FILMINK-vol.25「Birds of a Feather – The Goldfinch’s Theo and Boris」
オーストラリアの映画サイト「FILMINK」が配信したコンテンツから「Cinemarche」が連携して海外の映画情報をお届けいたします。
「FILMINK」から連載25弾としてピックアップしたのは、日本では2020年に公開予定の映画『ザ・ゴールドフィンチ』。
キャストであるアンセル・エルゴート、オークス・フェグリー、アナイリン・バーナード、フィン・ヴォルフハルトという若手実力派たちが、本作での役作りや共演者について真摯に語っています。
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CONTENTS
同一人物の異なる時代を演じるということ
ドナ・タートによる同名ベストセラー小説の映像化作品『ゴールドフィンチ』。
主人公テオを演じるのは『ベイビー・ドライバー』のアンセル・エルゴートと『ピートと秘密の友達』 オークス・フェグリー。
テオの古くからの友人ボリスを演じるのは『ダンケルク』のアナイリン・バーナードと「ストレンジャー・シングス」シリーズのフィン・ヴォルフハルトです。
今回は人気もキャリアも急上昇中の彼ら4人のインタビューをお届けします。
──アンセルとオークス、あなた方二人はよく似ています!どちらが先にキャスティングされたのですか?
オークス・フェグリー(以下オークス):最初にこのプロジェクトについて聞いた時、母がちょうど原作小説を読んでいたところだったんです。母は「絶対この役をやるべき。まずは試してみたら?」って。
アンセルがその前にテオの役の候補に挙がっていることは知っていました。「ちょっと彼に僕は似ているかも」とも思ったんです。オーディションは早く進んで、セットでアンセルとは数回会って、お互いの演技のために何回もリハーサルを重ねました。2人の間でとても良い形で進んでいったと思います。
アンセル・エルゴート(以下アンセル):一緒のシーンが無かったのは残念だったよね。
──フィンとアナイリンも互いの演技を確認し合いましたか?
フィン・ヴォルフハルト(以下フィン):ナイ(アナイリン)と会ったのは2回だけだったんです。
アナイリン・バーナード(以下アナイリン):私たちが演じたボリス役で重要だったことの1つは、イントネーションでした。笑い方ひとつでも「君たち、同じように笑うんだよ」と言われたことを覚えています。
フィン:すごく大変でした!いっつも変な笑い方が出ちゃうんです。ナイが撮影した後に僕は撮ったので、ボーカルのコーチがロシア語とナイの声を録音して聞かせてくれました。
──ロシア語のアクセントでの演技だったんですか?
アナイリン:そうですね、ロシアとウクライナの間あたりです。
フィン:正確に特定するのはちょっと難しいですね。
アナイリン:ボリスいう男はあちらこちらを旅して回っています。私たちは、彼のバックグラウンドや地位を具体化する感覚を持とうと努めました。ロシア人で、ロシアとウクライナの様々な土地について知っているボーカルコーチのクリスティーナとよく話して特徴を掴みました。
本作のメッセージとは
──この映画や物語からどのようなメッセージを受け取りましたか?
オークス:この物語は今まで誰も聞いたことがないでしょう。少年の成長物語ですが、全編を通して多くの感情が含まれています。観た人全てが異なる感情を体験するんです。それが私を惹きつけたことの1つです。
アナイリン:この映画には大きな心があり、生き残る方法を見つけるための希望があります。そして私たちは皆、この物語に大きく関係していると思うんです。
特にテオとボリスというキャラクターは出会った時、喪失感があり、心に傷を負った背景を持ち、互いの中に何かを見つけて、複雑で奇妙な毎日の中で共に前進しようとします。観客の共感を非常につかむ物語です。テオが幸せに成功し、彼の道を見つけていってほしいと願うことでしょう。
アンセル:私は物事と物理的な事物が絡み合う映画と物語が好きです。子どもの頃母親を失ったテオは、彼女の幻影を“ゴシキヒワ”の絵画に閉じ込めてしまいます。本作ではこのオブジェクトを次の世代に受け渡します。テオは絵画を盗み、まるで母親の代わりのように大事にします。彼がそれを失った時は全ての希望、彼にとっての何もかもを失ったのと同じ。
人間と同じように、事物に多くの感情や物事を重ね意味を持たせる描き方は興味深いです。この映画は多分スマートな人たち向けで、僕ら4人は向いていないかも(笑)。でも確かにドナ・タートの執筆がもたらす堅実なメッセージが多くあります。
この映画で、監督のジョン・クローリーと撮影のロジャー・ディーキンズは物語のメッセージを掴んでいると思います。陰りもあれば、希望もある。これらを尊重し、私たちにやってくる人生を歓迎してくれる。明確にお答えできたらと思うのですが、曖昧な答えで申し訳ありません。でもこっちの方が良い時もあるのかな。
画像:ジョン・クローリー監督(左)と撮影監督ロジャー・ディーキンズ
フィン:この映画はどのように人生が去り、また戻ってくることもあり…それがいかにたくさん起こることなのかを描いています。また、精神的なテーマを扱っていると思います。風刺作品ではありませんが、テオの母親が亡くなってしまう大きな出来事のように、テオの周りを回っている世界を反映しています。
爆発が起こると彼のそれまでの生活も住んでいた場所も全てが崩れ落ちます。物語は巨大な都市ニューヨークに始まり、それからラスベガスの何もないような場所に行く。物や人を失い、それがどのようにしてまた戻ってくるか…物語を語る方法として本当に興味深いものです。
本作にはもちろんストーリーラインもタイムラインもありますが、同時にほとんど液体のようにも感じます。完全に流動的というわけではありませんがあちらこちらを飛び回っています。
仕事に持って行く特別なもの
──仕事に持って行く特別なものはありますか?
アンセル:携帯かな!…冗談です(笑)。
アナイリン:妻に殺されないよう結婚指輪を持って行っています。
フィン:不安症を和らげるためのなにか…でも特に何も持っていかないかも。子どもの頃から持ってるおもちゃとか…うん、特に何かを持って移動することは無いかもしれないです。
オークス:私もフィンと一緒で特にありません。もしそのような物を挙げるとしたら、物じゃありませんが飼っている犬!家に帰って精神的に落ち着かない時も彼はそばに座ってくれるから、何もしなくても安心するんです。彼が助けてくれます。
芸術作品に心を奪われた経験は?
──芸術作品に心を奪われた経験はありますか?
アンセル:映画もカウントしていいですか?エリア・カザン監督、マーロン・ブランド主演の『波止場』です。魅了されて何百万回も観ました。映像も物語も美しくて。今も映画が大好きですが、美術館に行ってアートを一日中鑑賞し、刺激を受けることもあります。
アナイリン:私はジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーの絵画が好きです。
アンセル:今同じことを言おうとしてたんだよ!(笑)
アナイリン:一緒に演じてみたかったね。
オークス:そうだ!思い出した!
アンセル:ターナーについてのこと?
アナイリン:『ターナー、光に愛を求めて』っていう映画があるんだよ。
オークス:ターナーの絵画は色をあまり持たない場合もありますが、嵐の日の絵、も晴れた日の絵も、非常に生々しい感情を持っているんです。いい意味でも悲しい意味でも絵を見ていると彼は感情全部を全く違う方向にねじ曲げてしまいます。
特にこの絵が好きという具体的な作品はありませんが、ターナーの絵画は全て素晴らしいです。
フィン:私は最近アートに興味を持つようになりました。ニューヨークのガゴシアン・ギャラリーに行き、『KIDS』の脚本や『ガンモ』『スプリング・ブレイカーズ』を手がけたハーモニー・コリンと会ったんです。彼のアートがどのようなものになるか興味がありました。素晴らしい映画制作者ですが、彼のアートはまた次のレベルです。
ハーモニーは『Young Twitchy』という展示を行っていました。このTwitchyというキャラクターをペタペタ壁に貼り付けていたんです。それは写実的で、フロリダ州マイアミの暖かいバックグラウンドとテクスチャがありました。それは私がアートから何かを感じた初めての経験でした。
もっと幼かった頃は、博物館や美術館に行く時はただ「行ってみようかな」ぐらいの気持ちだけでした。ハーモニーの絵画を見て、初めて何かを感じ取りました。もう1つ、プールのそばでバケーション中の熱っぽさのようなものを描いた魅力的な絵がありました。素敵な場所にはいるけれど、素晴らしいものには囲まれていないというような。
ハーモニーはアートについてインタビューに答えていて、Young Twitchyと一緒にやっていると言っていました。彼は彼自身をヒートアップさせ、ひどく扱い、ソーダのような飲み物のチアワインを注ぎます。これは相当まずいヤツです。しかしハーモニーは彼という巨大なグラスにタコベルを食べるなんてことや自分自身をひどく扱うということを注ぐことにより、奇妙な熱の夢を洗い流していくんです。私はそれを自分の身体で行いたいとは思いませんが。
役作りのために行ったこと
──キャラクター達には散々なことが次々降りかかりますが、本作はそれでも希望に満ちています。この現代に必要な物語だと思いますか?
アナイリン:映画は常に人々を解放するものだと思います。私たちは映画の世界に行き、楽しんで何かを消し去ります。映画の深度が深いほど私たちは日常のスイッチを切って旅行に出かけることができますよね。
この業界にいる中で、映画を観て数時間姿を消し物語の中で誰かと旅をすることは最も好きなことの1つです。『ゴールドフィンチ』は人生の様々な段階とそこにいる人々の姿を深く描いているので、キャラクターたちと繋がることができます。劇的な形で、物語に飲み込まれてしまうでしょう。
映画館で鑑賞することで、本作が素晴らしい映画体験となることを願っています。このようなテーマを扱う大きなスケールの映画はそう頻繁には制作されませんから。
──アンセル、テオという人物は非常にドラマチックです。役作りに当たって何をしましたか?
アンセル:自分の精神を飢えさせました。テオは人生のあるポイントにおいて、まるで拷問を受けたような魂の持ち主なので、私も常に内なる闇を見つけようとしました。
彼は長い間嘘をついているように感じています。テオは偽のアンティーク販売に夢中になり、『ゴシキヒワ』の絵画を隠し持っているからです。非常に後悔しているので美術館に戻り、壁に絵画をかけ直すことを望んでいます。その状態に心を着地させなければならず、大きな挑戦でした。
──怖かったご自身のダークサイドは?
アンセル:撮影中、ガールフレンドが私をあんまり好きじゃなかったことです…。
──なぜあなたはテオという役を選んだのですか?
アンセル:『ゴールドフィンチ』が大好きなんです。本を読んでたちまち夢中になりました。
役のために自分自身を拷問することは、しばしば必要です。それに役者であることが大好きです。それが選んだ理由かな。痛々しい気持ちになるこのような役をたくさん演じたいかどうかは分かりませんが。
ニコール・キッドマンは母のよう
──ニコール・キッドマンとのお仕事はいかがでしたか?
アンセル:彼女は本当に母親のようでした。みんな絶対この気持ちが分からないと思うのですごく幸せです!(笑)
冗談はさておき、ジェイミー・フォックスやニコールと、今まで一緒に仕事をしたスターの方々は皆素敵な人で、本当に幸運でした。彼らが第一線で活躍し続ける理由はその人間性の素晴らしさです。ニコールは母親のように私をたくさん気にかけてくれ、アドバイスをしてくれました。
──オークス、あなたもニコールと共演するシーンがありましたがいかがでしたか?
オークス:母親のようだったというアンセルの言葉に間違いなく賛成です。撮影が始まった時、「ニコール・キッドマンと一緒に演技するよ!ヤバい!最高!」っていう感じでした。そして彼女が撮影を通して完璧にその役になっていく瞬間を見ました。
撮影での裏話
──アンセル、本作と同じくアムステルダムでの撮影があったスケールの大きな以前の作品『きっと、星のせいじゃない。』とどのような違いがありましたか?
アンセル:2つの経験は全く違ったものでした。本作の場合アムステルダムに行く前、私はジョン(・クローリー)に隅っこに呼ばれたのを覚えています。「アムステルダムでは、テオは本当に彼にとって凄く暗い場所にいるんだよ」って。
ですから私は数日早く現地について帽子とフード付きのジャケットを着て、誰とも話さずに一日十時間くらいあちこち歩き回りました。歩いて歩いて寒くなったら部屋に戻る、そんな生活を続けて何もかもから断絶された気持ちでした。
反して『きっと、星のせいじゃない。』は楽しくてロマンチックでした。本作で私は撮影することを誰にも知らせませんでしたし、ファンの方も私の姿に全く気付きませんでしたし、本当に異なった経験でした。
──どのように社会からのスイッチを切ったのですか?
アンセル:完璧にできたわけではありません、すごく難しかったです。その私の態度は実生活にも現れ始めてガールフレンドにちょっと嫌われました。「アムステルダムにいるらしいけどなんで連絡をくれないの?何をしているの?」「歓楽街とかには行ってないよ…」といったやりとりもしました。
──アナイリンとフィン、あなたたちのキャラクター、ボリスについてはいかがですか?
フィン:ボリスはめちゃくちゃな経験をした人たちの中では、まだ幸運な男だと思います。彼の内部は壊れていますが、かろうじてまだ動いています。
アナイリン:彼は暗さを乗り越えるんです。
フィン:4歳の時にすでにね。
アナイリン:かなり面白いこともありました。ロシアとウクライナのアクセントで喋っているから、一日の撮影が終わった後「さて、今これはどんな感じに聞こえる?」ってね。
フィン:ちょっと大変なこともありました。リハーサルをしている時、すごく具合が悪くなって3日間病院に行ったんです。ニューメキシコで脱水症状になっちゃって。病院にいる時狂ってしまいそうでした。それでやっと解放されて、少し休んだ後に撮影に行きました。
その経験の後、前よりもパワフルになってなんでもできるような気がしたことを覚えています。だから自信を持って撮影に臨みました。
撮影の時、監督のジョンが私の父に「病院で何があったかは分からないけどフィンは何だか薄くて透けて向こうが見えそうだよ。傘に入れてとりあえず外に出さなきゃ。日焼けはさせられないからね」って笑っていたことを覚えています。
FILMINK【Birds of a Feather – The Goldfinch’s Theo and Boris】
英文記事/Gill Pringle
翻訳/Moeka Kotaki
監修/Natsuko Yakumaru(Cinemarche)
英文記事所有/Dov Kornits(FilmInk)www.filmink.com.au
*本記事はオーストラリアにある出版社「FILMINK」のサイト掲載された英文記事を、Cinemarcheが翻訳掲載の権利を契約し、再構成したものです。本記事の無断使用や転写は一切禁止です。
映画『ザ・ゴールドフィンチ』の作品情報
【日本公開】
2020年 (アメリカ映画)
【原題】
The Goldfinch
【原作】
ドナ・タート
【監督】
ジョン・クローリー
【キャスト】
アンセル・エルゴート、オークス・フェグリー、アナイリン・バーナード、フィン・ウルフハード、サラ・ポールソン、ルーク・ウィルソン、ジェフリー・ライト、ニコール・キッドマン、アシュリー・カミングス、ウィラ・フィッツジェラルド、エイミー・ローレンス、デニス・オヘア、ボイド・ゲインズ、ピーター・ジェイコブソン、ルーク・クラインタンク、ロバート・ジョイ、ライアン・ファウスト
【作品概要】
原作は2013年に発表され、2014年ピューリッツァー賞を受賞し欧米圏でベストセラーとなったドナ・タートによる長編小説『ゴールドフィンチ』。
人気作の映画化にて監督を務めるのは『ブルックリン』(2015)でアカデミー賞3部門にノミネートされたアイルランド出身のジョン・クローリー。
脚本はこちらも名小説の映像化作品として成功を収め、各国の映画賞で脚色賞ノミネートを果たした『裏切りのサーカス』にてブリジット・オコナーと共に担当したピーター・ストローハン。
主人公、テオドールの青年時代を演じるのは『ベイビー・ドライバー』(2018)でおなじみアンセル・エルゴート。
孤児となったテオドールを迎える養母、サマンサ役には『めぐりあう時間たち』(2002)でアカデミー賞主演女優賞受賞、『アイズ・ワイド・シャット』(1999)『ムーラン・ルージュ』(2001)『LION/ライオン 〜25年目のただいま〜』(2016)、近年も『ある少年の告白』(2018)と出演した名作を数えれば上げきれない女優にコール・キッドマン。
テオドールの親友ボリス役には『ダンケルク』(2017)で英国兵を偽るフランス兵ギブソン役を演じたアナイリン・バーナード。
ボリスの少年時代に扮するのは「ストレンジャー・シングス 未知の世界」シリーズ、また『IT/それ”が見えたら、終わり。』(2017)でおしゃべりなリッチー役を好演したフィン・ヴォルフハルトです。
映画『ゴールドフィンチ』のあらすじ
13歳の少年テオドール(テオ)・デッカーはメトロポリタン美術館で起こったテロ事件で母親を亡くしました。
父親も蒸発しているテオドールは学校の友人でアンディの両親、チャンス・バーバーとサマンサ・バーバーの夫妻に引きとられることになります。
その後も、友情、恋愛、裏切り、ドラッグ、父親との確執など波乱万丈な人生を余儀なくされたセオ。
彼の数少ない希望の1つは、爆発の後の美術館から密かに持ち出していたカレル・ファブリティウスの絵画、『ゴシキヒワ』(The Goldfinch)でした。