連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第27回
日本に暮らすマイノリティカップル。そのあり方とは――。
今回取り上げるのは、2019年11月29日(金)より池袋HUMAXシネマズにて劇場公開の『ぼくと、彼と、』。
介護を要する母親を持つ日本人青年とベトナム難民2世の青年、2人の男性カップルの日々の生活と結婚式までを追います。
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映画『ぼくと、彼と、』の作品情報
【日本公開】
2019年(日本映画)
【監督】
四海兄弟
【キャスト】
鳥山真翔、グェンリ・アンコア、鳥山真翔の母、山縣真矢、杉山文野、外山雄太、レスリー・キー
【製作総指揮】
飯塚冬酒
【撮影】
長棟航平、野口高遠、松村慎也
【作品概要】
シンガーの鳥山真翔と、イラストレーター兼モデルのグェンリ・アンコアのマイノリティカップルの、日常と結婚式までを追ったドキュメンタリー。
音楽には、鳥山が自ら作曲した曲や、マスコーラスクワイアBe choirの長谷川雅洋が作詞・作曲した「LIFE」などを使用。
監督は、現役パリコレモデルの女子大生を追った15分の短編ドキュメンタリー『今を憂う君も春になれば』(2019)を手がけた四海兄弟で、本作が初の長編となります。
製作総指揮は、日米の宗教音楽を描いた『GOSPEL』(2014)、ミス日本コンテストを赤裸々に描いた『夢こそは、あなたの生きる未来』(2018)など、先鋭的なドキュメンタリーをプロデュースしてきた飯塚冬酒です。
映画『ぼくと、彼と、』のあらすじ
シンガーにしてボイストレーナーとしても活躍する鳥山真翔は、LGBTであることをカミングアウトし、イラストレーター兼モデルのベトナム難民二世のグェンリ・アンコアとパートナー関係を結んでいます。
真翔には介護を要する母親がいますが、彼女は息子のカミングアウトを受け入れており、グェンリを「アンコちゃん」と呼ぶほど打ち解けています。
そんななか、真翔はグェンリにプロポーズし、本格的な同居を考えます。
しかし、真翔の父親もグェンリの家族も同性婚に抵抗を感じており、彼らを受け入れていません。
両家に同性婚を認めてもらうべく、動き出す真翔とグェンリ。
本作は、そうした2人に密着しつつ、彼らを取り巻く周囲の人たちにもカメラを向け、さらに日本におけるLGBT事情にも迫っていきます。
素性を明かさぬ“覆面監督”、四海兄弟
本作の監督である四海兄弟(しかいけいてい)。
現在、映画・映像の現場に携わっているという四海兄監督は、自分の実績をゼロにしたところからドキュメンタリー作品に挑戦したいとして、自身の素性を一切明かさぬ“覆面監督”として活動。
2016年度のミス日本ファイナリストで、パリコレモデルにして中央大学生の本山琴美を追った短編ドキュメンタリー『今を憂う君も春になれば』を発表します。
続けて、現代日本に生きるLGBTを追ったドキュメンタリーを手がけたいとの狙いから、クラウドファンディングで資金を募り、本作製作に漕ぎ付きました。
あくまでも“一組のカップル”として密着
本作は、昨今製作されることが増えた、LGBTQをテーマにした映画とは少々主旨が異なります。
LGBTQ映画の多くは、周囲からの偏見や差別といった問題に当事者がどう向き合うのかといった点にクローズアップされ、そこには大抵、悲壮感が付き物だったりします。
しかし本作では、真翔とグェンリの2人を、あくまでも“一組のカップル”として追いつつ、彼らの普段の日常を覗いてみる、といった構成になっています。
一緒に会話したり、一緒に食事の準備をしたり、時には一緒に同性婚の法制化を訴えるパレードに参加したりと、日々の行動や生活ぶりを見ていきます。
監督の四海兄弟は、本作製作にあたり以下のようなコメントを残しています。
「個人的には、性的マイノリティが特別視されたり、LGBTQとひとくくりにされることに疑問がある。
人は、みなそれぞれの個性や背景をもって生きている。その個性をラベルで分類することは簡単だけれども、そこにあるのはラベリングする側の便利さだけ。
ラベリングされた側は、ひとくくりにされることを望んではいない。
今回、ご一緒したふたりの個性や生きている背景は人によっては、とても大変な問題に思えるかもしれないが、ふたりは当たり前に受け入れ、この日本で生活を送っている。
そんなふたりの問題や事件をことさら大きく取り上げることなく、普通に暮らしているふたりの姿を描きたかった」
ポジティブに前に進もうとする者たち
もちろん、真翔とグェンリの2人を取り巻く問題に、全く触れていないわけではありません。
真翔の父親やグェンリの家族が、2人の結婚について反対していることが浮き彫りとなり、真翔に至っては、父親とはほぼ絶縁状態となっています。
何とかして双方の理解を得られないかと、1人のシンガーとして、とある策を考える真翔。
2人を含め、本作に登場するLGBTQへの理解を求める人たちに共通しているのは、彼らが前向きかつポジティブな気持ちを持って行動しているということです。
本作が製作されたのも、真翔本人が映像化してもらうべく多方面に企画を持ち込んだことが、そもそもの発端だったとか。
LGBTQであることを悲観することなく、堂々と生きる彼らの姿が映し出されます。
ラストで真翔は、グェンリとの今後について展望を語ります。
それは、2人の現状を鑑みると、容易に実現できることではないかもしれません。
でも、家族として歩み出した2人を見ると、それが不可能だと決めつけるのは早計なのです。