は、偶然によって5人の登場人物を結び付けます。この“偶然”は劇中に登場する、誰も逃れる事ができない力がもたらした結果かもしれません。

“偶然”が奇妙で、面白可笑しい展開を生むミステリー映画は数多くあります。中には個々の人物、出来事を結び付ける事だけに終始する作品も存在します。

しかし『悪なき殺人』は、単純にストーリーを追う映画ではありません。

5人の登場人物はそれぞれに孤独を抱えた結果、出会った人物に一方的な盲目の愛情を注ぎます。あまりにも一途で愚かな、そして哀しくもある現代人の愛の姿を、ドミニク・モル監督は描いているのです。

5人の独りよがりな愛は、それぞれ異なる結末を迎えます。特にドゥニ・メノーシェが演じたミシェルと、ナディア・テレスツィエンキーヴィッツの演じたマリオンの愛の形は対象的で、その結末も大きな違いを見せます。

2人はこの登場人物を、どの様に受け止めて演じたのでしょうか。

上映後のキャストQ&A

ナディア・テレスツィエンキーヴィッツ


(C)Cinemarche

10月30日の上映後、ドゥニ・メノーシェとナディア・テレスツィエンキーヴィッツが登壇、舞台挨拶を行うとともに、会場に訪れた観衆からのQ&Aに応じました。

──偶然が引き起こしたこの物語を2人はどう捉えましたか?

ドゥニ・メノーシェ:(以下、ドゥニ)今回自分が演じたミシェルは、自分がその行動を行った結果、何が起きるか考えていない、全く計画性の無い人物です。

今回は、こういった役柄の人物を演じる事を楽しみました。私は演じたミシェルを、「素晴らしい馬鹿」と呼んでいます(笑)。

ナディア・テレスツィエンキーヴィッツ:(以下、ナディア)映画の登場人物たちは、すごく寂しくて迷っている人物だと思います。皆本当に愛されたい、そしてそれぞれの形で与える愛を持っている、そういった形で各キャラクターがつながっているのだと思います。

──偶然が生み出した物語を支えているのは、登場人物の心理描写だと思います。演じる上での苦労と、工夫を教えて下さい。

ナディア:今回は人間の深い感情を探索する、良いチャンスだったと思います。ある意味で自分を極限まで追い込む機会でした。

私が演じたマリオンは無条件に感情のまま、考える事なく心のままに愛情を注ぐ人物です。私は相手役の声を聞いて、その瞬間を感じたままに演じていました。

ドゥニ:私は状況を、真実のままに演じる事を愛しています。偶然といえば、私たちが今ここに存在している事も、偶然の結果だと言えます。

ある日左に曲がったら、人生そのものが変わってしまうかもしれない。それを映画で表現できるのは、私は大変素晴らしいと思っています。

──2人の役はネットを通じて繋がってしまいますが、現代のネット社会について、どのようにお考えでしょうか?

ドゥニ:人間は一つではなく、複数の側面から構成されていると思っています。私自身はソーシャルメディアをやっていないのですが、ソーシャルメディアは自分について一つのイメージしか発信しない、恐らく最も間違ったやり方だと考えています。

何かの目的で団結して集まって闘い、何かを創造する時に活用するツールとしては有効だと思います。しかし、決して自分を示す鏡ではない、私はそのように思います。

ナディア:インターネットについては良い所、悪い所があると思っています。ある程度距離を置いて使う、今まで会った方と接点を維持したり、みんなで映画を見に行こうなど呼びかける分には、使いやすい物だと考えています。

ハマり過ぎると、その中に閉じこもり他人の判断だけに従い、結果としてリアルな人生や友人、モチベーションを見失う事があるので、私も距離を置くようにしています。

例えば撮影中2ヶ月位は一切使わない、見ないという事を行っていますので、そういう距離の取り方はあるかと思います。

──2人は自分が演じた人物が、その後どのような人生を送ったと考えていますか。

ナディア:私の演じたマリオンは勇敢で、意志の強い人物なので、また新しい愛を見つける事ができると思います。

今ある情熱に囚われるのではなく、元の場所に戻って、新しいアドベンチャーを見つけてくれるのではないか、と思います。

ドゥニ:私の演じたミシェルは、最後に笑っていますが同時に泣いてもいます。

彼は一種の薬物中毒みたいなもので、自分のファンタジーの中で“彼女”を愛し、その正体を知ってもなお惚れ込んでいます。おそらく彼はそこにとどまり、“彼女”との会話を続けたと思います。

世の中を司っているのは女性で、男性というのは週末に動き回るサッカーボールをただ眺めているだけ、そんな存在じゃないかと考えています(笑)。

ドゥニ・メノーシェ


(C)Cinemarche

まとめ

複雑な群像劇である映画『悪なき殺人』について、主要キャストとして出演した2人の俳優から、実に興味深い話を伺うことができました。

ドゥニ・メノーシェと、ナディア・テレスツィエンキーヴィッツが演じた人物は、映画の中でソーシャルメディアを通して出会い、それが悲喜劇を生んでしまいます。

しかし、映画に登場する他の人物とは、また異なる形で出会い複雑な物語を形成しています。

この映画はネット社会を風刺だけに止まりません。Q&Aで語られた様に、主要な登場人物は各々孤独を抱え、故に自分の対象に深い愛情を注ぐ人物として描かれています。

その姿と行動は多様で、見る者はいずれかの人物にきっと共感を覚えるでしょう。

フランス山中の極寒の寂れた村、そして熱く人に溢れたアフリカの、コートジボアールの地を中心に描かれますが、それは我々にも、世界中の誰にとっても普遍的な物語です。

現代を生きる人々に対する、ドミニク・モル監督の深い洞察が光る作品です。

【連載コラム】『TIFF2019リポート』記事一覧はこちら

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