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Entry 2019/01/26
Update

映画『十二人の死にたい子どもたち』犯人とゼロバンの正体ネタバレ。キャストの演技評価と感想は

  • Writer :
  • 石井夏子

ベストセラー作家・冲方丁(うぶかた・とう)のミステリー小説を原作とした実写映画『十二人の死にたい子どもたち』

舞台の作演出を手掛けてきた倉持裕が脚本を担当し、『イニシエーション・ラブ』『トリック』など数々のヒット作を送り出してきた堤幸彦監督が映画化した本作。

悲痛なまでの“子どもたち”の叫びと、訪れる救済に胸を打つ1作となりました。

この記事では、本作のラストまでのあらすじと、出演者の演技力の評価と彼らの魅力をお伝えしていきます。

映画『十二人の死にたい子どもたち』の作品情報


(C)2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会

【公開】
2019年(日本映画)

【原作】
冲方丁『十二人の死にたい子どもたち』(文藝春秋)

【監督】
堤幸彦

【キャスト】
杉咲花、新田真剣佑、北村匠海、高杉真宙、黒島結菜、橋本環奈、古川琴音、萩原利久、渕野右登、坂東龍汰、吉川愛、竹内愛紗、とまん

【作品概要】
『天地明察』『光圀伝』といった時代小説や『マルドゥック・スクランブル』などのSF小説で人気の冲方丁が、初めて現代を舞台に描いたミステリー小説を実写映画化。

閉鎖された病院を舞台に、それぞれの理由で安楽死をするため集まった12人の少年少女が、そこにいるはずがない13人目の少年の死体を見つけたことから始まる犯人捜しと、その過程で少年少女たちの死にたい理由が徐々に明らかになっていくことで、変化していく人間関係や心理を描いています。

出演には杉咲花、新田真剣佑、北村匠海、高杉真宙、黒島結菜、橋本環奈ら人気若手俳優がそろいました。

脚本は岸田國士戯曲賞受賞経歴を持つ劇作家の倉持裕。

監督はドラマ『池袋ウエストゲートパーク』をはじめ「SPEC」シリーズ、『イニシエーション・ラブ』(2015)を手がけた堤幸彦氏が務めます。

映画『十二人の死にたい子どもたち』のあらすじとネタバレ


(C)2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会

かつて産婦人科や小児科などがあった、閉鎖された総合病院。

安楽死を求め、とあるインターネットサイトから未成年たちが集まってきました。

サイトと集いの管理者であるサトシから教えられた手順を踏み、病院の受付にある金庫を開け、その中に隠されていた2番から12番までの数字をそれぞれ手にした彼らは、地下室に集合します。

1番のサトシを含めた参加者12人で採決を取り、全員の意見が一致すれば、安楽死は実行されるはずでした。

しかし地下室のベッドには、横たわり動かない13人目の謎の少年が。

サトシが予定通り採決を取りますが、2番のケンイチだけが、こんな疑問を残したまま決行はできないと反対します。

ケンイチには周りの空気を読まずに思ったことを口にしてしまう癖があり、そのせいで学校でいじめに合っていました。

反対者が1人でもいたら、実行は延期され、全員で話し合うのがルールです。

多数のメンバーがケンイチを非難するなか、5番シンジロウは13人目の少年や部屋の状況に興味を抱きます。

13人目の少年をゼロバンと名付けたシンジロウは、ゼロバンが殺された可能性があると伝えます。

不治の病に侵された彼にとって、論理的に思考し答えを導き出すことが娯楽であり習慣になっていました。


(C)2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会

シンジロウはゼロバンが裸足なこと、病院の物ではない車いすが置かれていることなどの疑問点を挙げて行きます。

彼の発言により、病院に着いてから見た妙なものを思い出し、打ち明けるメンバーたち。

女子トイレに片方だけ落ちていたスニーカー、開いていた正面の自動ドアと側に置かれたモップ、受付と裏口の二ヶ所で目撃されているマスクと帽子、メンソールの煙草の吸殻…。

7番のアンリや6番のメイコは採決を促しますが、10番のセイゴが反対したため決行はされません。

金目当ての恋人の入れ知恵で、実の息子であるセイゴに保険をかけていた母。

もしゼロバンが他殺だと、同じ場所で死んだセイゴも他殺扱いにされてしまう可能性があり、母に保険金が下りてしまうため、それだけは避けたい事態でした。

12人はグループに分かれ、地下室までのゼロバンの足跡や証拠品を辿りに病院の中を歩き回ることになりました。

そんな中、8番タカヒロは違和感を覚えていました。

タカヒロは幼いころから母に病気だと思いこまされて睡眠薬などの薬を常用していたため、思考が混濁し、言葉もうまく発せられません。

屋上に着いたタカヒロはその違和感の正体に気付き、声を上げます。

ノブオくん、君が殺したの?と。

集いにやってきたとき、タカヒロは一度屋上にあがって空を眺めてから階下へ降り、ノブオとセイゴに出会いました。

その時に、タカヒロよりあとにやってきて、この病院の構造など知るはずがないノブオが、屋上が広いと発言していた事を思い出したんです。

9番ノブオは微笑みながら、自分がやったと認めました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『十二人の死にたい子どもたち』ネタバレ・結末の記載がございます。『十二人の死にたい子どもたち』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会

地下室に再集合してから話し合う事に決まりましたが、工事業者がやってくるのが見え、あわてて隠れる面々。

その時ノブオは1人、階下への階段に足を踏み出そうとしたところを、何者かによって突き落とされてしまいました。

地下室に戻ったメンバーたちと戻らないノブオ。

ノブオは逃げたんだと結論付けるメイコ。

話を整理するため、病院に入った順番と手に取った番号をシンジロウが書きだしましたが、何かが矛盾しています。

そこで疑われたのが、マスクと帽子で顔を隠した4番の少女、リョウコでした。

メンソールの煙草の吸殻も、早く到着した彼女のもの。

自分の言動を冷静に証言し、マスクと帽子を取ったリョウコの顔は、誰もが知る女優、秋川莉胡でした。


(C)2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会

作られた自分ではなく、本当の自分としてこの世に別れを告げたいだけだと語るリョウコに、3番のミツエは大反対。

ミツエは敬愛するバンドマンが自殺してしまったため、その後を追おうと考えていました。

進まぬ話し合いに痺れを切らしたメイコが、自殺の準備をしてから話し合いをしようとまくし立てます。

また3つのグループに分かれ、必要なものを病院内から集めるメンバーたち。

11番マイはシンジロウに、ネットで会ったオジさんに無理やりキスをされたせいで不治の病気を移されたという話をします。

一方セイゴは、階段から男子トイレへと続く血痕を見付けますが、ノブオはいません。

地下室に戻った彼らは、通気口を塞ぎ練炭を床に置きます。

最後に残った外界への扉をメイコが閉めようとしますが、アンリが止めます。

そんなアンリを見て、はじめからアンリの言動はおかしかった、アンリが犯人だと攻め立てるメイコ。

メイコは父親との関係から、人を落としめ排除せずにはいられない歪んだ性格を持っていました。

そこへ怪我だらけのノブオが現れます。

あわてて扉を閉め、ノブオを追い出そうとしたメイコを見て、メイコが怪我をさせた犯人だと悟るメンバーたち。

ノブオはメイコに礼を言い、自分が集いへ来た理由を話し始めます。

いじめに合い、その相手を階段から突き落として殺したこと。

その罪悪感から自殺を考えたこと。

この集いに参加したことで、自首しようと考えを改めたこと。

話は誰がゼロバンを連れてきたか、ノブオと一緒にゼロバンを運んだ協力者は誰なのかに戻ります。

シンジロウが、ノブオの協力者はアンリだと指摘します。

メイコが扉を閉めようとする前に、アンリがスマホで誰かにメッセージを送っているのを目撃し、その後タイミング良くノブオが現れたからです。

黙り込むアンリを見て優越感に浸るメイコ。

混乱を極めた議論の場に、突然鳴り響くゼロバンのげっぷ。

ゼロバンは死んでいたわけではなく、植物人間の状態のところを運び込まれたようです。

シンジロウの推理は続きます。

誰かに車いすで連れてこられたゼロバン。

先に病院に来ており、屋上からそれを見ていたアンリとノブオ。

2人は身体の不自由な彼を助けようと階下に降りますが、そこにはゼロバンが放置されていて、付き添っていた誰かは逃げていた。

集いを中止させるわけにはいかないと思ったアンリとノブオは協力して、ゼロバンを地下に運ぶことにしたんだろうと推測するシンジロウ。

突如、それまでほとんど発言せず、うつむきっぱなしだった12番のユキが話し始めます。

交通事故に依る後遺症で苦しんでいて、もう楽になっていいはずだと言葉を絞り出す彼女。

ユキこそゼロバンを連れてきた人間でした。


(C)2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会

ゼロバンの妹であるユキは、2人乗りしていた自転車でふざけたせいで兄が植物人間になってしまったと告白します。

それを誰にも言えず、自らを責め続けていたユキ。

シンジロウはサトシに、この集いの中止を提案しますが、アンリが怒りながら制止します。

彼女にはどうしても12人全員で安楽死を実行したい理由がありました。

アンリの母はめったに家に帰らず、幼いアンリと弟を家に置き去りにしていました。

久しぶりに帰った母のタバコで火事が起こり、幼い弟は死亡、アンリもひどい火傷を負ったんです。

何のために弟は生まれてきたのか、何のために母は自分を生んだのか。

苦しみを世間に伝え、自分のような境遇の人間を増やさないために、この12人の集団自殺は実行されなければない、それがアンリの訴えです。

アンリの叫びを聞いたシンジロウは静かに涙を流し、いつ無くなるかわからない命だからこそ、最後まで生きることを選びたいと伝えました。

そして集いを中止するべきか、最後の採決が取られます。

賛成に手を挙げたのは、シンジロウ、ノブオ、ケンイチ、マイ、タカヒロ、セイゴ、ミツエ、リョウコ、ユキ、メイコ、そしてアンリ。

全員一致したので集いは中止すると管理者のサトシが発言します。

最初に地下室に入ってきたときとは正反対の明るい顔をして仲良く出て行く一同。

アンリとサトシを除いて。

アンリがサトシに聞きます。

「今度はいつやるのかしら?」

実はサトシが集いを開くのは3回目でした。

最後の採決に手を挙げなかったのに判決を下したサトシを見て、アンリはそれに勘付いたんです。

サトシはこの病院の医院長の息子でしたが、母は兄と無理心中を企て、父は鬱に陥り自ら命を絶ちました。

彼にとって、自殺した父の所有していた病院で集いを開き、死の理由を聞くことは意義のある事でした。

アンリは微笑みながら次回も参加すると表明し、地下室をあとにします。

映画『十二人の死にたい子どもたち』の感想と評価

犯人探し以上に大事なもの


(C)2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会

この映画にとって、犯人探しは大きな問題ではありません

確かに謎が謎を呼び、シンジロウを中心にそれを解き明かしていく一連の流れは、大変スリリングで引き込まれます。

しかし1番大事なのは、「なぜ彼らはここに来たか」「何を見て何を選んだか」なんです。

彼らの持つ、“死にたい”理由は複雑です。

おそらく末期癌であろうシンジロウは、自分と外界を繋ぎ止める最後の手段である思考力を発達せざるを得ませんでした。

“不治の病”に罹ってしまったマイとシンジロウ。

対照的な2人ですが、たとえ病気や悩みの差はあれど、渦中の人間にとっては深刻な問題なんだと気付かせてくれます。

また、親や周りの大人たちのせいで苦しんでいる子どもたちが多いのも特徴です。

アンリ、セイゴ、リョウコ、ケンイチ、タカヒロ、そしてメイコ。

メイコは、母をはじめ数々の女性を排除してきた父を間近で見て育ってきました。

排除されないようになるには排除するしかない、という短絡的な考えしか出来ないほど歪みきってしまったメイコ。

ですが最後の採決での葛藤と慟哭に、彼女こそ救われて欲しい、変わって欲しいと願ってしまいました。

そして聖母のようにそれを見つめて微笑み、自らも決心したアンリ。

彼らにとって地下室は胎内であり、再び生まれ直すためのチャンスでした。

また、本作のコメディリリーフであるマイとケンイチは、爆弾発言をあっけらかんと繰り出し、陰鬱になりがちな物語に軽さとおかしみを与え、他の参加者に新たな視点を与えてくれた、貴重な存在です。

映画『12人の優しい日本人』(1991)では、すんなり決まるはずだった評決を、陪審員2号が「話し合いがしたい」と覆したことで議論が行われます。

本作でも2番のケンイチが最初に反対票を入れたことで話が進んでいきます。

彼の意見があったことで、寄り道をしながらも皆が納得いく結論を出すことが出来ました。

『12人の優しい日本人』自体が『十二人の怒れる男』のオマージュで、どれも“人の運命を裁くこと”について考えさせられる名作です。

満場一致だったはずのものがひとりの意見によって崩れて行くさま、自分の中の本当の答えを探しだすさまを是非味わって下さい。

若手俳優たちがもたらすリアリティ


(C)2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会

原作では、登場人物一人ひとりの視点を変えて話が進んで行きます。

12人というキャラクターの個性を出すため、話し方や造形に、やや不自然さを感じる箇所もあった原作小説。

結果、原作のシンジロウは超人的で穏やかな名探偵になってしまい、アンリにはちょっと古風な自立した女性像を感じてしまいました。

それはそれで魅力的ではありましたし、文章のみで人物を想像させるという制約上、仕方のない事でしょう。

ですが、映画化された『十二人の死にたい子どもたち』では、その不自然さは無く、切実な悩みを持った等身大の若者たちとして描かれていました。

これは監督の手腕は勿論ですが、若手俳優たちの力によるところが大きいでしょう。

「銀魂」シリーズや『斉木楠雄のΨ難』(2017)で、その端正な容姿から想像できないほどのはじけっぷりを見せてくれた橋本環奈は、まるで彼女自身の闇をさらけ出したかのような豹変ぶり

萩原利久演じる、母親に毒され薬漬けにされた吃音の少年タカヒロは、見ていて胸が痛くなるほど真に迫っていました。

ある意味本作の悪役であるメイコを演じた黒島結菜も、メイコの“歪み”を体現

清楚な役が多かった吉川愛の、無知ゆえの純粋さを持ったギャル、マイの可愛らしさは本作の清涼剤です。

影の功労者、北村匠海が扮するノブオには、誰もがツッコミと共感をしてしまうでしょう。

彼が出ずっぱりのエンドロールは必見です。

坂東龍汰は、粗暴さの中に不器用な優しさが見え隠れするセイゴを好演。

また、新田真剣佑も、超人のようになりそうなシンジロウを、悩める青年として息づかせました。

彼のモップによる検証シーンはおかしく、最後の選択は胸を打ち、いつまでも生きていて欲しいと願ってしまう、愛しいキャラクターです。

そしてアンリこと杉咲花。

発せられる辛辣な意見の裏にある愛や悲しみを、杉咲花の魅力である柔らかな声色と瞳から感じさせてくれました。

中盤、数名が屋上で“最後の青空”を見つめるシーンがあります。

そのシーンだけで、彼らが歩んできたイバラの道を感じ取れ、物言わなくてもそれを彼らが共有していることが伝わってきます。

テーマは重く、そのタイトルから敬遠してしまう方もいるかもしれませんが、観賞後は文化祭が終わった後のような、すがすがしさと寂しさの余韻を残してくれる良作です。

まとめ


(C)2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会

生を司る産婦人科の病院で死を選び、そして再び生まれる子どもたち

生まれ変わった子どもたちの未来は明るいものであってほしいと祈ってしまいます。

悩みを抱えた子どもにも、かつて子どもだった方にも、ぜひご覧いただきたい1作。

また、セリフを喋っている人物以上に、周りでリアクションを取っている人物に注視してみると、新たな気づきがあります。

何故あそこで彼は彼女を見たのか、何故彼女は息を飲んだのか。

見逃せない映画『十二人の死にたい子どもたち』は2019年1月25日全国ロードショーです。


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