Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

サスペンス映画

Entry 2020/07/29
Update

映画『ヴィレッジ』ネタバレ考察と評価解説。シャマラン監督おすすめの“悲しい過去”を閉じ込めた「理想郷の真実」

  • Writer :
  • からさわゆみこ

「語ってはならぬ物」との協定で平和が約束された村。小さな掟破りが増幅させる恐怖と愛する者を守りたい、無垢な勇気が起こす奇跡の物語。

映画『ヴィレッジ』を手掛けたのは、M・ナイト・シャマラン監督。『シックス・センス』『アンブレイカブル』『サイン』と連続でヒットさせた後の作品とあって、ファンやマスコミから大きな期待を込められた作品です。

シャマラン監督は本作品を制作するにあたり、当初は1897年代を舞台にしたラブロマンス的な作品を作りたいと構想。それを基にサスペンスの要素を入れたり、ホラー的なキャラクターを登場させたりと、脚本が仕上がるまでに2年を投じた力作です。

映画『ヴィレッジ』の作品情報

(c)2004 Touchstone Pictures.

【公開】
2004年公開(アメリカ映画)

【監督/脚本】
M・ナイト・シャマラン

【キャスト】
ブライス・ダラス・ハワード、ホアキン・フェニックス、エイドリアン・ブロディ、ウィリアム・ハート、シガニー・ウィーバー、ブレンダン・グリーソン、チェリー・ジョーンズ、セリア・ウェストン

【作品概要】
本作は1999年公開の『シックス・センス』で脚本・監督を務めて成功をおさめた、サスペンス・ホラーのカリスマM・ナイト・シャマラン監督が手掛けました。

途中、主人公のアイヴィー役が降板をしてしまいましたが、ブロードウェイで舞台を見た時に新人女優のブライス・ダラス・ハワードをみつけてオファーをし、それが功を奏しイメージ通りの配役ができたと語っています。

また、他の出演にはリドリー・スコット監督作『グラディエーター』(2000)で注目されたホアキン・フェニックス、ノア役には『戦場のピアニスト』(2002)でアカデミー賞主演男優賞を受賞したエイドリアン・ブロディ、「エイリアン」シリーズでおなじみのシガニー・ウィーバーなど、個性的で豪華なキャスティングにも注目です。

映画『ヴィレッジ』のあらすじとネタバレ

(c)2004 Touchstone Pictures.

1897年アメリカのペンシルバニアにある森の奥にある小さな村では、子供と思われる小さな棺に咽び泣く紳士が最期の別れをしていました。

紳士の子供とみられるその墓碑には、“ダニエル・ニコルソン 1890-1897”と彫られており、わずか7年の命ということがわかります。

翌朝、村の娘たちが軒先の掃除をしていると“赤い花”をみつけますが、慌ててむしり取り土を掘って埋めてしまいます。そして、子供たちが通う学校の側では、毛皮を剥ぎ取られた小動物の死骸があるのを発見されました。

村長のエドワード・ウォーカーは子供達に誰の仕業かを問います。すると子供達は迷うことなく(森に棲む)「語ってはならぬモノ」の仕業だと言うのでした。

その村には森を抜け村と外との行き来を禁ずる掟があります。その掟は森に棲む「語ってはならぬモノ」が長年その境界を越えて村にこなかったので、村人も森へ入ることを禁じたという協定のことです。

時々、森の深層から不気味な唸り声が轟いてくると、村人の誰も町まで行きたいなどと言い出す者はいませんでした。

村の若者ルシアス・ハントは医薬品が整っていないせいで、幼い命を救えなかったと思っています。彼は二度とそのようなことが起こらないように、町まで新しい医薬品の調達に行かせてほしいと、村の長老たちに嘆願をするのでした。

ルシアスは村の中でも正義感が強く“勇敢な男”と、一目置かれている存在です。

そんなルシアスに思いを寄せるのがエドワードの娘キティとその妹アイヴィーでした。キティは明朗快活な女性で、アイヴィーは生まれつき目が見えませんが、男勝りに活発で元気に走り回るような女性です。

キティは結婚願望が強くルシアスの気持ちも確認せぬまま、ルシアスに逆プロポーズするも撃沈させられてしまいます。

一方、アイヴィーは視力はないもののその他の感覚が発達していて、人の想いやオーラを感じ取ることができました。アイヴィーはルシアスが自分に思いを寄せていることを察しています。

アイヴィーとルシアスには精神に障害のあるパーシー・ノアという友達がいます。彼は無垢な青年ですが感情にムラがありました。

ある日、ノアは村人とトラブルを起こしますが、アイヴィーの言うことだけは素直に聞く男でしたので、アイヴィーは“仕置き小屋”で反省するように言いますが、不憫に思い許してあげました。……そんな姉と弟のような関係です。

ノアとアイヴィーが“腰かけ岩”まで、駆けっこをするとそこにはルシアスがいました。アイヴィーはルシアスが自分に思いをよせているかを訊ねます。

「私が子供の頃は歩くときに、腕を取ってくれたわ。でも、ある時からしなくなったの。転ぶフリをしたとき抱きとめてくれなかった。自分の想いを隠そうとしたのでしょう?」

腰かけ岩から離れていたノアが戻ると、赤い実をつけた小枝を持ってきてアイヴィーに手渡しました。

ルシアスが「気をつけろ“不吉な色”の実だ」と注意すると、アイヴィーはそっと手で隠し「森の彼らを呼ぶ色よ……埋めなくては……」と言うのでした。

以下、『ヴィレッジ』ネタバレ・結末の記載がございます。『ヴィレッジ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(c)2004 Touchstone Pictures.

ノアは“腰かけ岩”の奥を指さし摘んできた赤い実の場所を教えます。そこは禁足の森でした。

ルシアスは村に伝わる伝説や迷信が本当なのかどうかに疑問を持ち始め、家にある“黒い木箱”指して、母・アリスに問いただします。

「あの箱は何? 僕には秘密はない。でも、村には秘密がありすぎる」「忌まわしい記憶を閉じ込めておくための箱よ……。忘却は新たな悪を生むから……」

翌日、ルシアスは意を決して村と森の境界線を越え森へと入りました。ノアの見つけた赤い木の実を見つけ、枝を摘み取ると木陰から何かが横切るのを見て、すぐに森を後にしました。

村では若者が当番で櫓の上で見張りをします。その晩、櫓に何者かがぶつかり大きく揺れ、見張りが下を確認するとあの怪物が横切っていました。

村には怪物の出現を知らせる警鐘が鳴り響き、村人は家のシェルターへと逃げ込みます。しかし、アイヴィーだけは玄関先に立ち中に入りません。

彼女は一つの賭けをしたのです。自分を危険にさらし、ルシアスが助けに来てくれることを信じました。そのアイヴィーの願いは届き、ルシアスは彼女の手を取って、シェルターへと一緒に避難するのでした。

翌朝、村の家のドアには不吉な色の赤い塗料で印がされていました。怪物からの警告です。村では審問会が開かれルシアスは、自分が森に足を踏み入れたせいだと告白し、大事にならないことを祈ると懺悔しました。

そして、事態は最悪な方へと向かいます。キティは他の若者と結婚を決め、その晴れの日に事件はおこりました。

結婚の宴の外で子供たちが大量の皮を剥ぎ取られた動物の死骸をみつけ、怪物の姿も目撃したというのです。

そして、ルシアスの家にだけ入り口に死骸が2つ吊るされてあり、一方村長とアリスが家畜小屋を調べると、家畜が殺され皮を剥ぎ取られていたのです。家畜小屋の扉には赤い塗料で印が描かれていました。

家畜が殺されていたこととその描かれた印のひとつで、村長とアリスは疑問を抱きます。結婚の宴どころでなくなった村では、ルシアスがアイヴィーの家のポーチに座っています。

そこにアイヴィーが現れ、なぜ気持ちを言葉で言ってくれないのかと迫りました。彼は言葉に出さなくともアイヴィーを大切に思い、守ってあげたいからここにいると告げて、アイヴィーにプロポーズするのでした。

翌日にはルシアスとアイヴィーが結婚することが、村中に知れ渡っていました。ルシアスのところに戸惑うノアが訪ねます。

ルシアスが「愛にはいろいろな形があるんだ」と振り返ると、ノアがルシアスの腹部をナイフで刺していました。

ルシアスの傷は深く村の医療では命の保証はありません。そこでアイヴィーは自分が近くの町まで行き、新しい薬を調達すると申し出るのです。

アイヴィーの父親である村長は彼女のルシアスへの深い愛を理解し、村の秘密を告白します。村は村長をはじめ年長者たちがかつて町で暮らし、それぞれが大切な家族を残酷な形で失い、その苦悩から逃れ犯罪のない理想郷を作るために村立したのです。

森の怪物も年長者達の自作自演でした。事件のことを知らない子供達が村で安全に暮らせるように、怪物の話を作り時に恐怖を与えて森から町へ向かわせないようにしたのでした。

アイヴィーは森に怪物がいないことを知り、町へ行くことになりますが、町の人間に村の存在を知られてはならないと釘を刺されます。

アイヴィーは途中森の中で、陥没した穴に落ちそうになったりと危険な目にあいます。極めつけは、いるはずのない怪物の気配を感じることでした。

怪物に襲われそうになり逃げまどいながら、自分が落ちそうになった穴まで誘い込み、怪物を落として退治しました。

ところがその怪物は、父や年長者達が作った怪物の着ぐるみを着たノアだったのです。結婚式の晩の怪物騒動、家畜の殺害はノアの仕業でした。

森を抜け町との境界線のフェンスを昇り降りると、そこに1台の自動車が現れます。しかし、その自動車はどう見ても現代の4WD車で1897年の物ではなく、運転していた若者も現代人でした。

自動車には“ウォーカー野生保護区”と書かれています。ウォーカーとは村長の名前で森一帯は、村長の兄の遺産で買われ保護されていたのです。

若い保安官は森の中のことは知らず、上司からも“他言無用”を強く言われています。保安官はアイヴィーに薬を渡し彼女は無事に村へ帰還するのでした。

映画『ヴィレッジ』の感想と評価

(c)2004 Touchstone Pictures.

ヴィレッジは幼い子供達に“危険な場所に行ってはいけない”という、戒めを教えるための童話のような内容でした。

愛する者を失い残された家族を必死に守ろうとする究極の方法が、傷みを分け合った犯罪被害者家族たちの結束だったのです。

いずれ年長者達も死に、悲惨な事件のことを知らない子供たちだけが残って行った時に、自分達が築いた理想郷が、そのまま残ることができるのか? 村の存続も時間の問題と思えました。

アイヴィーが村の秘密を知り薬を持ち帰ったことで、徐々に村の在り方も変わっていくことでしょう。

「ヴィレッジ」は実在する…

ヴィレッジはペンシルベニア州の森が舞台になっていますが、実はこのペンシルベニアには「アーミッシュ」と呼ばれる、この映画さながらの暮らしをする人たちが存在しています。

彼らはキリスト教のメノー派の人々で構成されていて、歴史的にも平和教会の一つに数えられています。つまり、非暴力主義で暴力のない抵抗と平和主義のために行動をしています。

アーミッシュの人々も1890年代風の衣服を着て、自給自足をし電気やガスなども用いない生活をしていますが、外部との接点はあり、見学者を入れ地産品などをお土産物として売ったりしています。

シャマラン監督の盗作説

映画評論家の間では『ヴィレッジ』のどんでん返し的なアイデアや、怪物が登場するシーンなどが、古い小説や映画のアイデアそのものだと指摘するものでした。

シャマラン監督の過去作品にも同様の疑問や指摘がされているようですが、本作は評論家や映画マニア以外にしか知り得ないことで、初見の人には十分に楽しめる映画でしょう。

シャマラン監督自身もそこを狙っていたとも考えられます。

まとめ

(c)2004 Touchstone Pictures.

シャマラン監督作品といえば多くの人が、ラストにどんなどんでん返し的なストーリーが待っているのかを期待しています。

この『ヴィレッジ』もその期待に応えるラストが待ち受けているわけですが、この作品には幾重もの布石があります。

村の年長者の過去が語られていること、それが何を意味しているのか、観ながら考えて全貌が理解できたところで最後に「エッ!」と言わせるラストが待っていました。

さらにシャマラン監督は『シックス・センス』以降、自作の映画にカメオ出演しています。

本作にも出ていましたがお気づきでしたでしょうか? 声だけの出演とかさまざまあるようですが、本作も声とチラッとご本人が映りこんでいたようです。



関連記事

サスペンス映画

『愛なき森で叫べDEEPCUT』ネタバレ感想と考察評価。実在事件を基に園子温監督が描く“人の恐怖と善悪”

人をマインドコントロールする恐ろしい犯罪者を描き出す。 『愛のむきだし』(2008)や『ヒミズ』(2011)など、パワフルで容赦のない表現が、多くのファンを持つ園子温が手掛けた『愛なき森で叫べ DEE …

サスペンス映画

映画『銃2020』感想レビューと内容考察。キャストの魅力と続編への時間系列から見えたもの

2018年に武正晴監督が中村文則のデビュー作を映画化した『銃』のアナザーストーリーとなる第2弾『銃2020』 芥川賞作家・中村文則のデビュー作『銃』を村上虹郎を主演に迎え2018年に公開された『銃』。 …

サスペンス映画

映画ライダーズ・オブ・ジャスティス|ネタバレ感想と結末の評価解説。ラストでマッツ・ミケルセン演じる軍人の復讐劇が辿り着く“偶然”という皮肉

マッツ・ミケルセン主演! 復讐に暴走する軍人の顛末を描くサスペンス・ドラマ! 『ドクター・ストレンジ』(2017)や『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)などをはじめ、待機作に『フ …

サスペンス映画

映画『僕らはみーんな生きている』あらすじ感想と評価考察。ゆうたろうと鶴嶋乃愛演じる若者は東京に“堕ちたアダムとイヴ”なのか⁈

映画『僕らはみーんな生きている』は2023年10月21日(土)より大阪・十三シアターセブン、12月17日(日)より横浜・シネマノヴェチェントで拡大公開が決定! 《これが“愛”と“正義”なのでしょうか? …

サスペンス映画

映画『パニックルーム』あらすじネタバレと感想!ラスト結末も【デヴィットフィンチャー監督作品】

『ゴーン・ガール』や『ゾディアック』などホラーにも近い作風を想像するかたもいるかもしれない、デヴィット・フィンチャー監督。 そんなフィンチャーが今から15年ほど前に製作した『パニック・ルーム』は、以外 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学