人間とは、憎悪や人種の壁を乗り越えて理解しあえるのか――
「ダークナイト」トリロジー(2005~2012)、『バイス』(2019)のクリスチャン・ベールが主演している、2019年9月6日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショーの『荒野の誓い』。
それぞれの思惑を持って目的地に向かう者たちを描いた、西部劇の新たなマスターピースです。
映画『荒野の誓い』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Hostiles
【監督・脚本】
スコット・クーパー
【キャスト】
クリスチャン・ベール、ロザムンド・パイク、ウェス・ステューディ、ベン・フォスター、ティモシー・シャラメ、アダム・ビーチ、クオリアンカ・キルヒャー、ジェシー・プレモンス、スティーブン・ラング
【作品概要】
19世紀末の、西部開拓とインディアン戦争が終結したアメリカが舞台のヒューマンドラマ。
インディアン戦争での英雄と称えられた兵隊大尉ジョーが、かつての敵であるシャイアン族の長とその家族を居留地へと送り返す任務を命じられ、危険な旅へと赴きます。
ジョーを演じるのは、『バイス』(2019)でのディック・チェイニー米副大統領役も話題を呼んだカメレオン俳優、クリスチャン・ベール。
任務中のジョーと行動を共にすることとなる女性ロザリーを演じるのは、『プライベート・ウォー』(2019)、『エンテベ空港の7日間』(2019)など、2019年秋に続々と出演作が日本公開されるロザムンド・パイク。
また、『君の名前で僕を呼んで』(2018)でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた若手俳優ティモシー・シャラメや、『疑惑のチャンピオン』(2015)のベン・フォスターらが脇を固めます。
監督・脚本は、長編映画デビュー作『クレイジー・ハート』(2009)で、いきなり注目を集めたスコット・クーパーで、ベールとは『ファーナス/訣別の朝』(2013)以来2度目のタッグとなります。
映画『荒野の誓い』のあらすじとネタバレ
1892年、インディアン戦争終息後のアメリカ西部にあるニューメキシコ州。
人里離れた家で夫や3人の子どもと暮らしていたロザリーは、コマンチ・インディアン(ネイティブ・アメリカン)たちの襲撃を受けます。
山奥に逃げ込み生き延びるも、家を焼かれた上に、夫も子供たちも殺され茫然自失となるロザリー…。
一方その頃、同じニューメキシコ州で、かつての戦争の英雄で今は刑務所の看守を務める騎兵隊大尉ジョーは、かつての宿敵で今は囚われの身であるシャイアン族の首長、イエロー・ホークを大統領令で護送する任務を命じられます。
戦争でイエロー・ホークに仲間を大勢殺されたとして任務を拒否するジョーでしたが、上官であるビックス大佐の「命に背けば軍法会議にかけられる上に、退役後の年金受給もなくなる」という言葉を受け、やむなく従うことに。
ガンに侵され余命僅かなイエロー・ホークとその家族を、ニューメキシコからシャイアン族の聖地、モンタナにある“熊の峡谷”に送り届けるべく、ジョーは親友のトーマス曹長、忠実な部下のウッドソン伍長、経験浅いキダー中尉、そしてフランス出身の新人上等兵デシャルダンらとともに出発します。
出発して早々、いきなりジョーはナイフを抜いてイエロー・ホークに決闘を申し出るも、彼は「我々は死を恐れない」と拒絶。
仕方なく先を進むことにしたジョーは道中で、黒焦げとなった家で息絶えた乳飲み子を抱えるロザリーに遭遇します。
家族を失い発狂寸前のロザリーをなだめたジョーは遺体を埋葬し、彼女を道中経路のコロラド州の町ウィンズローまで送り届けることに。
イエロー・ホークとその息子ブラック・ホークは、近いうちに襲ってくるであろうコマンチ族に対抗するには我々の協力が必要だとジョーに進言しますが、拒否されます。
だがイエロー・ホークの言葉通り、ロザリーの家族を殺したコマンチ族の襲撃を受けます。
デジャルダンは殺され、ウッドソンも重傷を負いますが、イエロー・ホークとブラック・ホークの機転もあってコマンチ族を追い払うことに成功します。
コマンチ族と同じインディアンということで、最初こそイエロー・ホーク一家を警戒していたロザリーでしたが、ブラック・ホークの妻エルク・ウーマンから服を授かるなどの施しを受け、次第に心を開いていくのでした。
ウィンズローに着いたジョーは、旧知であるロス中尉にロザリーとウッドソンの保護を頼みます。
その代わりとしてロスは、インディアン一家を斧で惨殺し留置されていた元軍曹ウィルスを軍法会議にかけるべく、彼をモンタナへ連れて行くようジョーに要請。
ウィルスの監視役としてトミー伍長とマロイ軍曹が新たに加わり、ジョーの傍にいる方が安全だと、ロザリーも引き続き同行することにします。
長い旅路の道中で、イエロー・ホーク一家に対する考え方が変わっていくジョー。
そんなジョーを察したかのように、かつてのインディアン戦争で共に戦っていたウィルスは、「貴方と私は同じ。もしかしたら貴方が囚われの身となっていたかも」と不気味に告げます。
ある夜、ロザリーやエルク・ウーマンら女性たちが川で食器を洗っていたところに、暴徒と化した毛皮商人が現れ、彼女たちを誘拐。
ジョーやイエロー・ホークたちが商人の居場所を突き止め、女性たちを救出するも、その戦闘でマロイは死亡してしまいます。
次々と仲間が減っていくことに疲弊しきっていたトーマスは、どしゃ降りの雨が降る夜、イエロー・ホークに「我々のしてきたことを赦してほしい」と、葉巻を授けるのでした。
しかしその直後、ウィルスが隙を突いてキダーに手錠を外させて彼を射殺。
ジョーの射撃で深手を負いながらも、ウィルスは馬で逃走し、トーマスが追います。
夜が明け、先を急ぐことにしたジョーが見たものは、ウィルスの息の根を止めたのちに自らの命を絶ったトーマスの亡骸でした。
亡骸を前に、ジョーは泣き崩れます。
映画『荒野の誓い』の感想と評価
西部劇は死なず
映画産業の発展を支えてきたジャンルの一つとも言える西部劇ですが、時代を経るごとに製作頻度は少なくなり、21世紀に入って以降、大手メジャー会社主導で作られることはほとんどありません。
目立つところでは、クエンティン・タランティーノがソニー製作で『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)を監督しましたが、次作の同じ西部劇『ヘイトフル・エイト』(2016)は、インディペンデント系のワインスタイン・カンパニー単独製作になっています。
そうした、西部劇というだけでなかなか企画にゴーサインが出にくいハリウッドの現状において、西部劇テイストを色濃く反映した現代劇に仕上げるフィルムメーカーも存在します。
そのなかの一人が、本作『荒野の誓い』の監督スコット・クーパーでしょう。
参考映像:『ファーナス/訣別の朝』予告
2013年の監督作『ファーナス/訣別の朝』は、閉塞感漂う寂れた町を舞台に、弟を殺された兄が復讐を果たすという、現代劇にして西部劇テイストあふれる一本となりました。
その『ファーナス』で主演を務めたクリスチャン・ベールを想定し、クーパーは本作の脚本を執筆、念願ともいえる本格西部劇を完成させました。
また、ベールが主演した他の西部劇に『3時10分、決断のとき』(2009)があり、監督のジェームズ・マンゴールドも、『コップランド』(1997)や『LOGAN/ローガン』(2017)で西部劇にオマージュを捧げ続けるフィルムメーカー。
ラッセル・クロウ扮する強盗団のボスの護送に参加する、ベール扮する元北軍兵の牧場主を主人公とした『3時10分、決断のとき』は、物語・人物背景は違えど、本作『荒野の誓い』とあらすじに共通点があるのも面白いあたり。
西部劇を愛する者は、おのずと惹かれあう運命にあるのかもしれません。
現代社会が抱える様々な問題を内包
もちろんクーパー監督は本作製作に際し、既存の西部劇を単にトレースしたわけではありません。
アメリカが開拓されていった裏には、白人がインディアンから土地を奪っていったという負の歴史があります。
奪う者と奪われる者の間に生じる、嫌悪や憎悪が混じったクライム。
インディアンを悪者としてきた西部劇の過ちの落とし前をつけるかのように、本作では過酷な旅を経て、はたして人種や立場を超えた人間同士のつながりは生まれるのかという問いかけをします。
また、主人公ジョーと友人のトーマス曹長、そして囚人となった元兵士ウィルスは、凄惨な戦場に赴いてきたことで、三者三様のPTSD(心的外傷後ストレス障害)を負っています。
PTSDを抱える兵士の苦悩を描いた作品に『アメリカン・スナイパー』(2016)がありますが、本作の舞台となる19世紀のアメリカでは、そうした病への認識は当然ながらありません。
クーパー監督は西部劇という体裁を借りつつ、異人種間のヘイトクライムや心的ストレスといった現代社会が抱える問題を描きます。
まとめ
前述の『アメリカン・スナイパー』の監督クリント・イーストウッドは、テレビドラマ『ローハイド』や映画『荒野の用心棒』(1965)といった西部劇で人気スターとなった人物。
その彼が「最後の西部劇」として監督・主演した『許されざる者』(1992)は、批評的にも興行的にも成功を収めました。
それから約30年経ち、さらに零細ジャンルとなった西部劇ですが、フィルムメーカーの解釈一つで、いかようにも生まれ変わることが可能。
本作『荒野の誓い』は、それを証明する一作となっています。
『荒野の誓い』は2019年9月6日(金)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー!