演技派で知られる綾野剛。いよいよ、2017年1月21日から『新宿スワンⅡ』の公開されます。
今回は前作『新宿スワン』をご紹介。監督は園子温。
ベルリン国際映画祭での受賞経験を持つ園子温監督の新たなチャレンジ精神満載の映画です!
映画『新宿スワン』の作品情報
【公開】
2015年(日本映画)
【監督】
園子温
【キャスト】
綾野剛、山田孝之、伊勢谷友介、沢尻エリカ、金子ノブアキ、深水元基、村上淳、久保田悠来、真野恵里菜、丸高愛実、一ノ瀬ワタル、長田成哉、安田顕、山田優、豊原功補、吉田鋼太郎、KAITO、泉大智
【作品概要】
漫画家の和久井健による、ヤングマガジン連載の人気コミック『新宿スワン 歌舞伎町サバイバルバトル』を、『ヒミズ』『冷たい熱帯魚』の園子温監督が実写映画化。
『そこのみにて光輝く』で多くの俳優賞を受賞した綾野剛を主演に、山田孝之、沢尻エリカ、伊勢谷友介ら豪華キャストが共演。新宿歌舞伎町で繰り広げられるスカウトマンたちの過酷な争いと、白鳥龍彦の成長のストーリー。
プロデューサーに『クローズ』シリーズを手がけた山本又一朗、脚本に人気放送作家の鈴木おさむ。
映画『新宿スワン』のあらすじとネタバレ
金髪で天然パーマの白鳥龍彦は、仕事もお金も無い男。新宿歌舞伎町でヤンキーたちに絡まれフルボッコにされた時、スカウトマンの真虎に助けられます。
龍彦は、真虎に誘われて、通りすがりの女の子をクラブや風俗店にスカウトしていく、「バースト」のスカウト社員として働き始めます。
バースト社長の山城神は、暴力団の紋舞会の天野会長の傘下で、歌舞伎町のスカウト通りの縄張りをシマに仕事をさせてもらっています。
はじめのうちは、龍彦のスカウトはひどいものでしたが、真虎の手厚い指導と龍彦の持ち前の器量によって日々成長していきます。
龍彦は、「スカウトした女の子たちを幸せにする」ことが目標。その真っ直ぐな人柄から、新宿の高級クラブのムーランルージュのママ涼子にも気に入られます。
ある日、龍彦は、幹部で武闘派の関玄介に呼び出され、スカウト会社「ハーレム」との抗争の火付け役として利用されてしまう。
そこで龍彦は、ハーレムのスカウトマン南秀吉と出会います。南秀吉は、秘密裏に麻薬取引を行いその資金を元手に全国を統一しようという野望を持つ男。そしてなぜか龍彦を目の敵にしています。
龍彦は、まんまと秀吉が率いるハーレムのメンンバーにフルボッコにされてしまう。
バーストとハーレムとの抗争は、真虎とハーレムのスカウトマン葉山が裏取引によって決着。
バーストは、ハーレムの吸収合併に成功します。
新生「バースト」の社長となった山城は、売上成績の一番高いスカウトを幹部にすると公言します。
スカウトにますます身を入れる龍彦は、風俗店の店長に暴力をふるわれている女の子アゲハと出会い、彼女を助けます。
アゲハには、多額の借金があり、秀吉が肩代わりをし店に出しています。そして、借金の肩代わりをネタにし、アゲハに休憩も与えず客を取らせていました。
疲れ切ったアゲハに秀吉は、疲れが取れる薬、と言って覚せい剤を渡していたのです。
一方で、秀吉はバーストのスカウトたちを買収し、売上とデータを自分のものにしていました。
幹部の関は、その動きを察知し愛人を密偵とし探りを入れますが、秀吉の罠に落ちてしまい、重症を負います。
やがて、バーストの内部闘争は、紋舞会の天野会長の耳にも届き、事件は大きくなっていきます…。
映画『新宿スワン』の感想と評価
この作品の特徴の1つに監督を支える凄腕スタッフ陣の力量と、そして視覚的演出を挙げることができます。
この映画は、他の園子温監督作品に比べて、比較的観やすいエンターテイメント作品になっています。
そのことが“園子温マニア”には物足りなさを感じるかも知れませんが、それこそが新境地に挑んだ園子温らしいと評価できると言えるでしょう。
「新宿スワン」では、園子温監督の作家性へのこだわりに加え、スタッフの個性が活かされているのです。
プロデューサーの山本又一朗は、『あずみ』シリーズや『クローズ』シリーズを手掛けた、エンタメ作品に実績のあるトップクラスの人物。
山本プロデューサーは、脚本家に鈴木おさむを起用。妻が森三中の大島美幸というのも有名ですが、何と言っても『めちゃ²イケてるッ』や『SMAP×SMAP』『SmaSTATION!!』などの人気放送作家です。
山本自身も水島力也の名前で共同執筆しています。
また、撮影は山本英夫。北野武監督の『HANA-BI』の撮影をはじめ、『岸和田少年愚連隊』シリーズなどの三池崇史監督の三池組の常連カメラマンです。
『新宿スワン』の新宿歌舞伎町のロケ現場で、撮影された躍動感は、山本英夫のベテランの腕があってこそ。
さらには、その映像を活かした編集には掛須秀一を起用。『クローズ』シリーズにも編集で参加した掛須秀一の凄さは、リズム感とテンポの良さ。
多数のアニメーションも手がける掛須は、アニメに躍動感を与えた人物。ジャパニメーションは掛須無くしては誕生しえなかったと言われています。
『機動警察パトレイバー2 the Movie』や『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』など手がけた作品を挙げればキリがありません。
才能あるスタッフを、園子温監督は、制作現場で自分が楽しむことで受け入れることで、新たな自分らしさを見つけた作品と言えます。
豪腕なスタッフ陣と、演技に定評のある綾野剛。オモシロイ映画に決まっていますね。
2つ目の特徴に、視覚的演出の巧さについて。
綾野剛演じた白鳥龍彦が、白鳥(ハクチョウ)で、山田孝之の演じた南秀吉が黒鳥(コクチョウ)な対のメタファーであることで、それぞれの性格や役割が明らかになっていました。
衣装は、龍彦=白っぽいパーカー、白シャツ、秀吉=黒いスーツでしたね。
2人の性格は正反対であり、全く性格の違う2つの役を1人で踊り分ける、あの有名なバレエ劇の『白鳥の湖』のような、鏡合わせな構成になっていました。
また、龍彦は金髪、真虎は銀髪。金と銀の組み合わせもまた、金=太陽、銀=月の対になるイメージを持っていました。
汚れのない真っ直ぐな龍彦、そして影のある真虎。
服装も同じく白いシャツの二人ですが、そのジャケットの色は少し異なっていました。
まとめ
この作品のラストシーンは、龍彦が初めて新宿歌舞伎町に来た頃の自身を振り返ります。
龍彦の着ていたスーツ姿から、冒頭のシーンに着ていたパーカーへとオーヴァー・ラップしていきます。
その後、彷徨い歩く龍彦の周囲には、死んだ秀吉や逃げ去るアゲハ、人生の道を開いてくれた真虎、幹部の関、山城社長、ハーレムの葉山など次々にすれ違い、交差していきます。
これは、園子温監督が、龍彦の頭の中で思い出していた、あるいは想像していたイメージを具現化したものです。
この振り返りのイメージ・シーンの締めは、冒頭で龍彦をフルボッコにしたヤンキーたちの「先輩、天パー似合いますね」という仲間挨拶で終わります。
その言葉が、白鳥龍彦の成長物語であることを示すのです。
この作品は、日本映画界の重鎮たち力のあるスタッフを束ねて、園子温が監督としても成長した作品だと感じられます。
まだ、ご覧になっていない、あなた。園子温監督は苦手だという、あなた。
観ていただきたい日本映画の秀作の1本です!