怒りと救いを経験し成長する若き神父の物語
アカデミー賞脚本賞にノミネートされたアメリカのミステリー映画『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2019)。
20世紀前半の伝説的推理作家アガサ・クリスティの作風を21世紀に受け継ぎながらも、古風に感じさせないミステリとして大絶賛された「ナイブズ・アウト」は、2022年には孤島を舞台とした殺人事件を描く『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』(2022)を「Netflix」で独占配信しシリーズとしての人気を確たるものとしました。
そして2025年12月、シリーズ3作目を前作同様に「Netflix」で独占配信。
今回は「古典ミステリ」の形式を保ちながらも最新映画として新鮮に楽しめる映画『ナイブズ・アウト:ウェイク・アップ・デッドマン』(2025)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
CONTENTS
映画『ナイブズ・アウト:ウェイク・アップ・デッドマン』の作品情報
【配信】
2025年12月12日(Netflix独占)
【原題】
Wake Up Dead Man: A Knives Out Mystery
【監督・脚本】
ライアン・ジョンソン
【キャスト】
ダニエル・クレイグ、ジョシュ・オコナー、グレン・クローズ、ジョシュ・ブローリン、ミラ・クニス、ジェレミー・レナー、ケリー・ワシントン、アンドリュー・スコット、ケイリー・スピーニー、ダリル・マコーミック、トーマス・ヘイデン・チャーチ
【作品概要】
『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)の監督として知られるライアン・ジョンソンが監督と脚本を務める「ナイブズ・アウト」シリーズ3作目となる作品。
シリーズの主人公ブノワ・ブランを演じるダニエル・クレイグが引き続き主人公として続投し、本作のもう一人の主人公となるジャド神父をテレビシリーズ「ザ・クラウン」で高い評価を受けたジョシュ・オコナーが演じました。
映画『ナイブズ・アウト:ウェイク・アップ・デッドマン』のあらすじとネタバレ
カッとなりクラーク助祭を殴ってしまった元ボクサーのジャド司祭は、キリスト教の求心力が落ち始めた地域「チムニー・ロック」の教区へと送り込まれます。
ラングストローム曰く「クソみたいな」司祭であるジェファーソン・ウィックスと、彼の右腕のマーサが管理する「永遠なる勇気の聖母教会」でジェファーソンと会ったジャドは彼から信仰心など微塵も感じませんでした。
教会はマーサと彼女の恋人である庭師で禁酒中のサムが実質的に管理していましたが、ジェファーソンの祖父プレンティスの死体が埋葬される霊廟には男性器の落書きがされるほどに荒れていました。
かつて、プレンティスの娘グレイスはプレンティスの持つ莫大な財産を狙っていましたが、プレンティスの死後、残された遺産を発見することはできず狂気の果てに死亡するなど、この教会は過去までも欲望に満ちた場所。
しかし、そんな荒れ果てた教会でも何故かジェファーソンを支持する少数の信徒がいました。
弁護士のヴェラ、ヴェラの養子の元政治家志望のインフルエンサーのサイ、妻と子供に逃げられた町医者のナット、売り上げの落ちたSF作家のリー、原因不明の神経症に侵された元世界的なチェリストのシモーヌなどがその筆頭であり、盲目的な信徒でした。
ジェファーソンは説教の中で新しい参加者に罵倒的な言葉を浴びせ追い出すことで、残された信徒との精神的繋がりを強固にするテクニックを使うなど、悪い意味でのカリスマ性を備えた人物だとジャドは感じます。
ジャドはジェファーソンに内緒で信徒たちに告白の場を設けますが、彼らのジェファーソンに対する信仰は圧倒的で、誰もジャドの話を聞こうとしませんでした。
ジャドが来てから9ヶ月、ナットやリーの精神は病気と言えるほどに悪化し、サイはYouTubeで教会を偏執的に宣伝、そしてジェファーソンはシモーヌを盲信させることで多額の寄付を得ている始末。
ジャドはこのことをジェファーソンに直談判しましたが彼は開き直り、信徒にジャドの悪口を言いふらしていました。
聖金曜日、いつもの説教が終わり、ジャドが説教を引き継いでいると休憩中の内陣(舞台)横の壁に囲まれた小部屋の中でジェファーソンが倒れます。
ジャドと信徒たちが駆け寄ると、その背中には悪魔の顔を模した刃物が刺されており、ジャドを引き離し様子を見た医者のナットが死亡を確認。
現場の小部屋には内陣からしか行くことができなかったことで、ジャドは警察署長のジェラルディンを始め世間からも殺人犯と疑われてしまいます。
絶望に暮れるジャドの前に探偵のブノワ・ブランが現れます。
少ない会話の中でブランはジャドの人柄に惹かれ、警察からの協力を求めらるブランはジャドの冤罪を晴らすことを宣言し彼に助手となることを求めました。
凶器はバーにあったランプの頭部分をナイフに改造したもので、ランプ自体はかつてジャドが酔っ払って教会に投げ込んだものでした。
推理小説家ディクスン・カーによる小説「三つの棺」がこの犯罪の元となっていると言うブランの推測を聞いたジャドは、教会でミステリー小説の読書会が開かれていたことをブランに伝えます。
ブランは現場で「三つの棺」から読み取れる「小部屋に入る前にジェファーソンが刺されていた説」「小部屋の外からの装置を使った殺害説」そして「小部屋の中での装置を使った殺害説」を検証しますがしっくり来る説明はつかないままでした。
サムが録画した野球中継に犯行時刻にノイズが走ったことがジャドの手柄で発覚すると、ノイズはナイフの発射装置に影響していると考えられましたが、ノイズの時間を検証すると犯行時間から数秒後のものであり、ナイフの発射装置と考えると不自然でした。
ブランはこれを持ってすべてのピースが集まったと言いますが、事件の解決は不可能だとジャドに言います。
悲嘆に暮れるジャドにブランは彼の見た情報を全て紙に書き記すように命令。数時間後、ジャドの書いた紙を見たブランはジャドが犯行後に現場から酒の入ったフラスクを持ち去ったことに気づきます。
ジャドはジェファーソンが飲酒しながら説教をしていたことを信徒のために隠そうとしての行動でしたが、ブランはこの行動に激怒。
フラスクが自分の部屋から無くなっていることに気づいたジャドは、自身が何者かによって真犯人に仕立てられていることを理解し始め、徐々に怒りを募らせ始めるのでした。
映画『ナイブズ・アウト:ウェイク・アップ・デッドマン』の感想と評価
変化球に頼らない最新古典ミステリ第3弾
世界初の推理小説と言われる1841年にエドガー・アラン・ポーが発表した『モルグ街の殺人』以降、コナン・ドイルやエラリー・クイーン、アガサ・クリスティと言った著名な作家によって、推理小説は発展を続けていきました。
200年にも迫る発展の結果ほぼすべてのトリックは出尽くしたとも言われており、現代の作品では舞台設定や登場人物やトリックの組み合わせを奇抜なものにすることによって、目新しさを生み出しています。
そんな中、2019年に生み出された『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』は演出や会話劇こそ現代的ながらも、絵に描いたような奇人の名探偵ブノワ・ブランと大豪邸での殺人など、20世紀初頭の推理小説のような舞台設定を現代作品で行うと言う異質さが目を引く作品となってました。
そんな『ナイブズ・アウト』の3作目となる本作は、これまでのシリーズに拍車をかけるほどに「古典ミステリ」を徹底した作品となっており、隠された莫大な遺産と秘密を隠す信徒たち、そして起き上がる死体と言った「古典」な設定が大量に盛り込まれています。
作中で触れられるように推理作家ディクスン・カーの「三つの棺」をベースに敷いた奇抜さではなくあくまでも王道を貫いたトリックも好印象であり、どこまでも「推理小説」を好きな人が作った映画であることが分かる作品となっていました。
若き神父を通して描かれる、宗教のあるべき「救い」
名探偵ブノワ・ブランと共に物語の主人公となる若き神父ジャド。
彼はカッとなりやすい性格に加え、過去に大罪を犯したことも語られており、助祭を殴ったことでキリスト教の求心力が落ちている地域に派遣されることとなります。
信仰心の無い神父と己が欲望のために彼を妄信する信徒たち、そして遂に殺人の罪まで着せられかけたジャドは徐々に己の中に抑え込んでおくべき「怒り」を再燃させ始めてしまいます。
事件の果てに明らかになる真実はそんなジャドに「主の許し」が何のためにあるのかを再認識させることとなり、ジャドの神父としての成長を感じる物語となっていました。
神ではなく真実のみを信じるブランと、宗教によって人々を救えると信じるジャド。
2人の信じるものがそれぞれに救済を与えるようなラストは暖かさを感じることが出来る、「宗教」を現代的な視点で捉えたメッセージも含まれた作品です。
まとめ
シリーズとしての人気を確たるものとしながらも、「古典ミステリ」のスタンスを決して崩すことなない「ナイブズ・アウト」シリーズ。
2025年11月にはライアン・ジョンソンとダニエル・クレイグがすでに4作目のアイデアを練り始めていると発表し、この時代の「ミステリ」として何本の作品を作ってくれるのかと、いちファンとして楽しみなシリーズです。
シリーズ未鑑賞の方は、作品ごとの繋がりは薄いためどの作品から観ても問題のない「ナイブズ・アウト」の初観賞を、『ナイブズ・アウト:ウェイク・アップ・デッドマン』から始めてみてはいかがでしょうか。

































