サバイブサスペンス『シャドウワーク』が描く、DV被害者の女性たちの‟極限の決断”
女性を救うシェルターを舞台に、DVという社会の闇をテーマにした映画『シャドウワーク』。
『君は永遠にそいつらより若い』(2021)の吉野竜平が監督・脚本を手がけ、吉岡里帆と奈緒という実力派の二人をW主演に招きました。
夫からのDvから逃れた紀子が身を寄せた場所は、女性ばかりが集団生活をしているシェルターでした。そこでの平和な生活に身も心も癒される紀子でしたが、ある時、シェルターの裏の仕事を知ってしまいます。
一方、同業者である夫・晋一からDVを受けている刑事の薫は、ある事件がきっかけで紀子のいるシェルターの存在を知ります。やがて晋一が薫を追ってシェルターにやって来て……。
法律では裁ききれない社会の歪みに鋭く切り込んだ吉野竜平監督の珠玉の一作を、ネタバレありでご紹介します。
映画『シャドウワーク』の作品情報

(C)佐野広実/講談社(C)2026「シャドウワーク」製作委員会
【日本公開】
2026年(日本映画)
【監督・脚本】
吉野竜平
【原作】
佐野広実『シャドウワーク』
【プロデュース】
深谷好隆
【編集】
菊池智美
【音楽】
加藤久貴
【主題歌】
haruka nakamura
【キャスト】
吉岡里帆、奈緒、美保純、酒井若菜、ファーストサマーウイカ、佐月絵美、北村匠海、原嘉孝、吉岡睦雄、堀家一希、清水尚弥、近藤芳正、井上肇、小川菜摘、風吹ジュン、ミズモトカナコ
【作品概要】
第66回江戸川乱歩賞作家の佐野広実の同名小説を、吉岡里帆と奈緒のダブル主演で映画化。本作は、配偶者や親から暴力を受ける女性たちが身を寄せるシェルターを舞台に描くクライムサスペンスです。
『君は永遠にそいつらより若い』(2021)の吉野竜平が監督・脚本を手がけ、『正体』(2024)で第48回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞した吉岡里帆が紀子を、東京ドラマアウォード2025主演女優賞を受賞した奈緒が刑事・薫を演じています。
風吹ジュン、美保純、酒井若菜、ファーストサマーウイカ、佐月絵美らが「おうち」の女性たちに扮し、女性たちを脅かす人物たちとして、北村匠海、原嘉孝、清水尚弥らが集結。
映画『シャドウワーク』のあらすじとネタバレ

(C)佐野広実/講談社(C)2026「シャドウワーク」製作委員会
日常的に夫からDVを受けている紀子(吉岡里帆)。夫の元から逃げ出して、清掃のパートをしながらアパートで一人でひっそりと暮らしていました。
ところが、ある日突然、紀子を探していた夫がアパートにやって来ました。
やっと見つけたと紀子を連れ戻そうとし、部屋に置いてあった鳥かごにいた紀子が可愛がっていた小鳥を殺します。
自分も殺されそうな恐怖に襲われ、悲鳴をあげて逃げようとする紀子を夫は執拗に追いかけます。紀子は勢い余って、アパートの外階段から落ちてしまいました。
腕を骨折し、病院で手当てを受ける紀子。謝り続ける紀子の夫を、病院の看護師の路子(美保純)は家へ帰らせます。
放心状態の紀子に路子は、あるクイズを出しました。それは究極の選択をせまられるクイズでした。紀子が何と答えたかはわかりません。
紀子の様子から夫のDVによって怪我をしたと路子は思い、紀子の退院を待って、そのまま三浦海岸の外れに建つ日本家屋のシェルターへ連れていきました。
そこは、路子と同年代の昭江(風吹ジュン)という女性が取り仕切り、しのぶ(酒井若菜)、奈美(ファーストサマーウイカ)、凛(佐月絵美)という女性たちが共同生活をしている「おうち」でした。
紀子と同じように配偶者や親から暴力を受けた女性たちを匿うその場所では、食事や掃除など暮らしのすべてが「持ち回り」というルールで成り立っていました。
皆で農園を営み、自給自足のような生活を送る日々。紀子は、笑顔とともに穏やかな日々を取り戻していくのですが、少しずつその日常に違和感を覚え始めます。
ちょうど同じころ、千葉の館山の海岸で女性の腐乱死体が発見され、刑事の北川薫(奈緒)が身元調査にあたっていました。やがて遺体の身元は、今村睦美(ミズモトカナコ)という女性だと判明しました。
警察本部は自殺と断定しましたが、薫は睦美がパートナーの男性からDVを受けていた事実を知り、彼に殺されたのではないかと思います。
実は薫も刑事である夫からひどいDVを受けていました。薫の夫・晋一(北村拓海)は、警視庁の幹部を父に持ち、世間体を最優先とするエリート刑事です。
薫を支配しようとし暴力を振るうのですが、周囲には自分がDVをしていることを隠しています。悪いのはすべて薫の方と、事実を捻じ曲げて公言し、警察署内での薫は行き場を失っている状態でした。
離婚したいのに、世間体を気にする晋一がそれを認めるわけがなく、常に薫の行動に目を光らせ、上からの圧力で薫の人生を自分の手に収めようとしていました。
薫が執着する睦美の他殺説も、警察署内では一笑されます。怒った薫はひとりで調査を進め、前夫のDVによって怪我をした睦美が入院した病院で、路子という名の看護師と親しくなったことを探り当てました。
映画『シャドウワーク』の感想と評価

(C)佐野広実/講談社(C)2026「シャドウワーク」製作委員会
原作小説との違い
タイトルの「シャドウワーク」とは、直訳すれば「影の仕事」という意味で、報酬(賃金)が支払われない無償労働を指します。
本作では、DVをする夫や家族に対する交換殺人を指していると思われます。映画は、原作やタイトルに忠実なストーリー展開となっています。
しかし、映画で路子が傷心の紀子に出すクイズは原作にはありません。また、そのクイズの解答も描かれておらず、映画でも紀子が何と答えたのかは明らかにされていません。
このクイズの解答は大きな意味を持つものですが、紀子が何と答えるのかは、あくまで観客の想像に委ねられているようです。
究極の選択を迫るクイズに、自分なら何と答えるのか。観客にも鋭い問いを投げかけています。
晋一のその後や、紀子と薫のその後についても、すべてを明らかにしないところは原作とは異なります。
また、原作では昭江と路子もDV被害者であり、お互いの夫を交換殺人したことになっていますが、映画ではその点については触れられていません。
あくまで、ダブル主演である紀子と薫にスポットライトを当て、恐るべきDV夫・晋一との戦いを通して、女性の自尊心と自立を描いています。
暴力によって虐げられてきた気の弱い紀子が、土壇場で自分の殻を破り、怒鳴るシーンがあります。それまでとは一変した吉岡里帆の気迫のこもった演技に、度肝を抜かれることでしょう。
それは、凄まじい女性の怒りを表現した、圧倒されるシーンですから……。
酷い夫を演じる俳優たち

(C)佐野広実/講談社(C)2026「シャドウワーク」製作委員会
ここで注目したいのは、DV被害が深刻な問題となっていることです。
表立った殺人事件や暴力事件にならず、夫婦間の痴話げんかとして扱われがちなDV問題は、今なお根強く存在しています。
自分の妻を労わず、召使いや奴隷のように扱う夫。妻が口答えをしたり、命令に従わなかったりすると、すぐに暴力を振るう夫。
本作に登場する被害者の夫たちは、みな暴力的で酷い男ばかりです。北村拓海、原嘉孝、清水尚弥といった実力派が演じるDV夫のなかでも、薫の夫で刑事の晋一は、妻を奴隷のように扱う最低の男でした。
妻の敵ともいえる晋一を、冷酷な表情のまま演じ切っているのは、人気俳優の北村拓海です。
『悪い夏』(2025)や『愚か者の身分』(2025)で魅せた主人公の優しさは影を潜め、我が身を第一とする高いエリート意識を持つ男に徹しています。ぜひ、お見逃しなく。
ワイルドすぎる悪役を演じる北村拓海も、ファンなら一見の価値があるかもしれません。
まとめ

(C)佐野広実/講談社(C)2026「シャドウワーク」製作委員会
映画『シャドウワーク』は、『君は永遠にそいつらより若い』の吉野竜平監督が、善悪では語りきれない社会の歪みに鋭く切り込んだサバイブサスペンスです。
DV被害を受けた女性たちが立ち上がり、交換殺人に手を染めるというストーリーを通して、女性たちが自らの人生を本気で生き抜こうとする姿が描かれています。
映画のラストは、「被害者だからといって罪を犯してもいいのか」と、賛否が分かれる結末かもしれません。
しかし、これまで見えているようで見えていなかったDV問題について、改めて考えるきっかけになるのは間違いないでしょう。
たとえ殺人を犯してでも、守りたいものは絶対に守り抜くという強い生き方は、紀子と薫が自分自身で選んだものであり、そこに女性の真の強さを感じます。
本作『シャドウワーク』は、DVという問題を真正面から捉え、観客に問いを投げかけました。
DVが平然と行われている社会で、犯罪を犯してでも夫からの自由を求める女性たちの心からの叫びが、世界中に届きますようにと願わずにはいられません。
































