日本のベストセラー作家である伊坂幸太郎の人気小説をカン・ドンゥオンを主演に迎え、ノ・ドンソク監督で映画化!
大統領候補暗殺犯に仕上げられた一人の宅配ドライバーの運命は!?
韓国映画『ゴールデンスランバー』をご紹介いたします。
映画『ゴールデンスランバー』の作品情報
【公開】
2019年(韓国映画)
【原題】
Golden Slumber
【原作】
伊坂幸太郎
【監督】
ノ・ドンソク
【キャスト】
カン・ドンゥオン、キム・ウィソン、ハン・ヒョジュ、ユン・ゲサン、キム・ソンギュン、キム・デミョン、ユ・ジェミョン、チェ・ウシク、キム・ユジョン、ペク・ボンギ、チョン・インギョム
【作品概要】
伊坂幸太郎の同名小説を人気俳優カン・ドンウォン主演で映画化。監督はインディーズ映画『俺たちの明日』(2006)などで知られるノ・ドンソク。本作で商業映画デビューを果たした。
『ビューティー・インサイド』のハン・ヒョジュ、『犯罪都市』のユ・ゲサンらが主人公の学生時代の友人に扮し、ユ・ジェミョンが、主人公の命を狙う国家情報院の責任者を演じるなど、名優ががっちり脇を固め、スピーディーなアクション映画に仕上がっている。
映画『ゴールデンスランバー』のあらすじとネタバレ
宅配ドライバーのキム・ゴヌは、配達の途中、たまたまやってきた駐車場で、人気女性アイドル歌手のスアが何者かに襲われているのに遭遇し、犯人を撃退します。
その功績で「模範市民」として表彰され、テレビなどで取り上げられ、一躍国民的ヒーローとなりました。
配達先では子どもたちにサイン攻めにあうほどの人気ぶり。ゴヌは、浮つくことなく、毎日の仕事を誠実にこなしていました。
そんなある日、高校時代のバンド仲間ムヨルから連絡がきて、二人は久々の再会を果たします。ムヨルはとても暗い顔をしており、何かに悩んでいる様子でした。
有名になってから、選挙に出ないかという誘いや保険勧誘が増えたゴヌは、保険会社に勤めるムヨルがノルマのせいで、自分を勧誘したいのだろうと考えます。
「お前もノルマがあるんだろ、良い保険を紹介してくれよ。荷物を届けたらすぐ戻るよ」と言うと、ゴヌは車を降りました。
ところが、彼が道路を渡った途端、ちょうど通りかかった次期大統領最有力候補が乗った車が爆破され、大統領候補は暗殺されてしまいます。
呆然と立ち尽くすゴヌのところに、ムヨルが現れ、「模範市民キム・ゴヌが大統領候補を暗殺し、自爆する。それが筋書きだ。お前の持っている荷物は数分後に爆発する」と告げました。
何がなにやらわからずうろたえるゴヌからムヨルは箱を奪い、ある人物の携帯番号が書かれた紙を手渡すと、「誰も信じるな! 生きろ!」と言い残し、車に乗り込むと猛スピードで走り出しました。
立体駐車場で車は爆発し、その炎がゴヌのいる場所からも見えました。四方から自分めがけて走ってくる人物がいるのに気づいたゴヌはあわてて、逃げ出します。
ガールフレンドのユミの家に匿われますが、テレビを観ると、「模範市民」で表彰されたときの映像が使われ、自分が爆弾テロの犯人だと報道されていました。
一体どうなってるんだ? ムヨルからもらった紙に書かれた番号に電話してみますが通じません。
その時、チャイムがなりました。「誰も信じるな」といったムヨルの言葉が思いだされ、思わずユミの方を見るゴヌ。
「出前がきたんだわ」とユミは言いますが、誤魔化しきれないと悟った彼女は、ゴヌを襲い始めます。彼女も陰謀に関わる要員だったのです。
なんとか振り払って、窓から逃げるゴヌ。必死の逃走が始まりました。
国家情報院のファン局長は、マスコミに対し、「爆破犯人はキム・ゴヌ」と公式に発表します。大規模な包囲網が築かれることとなりました。
なんとか追手をまいたゴヌですが、後輩のジュホから連絡が入ります。スマホを見ると、ジュホが縛られ暴力を受けている映像が飛び込んできました。
ジュホにとどめをさした男は、なんとゴヌにそっくりの顔をしていました。ゴヌは映像を観て愕然とします。
ゴヌはついに国家情報院につかまり、ファン局長と対面します。
「捏造だ」と訴えるゴヌに、局長は「そう、捏造だ。世の中はイメージなんだよ。我々が流す映像で君はクズにもなるし、英雄にもなる」と応えました。
「もう君の味方はいない」と告げられた時、一台の車が並走してきて、男が銃を放ちました。
タイヤがパンクしてゴヌたちの乗った車は激しく横転しました。
車から這い出してきたゴヌに男は「来い!」と叫ぶと、彼を下水道に連れていきました。
ここなら監視カメラを心配する必要はない、と言う男に「あなたは?」とゴヌは問いかけました。
彼はムヨルが渡してくれた電話番号の男で、国家情報院の元要員ミンという人物でした。彼は自分のアジトにゴヌを匿います。
なぜ自分が選ばれたのか?とゴヌが問うと、「狙いはお前のイメージだ。模範市民が犯罪にからんでいたとわかると、皆、裏切られた気がするだろ?そこに皆の気持ちが集中し、暗殺そのものから視線がずれるんだ」とミンは応えました。
ミンはかつて国家情報院によるソニョン作戦に参加し、作戦が失敗に終わった責任をすべて押し付けられ、ファン局長を恨んでいました。
彼はゴヌを使って、ファン局長、国家情報院に復讐しようとしていたのです。
次期大統領候補を国家情報院に暗殺させたのは、国民自由党の幹部でした。別の議員を大統領候補にし、意のままに動かすために邪魔だった一番人気の候補を暗殺させたのです。
幹部はファン局長をどやしつけ、早くゴヌを始末するように命じます。
ファン局長は、シリコンと呼ばれるゴヌにそっくりの男の潜伏先にゴヌをおびき寄せようと企みます。
そのころ、死んだムヨルの葬儀が行われ、久しぶりに高校時代の同級生が集まりました。
朝のラジオの交通情報キャスターをしているソニョンはゴヌの元恋人。離婚専門の弁護士をしているドンギュ、電子機器修理業を営むグムチョルは、ムヨルやゴヌと高校時代バンドを組んでいた仲です。
皆、犯人がゴヌだなんて信じることができません。
ミンは、「お前の顔を盗んだやつを探せ」と言って、税務調査の入った美容整形病院一覧をゴヌに差し出しました。「国家情報院の通常任務時間は72時間だ。あと30時間しかない」
リストの中に、以前ユミから従兄弟だと紹介された医師を発見。男は離婚裁判中だということがわかり、ゴヌはドンギュに連絡をとります。
ドンギュから資料を預かったグムチョルが指定場所にやってきますが、すぐに追手が現れました。
ゴヌはグムチョルに裏切られたのかと一瞬考えますが、彼は懸命に否定します。どうやらあとをつけられていたようです。
ゴヌはミンの車に乗り込み、なんとか逃げおおせますが、ミンは「お前が選ばれた理由がわかった。お前は何してもはむかわない」と彼を責め始めました。
「車をとめてください。お世話になりました」とゴヌが言うと、「一人で生き延びられると思っているのか!? 世の中が怖いこともわからないのか」とミンは怒鳴り始めました。
「世の中が怖いことぐらいわかっています。でも、人生、少しぐらい損したっていいじゃないですか。真面目に生きちゃいけないのか!?」とゴヌも怒りの抗議をします。
「時間がない。シリコンに会わせてやろう」とミンは言いました。
その頃、グムチョルは共犯の容疑で国家情報院に囚われていました。
ゴヌは警察に「自首します」と連絡し、シリコンの潜伏先を指定します。
警察が張り込んでいる中、やって来たのは出前の配達人たちです。かなりの数がいます。その中に、ゴヌは紛れ込み、シリコンのアジトへとむかいました。
ゴヌを見つけた警察はその部屋の前までやってきますが、そこに国家情報院がやってきて立ち退くように命じます。警察と国家情報員のもみ合いが始まりました。
ところが、部屋の中で爆音が響き、皆の動きが止まった時、一人の警察官だけが、部屋に踏み込みます。
そこで彼が観たものは、倒れているゴヌと、ゴヌと同じ顔をした男が窓辺に立っている姿でした。
シリコンは窓から逃げ出し、国家情報院の男が「ご苦労だった。連絡を待て」と労いました。
ついに犯人死亡。テレビが伝えるニュースを沈痛の思いで見るかつての同級生たち。しかし、真相は・・・。
映画『ゴールデンスランバー』の感想と評価
伊坂幸太郎の同名小説は、2010年に日本でも堺雅人主演で映画化されていますが、この韓国版は、原作とも日本版の映画とも違った結末を持つ、韓国独自の作品に仕上がっています。
物語を韓国に置き換えてもなんの違和感もないどころか、まるではじめから韓国が舞台であったかのようにさえ感じられます。
何しろ、国家情報院による40年に渡る「北朝鮮スパイ捏造」の実態を描いたチェ・スンホ監督のドキュメンタリー映画『スパイネーション 自白』(2016)をはじめ、国家情報院の恐ろしさは、映画の中で何度も観せられてきたからです。
そのため、一人の善良な青年が国家陰謀に巻き込まれるというお話が荒唐無稽なものでなくリアリティを持ってせまってきます。
さらに彼らが狙っているのは、イメージによる世論操作です。
模範市民という高感度が高い人物が犯人だと知ったら、人々はどう思うでしょう?裏切られたという思いが、暗殺の本質を隠すこととなるでしょう、それが彼らの狙いです。
情報社会の世の中、イメージによる世論操作は現実世界でも日常的に行われているといっても過言ではありません。
作戦は彼らの思う通り進みます。ですが、この映画は、そんなイメージ戦略に負けないものがあるのだと高らかに謳うのです。
それは、きちんと生きてきた人間の人間性であり、人が人を信じることの重みです。
カン・ドンゥオンが扮する宅配ドライバーは、人が良すぎると言われるほどの善良な人物として描かれています。
彼を手助けをしてくれる国家情報院の元要員キム・ウィソンからそのお人好しぶりをなじられると、「真面目に生きて何が悪い!」「少しぐらい損してみたっていいじゃないですか」と彼は言い返します。
とりわけ「少しぐらい~」の発言は、カン・ドンゥオンの日頃からの口癖だそうで、この誠実なキャラクターにこれほどぴったりの人もいないでしょう。
ぴったりな“イメージ”でなく、ぴったりな“人”そのものです。
彼のことを良く知る誰もが、彼が殺人やテロを犯すはずがないと信じる姿は感動的で、親子や、友情というものの重みを強く感じさせますが、それもこれも、彼がこれまで正しく、真面目に生きてきたからです。
国家の陰謀をはねつけるほどの“人間性”を描くだなんて、なんて大それた、怖いものしらずなことでしょうか。
しかし、カン・ドンゥオンが演じる人物ならありえて、ロマンチックでさえあります。本作にはそんな説得力が宿っているのです。
原作とも日本版とも違う結末は、堂々としていて実に爽快です。けれど、そう簡単に国家が悪事を認めるとは思えず、ここから長い長い闘いが始まることとなるでしょう。
国家相手の闘いが簡単なものとは到底思えませんが、しかし、この結末には希望があります。
国家は彼の模範市民のイメージをもはや覆すことは出来ないのではないか?国民から総スカンを喰らう羽目になるのではないか?」
ラストのカン・ドンゥオンの姿を思い出す度、こうした思いに囚われてしまうのです。
まとめ
ノ・ドンソク監督は、ユ・アインの出世作である『俺たちの明日』(2006)で、第60回ロカルノ国際映画祭審査員特別賞を受賞するなど、インディーズ時代から注目を集めていた映画監督です。
本作『ゴールデンスランバー』でメジャーデビューを果たしました。
序盤の大統領候補暗殺シーンはもとより、警察や国家情報院が対立し、二人のカン・ドンゥオンが現れるシーンなどは実に鮮やかな演出を見せてくれます。
細くて複雑に入り組む路地や、幅の狭い坂道、監視カメラから唯一隠れることが出来る地下道などソウルの知られざる風景を逃走の舞台としているのも魅力的です。
カン・ドンゥオンの旧友たちには、人気女優のハン・ヒョジュ、『犯罪都市』でめちゃくちゃ恐ろしい犯人を演じていたユン・ゲサン、社会現象にもなったテレビドラマ『ミセン』のキム代理ことキム・デミョンらが扮しています。
ロックバンドをやっていた学生時代の姿も彼らが演じていますので、是非、そこにも注目してください。
国家情報院の局長にはテレビドラマ『秘密の森』で強い印象を残したユ・ジェミョン、国家情報院の元要因ミンにはキム・ウィソンが扮し、貫禄を見せています。
ビートルズの曲「ゴールデンスランバー」が随所に流れ、カン・ドンゥオンと仲間たちの友情の曲として心地よく心に響いてきます。