映画『リアル』は4月14日よりシネマート新宿ほか順次公開。
本当の自分は何者か⁈ 本当の現実は何か⁈
韓国の次世代トップ俳優キム・スヒョン待望の主演作をご紹介します。
映画『リアル』の作品情報
【公開】
2018年(韓国映画)
【原題】
Real
【監督】
イ・サラン
【キャスト】
キム・スヒョン、チェ・ジンリ、ソン・ドンイル、イ・ソンミン、チョ・ウジン
【作品概要】
子役時代からテレビで活躍し、映画『10人の泥棒たち』や『シークレット・ミッション』など映画の世界でも確実にキャリアアップし、若手トップスターとなったキム・スヒョンが、カジノを舞台に一人二役を演じた話題作。
映画『リアル』のあらすじとネタバレ
怖いもの知らずで凶暴な性格のチャン・テヨンは、最近、同じ名前で顔もそっくりな男に付け回されていると訴え、神経精神科の専門医チェ・ジンギの診察を受けていました。
チャンは自分の暴力にまみれた半生を語って凄み、医師が診断に使うために取り出したマトリョーシカを破壊します。
医師は、驚きはしたもののさほどあわてず話しを続けました。「同じタトゥーの男をお探しだとか?」
そこへリハビリ科の診療記録を理学療養士のソンという女性が持ってきました。彼女は半年ほど前からチャンを担当しているのです。
彼女が出ていくと、医師は「交際期間は?」と尋ねました。チャンは少し驚いたようです。「どこでその話を?」
医師は笑って誤魔化し、話しをもとに戻しました。解離性障害の疑いがあると告げ、「自我が二つに別れています。残り四週間でもうひとりのチャンさんを殺すつもりです。」と続けました。
医師は彼に催眠治療を施します。「あなたはもう一人の人間を見たことがありますか? いつでしたか?」
水の中でもがいているチャン。医師は彼にメガネをかけさせました。目を覚ました彼を見て「ルポライターだったのか?」と問います。
チャンは先ほどとは別人のように従順になり、「フリーランスでマスコミにネタをうっていました」と答えました。
「名前を書いていないのはなぜだ?」「潜入捜査のためです」
「君の人格は壊れてしまっている。中毒死か、自殺か、君だけ死ぬ方法がある」と医師は告げました。
交通事故で全身血だらけの男が担架で運ばれていました。男と並んでチャンも担架で運ばれています。
チャンのベッドの向かいには怪我の男が包帯をぐるぐる巻きにして意識不明で入院していました。植物状態のようでした。
包帯の男は水の中でもがき、血が水の中で広がっていました。そこをサメらしき影が横切っていきました。
メガネをかけたチャンが包帯男のベッドへやって来ました。「一つの体に二人は存在できない。僕だけが死ぬ方法は意外に簡単でした。あなたの体に入り確かめます。」そういうとチャンは包帯の男の首を絞め始めました。
「あなたが死ねば僕も死ぬ。生きたいのだとしたらすみません」
その時、突然男の手が彼を押さえました。「なんなんだよ」とチャンは言うと、部屋を飛び出していきました。異変に気付きやってきた看護師は目の前の光景を見て驚愕します。
植物状態だった男がベッドに座っていたからです。
半年後、チャンがオーナーを務めるラグジュアリーカジノ「シエスタ」が華々しくプレオープンを迎えました。
閉店後、路上でチャンはチェ医師と言葉を交わしました。「もうひとりは消えたようです」と言う彼にチャンは礼を述べました。その様子を車から見つめている男がいました。その男は奇怪な仮面のようなものを顔につけていました。
男の隣にはサ・トジンという弁護士が座っていました。「整形は成功。改名も完了しました。彼と同じ名前にした理由は?」
「もとは俺の名前だった」と男は答えました。
カジノ経営は順調な滑り出しをみせましたが、犯罪組織のリーダー、チョ・ウオングンが刑期を終えて出所すると、「シエスタ」の権利を狙い始めました。
そしてついに、彼がカジノを買収し、チャンに「悔しかったら取り戻せ。あらゆる手を尽くして金を集めてみろ」と言うのでした。
チャンはリハビリ治療の最中、怒りを抑えられず、ソンから注意を受けます。隣には仮面の男が治療を受けていました。チャンはこの男の名前が自分と同じだと知り、驚きます。
チャンの部下のペク室長が荒っぽい方法で金を集めようとしていると、そこに「私どもの顧客が感心を示しているのですか、どなたにお話をすればよろしいでしょうか?」とサ・トジンが訪ねてきました。
サ・トジンが戻った先には、仮面の男がいました。「すぐに話しにのってきました」とサは報告するのでした。
交渉にやってきたチャンは相手が仮面の男とわかりいぶかしそうな表情をしました。男はフリーのルポライターだと自己紹介しました。「これは意外だ。大金持ちは遊んでばかり居るのだと思っていた」とチャンは返します。
「金はだします。チョを捕まえて探りたい」という仮面の男に「俺もやつをつぶしたい」とチャンが応じました。
これを機会に仮面の男はなにかとチャンにつきまとい始めました。ソンとよく似た女ユファを同伴し、彼の真似をしているかのようです。
ある日、仮面の男はソンのマンションを訪ねます。ソンには以前夫がいたことを指摘し、苦しむ男に惚れやすいんですよねとささやきました。
この薬を飲まないと僕は苦しむ、と仮面の男は薬をソンに見せました。「処方されていないわ」とソンが言うと「カルテから消しましたから」と男は答えました。
「なぜ飲まないの?」「君は苦しむ男が好きだから」
彼にソンの情報を教えたのはチェ・ジンギでした。仮面の男は彼に「チャンの診療目録をください」と依頼します。
チョのアジトにチャンは仮面の男を従えて、乗り込みました。仮面の男はビデオカメラを回しながら、チャンの後を負いました。奥では違法の賭博が行われていました。
チャンが「出入国管理所から来た」と叫ぶと、客は一目散に退却しました。店の男たちが、一人、また一人と現れては、チャンに勝負を挑みますが、チャンは素手で彼らを次々と殴り倒していきます。
更に奥に進むと売春宿、エレベーターを降りていくと屠殺所と続き、ついに麻薬の精製所が現れました。
チャンは仮面の男にチェーンソーをもたせ、階段を降りようとして、上がってきた男を一発で倒します。
チョのアジトは火に包まれていました。外に出たチャンは仮面の男に「契約はここまでだ。もう会う必要もない」と告げました。
「まるで俺のコピーだな。今度真似したら許さない」と言い、更に「ソンに手を出すな」と忠告するのでした。
しかし、ソンは仮面の男に惹かれ始めていました。彼が苦しむ男だからです。そして彼女自身、麻薬なくしては生きられない体になっていました。
仮面の男はチャンの過去を調べ始めました。彼がかつて住んでいた家に隠し部屋があることに気が付きます。
チャンはルポライターで、潜入取材をしていましたが、「シエスタ」という麻薬に体を蝕まれていました。しかし、体温を下げれば記憶を失わないと氷のはいった風呂に浸かります。
記録として撮られた映像を見た仮面の男は自らも氷の風呂につかり、それをカメラに納めるのでした。
仮面の男は背中にチャンと同じ入れ墨を入れました。そしてついに仮面を全て外す時がやってきました。
チェ・ジンギを「シエスタ」のVIPルームに招待したチャン。仮面の男が自分をそっくり真似することを相談すると医師は、そうした例があり、病名もあることを告げますが、「私には何もできない」と答えるのでした。
チャンはパーティーで仮面の男と会いますが、仮面のとれた男は自分と瓜二つでした。「そっくりで気まずいな。真似するなと言ったはずだ」。すると意外な言葉が返ってきました。「真似しているのはお前では?」
映画『リアル』の感想と評価
粗暴で野心家のカジノオーナー、チャン・テヨンと、チャン・テヨンと同じ名前、同じ顔の資産家でルポライターの二役をキム・スヒョンが演じているのですが、ストーリーは複雑で、とても難解です。
観客への“騙し”が仕掛けられていて、さらに時間軸までいじっているので、考えれば考えるほど頭がこんがらがってきます。
「メガネ」が一つのヒント、見分ける小道具のように使われていますが、それも後半になるともうどうでもいいだろうとばかりに使用されなくなっていきます。
ある意味、これは解離性障害や麻薬中毒を抱えた人の頭の中を大胆に映像化した作品といえるかもしれません。斬新な映像技術を駆使して、光に溢れた幻想的で不可思議、残酷で痛々しい世界が繰り広げられます。
とはいえ、そうした側面も当然ありつつ、実は意外と単純で、人間の自我の葛藤を壮大なスケールで描いた作品なのではないか?とも思えてきます。
見終えてからああでもない、こうでもないと考える作業は案外楽しく、すっかり、作り手の思惑にはめられてしまったようです。
にしても、このような実験的映画を商業ベースのど真ん中で展開できるというのは、今の韓国映画の勢いを象徴するものといっても良いでしょう。
しかし、この映画、それだけではありません。中盤の悪の組織に乗り込んでいくキム・スヒョンのかっこいいこと!圧倒的な強さで、敵をうちのめしていくのですが、ナイフを振りかざす複数の敵を素手で倒すのをワンシーンワンカットで撮っているのには興奮しました。
この悪の組織のアジトの造りがまた面白いのです。キム・スヒョンが進んでいくと、違法カジノが現れ、さらに進むと売春宿、階段を降りると屠殺場があり、その隣には麻薬の精製所があるという、もう悪の見本市か、悪のテーマパークかといいたくなるような構造。
韓国映画には狭い空間からわらわらと人間が現れる独特な雰囲気の空間がしばしば登場しますが、その中でもこのアジトの構造は秀逸なものと言えるのではないでしょうか?
終盤、突然、赤いスーツ姿の仮面の男が舞い、闘うシーンも圧巻!キム・スヒョンのスター映画として映像で勝負する作品となっています。
まとめ
カラフルで妖しげなオープニング映像を製作したのは、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014/アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ監督)、『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011/マシュー・ヴォーン監督)などのオープニング・シークエンスを担当しているクリエイター、イ・ヒボク。
『オールド・ボーイ』(2003/パク・チャヌク監督)、『グエムル 漢江の怪物』(2006/ポン・ジュノ監督)、『甘い人生』(2004/キム・ジウン監督)などの美術担当として名高いリュ・ソンヒがカジノ「シエスタ」の設計を担当。
フランスの画家、ホン・イルファが映画のために10点の新作を描き、「シエスタ」のショーをポーランドのパフォーマンスチームが協力するなど、国際色豊かなクリエイターが参加しています。
監督は本作でデビューを果たしたイ・サラン。骨太でスケールの大きな作品に仕上げました。
キム・スヒョンを囲む俳優たちも個性的な面々で、精神科医を演じるイ・ソンミンや、犯罪組織のリーダー役のソン・ドイルなど、皆、良い面構えをしています。
韓国映画の魅力の一つに役者の「顔」があります。イケメン俳優は勿論のことですが、一度見たら忘れられない「顔」力を持っている役者の多いこと! ああ、役者の顔って大事だなといつも思うのです。
本作でも「良い顔」をたっぷり堪能することができます!