第7話の元ネタは“少女アリスの物語”?
荒木飛呂彦の人気シリーズ漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の第4部に登場した漫画家・岸辺露伴を主人公に据えたスピンオフ漫画を、高橋一生主演で実写化したドラマ『岸辺露伴は動かない』。
2020年に1期、2021年に2期と「NHK年末恒例のドラマ」となりつつある本作もついに“3期”を迎え、第7話「ホットサマー・マーサ」が2022年12月26日に、第8話「ジャンケン小僧」が翌日27日に2夜連続で放映されました。
(C)NHK/ピクス
第7話「ホットサマー・マーサ」は、「著作権」という大人の事情に直面した露伴の連載漫画『ピンクダークの少年』の新キャラクターと、露伴が遭遇した怪異「藪箱法師」を巡る物語。
本記事では、ドラマ第7話「ホットサマー・マーサ」のネタバレ有りあらすじとともに、同回に登場した恐ろしい露伴のファン・イブと藪箱法師の設定から見えてくる“少女アリスの物語”や“ある慣用句”などについて考察・解説してきます。
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CONTENTS
ドラマ『岸辺露伴は動かない』第7話「ホットサマー・マーサ」の作品情報
【放映】
2022年(日本ドラマ)
【原作】
荒木飛呂彦
【監督】
渡辺一貴
【脚本】
小林靖子
【音楽】
菊地成孔
【キャスト】
高橋一生、飯豊まりえ、古川琴音、酒向芳、山本圭祐、中村まこと、増田朋弥
ドラマ『岸辺露伴は動かない』第7話「ホットサマー・マーサ」のあらすじとネタバレ
(C)NHK/ピクス
夏。緊急事態宣言により、半年もの間現地に赴いての取材ができなくなった漫画家・岸辺露伴(高橋一生)。自粛生活の中で子犬のバキンを飼い始め、多少は心の安らぎとなってはいたものの、苛立ちを隠すことはできなくなりつつありました。
また最近は、別の苛立ちの種にも露伴は悩まされていました。
彼が連載する大人気漫画『ピンクダークの少年』に登場予定の新キャラクター「ホットサマー・マーサ」の“丸3つ”で形作られたデザインが、「有名なネズミ」のキャラクターのデザインの著作権侵害に触れるのではと指摘され、デザインの変更を担当編集・泉京香(飯豊まりえ)を求められていたのです。
動物病院に行った際に熱烈なファン・イブ(古川琴音)にも自宅を知られてしまい、ついには庭へ不法侵入されるなど、苛立たせることばかりに見舞われる露伴。
誤って執筆中だったマーサ初登場回の原稿も黒インクで汚してしまい、いよいよ我慢ならなくなった露伴は京香とのテレビ通話を切り、気分を変えるためにもバキンの散歩へと出かけます。
その途中、散歩の際に通り過ぎる度にバキンが怯える四ツ辻へと着いた露伴は、何かに導かれるかのように四ツ辻の“ある道”へと歩みを進めてしまいます。
気づくと露伴はバキンとともに、見知らぬ神社にたどり着いていました。そして「こんな神社が近所にあったのか」と散策するうちに、露伴は神社の奥の林にそびえる、根元が洞になった巨木を見つけました。
洞の前は、何かを“封印”するかのような柵が。久々に“リアルな取材”ができると興奮した露伴は柵を退けて洞の中へと向かうと、そこは小さな鏡が祀られる祠となっていました。“リアルな取材”の一環として、鏡を覗き込む露伴……は一瞬意識を失ったようで、いつの間にかそこでうずくまっていました。
自宅に帰った露伴とバキン。
ふと携帯を見ると、京香からのイマイチ噛み合わない連絡と、「10月7日」というおかしな日付が。また玄関も、バキンのオモチャで散らかっていました。
いずれも「携帯の同期エラー」「バキンが知らぬうちに散らかしただけ」と気にしない露伴でしたが、“完成した”ホットサマー・マーサ初登場回の原稿を見て愕然とします。
執筆途中、インクで汚してしまった原稿が知らぬ間に完成している……しかも、ストーリーや他の描写は確かに自分が考えていた“本物”なのに、マーサのキャラクターデザインだけが“丸3つ”から“丸4つ”に変更されている……すぐさま京香に電話した露伴は、マーサのデザインを勝手に変更したことに激怒します。
「デザイン変更の件は事前に相談したし、その件を露伴先生は了承した」「原稿はすでに週刊誌で掲載済みで、コミックス作業のために返却した」「それらは、2週間の前の話」……いよいよ違和感が正体を現す中、家の2階からは女の声が聞こえてきました。
そこには、露伴の寝室のベッドで裸でシーツにくるまった例の熱烈なファン・イブがいました。
ヘビなどの爬虫類を勝手に家で飼い、まるで露伴の恋人かのように振る舞う彼女に露伴は困惑しますが、「10月7日」と表記されたカレンダーを見て事態を把握し始めます。
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ドラマ『岸辺露伴は動かない』第7話「ホットサマー・マーサ」の感想と評価
(C)NHK/ピクス
藪箱法師とイブは“アリスの物語”が元ネタ?
露伴の自宅の庭に不法侵入した当初から「ウサギの付け耳」という奇抜な姿で登場し、「ヘブンズ・ドアー」のような異能や『岸辺露伴は動かない』に登場するような怪異の力を一切持たないにも関わらず、一時は露伴を絶望的な状況に追い詰めるなど翻弄し続けたイブ。
そして、木の洞という“ウサギの住処にもなり得る穴”に置かれた“鏡”を行き来する藪箱法師……「ウサギ」「穴」「鏡」という要素を目にした方の中には、「ルイス・キャロル」こと数学者のチャールズ・ラトウィッジ・ドジソンが執筆した児童小説『不思議の国のアリス』(1865)とその続編『鏡の国のアリス』(1871)を連想した方もいるのではないでしょうか。
「穴」と「鏡」はいずれも、小説の主人公である少女アリスが『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』で奇妙な異界……最後には「夢」であったと判明する世界へと迷い込んだ際の“入口”となったもの。
藪箱法師はもしかすると、「アリスが“夢”という名の異界に迷い込んでいる間、現実にいるアリスはどんな状況にあったのか?」「もしかすると異界に落ちたアリスは“夢遊病”と呼ばれるような状態に陥り、“アリスであってアリスでない人間”として現実をさまよっていたのではないか?」という空想が生み出した設定の怪異なのかもしれません。
(C)NHK/ピクス
ではイブは、『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』のどの設定やキャラクターがモチーフなのか。その答えは、『不思議の国のアリス』でアリスが異界へと続く穴に落ちるきっかけを作った「白ウサギ」ではなく、その後異界でアリスが遭遇した「3月ウサギ」ではないでしょうか。
何もかもが狂ったお茶会の参加者の一員である3月ウサギは、愛とは名ばかりの狂気によって「京香の殺害を試みる」という凶行に至ったウサ耳のイブのモチーフそのものでしょう。
また「3月のウサギのように気が狂っている(mad as a march hare)」というドジソンが小説を執筆した当時に用いられていた英語の慣用句に由来する「3月ウサギ」という名も、藪箱法師に成り代わられた露伴が“3ヶ月ごと”に遭遇する狂気の存在であるイブと重なるのです。
藪箱法師が「ヘビ」を出す
(C)NHK/ピクス
一方で、「藪箱法師」という怪異の名は、何に由来するものなのでしょうか。
「法師」は、おそらく人影を意味する「影法師」から。また「箱」も、藪箱法師が封印されていた祠を「箱」と例えたのではと推察できます。
では「藪」は何が元ネタなのか。事件の真相という“正体”を巡る芥川龍之介の短編小説『藪の中』(1922)を連想することもできなくはないですが、より連想がしやすいのは「藪をつついてヘビを出す」ではないでしょうか。
つつかなくてもいい藪をつついたことで、恐ろしいヘビが現れてしまった様子から生まれた、「わざわざしなくてよい行いをやらかしたことで、思いもしない災いを招く様」を意味するこの慣用句は、ネタ探しという興味・関心のもと触れなくてもいいものに触れてしまい、今回の藪箱法師の一件のように度々危険な目に遭ってきた岸辺露伴が主人公の本作にとって、欠かすことのできない言葉といえます。
そして実写ドラマ版では、イブの飼う爬虫類のペットとして原作漫画のワニとは異なる「ヘビ」が登場したこと、のちにそのヘビは成犬となったバキンに噛み殺されていたことからも、藪箱法師という「藪」をつついたことで出てきた「ヘビ」という名の災いはイブであったこと、そのイブも最後にはペット同様に“なかったこと”にされるという末路を意味しているのでしょう。
まとめ/3期テーマは「ファンとの戦い」
(C)NHK/ピクス
藪箱法師を巡る騒動は収束したものの、ホットサマー・マーサの“丸4つ”へのデザイン変更は藪箱法師ではなく京香の“やらかしたこと”だったというオチで幕を閉じた第7話。
しかし第7話のラストでは、ホットサマー・マーサの初登場回が収録された漫画『ピンクダークの少年』の単行本を楽しそうに読む公園の子どもたちを見て、大柳賢=“ジャンケン小僧”が拳を握りしめながら怒りをあらわにする姿が映し出されました。
明らかに漫画あるいは新キャラクターのホットサマー・マーサに怒りを抱いているその姿からは、実写ドラマ版のジャンケン小僧は「漫画『ピンクダークの少年』を愛する、岸辺露伴のファン」という設定であることが分かります。
第7話「ホットサマー・マーサ」の中心人物であったイブが露伴との心中じみた結婚を画策した“やばいファン”であったのに対し、次回の第8話に登場するジャンケン小僧はどんなタイプのファンなのか。
いずれにせよ、人気実写ドラマ『岸辺露伴は動かない』3期のテーマは「露伴のファンとの戦い」であることは明白となったのです。