死が私について回っている
2001年の英国推理作家協会賞の最優秀新人賞に輝いた、日本在住経験のあるスザンナ・ジョーンズの原作を映画化したNetflixオリジナル作品『アースクエイクバード』が2019年11月15日から配信されます。
配信に先立ち、11月8日から、東京・アップリンク渋谷、シネ・リーブル梅田ほかにて劇場公開が始まりました。
映画『アースクエイクバード』の作品情報
【公開】
2019年公開(アメリカ映画)
【原題】
Earthquake bird
【原作】
スザンナ・ジョーンズ『アースクエイクバード』(早川書房)
【監督】
ウォッシュ・ウエストモアランド
【キャスト】
アリシア・ヴィキャンデル、ライリー・キーオ、小林直己、ジャック・ヒューストン、佑真キキ、佐久間良子、ケン・ヤマムラ、室山和廣、クリスタル・ケイ、岩瀬晶子
【作品概要】
日本在住経験のあるイギリス人作家スザンナ・ジョーンズの同名小説をアリシア・ヴィキャンデル主演で映画化したNetflixオリジナル作品。
アリシア・ヴィキャンデルはスウェーデンから5年前に日本にやってきた女性を演じ、その友人リリー役に『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』のライリー・キーオ、日本人カメラマンの禎司役に「EXILE」「三代目 J Soul Brothers」の小林直己が扮している。
ウオッシュ・ウエストモアランドが監督を務め、リドリー・スコットが製作総指揮に名を連ねる。Netflixで2019年11月15日から配信。日本では配信に先立つ11月8日から、東京・アップリンク渋谷ほかにて劇場公開。
第32回東京国際映画祭特別招待作品。
映画『アースクエイクバード』あらすじとネタバレ
1989年 東京。
スウェーデンから5年前に日本にやってきたルーシー・フライは、翻訳の仕事に携わり、休日には年上の日本人女性たちとの弦楽四重奏でチェロを弾くなど、異文化の生活に溶け込んでいました。
そんな中、知人であるリリー・ブリッジスが行方不明となり、東京湾で遺体が発見されます。リリーと最後に言葉を交わした人物であるという理由でルーシーは重要参考人として警察から取り調べを受けることとなります。
「恋人はいますか?」という質問に「いません」と応えたルーシーですが、彼女の脳裏には禎司の顔が浮かんでいました。
街を歩いていたルーシーは禎司に写真を撮られ、思わず足をとめ「許可を得るべきでは?」と抗議したのです。それが二人の出会いでした。
出逢ったその日に、禎司はルーシーを自分の部屋に案内し、彼女の撮影を行いました。禎司は普段は蕎麦屋に勤めていて、写真を撮っても、引き出しにしまうだけで発表をする気はないようでした。
最初から禎司に惹かれていたルーシーが、禎司と恋人同士になるのにそれほど長くはかかりませんでした。
その頃、ルーシーは、友人のボブから、新しく日本にやってきたリリーという女性を紹介されます。早い話が面倒をみてやってくれということでした。
部屋探しを手伝い、リリーに日本語を教えるルーシー。リリーは一見、奔放な計画性のない人間に見えましたが、看護師の仕事に携わっていたらしく、意外としっかりした一面も持つ女性であることがわかってきます。
そんな折、楽器演奏の友人のもとを訪ねたルーシーは、振り袖を着せてもらいはしゃいでいました。ところが、別の友人が到着した際、その女性は階段を上ろうとして足を滑らせて落下。頭を打ち死亡してしまいます。
ルーシーはそれを目の当たりにし、大変なショックを受けます。自分には死がまとわりついているのではないか!? 忌々しい想い出が彼女の心をかき乱します。
14歳の時、友人宅を訪ねると、友人はおらず、彼女の父親がルーシーを家に招き入れました。その時、2人は関係を持ち、それから数週間後、妊娠したかもしれないとルーシーから聞かされた男は、海で溺死体となって発見されたのです。妊娠をしていないことがあとでわかり、ルーシーは罪の意識に苛まれました。
禎司にその話を告白すると禎司は彼女をしっかり抱きしめてくれました。2人は激しいキスを交わします。
禎司と佐渡に行くことにしていたルーシーに、リリーが自分も連れて行ってくれと頼み込んできました。ルーシーは一抹の不安を覚えながら、3人で行くことを了承します。
金北山を登っている途中、ルーシーは気分が悪くなり吐いてしまいます。リリーはルーシーをその場で仰向けに寝かせ、元看護師らしく適切な処置をしてくれました。
ルーシーはいつの間にか眠ってしまいます。気がつくと、リリーも禎司もそばにおらず、おいてけぼりをくらったことを悟ります。
そういえばルーシーの意識が朦朧としている中、禎司はリリーに盛んにカメラを向けていました。以前から二人の仲をかんぐっていたルーシーはあわてて下山し、ようやく金山跡地で2人を見つけ出しました。
2人はメモを置いてきたといいますが、ルーシーの怒りはおさまりません。しかし禎司になぐさめられ、愛をささやかれ、なんとか気を取り直します。
3人は東京に戻り、それぞれ帰路につきました。しかし、向かいのプラットホームに立っていたはずのリリーがいなくなっていることにルーシーは気づきます。あわてて改札口を出てみると、リリーと禎司が一緒にいるのが目に入ってきました。2人はルーシーに気が付き、バツの悪そうな顔を見せました。
ルーシーの話を聞いていた刑事が「さっきは恋人がいないと言っていたじゃないか!」と言うと「今はいないからそう応えたのです」とルーシーは厳しい顔つきで応えました。
映画『アースクエイクバード』の感想と評価
舞台は1989年の東京。東京の片隅で一人暮らしをしている外国人女性の周囲に起こる不穏な出来事と彼女の心の奥に潜んだ忌まわしい思い出が絶妙に交錯するニューロティックなスリラーです。
主人公のルーシーに扮したのは、『エクスマキナ』(2014/アレックス・ガーランド)、『リリーのすべて』(2015/トム・フーパー)などで知られるスウェーデン出身の女優・アリシア・ヴィキャンデルです。
日本で暮らして5年、翻訳業をしている女性を、彼女は流暢な美しい日本語で演じており、これにはすっかり驚かされました。
ルーシーの恋人・禎司を演じたのは「EXILE」、「三代目 J Soul Brothers」の小林直己。かつての日本映画黄金時代の大物俳優に見られるような貫禄と、まだ何者でもない可能性を秘めたフレッシュさという相反する要素を持ち合わせている彼はこの謎めいた男を演じるのに最適の俳優と言ってよいでしょう。
この2人にライリー・キーオ扮するアメリカからやってきた女性リリーが絡み、ルーシーは禎司の気持ちが彼女に移っていくのではないかという不安にかられ、激しいジェラシーを覚えます。
この三角関係にまつわるドラマ自体は、よくあるはなしなのですが、三角関係が顕になる場所である佐渡の風景の切り取り方が素晴らしく、役者の好演もあいまって、不安に満ちた特別な雰囲気が生まれています。
東京、佐渡という土地を映しとった画作りの旨さ、その風景に溶け込んだ人々の不穏な空気というものがこの映画の最大の魅力です。
2台の列車がすれ違い、もうひとつの列車がトンネルから現れて2つの列車と垂直に進んでいくのを俯瞰で撮った冒頭の鉄道の描写は、この3人の複雑な関係を暗示しており、また、富士山や東京タワーという日本の象徴的な風景も独特な美学で描かれています。
昨今のハリウッド映画に登場するテーマパークのようなハチャメチャ日本とは違い、実際の東京、佐渡をしっかりとカメラにおさめつつ、一方で、外国人のイメージした日本でもなく、日本人が描く日本でもないクールでミステリアスな独自の東京、日本像を作り出しています。
これは、クエンティン・タランティーノの『ヘイトフルエイト』(2015)やジブリ作品『思い出のマーニー』(2014/米林宏昌)などの作品で知られている美術監督・種田洋平の力が大きいでしょう。
また、ヒロインの心に刻まれた痛みからくる妄想や夢想がこの都市像と絡み合い、超常的なもうひとつの世界が生まれているような感覚にも囚われます。パク・チャヌク映画でおなじみの撮影監督チョン・ジョンフンがその空気感を絶妙に捉えています。
監督のウォッシュ・ウエストモアランドは、この物語をただのスリラーに終わらせず、人間の持つ罪悪感という問題にまで踏み込んでいきます。
責任とは何なのか、人間はどこまで責任を問われ、苦しむのか?ラストに女性二人がみせる姿に現実の厳しさとこの世の不条理さが現れていますが、それでも誰かと手をとり合うことができるという微かな救いが示されています。
まとめ
『アースクエイクバード』がイギリスの映画祭で上映された際、2000年に日本で起こったイギリス人女性、ルーシー・ブラックマンさん殺害事件を連想させるという声があったようです。
それはこの作品が、異文化の中で暮らす異邦人の少なからぬ不安と孤独を描いているからでしょう。
アリシア・ヴィキャンデルは、目の下に隈のあるようなメイクで登場しますが、それでも非常に美しく、モノクロの写真におさまった彼女の姿は神秘的でさえあります。
街中を歩く彼女の姿を観ていると、『エクスマキナ』で街に飛び出したAIのその後の姿ではないかという錯覚に襲われました。様々な連想や妄想を呼び起こすものが映画の中に流れているのです。
ところで、本作はリドリー・スコットが製作総指揮に名を連ねているのですが、彼は1989年に日本を舞台にした『ブラック・レイン』を撮っています。本作が1989年の日本を舞台にしているのは『ブラック・レイン』への目配せやオマージュであるとも言われています。
タイトルの”アースクエイクバード”とは、地震のあとにだけ聞こえる鳥の声をさしています。