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Entry 2022/02/11
Update

映画『マクベス(2021)』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。シェークスピア戯曲の過去作比較とデンゼル・ワシントンの演技力を考察する

  • Writer :
  • 松平光冬

シェークスピアの不朽の戯曲をデンゼル・ワシントン主演で描く

ジョエル・コーエン監督による映画『マクベス』が、Apple TV+で2022年1月14日から配信開始となりました。

デンゼル・ワシントンとフランシス・マクドーマンドという二大俳優を主演に据えたシェイクスピアの戯曲を、ネタバレ有りでレビューします。

映画『マクベス』の作品情報

画像提供 Apple TV+

【配信】
2022年(アメリカ映画)※2021年12月31日に一部劇場公開

【原題】
The Tragedy of Macbeth

【製作・監督・脚本】
ジョエル・コーエン

【共同製作】
フランシス・マクドーマンド、ロバート・グラフ

【原作】
ウィリアム・シェイクスピア

【撮影】
ブリュノ・デルボネル

【音楽】
カーター・バーウェル

【キャスト】
デンゼル・ワシントン、フランシス・マクドーマンド、アレックス・ハッセル、バーティ・カーベル、ブレンダン・グリーソン、コーリー・ホーキンズ、ハリー・メリング、マイルス・アンダーソン、マット・ヘルム、モーゼス・イングラム、キャサリン・ハンター

【作品概要】

デンゼル・ワシントンとフランシス・マクドーマンドという2人のオスカー俳優をダブル主演に、マクドーマンドの夫でもあるジョエル・コーエン監督が、シェイクスピアの4大悲劇の一つ『マクベス』を、A24とAppleの共同製作で映画化。

ワシントンがマクベス役を、マクドーマンドがマクベス夫人役をそれぞれ演じ、ワシントンは本作の演技で第94回(2022年)アカデミー賞主演男優賞にノミネートされました。

共演にコーリー・ホーキンズ、ブレンダン・グリーソン、ハリー・メリング、キャサリン・ハンター。

本作はApple TV+で2022年1月14日から配信開始され、それに先立つ2021年12月31日には一部劇場でも公開されました。

映画『マクベス』のあらすじとネタバレ

画像提供 Apple TV+

中世のスコットランド。

国王ダンカンの臣下にして名立たる将軍のマクベスは、親友のバンクォーと共に反乱するノルウェー軍との戦いに勝利。

ダンカンの元へと戻る途中、2人は謎の魔女3人と遭遇。彼女らは、マクベスに「近い将来スコットランドのコーダーの領主となり、いずれ王座に就く」、バンクォーに「王の父となる」と予言を告げます。

その夜、ダンカン王の使者ロスが現れ、褒美としてマクベスをコーダーの新しい領主に任命したと告げた後、前領主を謀反の罪で処刑します。

魔女の予言が早くも的中したことに驚くマクベスでしたが、もう1つの「いずれ王となる」という予言に期待を寄せます。しかし、帰還した2人を手厚く迎え入れたダンカンが、その場で長男マルカムを王位継承者に選んだことに苛立ちます。

一方、手紙で夫の予言を知ったマクベス夫人は、ダンカン一行がマクベス夫婦の城に滞在するのを機に、一計を案じます。

帰宅して間もなく、ダンカンを殺して王座に就くよう夫人にそそのかされ、一度は決意したマクベス。しかし良心の呵責から及び腰に。夫人は「勇気の弓を引き絞ればしくじらない」と奮い立たせ、宴会後にダンカンが寝床に就くのを待ちます。

夫人が護衛にワインを飲ませて眠らせた後、ダンカンの寝室に侵入したマクベスは、短剣を彼の喉に突き刺し殺害。

夜が明け、ファイフ領主のマクダフが死体となったダンカンを発見して城内が大混乱となった合間に、マクベスは眠らせていた護衛を殺し、犯人に仕立て上げます。

身の危険を感じたマルカムはイングランド、次男のドナルベインはアイルランドと、二手に別れて逃亡することに。

息子たちにダンカン殺害首謀犯の嫌疑がかかっているとして、マクベスがスコットランドの新国王となったものの、マクダフは戴冠を祝う晩餐会に参加せずにファイフに戻るのでした。

画像提供 Apple TV+

王となったマクベスですが、予言に憑りつかれるあまり、バンクォーと息子フリーアンスの存在を疎ましく思うように。

野望を満たすために、マクベスはロスが呼んだ暗殺者2人にバンクォー親子を殺すよう命令。暗殺者はバンクォーを殺害するも、フリーアンスには逃げられます。

フリーアンスは草むらの中に身を隠すも、ロスに発見されてしまいます。

一方マクベスは、晩餐会の最中から、死んだバンクォーの幻覚に惑わされるように。

不安に駆られて再び魔女の予言を欲すると、「ファイフの領主マクダフに気を付けろ」「女から生まれた者はマクベスを倒せない」、「バーナムの森が進撃して来ないかぎり安全だ」と告げられます。

マクダフがイングランドにいるマルカムと合流したと知らされたマクベスは、ファイフのマクダフの城を奇襲し、彼の妻と子どもを殺害。

妻子が殺されたとロスから聞かされたマクダフは、マルカムと共にイングランド兵を率いて復讐を決意します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『マクベス』のネタバレ・結末の記載がございます。本作をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

画像提供 Apple TV+

やがてマクベス夫人も精神に異常をきたしていき、場内をさまよっては独り言を呟くように。

マルカムたちが攻めてくると知って次々と臣下たちが逃げ出すも、予言を信じ切ったマクベスは慌てません。

しかし、バーナムの森が攻めてくると伝えられ、さらに大階段から身を投じて亡骸となった夫人を目にして呆然自失となります。マルカムたちは、木の枝を隠れ蓑にして進撃していたのです。

城にたった一人となったマクベスの前に、マクダフが姿を現します。

「女から生まれた者には殺されない」と勝利を確信するマクベスに、マクダフは「私は母の腹を突き破って出てきた」と答えます。

激しい戦いの末、マクダフはマクベスの首を切り落とします。

ロスがマクベスの首をマルカムに献上し、新国王誕生を兵士たちが讃える一方、そのロスに連れられたフリーアンスは、スコットランドを後にするのでした――

映画『マクベス』の感想と評価


画像提供 Apple TV+

『ルーム』(2016)、『ムーンライト』(2017)などの注目作で知られる製作会社A24がAppleとタッグを組み、あまりにも有名なシェークスピアの戯曲に挑戦したのが本作『マクベス』です。

監督・脚本を『ノーカントリー』(2007)でアカデミー賞監督賞に輝いたジョエル・コーエンが務め、マクベス夫妻役にデンゼル・ワシントンとフランシス・マクドーマンドという2人のオスカー俳優を据えたことも、大きな話題となりました。

ジョエルと言えば、これまで弟のイーサンと共にブラックかつオフビートなテイストの作品を手がけてきただけに、本作もクセのある内容ではと思われていましたが、蓋を開けてみると、ストーリーもセリフ回しも原作の戯曲に忠実な作りとなっています。

『ノーカントリー』や『トゥルー・グリット』(2010)でも、原作通りにストーリーを進めていたのを鑑みても、ジョエルがオリジナルを重視するフィルムメーカーであることが伺えます。

映像がモノクロで画面比率4:3のアカデミーフレーム(スタンダードサイズ)という点は、オーソン・ウェルズ監督・主演の『マクベス』(1948)を思わせ、ジョエルも「影響が全くないわけではない」と語っていますが、それ以外の映画版『マクベス』のオマージュも感じなくもありません(詳細は後述)。

画像提供 Apple TV+

トレーニング デイ』(2001)や『マグニフィセント・セブン』(2017)など頼れる男役のイメージがあるデンゼル・ワシントンですが、本作では、予言に憑りつかれて妄想に恐怖していく哀れな暴君マクベスを演じます。

それでいて、クライマックスの見せ場となる剣劇アクションもしっかり入れているあたりは流石といったところ。

フランシス・マクドーマンド演じる発狂していくマクベス夫人も、彼女のあの彫りの深い容姿がモノクロの陰影で浮き彫りとなってインパクト絶大。本作では夫ジョエルと共にプロデューサーを務めており、さすが自分の見せ方を熟知していると言えましょう。

また、小林正樹の『怪談』(1965)を参考にしたというキャサリン・ハンター演じる3人の不気味な魔女は、これまで映像化されたどの魔女よりも禍々しいものとなっています。

詩の朗読のようなセリフ回しはもちろんのこと、オールセット撮影による深みのある画作りなど、観るべき点が多々ある出来といえます。

ただ一つ残念なのは、魔女の予言が、戯曲では「女の股から生まれた者には殺されない」なのに、日本語字幕も吹替も「女から生まれた者には殺されない」と抽象的な言い回しになっていること。これだとマクダフの、「私は母の腹から突き出された(=帝王切開で生まれた)」というセリフの意味が分かりにくくなっています。

画像提供 Apple TV+

他の『マクベス』映画化作品

翻案を含めるとかなりの数の映画化作品がある『マクベス』。ここではその中から、DVDなどで鑑賞しやすい作品をピックアップします。

『蜘蛛巣城』(1957)

黒澤明監督が舞台を戦国時代に置き換えた日本版『マクベス』。「その器でない人が、その位置についた悲劇」(黒澤)を能様式を取り入れて演出し、国内外で高く評価されました。

マクベスを討ち取るマクダフに相当する人物は登場しませんが、その代わりに三船敏郎演じる鷲津武時(マクベス)が無数の矢を受けて果てる凄まじいラストは、今なお語り草。

コーエン版での常に霧に覆われたスコットランド王国は、霧で隠された蜘蛛巣城を彷彿とさせます。

『マクベス』(1971年版)

雑誌「プレイボーイ」のヒュー・ヘフナー設立の映画会社が、『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)のロマン・ポランスキーを監督・脚本に迎えて製作。

世界観がデカダントなトーンに包まれており、暴力描写もそれまでの映画化作品より激しいのが特徴ですが、これは、撮影前にポランスキー監督の妻シャロン・テートが殺される悲劇に見舞われた影響が大きいのではと云われています。

マクベスによるダンカン王暗殺や、ラストでのマクベスの斬首シーンなどは、コーエン版に通じるものがあります。

『マクベス』(2016年版)

『スティーブ・ジョブズ』(2015)のマイケル・ファスベンダーがマクベスを、『エディット・ピアフ 愛の讃歌』(2007)のマリオン・コティヤールがマクベス夫人をそれぞれ演じます。

ストーリー展開こそ戯曲を踏襲していますが、マクベスが幾度の戦争でPTSDを患っており、さらには子宝に恵まれず葛藤しているといった解釈が加わっています。

まとめ

『マクベス』(2021年)メイキング

演劇のお手本と云われているだけあって、おびただしい数の映像化や舞台化がされているシェークスピアの戯曲。

『マクベス』も、映画のみならず舞台劇として、蜷川幸雄の『NINAGAWAマクベス』や、劇団☆新感線の『メタルマクベス』などがあるように、クリエイターの創造力を掻き立てる魅力にあふれています。

本作鑑賞を機に、いろいろな『マクベス』を観比べて、違いを楽しんでみてはいかがでしょうか。

映画『マクベス』は、Apple TV+で2022年1月14日から独占配信!

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