原作漫画と異なる“勝ち方”の意味、
続編が“劇場版”になる可能性を考察・解説!
荒木飛呂彦の人気シリーズ漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の第4部に登場した漫画家・岸辺露伴を主人公に据えたスピンオフ漫画を、高橋一生主演で実写化したドラマ『岸辺露伴は動かない』。
2020年に1期、2021年に2期と「NHK年末恒例のドラマ」となりつつある本作もついに“3期”を迎え、第7話「ホットサマー・マーサ」が2022年12月26日に、第8話「ジャンケン小僧」が翌日27日に2夜連続で放映されました。
第8話「ジャンケン小僧」は、前回・第7話で起こった「ホットサマー・マーサ」のキャラクターデザインの変更をきっかけに、露伴が謎の少年から漫画家生命を賭けた“ジャンケン勝負”を挑まれる物語。
本記事では、ドラマ第8話「ジャンケン小僧」のネタバレ有りあらすじとともに、実写ドラマ版・原作漫画版での“勝ち方”の違いと共通点、エンドロール後に描かれた“劇場版”の可能性などについて考察・解説してきます。
CONTENTS
ドラマ『岸辺露伴は動かない』第8話「ジャンケン小僧」の作品情報
【放映】
2022年(日本ドラマ)
【原作】
荒木飛呂彦
【監督】
渡辺一貴
【脚本】
小林靖子
【音楽】
菊地成孔
【キャスト】
高橋一生、飯豊まりえ、柊木陽太
ドラマ『岸辺露伴は動かない』第8話「ジャンケン小僧」のあらすじとネタバレ
前回・第7話での“藪箱法師”を巡る騒動は何とか収束したものの、肝心の漫画『ピンクダークの少年』の新キャラクター「ホットサマー・マーサ」のデザイン変更は藪箱法師ではなく、担当編集・京香(飯豊まりえ)の仕業であることを知った漫画家・岸辺露伴(高橋一生)。
ある日、露伴の自宅に一人の少年(柊木陽太)が訪ねてきます。露伴は「ここは仕事場だ」と追い返そうとしますが、少年は「ホットサマー・マーサの丸はなぜ“4つ”なのか?」と尋ねます。
「マーサの丸い頭部についた丸は“眼”であり、その眼が“3つ”である理由はないことからも、デザインが“丸4つ”である必然性がない」「“3つ”は美しくない。“3つ”ならマーサは完璧なのに」「今からでも“3つ”にしませんか。“3”なら、全てが良くなる」……。
露伴の好み・作家性を把握した相当なファンと伺える少年の鋭い指摘。露伴自身もそのことをよく理解しながらも、「どんな事情であれ、一度世に出したものを簡単には変更できない」という創作者としての矜持のため「参考にする」とだけ返事して少年を追い返しました。
帰路の間も、マーサが“丸3つ”でないことに怒り続ける少年。ふと通り過ぎた“四ツ辻”で転んだ彼は、グー・チョキ・パーの“3手”という、この世で最もシンプルで、最も美しいルールで形作られたゲーム「ジャンケン」に“何か”を見出しました。
その後、成犬となったバキンとの散歩を終え自宅に戻った露伴の前に、「ジャンケンをしましょう」と少年が姿を現します。しかし露伴は徹底的に無視し、そのまま仕事を始めました。
時間が経過し、京香との読み切り新作漫画の打ち合わせを行うカフェに向かうべく、タクシーを止めようとする露伴。ところが、前方に突然少年が飛び出してくると、自身が止めようとしたタクシーを横取りしようとします。
「どっちが乗るか、ジャンケンで決めましょう」と執拗にジャンケンでの勝負を露伴に持ちかけてくる少年。違和感を抱いた露伴は対象を“本”にしてその人間の記憶や情報を読み、指示を書き込むこともできる特殊能力「ヘブンズ・ドアー」で少年を“本”化しました。
露伴は“本”と化した少年を読み進めますが、少年は「大柳賢」という名の小学6年生であること、当初の予想通り漫画家・岸辺露伴と漫画『ピンクダークの少年』の相当なファンであることは判明したものの、それ以外はいたって子どもらしい記憶ばかり。
違和感は気のせいだったと判断した露伴は、ヘブンズ・ドアーを解除。そして、“本”化した際に知った「最初にチョキを出す」という少年の情報の通りに、少年にジャンケンで勝利します。
無事タクシーでカフェに到着し、“いつもの席”に座ろうとする露伴。すると、追いついてきた少年がその席を横取りし、また「ジャンケンで決めましょう」と勝負を持ちかけてきます。
ウンザリしながらも、「パー」で少年に勝つ露伴。京香や周囲の客に白い目で見られても意に介することなく、自身を苛立たせてくる少年を負かせたという勝利の余韻を噛みしめるのでした。
また別の日、古本屋に立ち寄った露伴は仕事の資料用に植物図鑑を買おうとします。ところがそこに少年が現れ、財布を取り出そうとしていた露伴から図鑑を奪い、先にレジへ向かいます。
再び怒り心頭の露伴に「ジャンケンで決める?」と勝負を持ちかける少年。自身にとっても最早恒例となりつつある少年とのジャンケン勝負に、露伴もためらいなく乗ります。
大きく突き出した露伴の「グー」に対し、少年は「パー」によって初勝利を掴み取ります。「ついに勝った」「これで“1勝2敗”」という少年の言葉とともに、露伴は右腕をはじめ自身の肉体に異常を感じとりました。
ドラマ『岸辺露伴は動かない』第8話「ジャンケン小僧」の感想と評価
ドラマは“才能を生まれ持った運”をも乗り越える
岸辺露伴というキャラクターが初めて登場した漫画『ジョジョの奇妙な冒険』第4部の1エピソード「ジャンケン小僧がやって来る!」を原作とする第8話。実写ドラマ化にあたっての原作改変において、原作ファンが最も気になったのは、やはり「勝ち方」の違いであるはずです。
勝負の途中、偶然通りすがったジョセフ・ジョースターが抱いていた“透明の赤ちゃん”……自身と周囲の物体を透明化する能力「アクトン・ベイビー」を持つ赤ん坊・静にヘブンズ・ドアーで「透明になって小僧の指を『グー』にする」という指示を書き込み、少年のジャンケンの手を強制的に「グー」にさせた……。
「少年のクセを見抜き、そのクセと彼の漫画『ピンクダークの少年』への作品愛を利用して『グー』を出させた」という実写ドラマ版の勝ち方とは異なり、いくら少年の能力によってジャンケン勝負を強いられているとはいえ、原作漫画における露伴の勝ち方はより“イカサマ”と言われても仕方ないものといえます。
しかし、それらの異なる勝ち方に共通しているのは、「ともに“漫画家”として生きてきたヘブンズ・ドアーという異能」と「“漫画家”として培ってきた鋭い観察眼」という違いはあれど、岸辺露伴の“自分自身”の力であり、“漫画家”としての力であること。
その上で実写ドラマ版は、露伴はその時の勝ち運のみならず、ヘブンズ・ドアーという生まれ持っての“ギフト”を得たという運すらも乗り越える姿を描くために、あえてヘブンズ・ドアーを封じ「“漫画家”として培ってきた鋭い観察眼」という露伴の努力の賜物で勝利するという展開へと原作漫画のストーリーを改変したのです。
辻神も六壁坂も“道”と“数字”の怪異
「露伴のファンとの戦い」をテーマに構成されているドラマ3期の7話・8話は、「辻神」との遭遇の物語でもありました。
道と道が交差し、全てにおいて美と調和をもたらす“3”ではなく、“4”という不吉の数字によって構成される四ツ辻に現れる怪異・辻神。
なお、ドラマ2期(第4〜6話)で描かれた「六壁坂」も、「坂」という道に現れる怪異であり、「6」という主にキリスト教世界で不吉と見なされてきた数字を冠する怪異でした。
「“仮死状態となった自身を、そばで管理し続けなくてはならない”という状況へと宿主となる人間を陥らせることで、宿主がその土地を離れるのを不可能にする」という特性を持ち、その土地に宿主を縛りつけることで“自身の住処での種の繁栄”を続けてきた生物でもある六壁坂。
「人生」「結婚」「家」が強く結びつけられた、人間社会の在り方にもどこか通ずる生態を持つ六壁坂は、“6つの壁”で構成されるもの……「箱」のような形をしたもの、ひいては「家」という大きな箱から連想された怪異であり、人間の生活に根差して着想・伝承されてきた怪異であると捉えることも可能かもしれません。
そしてドラマ3期で描かれた辻神も、「生活する人々や物が行き交い、出くわす空間」にして、同じく人間の生活には欠かすことのできない辻から着想・伝承されてきた怪異なのだと解釈した場合、「人間の生活に根差して着想・伝承されてきた怪異」というのも、辻神と六壁坂の共通点と考えられるはずです。
実写ドラマ版を続けて観てゆく中で、原作漫画のシリーズに通底する怪異たちの在り方への考察を深めてゆく……それも、ドラマ『岸辺露伴は動かない』の楽しみ方のひとつかもしれません。
まとめ/『ルーブルへ行く』映画化は実現するか?
第8話のエンドロール後には、京香がパリ・ルーヴル美術館の写真を見ながら「取材」の可能性をほのめかす様子が描かれます。
「ルーヴル美術館」といえば、本ドラマの原作者である荒木飛呂彦が2009年に発表した漫画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』。「ルーヴル美術館を題材とする」というテーマの元進められてきたフュチュロポリス社のBD(バンド・デシネ)プロジェクトの第5弾作品にして、荒木にとって初の全編フルカラーとなった作品です。
ルーヴル美術館に収蔵されているという「この世で最も黒く、最も邪悪な絵」の真実を取材すべく美術館を訪ねた顛末を描いた本作をほのめかすような描写……「『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』を実写化するのか?」「もしや、ドラマ『岸辺露伴は動かない』の“劇場版”の可能性が?」と、誰もが期待を膨らませたはずです。
一方で、第8話終盤で京香が「海外旅行に行けるか否か」を試しに占った「辻占」(朝方・夕方の人の姿が明確でない時刻に辻へ立ち、通りすがった人々の言葉を聞きとって物事の吉凶を図る占い)を行なった結果は、子どもたちが口にした「ムリムリ」。
しかも、その「ムリムリ」は「幽霊屋敷の探検」の誘いに対する返事であったことからも、死者の遺品ばかりが集まる“幽霊屋敷”とも捉えられるルーヴル美術館の“探検”実現は厳しいのかもしれません。
しかしながら、その辻占の結果は「海外旅行」に対するものであり、決して「海外取材」に対するものではないこともまた事実。果たして『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の実写化、ひいてはドラマ『岸辺露伴は動かない』の劇場版は実現するのか……事態が動くことを待つばかりです。