“悪のカリスマ”ジョーカーを描くベースとなった映画まとめ
ヴェネツィア国際映画祭でアメコミ映画史上初の金獅子賞を受賞し、話題沸騰となった映画『ジョーカー』が、2019年10月4日(金)より日米同時公開されました。
監督のトッド・フィリップスは本作を製作するにあたり、自身が影響を受けたいくつかの作品を参考にしたと公言しています。
ここでは、監督が挙げた映画史におけるマスターピースともいえる作品から、本作を鑑賞後にでもチェックしてみて欲しい作品をピックアップしましょう。
CONTENTS
映画『ジョーカー』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Joker
【監督・共同脚本】
トッド・フィリップス
【キャスト】
ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ、ザジー・ビーツ、フランセス・コンロイ、ブレット・カレン、ビル・キャンプ、シェー・ウィガム、グレン・フレシュラー
【作品概要】
DCコミックスのヒーロー、バットマンの最大のヴィラン(悪役)として知られるジョーカーの誕生秘話を描きます。第76回ヴェネツィア国際映画祭では、最高賞にあたる金獅子賞を受賞し、アメコミ作品としては初の世界三大映画祭での最高賞受賞となりました。
主人公のアーサー/ジョーカーを演じるホアキン・フェニックスは、早くもアカデミー賞候補と目されるほどの演技を披露。不謹慎ギャグのオンパレードで話題となったコメディ「ハングオーバー!」シリーズ(2009~13)のトッド・フィリップス監督が、独自の解釈で稀代のヴィランに命を吹き込みました。
映画『ジョーカー』のあらすじ
1980年代初頭のゴッサム・シティは、貧富の差が止まらず、政治不信が高まり、街の治安も乱れていました。
そのゴッサムに暮らす青年アーサーは、道化師として働くも生活は困窮しており、自身も心身に障害を抱えながら、心臓と精神を病む母ペニーの面倒を見ています。
彼はコメディアンになることを夢見ており、人気テレビ番組のホストにしてコメディアンのマレー・フランクリンに憧れていました。
その一方で、隣人のシングルマザーのソフィーを見初め、密かに彼女の後を尾行するアーサー。
そんなある日、仕事のミスを上司に責められたアーサーは、同僚から護身用にと拳銃をプレゼントされます。
その銃をきっかけに、地下鉄で災厄を起こってしまったことから、彼の運命は大きく変貌していきます…。
映画『ジョーカー』制作の参考にした作品群
参考:『ジョーカー』本国版ツイッターよりトッド・フィリップス監督(左)と主演のホアキン・フェニックス
Director Todd Phillips and Joaquin Phoenix. #JokerMovie pic.twitter.com/d60bOc8qIF
— Joker Movie (@jokermovie) September 29, 2019
監督のトッド・フィリップスは、本作『ジョーカー』の制作にあたり、影響を受けた作品をいくつか挙げています。
なかでも、1970年代のアメリカ映画の影響を主に受けたと語っています。
腐敗した社会に翻弄される主人公を描く『セルピコ』(1973)や、ヴィジランティズム(自警主義)を追求した『狼よさらば』(1974)。
さらに銃撃や逃走シーンなどは、「フレンチ・コネクション」シリーズ(1972~75)を思わせるなど、とにかく細かい点を挙げるとキリがないほどです。
次の章では、4作品をピックアップして影響や引用を解説していきます。
映画『モダン・タイムス』(1936)
映画『モダン・タイムス』のあらすじ
大きな工場で働くチャーリーは、毎日同じ作業を続けているうちに常軌を逸してしまい、精神病院送りに。
何とか退院したものの、すぐさま街での抗議活動の首謀者と間違われて、逮捕されてしまいます。
それでもチャーリーは模範囚として出所し職に就くも上手くいかず、自ら監獄に戻ろうと画策しているうちに、一人の少女と出会います。
映画『モダン・タイムス』と『ジョーカー』の比較
資本主義社会や発達する文明を皮肉った、“喜劇王”チャールズ・チャップリンの代表作の一本。
最下層の労働者が搾取され、街全体が疲弊しているというテーマは、『ジョーカー』にも共通します。
また、チャーリーが本人の意に反して抗議活動のリーダーとされる件は、『ジョーカー』の終盤で、暴徒の象徴に崇められていくアーサーを彷彿とさせます。
さらに、この作品のエンディング曲となるチャップリン作曲の「スマイル」を、予告編や劇中で流せば(コメディアンのジミー・デュランテが歌うカバーバージョン)、作品の一部シーンも『ジョーカー』の劇中で使われています。
映画『カッコーの巣の上で』(1975)
映画『カッコーの巣の上で』のあらすじ
刑務所の強制労働を逃れようとする男マクマーフィは、精神疾患を装いオレゴン州立の精神病院に入ります。
院内は、絶対権限を持つ婦長ラチェッドによって統制された世界となっていました。
窮屈な病院ルールにマクマーフィはことごとく反発し、次第に患者たちも心を少しずつ取り戻し始めます。
そんな彼の存在に脅威を感じたラチェッドは、危険な療法を施そうと企てますが…。
映画『カッコーの巣の上で』と『ジョーカー』の比較
アカデミー賞で主要5部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、脚色賞)を独占した、ミロス・フォアマン監督の社会派ドラマ。
精神を病んだ者が抑圧からの解放を求める姿は、同じく精神や脳に障害を抱えるアーサーとダブります。
また、ラストでマクマーフィに待ち受ける運命は、『ジョーカー』での、ある戦慄のシーンに引用されています。
映画『タクシードライバー』(1976)
映画『タクシードライバー』のあらすじ
ニューヨークでタクシー運転手をしているベトナム帰還兵のトラヴィスは、都会の喧騒に苛立ちを貯める日々を送ります。
一方で、客としてタクシーに乗り込んできた女性ベッツィに一目惚れし、デートに誘うも上手くいきません。
そんな折、少女売春婦アイリスと出会ったトラヴィスは、彼女に同情するうちに予期せぬ行動へと…。
映画『タクシードライバー』と『ジョーカー』の比較
監督マーティン・スコセッシ&主演ロバート・デ・ニーロの2度目のコンビ作で、カンヌ国際映画祭ではパルムドールを受賞。
腐敗した街を憂うあまり、次第にヴィジランティズムに目覚める主人公トラヴィスは、『ジョーカー』におけるゴッサムの格差社会に反発し暴徒と化す市民の延長線上に存在します。
またフィリップス監督は、トラヴィスが上半身裸で拳銃を構えたり、指で銃を象って頭にかざすといった有名なシーンのいくつかを、『ジョーカー』で意識的に模倣しています。
映画『キング・オブ・コメディ』(1982)
映画『キング・オブ・コメディ』のあらすじ
コメディアン志望の男ルパート・パプキンは、人気コメディアンのジェリー・ラングフォードの大ファン。
なんとかジェリーとコネを作ろうと執拗につきまといますが、相手にされません。
やがて逆ギレしたルパートは、同じく熱狂的なジェリーのファンであるマーシャと、ある恐ろしい計画を企てることに…。
映画『キング・オブ・コメディ』と『ジョーカー』の比較
マーティン・スコセッシ監督とロバート・デ・ニーロの5度目のコンビとなる、サスペンスドラマ。
デ・ニーロ扮するルパートが、人気コメディアンのジェリーに憧れて妄想に囚われる過程や、母親と二人暮らしという設定、さらに近隣の黒人女性(演じるダイアン・アボットは当時のデ・ニーロの妻)に片想いするといった展開など、『ジョーカー』との共通点が多い作品です。
とにかく、ほとんどストーカーと化したルパートが不気味かつ気持ち悪いことこの上なし。
カメレオン俳優の第一人者とされるデ・ニーロのフィルモグラフィの中でも、間違いなくトップクラスに気持ち悪いデ・ニーロが見られます。
余談ですが、映画通として知られるタレントの小堺一機は、この作品を劇場で観ているうちに、あまりのデ・ニーロの演技に気分が悪くなり嘔吐してしまったとか。
そのデ・ニーロに、『ジョーカー』でアーサーが憧れる人気ホストのマレーを演じさせるあたり、フィリップス監督のひねりが効いています。
まとめ
以上、本作『ジョーカー』製作における関連作を、いくつかピックアップしました。
もちろん、ピックアップした作品を未見の方でも、本作は楽しめるよう作られています。
純真な人間が、数々の不運・不幸を経て悪のカリスマへと変貌していく過程は、恐ろしくもあり哀しくもあり、時には滑稽でもあります。
実は、トッド・フィリップス監督の名声を高めた「ハングオーバー!」シリーズもそういう作品。
コメディ作品にもかかわらず、不謹慎かつ悲惨すぎて笑うのをためらってしまうシーンが散見する同シリーズは、まさに「悲劇と喜劇はコインの裏表」を見事に表しています。
「コメディを作ることが難しい時代になった」と語る監督が放つ『ジョーカー』もまた、違う角度から描いたコメディといえるかもしれません。