櫛木理宇の小説『死刑にいたる病』が2022年5月6日(金)に映画公開決定!
小説『死刑にいたる病』は、2015年7月刊行の『チェインドッグ』を改題の上、2017年10月に文庫化された櫛木理宇のサスペンス小説です。
日本史上類をみない数の少年少女を殺した連続殺人鬼・榛村。収監されている榛村から同郷の大学生筧井雅也のもとへ手紙が届き、雅也が榛村の調査を始めると、次第に信じられない事実が判明します。
この度、小説『死刑にいたる病』が、白石和彌監督によって映画化されることになりました。バイオレンスアクションが得意な白石監督のこと、原作のもつ猟奇殺人の残酷さが、さらにレベルアップして描かれることでしょう。
映画公開に先駆けて、原作小説をあらすじネタバレを交えてご紹介します。
小説『死刑にいたる病』の主な登場人物
【筧井雅也(かけいまさや)】
エリート意識の強い大学生。志望校にいけず偏差値の低い大学に通うことになり、鬱屈した日々を送っています。
【榛村大和(はいむらやまと)】
連続猟奇殺人事件の犯人。偶然にも雅也の実家の近所でパン屋を営んでいました。殺人事件の犯人として逮捕され、拘置所から雅也に手紙を出します。
小説『死刑にいたる病』のあらすじとネタバレ
大学生の筧井雅也は、第一志望校に落ち、進学する気もなかった大学で、理想とかけ離れたつまらない学生生活をおくっています。
父と祖母に虐げられ、まるで家政婦のような扱いの母親がいる実家から距離を置きたく、トップクラスの全寮制の高校に通うことにした雅也。輝いていた中学生の雅也はそこで落ちこぼれます。
現在も、中学生までの自分と冴えない今の大学生活をおくる自分の人生を比較し、卑屈になっていました。
そんなある日、雅也の地元でパン屋を開いていた榛村大和から雅也に手紙が届きます。実家に送られてきたものを、父が今の雅也の住まいに転送したものでした。
そこで雅也は初めて、榛村が連続猟奇殺人犯として現在拘留されていることを知ります。
10代の少年少女を監禁し拷問したあげくに惨殺した事件の数々。榛村は24件の殺人容疑によって逮捕されたのですが、そのうち警察が立件できたのは9件のみでした。
榛村は、死刑を宣告され、現在控訴中の未決囚となっています。
雅也の実家の近くでパン屋を営んでいた榛村は、人当たりもよく優しい顔立ちの青年で、事件の犯人と知ったとき、近所の人々はこぞって、「まさかあの人が!」と言っていました。
榛村からの手紙で彼に興味をもった雅也は、彼に会って話を聞くために拘置所へ面会に行き、榛村から「犯罪の罪は認めるが、最後の1件だけは冤罪だ。それを証明してほしい」と頼まれます。
最後の1件となった事件の被害者は、成人女性の根津かおる。監禁拷問せずに一日のうちに命を奪われた彼女は、榛村の今までの事件の経歴からみると明らかに違う手口です。
地元で優秀な子どもと言われていた頃の雅也しか知らないはずの榛村が、雅也に救いの手を求めてきたのを嬉しく思い、雅也は事件の調査に乗り出します。
被害者の選び方も、犯行の手口も、それまでの榛村とはかけ離れた事件。公判記録を調べても、案の定、榛村の犯行を裏づける証拠はありません。
雅也は地道に榛村の過去と事件に関わった人たちへの聞き込みを始めました。
聞き込みを進めていくと、立証された被害者たちの残忍な手口が明らかになり、榛村の哀れな生い立ちもわかってきました。
榛村の実母・荒井実葉子は、知能が低いため幼い頃から男たちにいいようにもてあそばれていました。その結果、何度か父親不明の子どもを妊娠し出産しますが、現在生き残っているのは榛村一人だけでした。
榛村を育てながらも実葉子は男に媚びる生活をします。
榛村は、次々と変わる養父たちから、暴力を受け、怒鳴られる子供時代を過ごしますが、130を超える高い知能指数を持っていたため、表向きは大人しく手のかからない子で育ちました。
そして、14歳の時に小学5年生の少女に乱暴を働き逮捕。少年院に行きますが、そこを出所してから2度目の事件をおこします。
榛村は、男子小学生を廃屋に監禁し、毎日のように痛めつけました。4日目にその子が発見されたとき、両手の指は全てへし折られ、8指の生爪ははがされ、左足の小指と薬指は切断されていたといいます。また、繰り返し強姦され、殴打によって肝臓の一部と腎臓の片方を損傷していたそうです。
これによって榛村は再び逮捕されますが、その後実母の病死によって、福祉と少年犯罪の専門家で人権活動家の榛村織子の養子となりました。
事件の再調査を進めていくにつれ、榛村という猟奇殺人犯の過酷な家庭環境に驚く雅也ですが、次第に雅也自身も変わっていきました。
自信と余裕を感じさせるような大人の振る舞いが身につき、雅也は誰とでも笑顔で話せるようになっていました。しかし、その一方で、雅也はいつのまにか、榛村のように小さい女の子を目で追うようになっていたのです。
小説『死刑にいたる病』の感想と評価
拘置所の中にいる殺人鬼・榛村大和から一通の手紙が届き、大学生の雅也は彼と面会をします。そして彼の望みを叶えるために、彼が犯した犯罪のうち、唯一冤罪だと主張する事件を調査し始めます。
雅也はなぜ恐るべき殺人鬼のいうことを聞いてあげようと思ったのでしょう。読み始めると、まずそんな疑問が起ります。
雅也が調査を進め、子供の頃からの榛村の素顔が分かるにつれ、雅也自身が榛村に魅了されていく様も不思議です。
榛村は小学生ぐらいの少年少女を痛めつけて殺す殺人鬼。
小さな獲物が恐怖におののく姿を見ると、ぞくぞく興奮するようです。そして、ペットを可愛がるように少しずつ指を折ったり、爪をはがしたりして、痛がる様子を見て喜びます。
こういう特殊な殺人鬼は、優しそうな容姿を持ち好印象を与え、表向きはとても良い人なのです。榛村も表面は気さくで優しいパン屋の店主でした。
狙った獲物を逃がさないのも殺人鬼の特徴で、ターゲットが少年少女期を過ぎても、精神的な支配をし続けます。
独自の方法で榛村は雅也の精神に暗示をかけていたのではないでしょうか。狂人のような猟奇殺人犯の魔の手は、どこまでもしつこく伸びていたと言えます。
雅也が榛村に魅了されていったわけがこの辺りでわかってきました。
本人がそれとわからないうちに、榛村の配下に置かれていたという事実が、本当の意味で猟奇殺人犯の恐ろしさを物語ります。
それと同時に、切ないのは榛村の殺人鬼となるにいたった生い立ちでした。榛村は間違いなく児童虐待にあっていたのです。
知能指数も高く優秀だった子供の頃の榛村ですが、その人格は榛村の生まれ育った周囲の環境によって、どれほど歪められたことでしょう。
人の命を平気で奪い去る残忍な性格はもう病気としか言いようがありません。
その病気を植え付けたのは、荒んだ榛村の家庭環境です。こんな病気を創り出した、社会や大人の責任は大きいと言えます。
死刑が決定しても榛村の奇病はやみません。次々と自分の下僕を生み出し、新しく榛村に魅せられた下僕はラストで「あなたの手を握れたらいいのにな」と呟きます。
手……。榛村は獲物をいたぶるとき「手」にこだわって拷問をしていました。
ラストでもう一度「手」が出た時、まだまだ続きそうな猟奇殺人を予想してゾッとすることでしょう。
映画『死刑にいたる病』の見どころ
連続殺人鬼の榛村大和と彼のために事件の調査をする大学生・筧井雅也の物語。
映画では榛村大和を『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017)『トキワ荘の青春』(2021)に出演した阿部サダヲが演じます。優しそうな面を被った悪魔・榛村を、阿部サダヲ流にどのように演じるのか、興味津々です。
一方の大学生、筧井雅也に扮するのは、『望み』(2020)や『新解釈・三國志』(2020)で活躍した岡田健史。等身大の若者の雅也になりきった体当たり演技が期待できます。
監督は、『日本で一番悪い奴ら』(2016)や『凪待ち』(2019)『孤狼の血』(2018)『孤狼の血LEVEL2』(2021)の白石和彌。
原作小説は、猟奇殺人犯の冤罪を若者が調査していく話ですが、その結末で描かれる真相は、なんとも後味の悪いものでした。
この混沌とした薄気味悪さは、どう描かれるのでしょう。アウトローの世界を描くのを得意とする白石監督ならではの視点に注目です。
映画『死刑にいたる病』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【原作】
櫛木理宇:『死刑にいたる病』ハヤカワ文庫刊(初版『チェインドッグ』を改題)
【脚本】
高田亮
【監督】
白石和彌
【キャスト】
阿部サダヲ、岡田健史、岩田剛典、宮崎優、鈴木卓爾、佐藤玲、赤ペン瀧川、大下ヒロト、吉澤健、音尾琢真、岩井志麻子、コージ・トクダ、中山美穂
まとめ
2022年に公開される映画『死刑にいたる病』の原作小説をネタバレありでご紹介しました。
恐るべき殺人鬼・榛村の犯した犯罪の数々。その実態が明らかになるにつれ、榛村の持つ残忍さと狂気に背筋も凍る想いがします。
調べをすすめる雅也がだんだんと彼に魅了されていく様子にも、恐ろしいものに支配されていく人の性が見え、怖くなることでしょう。
榛村は言います。「強いストレスを感じながら育った子は、自尊心が低いから、そこをくすぐってやれば簡単に言いなりになる」と。
被害者の拷問による身体の傷も痛ましいのですが、もっと痛く感じ心底恐ろしいと思うのは、殺人鬼が人を支配する力を身に付けた、ということでしょう。
榛村が用意した毒の爪は、雅也にも向けられていました。果たして雅也は無事に榛村の魔の手から逃れることができるのでしょうか。
2022年5月6日(金)の映画『死刑にいたる病』の公開が待たれます。