一人の少年を救うため犯罪組織を敵に回した女の闘い
1980年製作のアメリカ映画『グロリア』は、ジョン・カサヴェテス監督、ジーナ・ローランズ主演で贈るサスペンス。
ローランズ演じるグロリアが、隣人の少年を救うためニューヨークの犯罪組織と闘う姿を描いたベネチア国際映画祭金獅子賞受賞作を、ネタバレ有りでレビューします。
映画『グロリア』の作品情報
【日本公開】
1980年(アメリカ映画)
【原題】
Gloria
【監督・脚本】
ジョン・カサヴェテス
【製作】
サム・ショウ
【音楽】
ビル・コンティ
【キャスト】
ジーナ・ローランズ、ジョン・アダムス、ジュリー・カーメン、バック・ヘンリー
【作品概要】
“インディペンデント映画の祖”と称されるジョン・カサヴェテス監督・脚本による1980年製作のアメリカ映画。
カサヴェテスの妻ジーナ・ローランズ演じるグロリアが、事件に巻き込まれた隣人の少年フィルを救うべく犯罪組織と対峙します。
本作の演技でローランズはアカデミー賞およびゴールデングローブ賞で主演女優賞にノミネートされ、第37回ヴェネチア国際映画祭では金獅子賞を受賞しました。
映画『グロリア』のあらすじとネタバレ
ニューヨークのサウス・ブロンクスのあるアパートに、ライフルを持った男たちが大挙して押し入っていました。
彼らの狙いは、アパートに住むプエルトリコ人のジャック一家。マフィアの会計係だった彼は、組織の金を横領し、情報をFBIに洩らしていたのです。
ジャックの妻ジェリはすぐにこの場を去ろうと口論している中、同じ階に住む女グロリアがコーヒーを貰いに訪ねます。
グロリアは、ジェリから10歳のジョーンと6歳のフィルの子供たちを預かってほしいとに頼まれるも、「子どもは嫌い」と拒否。ジャックは聖書だと言って手帳をフィルに渡し、無理やり彼をグロリアに託します。
グロリアがフィルを連れて自分の部屋へ戻った数分後、ジャックの部屋で大爆発が発生。家族が死んで泣き喚くフィルを連れ、グロリアはスーツケースを手に逃げます。
グロリアの妹が住むと思われるアパートに身を寄せた2人は、そこで一夜を明かすも、翌日の新聞では、グロリアがフィルの家族を殺して誘拐した犯人と報じられていました。
前科持ちのグロリアは、面倒事には巻き込まれたくないとフィルを引き離そうとするも、彼は離れません。するとそこへ男たちが乗った車が近づき、フィルを渡すよう要求。
グロリアはかつて、フィルを狙う組織のボスのトニー・タンジーニの情婦でした。しかし、元仲間を敵にまわすこととなったのです。
隙を突いてカバンから取り出した銃で元仲間たちを射殺したグロリアはフィルを連れて逃げ、安ホテルに泊まります。ホテルでグロリアは、手帳は組織の帳簿で、日付や口座番号などが明記されていることを知ります。
ピッツバーグへ向かうことにした2人は、その途中で墓地に立ち寄ります。そこでグロリアは、フィルに適当な墓を見つけて、そこで思い浮かんだことを口にしなさいと告げさせます。
フィルは「みんな(死んだ家族)に会いたい」と言うのでした。
駅に着き、列車を待つためにカフェに入った2人。尾行していた追手に自ら歩み寄ったグロリアは、手帳を手に取引を要求するも、追手はタンジーニからの命令以外のことはできないと拒みます。
フィルの案内でカフェのキッチン裏から2人は逃げるも、口論の末にグロリアはフィルを置いて酒場に。
目の前で追手にフィルをさらわれたグロリアは、彼らのアパートに乗り込み射殺すると、フィルを伴って地下鉄に乗り込みます。
何度目かの安ホテルに身を寄せた2人は、つかの間の安堵の時を得ます。距離が縮まり、語り合う2人。
「あんたは僕のママだしパパだし、一家全部だ。友だちでもあるしガールフレンドでもある」
「そう、じゃ家族になりたいわね」
終わらない逃避行にケリを付けるべく、ホテルでグロリアはタンジーニに電話します。
映画『グロリア』の感想と評価
2015年ガバナー賞で名誉賞を受賞したジーナ・ローランズ
ニューヨークのサウス・ブロンクスの古びたアパートで猫と暮らし、目玉焼きも満足に作れない女性グロリア・スウェンソン。彼女は成り行きから、隣に住んでいた6歳の少年フィルを守らなければならなくなる――。
監督・脚本のジョン・カサヴェテスは、「1980年代のハンフリー・ボガート」とグロリアの人物像をイメージしていたことからも、本作『グロリア』は、1930年代末期から50年代頃まで量産されたハードボイルド映画のパターンを踏襲しています。
とにかく見どころは、グロリアの圧倒的存在感です。
登場時こそ気だるい中年女性の雰囲気を醸し出していたグロリアでしたが、不本意ながらもフィルを連れて逃げる覚悟を決めると、颯爽とエマニュエル・ウンガロのドレスに着替え、必要最低限の荷作りをしてスーツケースにまとめます。
フィルを狙う者たちがかつての仲間と知っても躊躇なく銃を抜いて射殺すれば、尾行者に自ら歩み寄って逆に恫喝。
追われる身なのに華美な目立つ服に着替え、タクシー、地下鉄、バスと乗り継ぎながら、“攻撃的に”逃亡していくその勇ましさは、筆舌に尽くしがたいです。
グロリアとフィルの関係性の変化にも注目したいところ。
子ども嫌いを自認し、事あるごとにやたらと大人ぶるフィルの態度にイラつき衝突していたグロリアでしたが、決死の逃亡を続けるうちに打ち解けていく――いわゆるバディ・ムービーの要素も含んでいます。
友愛、親子愛、そして恋愛のような関係となる2人。それは、「僕のママでありパパであり、一家全部。友だちでもあるしガールフレンド」(フィル)、身を隠すホテルで同じベッドに寝ていたことに絡めた「今まで寝た男の中で最高」(グロリア)といった、粋な言葉からも伺えます。
まとめ
『グロリア』(1999)
79年末にはポストプロダクションを終えていたものの、製作会社のコロンビアの期待値は低く、アメリカでの公開はおよそ1年後の80年10月でした。
しかしフタを開ければ、グロリア役のジーナ・ローランズはアカデミー賞およびゴールデングローブ賞で主演女優賞にノミネートされ、ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞するなど、高く評価されました。
シャロン・ストーン主演で1999年にリメイクされれば、リュック・ベッソン監督が『レオン』(1995)のプロットに引用するなど、本作が後年の映画界に及ぼした影響力は小さくありません。
ハードボイルド・ラブストーリーのクラシックとして押さえておきたい一本です。
松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
2010年代からは映画ライターとしても活動。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)