一日あれば世界は変わる。
史上最大のドッキリの結末とは。
小説家・行成薫のデビュー作にして小説すばる新人賞受賞作品『名も無き世界のエンドロール』を、『ストロベリーナイト』『累 かさね』の佐藤祐市監督が映画化。
それぞれが複雑な家庭環境で育った幼馴染のキダとマコトは、同じ境遇のヨッチと出会い始めて居心地のいい場所を見つけます。しかし、ある日突然ヨッチは2人の前から姿を消すのでした。
キダとマコトは、10年の歳月をかけ史上最大のドッキリ「プロポーズ大作戦」を企てます。果たしてドッキリは成功するのでしょうか。その作戦の裏に秘められた悲しき過去とは。
岩田剛典と新田真剣佑の共演でおくる衝撃のサスペンス・エンターテイメント『名も無き世界のエンドロール』を紹介します。
映画『名も無き世界のエンドロール』の作品情報
【公開】
2021年(日本)
【原作】
行成薫
【監督】
佐藤祐市
【キャスト】
岩田剛典、新田真剣佑、山田杏奈、中村アン、石丸謙二郎、大友康平、柄本明
映画『名も無き世界のエンドロール』のあらすじとネタバレ
今日はクリスマス。賑わう街中をサンタクロースの恰好をした男・キダが歩いています。「お前にもドッキリ仕掛けといたぞ」。スマホの向こうから、幼なじみのマコトの声が聞こえます。
互いに親がなく複雑な家庭環境で育ったキダとマコトは、幼い頃から兄弟のように育ちました。昔からドッキリを仕掛けることが生き甲斐のマコトと、そのドッキリに毎回引っかかってしまうキダ。
大人になった2人は、いままさに人生を懸けた史上最大のドッキリ「プロポーズ大作戦」を決行しようとしていました。
輸入ワイン会社の社長になったマコトは、大物政治家の娘でモデルのリサと付き合っています。
リサとの出会いは10年前。キダとマコトが働いていた自動車修理工場に、リサがやってきたのが最初でした。
政治家の父を持つリサは、高級車を無免許で乗り回し事故を起こしていました。犬を轢いたと言うリサは、工場の宮澤社長に金を渡しこっそり車を修理するよう迫ります。
高飛車な態度のリサに呆れるキダ。興味をしめしたマコトは、リサに近付きお得意の手品を披露します。握った手の中から一輪のバラをだし、リサに差し出します。
そのバラからはさらに紐が続いています。リサが紐を引っ張っていくと万国旗が現れ、パンッ!最後にクラッカーの音が空しく鳴りました。
最後まで見下した態度で去っていったリサ。マコトは「金があればあの女に近付けるかな」ともらします。
「住む世界が違うんだよ」と言うキダに、「世界が違うんじゃない。分けられてるだけだ」とマコトは言い残し、それから間もなくして姿を消してしまいます。
キダとマコトにはもう一人、幼なじみがいました。ヨッチという女の子です。小学生の頃転校してきたヨッチは、2人と同じ両親がなく孤独でした。
仲良くなった3人は互いに支え合い、家族のように過ごしてきました。キダにとって、3人の世界だけが唯一生きる意味を与えてくれる場所のようでした。ヨッチが2人の前から姿を消す20歳の時までは。
ヨッチに続き、マコトが姿を消してから2年。裏社会で交渉屋として働き出したキダは、マコトの居場所を突き止めます。
訪ねるキダに、「わりぃ」とマコトは昨日も会っていたかのような態度です。マコトはひたすら金を集めていました。リサに近付くためです。
マコトから史上最大のドッキリ、名付けて「プロポーズ大作戦」を聞いたキダは、呆れながらも協力せざる得ない理由がありました。
それからマコトは、集めた金でワイン輸入会社を買い若手実業家として表社会でのし上がっていきます。
一方キダは、裏社会で交渉屋としてマコトをバックアップしていきます。経歴詐称に、新しいID取得、そしてリサの男関係も整理していきます。
計画通りにリサと付き合いはじめたマコトは30歳になっていました。そして、クリスマスの日、「プロポーズ大作戦」の決行の時を迎えます。
映画『名の無き世界のエンドロール』の感想と評価
行成薫の小説すばる新人賞受賞作品『名の無き世界のエンドロール』の実写映画化。原作と映画を比較してみようと思います。
原作のストーリー展開は、過去と現在を行ったり来たりし、少しづつ「プロポーズ大作戦」の全貌が明かされていきます。
映画化では、原作に忠実に、盛り込まれているエピソードを映像によりコンパクトに分かりやすくまとめ、細かい伏線を丁寧に繋いでいます。
特に、幼なじみのキダとマコト、ヨッチの3人の思い出のシーンは、映画化ならではの美しい景色も合わさり、甘く切ないものとなっています。
映画では、ドッキリ好きなマコトの十八番は、吹き出すコーラになっており、絶妙なタイミングで使われています。マコトとキダの友情を感じます。
原作では、ヨッチとマコトが映画好きでタイトルやセリフを真似するシーンが多くありますが、映画では控えめになっています。
その分、ヨッチが映画のエンドロールが苦手な理由が浮き彫りになっています。映画が終わり、現実に戻るのが怖いという思い。のちにやってくる結末を示唆する場面になっています。
それぞれを演じた岩田剛典、新田真剣佑、山田杏奈の演技により、心を許し合える幼なじみの穏やかな日常が、特別に尊いものに映ります。
またもう一人のキーパーソン。リサという人物。演じたのは、中村アン。優しいお姉さんのイメージが強い中村アンが、これまでとは正反対のヒステリックでわがままな女を演じています。
原作のリサは悪女のイメージが強く、読者はエンディングでマコトにやり込められるリサの姿にスッキリ感を覚えるかもしれません。
しかし、映画では中村アンから滲み出る品の良さが、悪者になり切れないあどけさを伴わせ、もう一人の悲しい主人公に見えてきます。リサもまた父親の人生の駒のひとつでしかありませんでした。
そしてもうひとつ、原作と映画で違う部分として、キダの最後の行動があげられます。キダは決行の日、マコトのいるホテルで開かれるイベント会場にいます。
マコトが作戦を終えようとする時、キダは原作では爆弾があると大声をあげ現場を後にしますが、映画では作戦を止めようとマコトのいる部屋に走ります。
結果、そこにはマコトの姿はなく、最後のドッキリに引っかかってしまいます。クールなキダが最後に見せる、マコトへの熱い想いが溢れだすせつないシーンとなっています。
まとめ
第25回小説すばる新人賞を受賞した行成薫の同名小説を、佐藤祐市監督が岩田剛典と新田真剣佑の初共演で映画化。『名も無き世界のエンドロール』を紹介しました。
ラスト20分に明かされる衝撃の真実。心にぽかっと空いた穴を埋めてくれそうな、「もうひとつのエンドロール」がdTVにて配信中です。
原作者の行成薫が書き下ろしたという、「プロポーズ大作戦」から半年後の世界。闇の交渉屋・キダの新たな物語『Re:名も無き世界のエンドロール~Half a year later』。ぜひ、映画鑑賞後に観てください。
BadなのかGoodなのか、それぞれの感じ方が出来るSadエンドロール。キダとマコトの名も無き世界は、どこまでも真っ直ぐなヨッチへの愛であふれていました。
自分の世界のエンドロールには、誰の名が流れるのでしょうか。愛する人の名前が流れる人生でありたいものです。