ベストセラー作家・冲方丁(うぶかた・とう)のミステリー小説を原作とした実写映画『十二人の死にたい子どもたち』。
舞台の作演出を手掛けてきた倉持裕が脚本を担当し、『イニシエーション・ラブ』『トリック』など数々のヒット作を送り出してきた堤幸彦監督が映画化した本作。
悲痛なまでの“子どもたち”の叫びと、訪れる救済に胸を打つ1作となりました。
この記事では、本作のラストまでのあらすじと、出演者の演技力の評価と彼らの魅力をお伝えしていきます。
CONTENTS
映画『十二人の死にたい子どもたち』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【原作】
冲方丁『十二人の死にたい子どもたち』(文藝春秋)
【監督】
堤幸彦
【キャスト】
杉咲花、新田真剣佑、北村匠海、高杉真宙、黒島結菜、橋本環奈、古川琴音、萩原利久、渕野右登、坂東龍汰、吉川愛、竹内愛紗、とまん
【作品概要】
『天地明察』『光圀伝』といった時代小説や『マルドゥック・スクランブル』などのSF小説で人気の冲方丁が、初めて現代を舞台に描いたミステリー小説を実写映画化。
閉鎖された病院を舞台に、それぞれの理由で安楽死をするため集まった12人の少年少女が、そこにいるはずがない13人目の少年の死体を見つけたことから始まる犯人捜しと、その過程で少年少女たちの死にたい理由が徐々に明らかになっていくことで、変化していく人間関係や心理を描いています。
出演には杉咲花、新田真剣佑、北村匠海、高杉真宙、黒島結菜、橋本環奈ら人気若手俳優がそろいました。
脚本は岸田國士戯曲賞受賞経歴を持つ劇作家の倉持裕。
監督はドラマ『池袋ウエストゲートパーク』をはじめ「SPEC」シリーズ、『イニシエーション・ラブ』(2015)を手がけた堤幸彦氏が務めます。
映画『十二人の死にたい子どもたち』のあらすじとネタバレ
かつて産婦人科や小児科などがあった、閉鎖された総合病院。
安楽死を求め、とあるインターネットサイトから未成年たちが集まってきました。
サイトと集いの管理者であるサトシから教えられた手順を踏み、病院の受付にある金庫を開け、その中に隠されていた2番から12番までの数字をそれぞれ手にした彼らは、地下室に集合します。
1番のサトシを含めた参加者12人で採決を取り、全員の意見が一致すれば、安楽死は実行されるはずでした。
しかし地下室のベッドには、横たわり動かない13人目の謎の少年が。
サトシが予定通り採決を取りますが、2番のケンイチだけが、こんな疑問を残したまま決行はできないと反対します。
ケンイチには周りの空気を読まずに思ったことを口にしてしまう癖があり、そのせいで学校でいじめに合っていました。
反対者が1人でもいたら、実行は延期され、全員で話し合うのがルールです。
多数のメンバーがケンイチを非難するなか、5番シンジロウは13人目の少年や部屋の状況に興味を抱きます。
13人目の少年をゼロバンと名付けたシンジロウは、ゼロバンが殺された可能性があると伝えます。
不治の病に侵された彼にとって、論理的に思考し答えを導き出すことが娯楽であり習慣になっていました。
シンジロウはゼロバンが裸足なこと、病院の物ではない車いすが置かれていることなどの疑問点を挙げて行きます。
彼の発言により、病院に着いてから見た妙なものを思い出し、打ち明けるメンバーたち。
女子トイレに片方だけ落ちていたスニーカー、開いていた正面の自動ドアと側に置かれたモップ、受付と裏口の二ヶ所で目撃されているマスクと帽子、メンソールの煙草の吸殻…。
7番のアンリや6番のメイコは採決を促しますが、10番のセイゴが反対したため決行はされません。
金目当ての恋人の入れ知恵で、実の息子であるセイゴに保険をかけていた母。
もしゼロバンが他殺だと、同じ場所で死んだセイゴも他殺扱いにされてしまう可能性があり、母に保険金が下りてしまうため、それだけは避けたい事態でした。
12人はグループに分かれ、地下室までのゼロバンの足跡や証拠品を辿りに病院の中を歩き回ることになりました。
そんな中、8番タカヒロは違和感を覚えていました。
タカヒロは幼いころから母に病気だと思いこまされて睡眠薬などの薬を常用していたため、思考が混濁し、言葉もうまく発せられません。
屋上に着いたタカヒロはその違和感の正体に気付き、声を上げます。
ノブオくん、君が殺したの?と。
集いにやってきたとき、タカヒロは一度屋上にあがって空を眺めてから階下へ降り、ノブオとセイゴに出会いました。
その時に、タカヒロよりあとにやってきて、この病院の構造など知るはずがないノブオが、屋上が広いと発言していた事を思い出したんです。
9番ノブオは微笑みながら、自分がやったと認めました。
映画『十二人の死にたい子どもたち』の感想と評価
犯人探し以上に大事なもの
この映画にとって、犯人探しは大きな問題ではありません。
確かに謎が謎を呼び、シンジロウを中心にそれを解き明かしていく一連の流れは、大変スリリングで引き込まれます。
しかし1番大事なのは、「なぜ彼らはここに来たか」「何を見て何を選んだか」なんです。
彼らの持つ、“死にたい”理由は複雑です。
おそらく末期癌であろうシンジロウは、自分と外界を繋ぎ止める最後の手段である思考力を発達せざるを得ませんでした。
“不治の病”に罹ってしまったマイとシンジロウ。
対照的な2人ですが、たとえ病気や悩みの差はあれど、渦中の人間にとっては深刻な問題なんだと気付かせてくれます。
また、親や周りの大人たちのせいで苦しんでいる子どもたちが多いのも特徴です。
アンリ、セイゴ、リョウコ、ケンイチ、タカヒロ、そしてメイコ。
メイコは、母をはじめ数々の女性を排除してきた父を間近で見て育ってきました。
排除されないようになるには排除するしかない、という短絡的な考えしか出来ないほど歪みきってしまったメイコ。
ですが最後の採決での葛藤と慟哭に、彼女こそ救われて欲しい、変わって欲しいと願ってしまいました。
そして聖母のようにそれを見つめて微笑み、自らも決心したアンリ。
彼らにとって地下室は胎内であり、再び生まれ直すためのチャンスでした。
また、本作のコメディリリーフであるマイとケンイチは、爆弾発言をあっけらかんと繰り出し、陰鬱になりがちな物語に軽さとおかしみを与え、他の参加者に新たな視点を与えてくれた、貴重な存在です。
映画『12人の優しい日本人』(1991)では、すんなり決まるはずだった評決を、陪審員2号が「話し合いがしたい」と覆したことで議論が行われます。
本作でも2番のケンイチが最初に反対票を入れたことで話が進んでいきます。
彼の意見があったことで、寄り道をしながらも皆が納得いく結論を出すことが出来ました。
『12人の優しい日本人』自体が『十二人の怒れる男』のオマージュで、どれも“人の運命を裁くこと”について考えさせられる名作です。
満場一致だったはずのものがひとりの意見によって崩れて行くさま、自分の中の本当の答えを探しだすさまを是非味わって下さい。
若手俳優たちがもたらすリアリティ
原作では、登場人物一人ひとりの視点を変えて話が進んで行きます。
12人というキャラクターの個性を出すため、話し方や造形に、やや不自然さを感じる箇所もあった原作小説。
結果、原作のシンジロウは超人的で穏やかな名探偵になってしまい、アンリにはちょっと古風な自立した女性像を感じてしまいました。
それはそれで魅力的ではありましたし、文章のみで人物を想像させるという制約上、仕方のない事でしょう。
ですが、映画化された『十二人の死にたい子どもたち』では、その不自然さは無く、切実な悩みを持った等身大の若者たちとして描かれていました。
これは監督の手腕は勿論ですが、若手俳優たちの力によるところが大きいでしょう。
「銀魂」シリーズや『斉木楠雄のΨ難』(2017)で、その端正な容姿から想像できないほどのはじけっぷりを見せてくれた橋本環奈は、まるで彼女自身の闇をさらけ出したかのような豹変ぶり。
萩原利久演じる、母親に毒され薬漬けにされた吃音の少年タカヒロは、見ていて胸が痛くなるほど真に迫っていました。
ある意味本作の悪役であるメイコを演じた黒島結菜も、メイコの“歪み”を体現。
清楚な役が多かった吉川愛の、無知ゆえの純粋さを持ったギャル、マイの可愛らしさは本作の清涼剤です。
影の功労者、北村匠海が扮するノブオには、誰もがツッコミと共感をしてしまうでしょう。
彼が出ずっぱりのエンドロールは必見です。
坂東龍汰は、粗暴さの中に不器用な優しさが見え隠れするセイゴを好演。
また、新田真剣佑も、超人のようになりそうなシンジロウを、悩める青年として息づかせました。
彼のモップによる検証シーンはおかしく、最後の選択は胸を打ち、いつまでも生きていて欲しいと願ってしまう、愛しいキャラクターです。
そしてアンリこと杉咲花。
発せられる辛辣な意見の裏にある愛や悲しみを、杉咲花の魅力である柔らかな声色と瞳から感じさせてくれました。
中盤、数名が屋上で“最後の青空”を見つめるシーンがあります。
そのシーンだけで、彼らが歩んできたイバラの道を感じ取れ、物言わなくてもそれを彼らが共有していることが伝わってきます。
テーマは重く、そのタイトルから敬遠してしまう方もいるかもしれませんが、観賞後は文化祭が終わった後のような、すがすがしさと寂しさの余韻を残してくれる良作です。
まとめ
生を司る産婦人科の病院で死を選び、そして再び生まれる子どもたち。
生まれ変わった子どもたちの未来は明るいものであってほしいと祈ってしまいます。
悩みを抱えた子どもにも、かつて子どもだった方にも、ぜひご覧いただきたい1作。
また、セリフを喋っている人物以上に、周りでリアクションを取っている人物に注視してみると、新たな気づきがあります。
何故あそこで彼は彼女を見たのか、何故彼女は息を飲んだのか。
見逃せない映画『十二人の死にたい子どもたち』は2019年1月25日全国ロードショーです。